第7章 永遠に紡がれる物語 Together Forever EP4Farewell Beloved people<さらば愛しき人々よ>Part4
ミハルの元へ・・・
誰しもが助けに向おうとしている中。
2人は眼にしてしまった・・・
転送装置に入ったところまでは覚えていた。
確かに握られていた・・・姉の手に。
「ここは?僕はどうしたというのだろう?」
気が付いた時には、姉ミハルの姿が傍になかった。
また、姉は独りで立ち向かったのだろうか・・・とも思った。
だが、あれだけ自分を伴って闘うと告げた姉が、ここに至って自分を放り出す訳も無いと思った。
「ミハル・・・ミハル姉さん?どこ?」
辺りは薄暗く霧が立ち込めている様に感じる程、不気味に感じられた。
「ここが?これが神の神殿なのか?
まるでいつか貶められた闇の中みたいじゃないか!」
過去を振り返ったマモルには記憶が残されていた。
姉ミハルにさえ言った事はない。
自分の身代わりに姉が救ってくれた・・・あの場所の事を。
「あの時は・・・マリーベルさんの戦車に載せられていたんだっけ。
闇の中で・・・たった独りで彷徨っていた・・・僕を助けてくれたのは姉さんだった」
周りには誰も居ない。
まさにあの闇と同じだとマモルは思えた。
と、同時に。
「今度は僕自身で出てやらないと!きっと姉さんは独りで闘っているに違いないんだ!」
胸に下げた母のペンダントが頼りだった。
日の本髄一の魔砲師、陰陽師の血統を受け継ぐ者が手にする事の出来る宝玉。
ミハルに授けられた蒼き珠にも劣る事のない魔力が秘められた伝説の石。
「母さん、ミハル姉は必ず僕が護る。
そうなんだろ、僕にこの名前を授けた本当の理由は・・・」
MIHARUが宿る蒼き石を護る。
MIHARUを呼び覚ます身体を持つ姉を護る者。
誓約の為、世界の運命を担う者として・・・今ここへ来た。
「姉さん・・・待ってて。必ず助けるミハル姉を!」
思わず大声を張り上げていた。
心配が心を締め付けるのを撃ち祓う為にも。
「「君・・・ミハルって言ったよね?」」
少年の声が呼びかけてくる。
どこかから・・・
「「君・・・今、確かにミハルって言ったよね?
姉さん?ミハルは君のお姉さんなのかい?」」
再び訊き返された。
「君は?誰なんだい?」
声の主は姿を見せない。喋り終わった声は返事も返さない。
「僕を呼んだのは君の方だろ?
僕はミハル姉の弟、マモル・・・君は?」
名乗りを上げて相手の出方を待つ。
確かに誰かが居る様に感じられた。
どこかから見詰めるような視線を感じた。
「これからここを出てミハル姉を助けに行くんだ。もし邪魔する気なら・・・容赦しないよ?」
黙り込んだ相手に威嚇して、マモルはペンダントから魔砲力を顕わにする。
「「本当だ・・・その力・・・ミハルに似てる。
あの娘と同じ魔砲の力を感じるよ」」
闇の霧から声が届いた。
「君はミハル姉さんの事を知っているんだね?
一体どうして?君は何者なんだい?」
マモルが声を差し招く。
姿を見せる事も無い声の主を。
「「話す事なら出来るんだけどね。停められているんだよミハルに」」
マモルに話しかけてくる。
差し招かれた声から告げられるのは・・・
「「この中に居てくれって頼まれちゃったからミハルに。
此処に在る大切な者を護ってくれって言われちゃってるんだ、だから出られない」」
名を告げる事も無い誰かが、マモルに詫びていた。
「出られない?ミハル姉さんに頼まれたんだって?」
「「そうなんだ、この中に居てくれって。
大切な人の記憶を護り通してくれってさ・・・頼まれているんだ」」
男の子の声が答えて来た。
姉ミハルに因って約束させられたという。
「解ったよ。
でも、この中って・・・どこの中なんだい、君のいるのは?」」
マモルが声の主に訊ね返す。
どこに居るのかと、君は誰なのかと。
「「ここだよ、ミハルの弟」」
声が教えた・・・
「「僕はこの中さ、ミハルの弟」」
招く・・・光が漏れ出る太陽神の紋章へと・・・
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「ホマレさんっ!中島3尉!」
蒼髪の少女が振り向き気遣う。
「ああ、どうってことないわ!急ぐんや!」
神殿のセキュリティーシステムが二人の行く手を阻んでいた。
螺旋階段を下る程に妨害が激しく二人に襲い掛かった。
魔砲力を駆使してチアキが防ぐ。
瞬発力を活かしてホマレが破壊する。
人の限界を超えた闘いに二人の少女は傷付き、その力を消耗していく。
「神の神殿ってゆーても、大したことはあらへんわ。
人間が侵入したっちゅーのに、まだ始末出来へんのやから!」
ホマレにしては自嘲気味な言葉が喉を出る。
「そうですね、この調子なら。
もう間も無く中心部に到達出来そうですよね!」
チアキは力尽くで押し通す戦法を敢えて執っている今、魔砲力の消耗も厭わずに云う。
<このままだと、ミハルに逢えるのはいつになるのか?>
二人は同じ事を想う。
闇雲に突き進むしか方法が無い事を憂いながら。
数十基の防御砲門を潰し、辿り着いたのは・・・
「おい、チアキ。見て観ろや!」
二人の前に聳え立つのは。
「ええ、ここが何かしらの基部でしょうね」
空間に現れた塔の基部。
機械に囲まれた円柱に一本の橋が架けられてある。
「あの中に?」
ホマレが先走って走り出そうとするのを停めたチアキが。
「待ってくださいホマレさん。
近づくには少々手間が掛かりそうです!」
眼で塔の周りに備えられた防御砲門を指した。
「あれだけの守りを固めた所へ無闇に突っ込んだら・・・」
二人を狙う機銃やレーザー砲に因って瞬く間にハチの巣になると。
「そやな・・・どうするか・・・や」
ホマレは自分の手にあるデバイスを見詰める。
一瞬の沈黙の後。
「チアキはん、頼みがあるんや」
魔砲少女チアキに振り返ったホマレが微笑んだ。
「なんですか中島ホマレ3尉?」
微笑みの答えがチアキには直ぐに判ってしまう。
「解っとるんやろーけど。敢えて頼みたいんや、アンタに」
重みを感じるデバイスを突き付けたホマレが言う。
「ウチが橋を渡り切るまでの援護を。
そして辿り着いたのなら・・・全力魔砲を放って欲しいんや」
微笑むホマレが言うのは。
「そんな!そんな事は出来ません!
