魔砲少女 ミハル 永遠に紡がれる物語 Together Forever OverTure<エピローグ> 2 最終話 ~序奏~
「魔鋼騎戦記フェアリア」の物語が終わります
ですが、魔砲少女ミハルの物語は・・・
まだまだ終らないようです・・・
東の果てに位置する島国…日本。
その昔、魔法が普通に存在していたとされている。
そこより遥か、遥か遠くの国へ宿命の娘が飛んで来た。
とある伝説を生む為に・・・
「まぁーったくもう!お師匠様にも困ったもんだわ!」
赤味を帯びた白髪をサイドポニーに結った娘が、神官服のままの姿で槍に腰かけていた。
「なぁーにが、私の運命よ。こんな辺鄙な国に往けだなんて」
真下に観えるのは観た事も無い軍隊。
攻める側が圧倒的に数が多く、守備する国の兵を押しのけて進んで行く。
「見るからに悪そうな兵達ばかりね。どうせろくでもない王に率いられているんでしょ」
空の上から槍に跨る神官服の少女が呆れた。
呆れたついでに進軍する先端に観えた敵国の将に気が付いた。
「あ・・・あれって。女の子じゃないの!」
甲冑で身を包んだ金髪の少女が、闘っているのが観える。
幾重にも取り囲まれた中で、華々しく剣を交える麗しき姿。
<助けるの・・・彼女を>
右手に填めた碧き珠から声が促して来る。
「わぁっ?!お師匠様!観ておられるのですか!」
神官服の少女が怯える。
<観ているわ。あなたの眼で・・・ミコト>
声を掛けられたミコトが更に怯える。
「ひいぃっ?!解りましたぁっ!助けますです!」
慌てるミコトが槍に跨ったまま甲冑の少女の元まで飛んで往く。
<そう・・・あれは。あの人だけは・・・護らねばならないの>
ミコトに師匠と呼ばれた声が呟いた。
「そうですけど・・・なにか代償を求めねば。
どう云い訳をすれば?なにかいい方法はないのでしょうか?」
蒼き宝珠に訊いたミコトへ。
<そうね・・・とりあえず。お腹減った・・・って言えば?>
「はぁっ?!どうして・・・ああ、お師匠様と同じってことですね?!」
何かに気付いたのか、ミコトが相槌を打つと。
<ミコト・・・お仕置きするからね。デコピン覚悟?>
師匠がミコトへ恐ろしい一言を告げる。
「ぴぃやぁああっ?!御許し下さいぃっ?!」
慌てたミコトが金髪の少女を救ったのは当然の事だった。
助け出した少女は王家の娘。
つまり<フェアリア王国>の王女だった。
金髪が美しい、碧い目元が麗しい。
<いつ見ても・・・女神の様ね>
師匠の眼がミコトを通して見詰めている。
<本当に・・・逢えるなんて。奇跡のよう・・・>
師匠の心が喜びに溢れていた。
<必ず逢えると思っていたけど・・・こうしてまた観ると本当に綺麗>
まじまじと見つめる。
だけどもう・・・我慢の限界。
<ミコト・・・この子にも魔法を授けるの・・・>
越権だとは思う。だけど・・・堪らない。
<早く・・・早く・・・早く・・・>
師匠はこうなると踏んでいた。
そうなる様に祈っていた。
魔法を与えられた王女が頬を染めているのに歓喜の声をあげる。
<ああ・・・リイン。いいえ、リーン!もう駄目なの、ごめんなさい!>
唇が触れる瞬間、千年の時を遡った魂の歓喜を覚えた。
再び逢えた喜びに満ち溢れて。
<私は護るの・・・永遠を手にしたから。
どんな時にも・・・どんな世界でも!>
誓いは永遠に・・・約束は果たされる・・・諦めなければ。
悪魔が王女を穢そうとした。
掛替えも無い人を・・・だから。
<ミコト・・・ちょっと代わりなさい!私が倒してあげるわ!>
差し出がましいとは思った。
ミコトの力でも十分過ぎる相手だと思った。
手出しするのは完全に力の違反だとは感じていたが。
「お師匠様が?大丈夫ですか?また吹っ飛ばし過ぎたら・・・」
今はミコトが僕と位置付けられている。
自分の力があまりに強いから。
<善いから、リインを助けるのに手加減なんて出来ないでしょミコトも>
苦笑いされた、昔だったら反対に私がその立場だった。
そう、今はミコトの師匠に修まっている<私>に、困ったような瞳で告げている。
「じゃあ・・・これっきりですからね」
ミコトが認めてくれた。
だからもう・・・干渉する事に決めた。
愛する人の生まれ変わりを救う為。
ミコトに宿った・・・ミコトと同化した。
姿が自分を取り戻す。
蒼き髪、碧き瞳・・・そして。
「リィン!よく見ておいてね!これが・・・ミコトの生まれ変わり!
