第7章 永遠に紡がれる物語 Together Forever EP4Farewell Beloved people<さらば愛しき人々よ>Part10
愛する者を目の前で喪った。
希望さえも失われてしまった・・・
その眼は絶望に染まりかけていた・・・
「諦めるなって言ってたではありませんかミハル!」
駆け寄ったチアキが叫ぶ。
手に握られたレリーフを翳して。
「チ・・・アキ?どうして・・・」
どうして・・・その言葉に込められているのは、微かな希望。
「この中に!今直ぐこの中へ!入って貰うのです!」
差し出された紋章。
光を纏うレリーフをミハルに差し出すチアキ。
「この中に入れば!この中に入る事が出来れば死ぬ事はありません!
だから、諦めるのは駄目なのですっ!」
聖なる魔法衣姿の剣聖チアキが叫ぶ。
「太陽神のレリーフ・・・リィ君と一緒?
宿る事で死ぬ事はない・・・少なくても今は」
言葉少な気にチアキに問う。
「ええ、勿論。
ミハルが願わねば、いつまでもこの中で生きていられる筈ですから!」
紋章と同化すれば、確かに意識だけは取り留める事が出来る。
女神の力を纏う者に因って、契約されれば・・・いつまでも。
「リーン・・・それでもいいかな?
私と契約して?私といつまでも一緒に居て?私の願いを聴き遂げてくれる?」
死に絶えようとする魂に向かって願いを込める。
閉じられた瞼から、もう一粒の涙が零れ落ちた。
それを観た瞬間、ミハルが叫んだ。
「汝、死に絶えんとする魂に告ぐ!
私と誓約を交わす事に同意しなさい、今直ぐに!
太陽神、<理を司る者>・・・我が名はミハル。
我が紋章の元に、私の中で生きる事に!」
チアキから奪い去る様に手に取ったミハルが誓約を迫る。
「汝死に逝く者よ、この中で永遠の生を享受する事に甘んじなさい。
・・・リーン!お願いだから誓うと言って!」
必死に叫ぶミハルの後ろからチアキが聖剣を振りかざし、
「受け取ってくださいリーン皇女!これが私の全力全開!
聖なる剣の力ですっ!」
聖剣が光を放つ・・・聖剣がひび割れ・・・その身を代償にした。
神の如く・・・剣が魂となった。
「ミ・・・ハ・・・ル・・・嬉し・・・い」
魂は召される・・・光の中へと。
女神のレリーフに、光となって。
(( パアアアアアァッ ))
紋章から光が溢れ、ミハルもチアキの姿も・・・包まれた。
静まり返った階段に、二人だけが居た。
光が消えた階段には、ミハルとチアキの姿だけが残されていた。
「どうやら・・・成功したようですねミハル分隊長」
振り返り微笑んだチアキ。
紋章を抱き締めたミハル。
「リーン・・・リーン・・・私の愛する人」
涙が零れ落ちる。
取り留められた想い、喪わずに済んだ愛。
どれもが嬉しく愛おしく・・・涙が溢れた。
「ありがとう・・・チアキ。
あなたに因って希望が残された。
私の希望も私の生きる道も・・・あなたという希望に因って繋ぎ止めて貰えた」
胸に圧し抱いた。抱き続けたかった・・・大切な人と同じように。
「善かった・・・間に合って。
少なくてもこの瞬間だけは・・・」
言葉の端に込められてある意味が、ミハルに気付かせる。
「この瞬間だけって?何があったの、チアキ?」
聞いてはならない、だけど知りたかった。
チアキが観て来た事を。チアキにしか分らない出来事を。
紋章を抱きしめ、座り込んでいたミハルから遠ざかる様に立ち上がったチアキが。
「その紋章の中に居る子に訊いてみると良いでしょう。
リィ君なら話してくれますよ、私が観て来た事を。
私が言えるのは、この塔にあった魔鋼機械を破壊出来た事だけですから」
影を墜として答えるチアキに。
「それだけじゃないでしょう?
