魔砲少女 ミハル 永遠に紡がれる物語 Together Forever NEW HOPE<エピローグ> 1
魔砲の力が失われた・・・
<ケラウノス>に因って修正された世界には・・・
もう、彼女の魂さえも残されてはいなかった・・・
残された者達は、それぞれの道を歩んだ・・・
時が過ぎ・・・新たな希望が目覚めを迎える・・・
暗黒大陸が大西洋に沈んで数年後・・・
独りの若者が旅路の果てに辿り着く。
銀髪を後ろで括った青年が街角の花屋に立ち寄っていた。
「またぁ?あなたってしつこいんだねぇ?」
店主のおばあさんが文句を垂れる。
「そう言わないでよジュノンお婆さん、客なんですから」
青年は一本の赤いバラを摘み取ると、レジ先の少女に頼んだ。
嫌いな金髪の少女が屈託のない笑顔で受け取ると。
「ルゥさんは本当に赤い色の花がお好きなんですね?」
はにかんだ笑顔で青年からバラを受け取り、リボンを添えた包みでくるむ。
「いや・・・そうでもないと思うんだけど」
手渡される瞬間、彼女の細い指がルゥと呼ばれる青年の指へと触れる。
<ああ、やはり。間違いないよ>
遠い記憶に居る懐かしい笑顔。
「ルゥさんは、どうして毎日この店で花を買ってくれるの?」
触れた手をそっと抱いた少女が訊いて来る。
「どうしてって・・・言えないよ」
上目使いに訊かれたルゥが戸惑ったように口を濁すと。
「あんたねぇ、ウチの孫娘にちょっかいかけるとお仕置きだからね?!」
ジュノン婆さんが嫌味を言って追い払おうとする。
「毎日、一本づつしか買わないお客なんて来なくていいよ」
言われた通りかもしれない。だけど、ルゥには目的があった。
「そんな事言わずに。僕はこの娘に用があるから毎日来るんだよ」
ルゥの言葉に少女は真っ赤になって俯いた。
「ずっと・・・ずっと昔から探し続けていたような気がしてならない。
胸の奥から求めていたような気がしてならないんだ。
君を。僕の永遠の恋人を・・・ミハエル」
青年の声に少女は顔を紅く染めたまま、碧い瞳でルゥを見詰めた。
「本当に・・・そう思ってくれていたの?ルシファー」
ミハエルと呼ばれた少女がそっと銀髪のルシファーに訊ねた。
今は<フェアリア国>となった皇国。
そこには友好国の駐在武官達が務める外務局があった。
その中に、日本国の若き駐在武官も務めていた。
「ご子息もつつがなきや?・・・か」
ペンを奔らせていた金筋一本の士官が一息入れて筆をおいた。
「あら、珍しいわね。あなたが筆を執るなんて」
茶色の長髪をゆったりと流した女性が傍に寄る。
「僕だって手紙位は書くさ。それよりいいのかい?」
日本士官の脇に立つ茶毛で、マリンブルーの瞳を湛えた女性が軽く頷く。
「今日はお母さまの所に預けてあるの。
だから久しぶりにこっちに出て来たのよマモル」
ソファーに腰かけている日本の武官、島田真盛3佐にしな垂れかかる若妻ルマ。
「で、どなたに?・・・って、そうか。もうそんな時期になったのね」
マモルがしたためて居た相手を思い出した妻がポンと手を打つ。
「そう、シベリヤまで。ミハル姉にとっての恩人だったそうだから。
毎年命日には贈ってあげないとね」
大使館公認書簡扱いの封書には、菊の御紋が着けられていた。
書簡を入れたマモルが、ふとテーブルに置かれた写真を観る。
その中に居るのは嘗ての仲間達・・・そして。
「姉さんもそう思うだろ?」
戦車兵だったころの写真には、仲間と楽し気に映っているミハルの顔が微笑んで観えた。
海風が心地よかった。
故郷を遠く離れた異国の地で、余生を送る夫婦が居た。
「おい、あまり風に当たらせるのは良くないぞ?」
夫人の後ろから眼鏡をかけた初老の夫が呼びかける。
「ええ、この子が風邪をひいたらいけませんものね」
夫人が抱く赤ちゃんは風に当たっているのにすやすや眠っていた。
「本当に・・・よく似てるわ。瞳の色以外はそっくりだもの」
大事に抱えた赤ちゃんを飽きずに見詰める夫人に。
「そろそろ中へお入り、ミユキ」
諭す夫は先に海辺の家に入って行った。
「ええ、あなた。美晴の顔をもう少し観てから・・・」
微笑む夫人が孫娘の名を呼んでから頷いた。
街角に建つ店の中から銀髪に紅いピン止めを着けた女性が出て来た。
「お待ちください!ラミル社長!この形状は難し過ぎます!」
若い社員が後を追って走り出てくる。
「何言ってんだ!難しいから売れるんだよ。
難しいからって投げ出すんじゃない!