私はあなたの子孫リーンを愛する者!
理の女神ミハル!またの名を魔砲少女ミハルっていうの!」
声を取り戻し、名乗ってしまった・・・
それが・・・歴史にどう刻まれたのか・・・伝説を変えたのか。
人類が生き残ってから4年が過ぎていた頃。
「マジカ・・・本当なのですね?
新たな文献が発掘されたというのは」
女性初の首相に抜擢された、金髪で女王の幼馴染が頷き。
「間違いないと思われる。
これこそが本当の伝承だろう・・・彼女の」
明るく答える首相が身重のユーリ王女に示した文献には。
<<蒼き髪の女神が悪魔を滅ぼす。蒼き目で闇を睨み、蒼き珠で闇を葬る。
果たして力は神の如し、果たして声は女神を名乗る。
王女と王家を護らんとする者は天より時を越え、再び舞い降りん>>
文献を読んだユーリが眼を見開き。
「そうなのね・・・そう変わったのね!
あの子はやはり・・・存在し続けているのね!」
顔をあげ、もう一人の王女を観る。
「お姉様、いえユーリ女王。
あの娘は存在していると、どこかの時代に生きているのだと?!」
金髪の王女が姉に訊く。
「そうよ、リーン。あなたの影だった娘と同じ。
どこかの時代を彷徨っているの。
見つけた文献が差している。
もう一人のリーンも、ミハルも。
必ず時を越えて逢う事が出来る・・・きっと」
文献が示している通り、ミハルの存在が記憶されていた。
嘗ての<フェアリア>に。
では、リーンの方は?
「ねぇ、嬉しいでしょ?
もう直ぐ帰って来るかも知れないわ。
あなたを求めて・・・あなたに逢う為に」
ユーリがお腹を擦って子供に語り掛けた。
______________
時を翔け、時を巡り・・・時が過ぎた。
<邪なる者が現れた・・・また、世界が闇に染められようというのか?>
王女は闇に染められし者を見上げる。
<人間の心に巣食う闇は消えはしないか>
またか・・・と、思ってしまう。
あの闘いでやっと平和を享受できたと思っていた。
人類が悪魔の機械と闘って既に22年が過ぎていた。
世界が復興に向って少しづつ歩もうとしていた頃・・・
小さな国の王女が独り、妖しい者と対峙していた。
<私の前にはどうして闇が現れるのだろう。
生まれ変わった体になっても・・・宿命からは逃れられないというのか?>
王女は金髪を靡かせ闇と対峙していた。
<これが運命だというのならば・・・抗わなければいけない>
剣を鞘から抜き放ち、古の力を呼ぶ。
遠く繋がれた異能の力を。
「お前達には粛罪を求める事が出来るか?!
闇に染まる心を取り戻す事が出来るか?!」
凛とした声で王女が言い放つ。
古から引き継がれた聖剣を片手に。
「あっはっはっはっ!王女よ、無駄な事を言うな!
我々は<大魔王>を求める<イシュタルの民>!