機械を破壊出来たのならもっと自信ありげに話すでしょ、チアキなら・・・」
自分の記憶にある少女は、もっと朗らかだったと。
自慢げに話す筈・・・何もなければ。
「ミハル分隊長には隠せませんね。
そうです・・・このレリーフを取り出せたのも、魔鋼機械を破壊出来たのも。
中島3尉の犠牲があったからこそ・・・ホマレさんの願いがあったからこそなのです」
犠牲・・・それが意味している物が、堪らなく重苦しく伸し掛かる。
「ホーさんが?ホーさんが?まさか・・・」
目も眩む衝撃が襲い掛かる。
ここに居るのはチアキ唯独り。
話された犠牲という言葉と掛け合わせた答えは。
「私も未だに信じられないのです。
目の前で・・・ホマレさんは自爆して果てた・・・なんて。
ミハル分隊長を救うんだって息巻いてた人が・・・結果的にそうなりましたが。
魔鋼機械を破壊する為だけに命を絶ってしまうなんて・・・」
チアキの言葉に心が張り裂けそうになる。
いつも助けてくれたホマレの顔が瞼を過る。
「なぜ・・・ホーさん。どうしてなのホーさん・・・」
次から次に襲い掛かる不幸。
自分の周りで繰り広げられる理不尽過ぎる闘い。
「どうしてかは・・・ホマレさんを一番解っているミハル分隊長がご存じですよね。
ホマレさんは大切な人に命を捧げられたのですから・・・」
チアキの言葉に圧し潰される。
粉々にされそうな心に、誰かが呟いて来た。
「「ミハル・・・ミハル。
泣かないでよミハル・・・彼女もきっと願っている筈だから」」
紋章から声が聞こえた。
「リィ・・・君?」
久しぶりに訊いたような気がする。
少し・・・前とは違うような気がしたが。
「「大魔王から護り通してやったよ!
今この中に入って来た娘に返したところだけどさ」」
リーンも同化した事で、リィ君は漸く役目を終えられたと考えているようだった。
「「じゃあさ、ミハル。もう外に出ても良いよね?
護る物が落ち着いたみたいだから・・・あるべき所へ」」
龍の子リィ君が姿を表しても良いだろうと訊いて来る。
「えっ?!あ・・・うん。ありがとうリィ君。今迄・・・」
護ってくれていて・・・そう言おうと思った。
「「でもさぁ、今はリィ君じゃないんだよね。
姿は確かに龍でもいいけどさ・・・ねぇ、MIHARU姉」」
リィ君とミハルが話しを交わせているのは心の中で、だけ。
傍にいるチアキには会話は聞こえていない。
「あ・・・もしかして。ミハル分隊長もお話されているんですよね?
リィ君と・・・マモルさんと・・・」
横合いからのチアキの声に、なぜだか弟の名が交って聞こえた。
「チアキ?マモルが・・・えっ?!」
確かに、マモルと聞こえた。
チアキに聞き咎めたが、それより早く。
「「ミハル姉、いや、月の住人のミハル姉。
僕だよ、MAMORU・・・衛だよ、姉さん!」」
話されたリイ君の声にミハルは、頭の中がこんがらがった。
「はいぃ?!私は君のお姉さんじゃないけど?リィ君は誰を誰と混同しているの?」
そう返した時。
右手の宝珠からMIHARUが叫んだ。
「「MAMORU?!まさか・・・衛なの?」」
碧き光に包まれた宝珠からの叫びに、ミハルも驚く。
「まさか?!リィくんって・・・月の住人だったのっ?!」
名前を失ってリヴァイアサンに宿っていた子。
記憶を失って彷徨っていた龍の子リィ君。
その子が・・・まさか。
「「ああ、僕は月の住人にして、地上へ派遣された<ファースト>。
<ケラウノス>を破壊する為に遣わされた月の意志」」
紋章から話される声は、間違いなく全てを思い出しているようだった。
「リィ君が?!龍の子が月の住人だったなんて・・・
でも、どうやって思い出せたの?どうしたら記憶を蘇らせる事が出来たの?」
彷徨い続け、長い時を掛けても思い出せなかったというのに。
いきなり蘇らせる事になった出来事を訊ねる。
「ああ、その事ですか?多分・・・弟というキーワードが。
マモルという名前が、作用したんでしょうね?」
会話の切れ端から判断したチアキが横から言った。
ミハルにとって最大の衝撃を伴う一言を。
「マモルさんがこの中に宿られていますから。
ミハル分隊長を護る為に・・・同化されちゃいましたので・・・」
弟マモルが・・・紋章と同化してしまったのだと・・・
チアキに因って魂だけは繋ぎ止める事が出来た。
肉体はもう死を向けてしまった・・・
この事実が後にミハルを決心させる事になる・・・
次回 EP4Farewell Beloved people<さらば愛しき人々よ>Part11
君は最期の闘いに姉弟で挑む、大切な人達の犠牲をも力に変えて・・・
人類消滅のカウントダウンが進んで行く!残り7時間!!
次回でEP4終了です、そして・・・次のEp5が最期のエピソードになります!