第7章 永遠に紡がれる物語 Together Forever EP5 Soreceress transcends time and space<魔法使いは時空を越えて>Part3
最期を迎えようとしていた。
悪魔は自らの考えを覆した・・・
そう。
ミハルの考えた通りに・・・
もう・・・思い残す事は無いと感じていた。
何もかも・・・これで終わりに出来る事を念じた。
<ミハル姉・・・僕も一緒だからね>
弟が断って来る。
<お母さんにあんな事を言ってたけど。僕は最期まで一緒に居るからね>
途中で放擲されるのを拒んで来る。
「うん、勿論そのつもりだよマモル」
反対してこない姉にちょっと拍子抜けする。
紋章の中に居るマモルに、リーンが心配そうに眉を落としていた。
<ミハル・・・良いの?>
マモルに気付かれないような小声で訊いてみた。
リーンにはマモルだけは救おうと話したミハルの心が痛い程解っていたから。
フェアリアに居た時からずっと弟マモルを心配し、戦争を生き残れたのも弟の為。
だから、マモルだけは母の元へ返すと言ったミハルの気持ちが解るのだった。
「リーン?ああ・・・その事ね・・・それはその時になったら話すから」
昔から、以心伝心。
気心の知れた者同志、話さなくても解っていた。
<リーン様?ミハル姉?何を言ってたの?>
聞こえていたようだが、マモルには解らなかったようだ。
「ううん、なぁーいしょ!大人の会話だから、知らなくても良いんだよ!」
恍けたミハルが尖塔の上空へと駆け上っていく。
「さぁて・・・と。お父さん達が道を造ってくれたら・・・突っ込むよ!」
<フェアリア>が防御砲火を潜り抜け、体当たりを敢行しようとしていた。
「大魔王の奴が破滅兵器を作動させる前に、間に合わさないと!」
時間との勝負だと思った。
<フェアリア>が道を開いてくれたなら、即刻突っ込もうと思った。
「リーン!防御は任せたよ。
マモル!壁が完全に壊れていなかったら魔砲でぶち抜くからね!」
上空で待機したミハルが二人に頼んだ。
戦艦<フェアリア>が燃え上がりながら突っ込む。
赤紫の魔法石へと。
既に<薩摩>によってひび割れが生じた魔法石に、もう一隻の戦艦が突き当たる。
「総員離艦!退艦せよ!」
マジカの号令が各所に伝達された。
「「ミハルが・・・戻らないのなら・・・私も逝くわ」」
衝撃を堪えたマコトに退艦を拒否した。
「ミハルはそう願ったのか?」
ミユキは夫の顔を見詰める・・・
「ミハルはお前と道連れとなる道を望んだのかと訊いたんだよ」
はっと我に返る。
「ミハルはマモルも一緒に連れて行くと言ったのか?」
魔鋼機械が停止した・・・自分の身体に戻って目の前に居る夫を見詰める。
「いいえ。マモルだけは返すと・・・私達に」
「ならば、ミハルの言葉を信じる私達の道は唯一つ。
生きて還りを待ってやらねばいけない。そうじゃないかミユキ」
見詰合う二人の後ろから、走り込んで来たマジカが叫ぶ。
「艦長っミユキさんっ!早くっ最期のランチが出ます!」
脱出艇に移乗するように求めて来た。
ミハルの眼に映るのは、<フェアリア>から脱出していく戦友たちの姿。
「善かった・・・お母さん達も無事に脱出してくれたみたいね」
弟が心配を募らせているのではと思い、
「ああ、ルマも・・・あれはマジカさん。そっか・・・みんなで来てくれてたんだ」
それとなくマモルの恋人の事を知らせた。
脱出艇が遠ざかる。敵の防御砲火も追い打ちを掛けてはいない。
「大魔王の奴・・・案外ちょろいかもね?!」
赤紫の魔法石に突き立った戦艦を取り除こうともしない。
まさか人類がこれ程の戦艦を造ろうとは思いもしなかったのか。
艦首に納められていたドリルが回転を始めた。
ゆっくりと魔法石に喰い込んでいく。
「さぁ、準備オーケー?いくよリーン!マモル!」
身構えたミハルが力を求める。
「リーンは防御を!マモルっ、翔龍となれっ!」
リーンには防御専門を。