いくらミハル分隊長を救う為とはいえ・・・出来ませんっ!」
断るチアキに微笑むホマレが言う。
「ええかチアキ。
ウチの事は心配せんでええから。
前にも言うた通り、ウチは死に場所を求めてフェアリアに来たんや。
ミハルに救われなんだらとっくに死んどった身体なんや。
この身体に流れとるんわミハルの想い、ミハルへの想いだけなんやから。
どうせいつかは死ぬ気やった・・・それが今やというだけなんや」
死を覚悟したホマレにチアキは後退る。
「ええかチアキ良く聞いてくれや。
ウチはミハルの為だけやとは思うてへん。
ここを破壊出来るんやったら無駄死にやあらへんやろ?
破滅兵器を停めれるんやったら、人類を救えるんやったら。
ウチは本望なんや・・・ミハルにも顔向け出来るやろうしな」
チアキの肩を持って、諭すように頼む。
「い、嫌ですっそんな理屈!私に死神になれって言ってるのと同じなんですよ?!」
首を振り涙をあふれ指すチアキに。
「チアキ!ええか?!これは人類の未来を賭けた闘いなんや!
ここを壊せてもまだ勝負は着いとらんのだぞ!
誰かが生き残って、闘い抜かねばならんのや!
それはお前やマモル、それにミハルなんやぞ!」
ホマレは妹に諭すが如く優しく、強くあれと教える。
「中島・・・ホマレさん・・・」
名を呼ぶだけで心がはち切れそうになる。
チアキの顔を見詰めたホマレが。
「頼むチアキ。ウチに替わってみんなを護ってくれや」
新たなる希望として。
人類最期の戦いに、全てを託して・・・
「ほなら・・・往くからな、チアキ・・・何て言ううんや?」
放心状態のチアキに、本名を訊ねる。
「マーブル・・・チアキ・マーブルって・・・いいます」
やっとのことでチアキは答えた。
そうすることが今、自分に言える別れの言葉だと思って。
「ほうか?ほならな、チアキ。今度逢ったら・・・一手、お手合わせ願うわ」
逢える訳が無い・・・そうは言えない。
もしかしたら、自分もこの後・・・死ぬ事になるかも知れないと思うから。
「ええっ、お手柔らかに!ホマレ!」
デバイスから聖剣を取り出し、残された魔砲力を貯める。
橋の長さは10メートル程。
その長さが途轍もなく遠くに感じられる。
「いくで!ミハルゥッ!!」
手にしたデバイスの中に納められてあるのは。
<こいつを使う事になるんは予想していたけどな。
ミハルを救い出す為に使うと思うたんやけど・・・まぁええ!>
デバイスの中には<薩摩>の主砲弾が入っていた。
― この世界に魔鋼の力があるんはこいつの為やったようなもんやな。
<無>を求める者が造ったんやろ?返したるさかいにナ!
<翔飛>に力を入れて飛び上がった。
だが、たちどころに集中砲火に捉えられてしまう。
((ガンッ ガガンッ))
最初の一撃は避けれた・・・だが、次々に撃って来るレーザー砲に捉まり。
「うっ・・・まだや・・・まだ・・・」
<翔飛>が使用不能となる。
橋に降り立ったホマレが渡り切ろうと足を引き摺る。
「ホマレさんっ!畜生っ!」
護衛のチアキが辺り構わず魔砲を放つが・・・
「もうええ・・・もう・・・ええんや・・・マーブル」
橋を渡り切る瞬間にホマレが笑った。
その笑顔は血に塗れ、苦痛を受けているというのに・・・
「ここまでやチアキ。お前はミハルの元へ行くんや・・・頼んだぞ!」
橋を渡り切ったホマレがデバイスロッドを塔の基部に差し込んだ。
「ホマレさんっ!」
まだ基部を護る防御砲火と闘っているチアキが叫ぶ。
叶わぬと知りながら呼び止めようとして。
「往くんやチアキ!行ってミハルを助け出してくれ!頼んだぞ!」
ニヤリと笑った。
手に持たれたデバイスロッドを解除して・・・
(( ズッダダァアアアーーーンッ))
猛烈な炎と爆風がチアキにまで届いた・・・
火炎と爆風を避ける様に飛び退いた・・・
それは・・・人類を殲滅させる機械の基部が破壊された事を意味していた・・・
さらば・・・ミハルに言えず・・・それだけが心残りか。
ホマレ・・・君の犠牲は無駄じゃない!
そして・・・仲間達は救出を目指す!
次回 EP4Farewell Beloved people<さらば愛しき人々よ>Part5
君は願った・・・信じた者の力になりたいのだと。我が身を消しても!
人類に残された時間は最早幾許も無い・・・残された時間は後130時間!!