<諦めるな>が、わが社のモットウだぞ!」
若き女社長が社員に訓示する。
「そんな事じゃー他社に顧客を盗られちまう!
難しい事なら独りで抱えるな!なんだったら私が着きあうぞ?」
社長みずから社員と一緒に汗を流す。
そうまで言われた社員が文句も言わずに戻って行くのを微笑んで見送る。
「そうだよなミハル。諦めたら終わりだもんな・・・」
空を見上げたラミルが呟いた。
「ラミルさぁ~んっ!」
聴き馴染んだ声が耳を打つ。
「なんだ、チアキじゃないか。いいのか娑婆に出ていても?」
フェアリア国防軍士官服を着た将校が奔り寄って。
「あのぉ、またしても・・・・です」
手にした封書を差し出して苦笑いを浮かべる。
「またかよ!お前の御主人様はどうしてこうもお忍びが好きなんだ!」
オスマン王国の紋章が貼り付いた封書から読めたのは。
「はぁ・・・いつまでも子供と言いますか・・・私に結婚を迫るとは」
呆れ果てた、と溜息をはいたチアキだが。
「こっちへ来ているんだそうです。ラミルさん助けて!」
軍人が民間人に助けを求めるとは・・・
「勝手にしてなよ、チアキ。私はもうお前の上官じゃないんだからな」
あっさり拒否られた。
「そ、損なぁーっ!」
おっきな声であからさまに落胆したチアキの背後から。
「みぃーつけたぁ!チアキィ、結婚しようよぉ!」
緑髪のシャルレット殿下が高速タックルを損な娘に浴びせ、
お付きの者に確保させ連れ去って行く。
「たぁーすぅーけぇーてぇぇっ?!」
ラミルはまたかといった顔で、伝説となった勇者と姫を見送った。
エレニア平原に夕日が染まる。
「キャミ―さん、もう6年にもなりますね」
戦争末期、終戦を知らない者達からの攻撃で無くなった友の元へ来ていた。
「私も大人になれました。少しは人の気持ちを判れるようになったつもりです」
花を手向けて、立ち上がった。
「あれからもう戻ってきません・・・
でも、ミハル先輩もリーン隊長も、きっとどこかで見守ってくれていると思います」
夕日に染まる顔に涙が零れ落ちる。
「バスクッチ大尉と仲良くしてくださいね。お母さまとも・・・」
寂し気に呟いた赤茶毛で、癖っ毛の女性が振り返ると。
「気が済んだかいミリア?」
独りの男性が迎える。
「ええ、ありがとうジョセフ。これでご挨拶を終えれたわ」
会釈したミリアが墓標に振り返って。
「そうでした、キャミ―さん。私・・・結婚するんです、この方と。
だから・・・私にも幸せを掴めるように、祈っていてね」
微笑んだミリアが新たな涙を零した。
新たな時代の幕開け。
ケラウノスから放たれた光が闇を切裂き、世界を変えた。
あの光が新たな世界を作り直した。
確かに誰も消滅はしなかった・・・だが。
世界から魔鋼の力が消滅し、空に広がる電解層が失われて行った。
唯。
魔法が使えなくなった筈の世界に、何かが目覚めようとしていた・・・
ミハルは何処へ?
女神の力を持つ魔砲少女は・・・帰っては来れないのだろうか?
だが・・・何かが動き出す。
もう一度・・・紡がれ始める・・・愛の物語が。
次回 魔鋼騎戦記フェアリア 完結
魔砲少女 ミハル 永遠に紡がれる物語 Together Forever
OverTure<エピローグ> 2 ~序奏~
最終回
君は愛を司る女神に逢える!!