お前を捕えて復活を遂げんとする、闇の力を持つ者なり!」
闇に染まった者が言い放つ。
「さぁ、来るが良い。若き王女リーンよ!」
闇は再び復活を目指すというのか。
リーンと呼ばれた王女に味方は居ないのか。
<この世界に・・・希望は居なくなってしまった。
私をこの世界に留めてくれた希望はどこか遠くに行ったまま・・・>
王女は願う。
永遠を手に入れた娘の帰還を。
<ミハル・・・あなたは今どこに?>
王女の危急を知った王家の守護隊に出動が命じられる。
近衛兵の中でも選りすぐられた者の中から、
更に特別な能力を備えた者が。
「ユーリ女王の勅命が下った。直ちに出動せよ!」
特殊ユニフォームを着こんだ少女が姿勢を正して敬礼する。
紅いユニフォームが髪色に映えて麗しく魅せる。
「出動します!ルマお母さん!」
黒髪を翻して飛び出していく後ろ姿をフェアリア指揮官のルマ中佐が微笑んで見送った。
走る少女は誰よりも早く。
光る黒髪は誰かと同じ・・・
凛とした瞳に輝くのは碧みを帯びた黒目。
誰かと同じ・・・誰かに瓜二つ。
そして・・・
リーンが剣を構える。
闇の者との間が縮まる。
「諦めろリーン王女!」
闇の者が言い放った・・・時。
「諦めちゃ駄目なんですからね!リーン様」
月を背にした少女の声が届く。
現れた少女に振り返った闇が吠えた。
「誰だ!お前は!」
月の光を背にした少女が言い放つ。
「私?月の世界をも救う者。月から舞い降りた女神。なんちゃって!」
ふざけた声で相手をはぐらかすと。
「本当は護りし者。リーン様を護り抜く衛士!魔砲の使い手・・・」
右手をゆっくりと翳す。
その腕に填められてあるのは。
「まさか・・・あなたは?!」
リーンの眼が驚喜する。
蒼き宝珠を、再び観れたから。
闇の者が身構える中を、黒髪の少女が呟いた。
「私に宿る人が言うの。目覚めなさい・・・って。
私の中に眠る力で護りなさいと・・・
そう・・・魔砲の力を呼び覚ましなさいって!
チェンジ! 」
有り得なかった・・・目を疑った。
それは闇の者とて同じ事。
少女は変わる・・・あの娘と同じように。
蒼き髪が靡く。
蒼き瞳となった眼で闇を睨む。
右手の魔法石が光を放つ。
そして、ユニフォームが魔法衣となった。
「あなたは!本当に?!」
リーンの叫びが魂を揺さぶる。
月を背景にした少女の声が変わった。
「また・・・魔法石を使えるようになったんだね・・・この石の力を」
微笑むような声が耳に届く。
「ああ・・・・あああっ?!」
若き王女に生まれ変わったリーンが呼ぶ。
「本当に・・・奇跡なの?!」
見開いた蒼き瞳に映ったのは・・・
「私はシマダ・マモルの娘・・・美晴。リーン様を御守りする衛士」
そっくりだと・・・感じた。
瓜二つだと・・・でも。
「いいえ、違うわ!あなたはミハル、私の愛する女神よ!」
リーンは誰阻まる事なく、自分を曝け出した。
「私よミハル!あなたを愛するリーンなのっ、
この世に留まれるように身を捨ててくれたミハルのおかげで今、こうして逢えたの!」
指し伸ばされる手は震えを隠さず、震える声は愛を求める。
「お願いよミハル!私の元へ帰って来て!」
月を背景に佇む少女の顔が笑ったように思えた。
夢にまで見た微笑むミハルの顔で。
「・・・いけないよ。いけないんだから・・・」
少女の声が震えだす。
「そんな言葉をかけちゃあ・・・駄目なんだから」
微笑む頬に・・・涙が零れ落ちる。
「また・・・逢えた。また帰れたのか判らせて・・・・」
全く無視される闇の者が、現れ出た娘に刃を向けると。
「邪魔するのなら・・・消しちゃうよ?!」
物凄い魔砲の力で圧倒する。
とても敵わないと感じた闇の者は、あっさりと逃げ出していく。
「ああ・・・やはり。あなたは私の知っているミハル。
私の<ペット>のミハルなのね!」
放たれた呪文・・・永遠の時を経た今も・・・
少女に獣耳が生え、尻尾が撥ねる。
「・・・本当に・・・奇跡ってあるんだね。
また・・・逢えたんだよね・・・帰れたんだよね・・・御主人様の元へ」
えへへ・・・と笑った蒼髪の少女が飛びついた。
金髪の王女へと。
「ええ、そうよ!例え宿りし者だとしても!
あなたは私との約束を守った!私に逢いに戻ったのよミハル!」
再び始まる。
永遠への物語・・・それは。
「愛してるよリーン!ずっと・・・ずっと・・・」
月夜に舞うのは魔女。
月夜に照らされるのは女神。
奇跡を起こすのは希望、そして諦めない心・・・・
Fin