マモルには攻撃力を最大限に使える魔龍へと昇華させた。
どうして紋章から飛び出させたかは言わなかったが。
マモルはミハルを信頼して求めに応じた。
蒼き翔龍の姿を執ったマモルに、
「いい、マモル!私達は爆焔の中へ飛び込む。
何が起ころうとも最深部迄辿り着かなくっちゃいけない。
この蒼き珠を中心部に叩き込まなくっちゃいけないの!」
どんな事が起きようと、目的を果たす決意だと教えた。
蒼き龍となったマモルが頷く。
<勿論さ!ミハル姉を届けてやるさ!>
弟は自信たっぷりに返した。
「うん、いい子だねマモルは・・・」
答えたミハルの口元が僅かに動いていたのにマモルは気が付かずにいた。
「これで・・・よし。
作戦もヘチマも無いっ、唯がむしゃらに突っ込むだけよ!マモル!」
いつもなら二人に話しかけて作戦の同意を求めるミハルが、一方的にマモルと話していた。
紋章の中に居るリーンは、ミハルに話された方法に頷いて認めただけだった。
<ミハル・・・やはり・・・やりたかったのね>
只・・・今は、ミハルと弟の会話に口を挟もうともせずに待った。
戦艦<フェアリア>の自沈・・・
砲弾庫の爆発がドリルの先から高熱を伴って穴を拡げて行く。
特殊砲弾と同じ原理・・・衝撃を与えられた砲弾の充填火薬が燃え上がる。
高熱で穴を拡げ装甲を破り・・・そして。
「往くよ!全力全開!魔砲力フルバースト!」
魔法の靴から金色の羽根が舞う。
力を受けた翔龍が羽ばたき、
目前で<フェアリア>が爆発して粉々となる中へと飛び込んで行った。
目も眩む・・・機械でも。
モニターが瞬間真っ赤に染められ視界が無くなった。
いや、正確には識別不能と化したと言った方が良い。
大魔王にもその瞬間に何が起きたのか理解不能となった。
衝撃波が電力を一時的に途絶させ、ほんの一瞬補助電力に切り替えられてしまった。
「「おのれ人間共め!馬鹿げた真似を!」」
モニターが回復した瞬間、大魔王は嘲るのを停めた。
魔法石の裂け目からあの娘達が飛び込んで来るのが映ったから。
「「来おったなMIHARU!」」
いずれこうなる瞬間が訪れるとは思っていたのか。
大魔王は最終手段に踏み込んだ。
「「受けるが良い!人間に託した事を後悔するのだ!」」
大魔王が消滅兵器の作動スイッチを入れた・・・
スイッチを入れた・・・が。
「「何とした事?!なぜ発動しない?!」」
大魔王の叱責が各所に飛ぶ。
<ケラウノス>がスイッチを入れても動かない。
電力を確認する・・・正常。
発信器を確認するがまたも正常値。
「「なぜだ?!なぜ動かんのだ?!」」
機械が機械を罵倒する。
再チェックを各所に命じて、初めて異常が解った。
「「お前達は何をしたのだ?!メインコンピューターたる私に逆らうのか?!」」
機械の主たる大魔王に反旗を翻させたのは。
「「異常反応があるのはメインコンピューターたる<ケラウノス>。
修正フォルダの開示を受け付けなかったので一部を閉鎖した」」
ミハエルに因って修正を受け付けたサブコンピューター達の意志だった。
「「馬鹿な!私は間違ってはおらん。
人類の消滅を司る事に間違いなど冒してはおらん!」」
サブコンピューターが反旗を翻したのに、気付くのが遅すぎた。
「「ならば、そなた等の任を解くまで。
遮断回路でお前達を切り離す・・・」」
侵食されたプログラムを凍結させた・・・だが。
「大魔王!私達の光を受け取るが良い!」
龍から離れた魔砲少女が蒼き珠を翳して飛び込んで来た。
発動できなかった<ケラウノス>に・・・
殲滅兵器の作動を邪魔したのは。
大魔王の配下でもある演算処理機の一部だった!
思わぬ手間を喰った大魔王だったが・・・
次回 EP5 Soreceress transcends time and space
<魔法使いは時空を越えて>Part4
君は最期を迎える時、どれだけ抗えるのか?!
殲滅兵器作動準備良し、カウントダウン発射10分前!!