第7章 永遠に紡がれる物語 Together Forever EP4Farewell Beloved people<さらば愛しき人々よ>Part1
蒼き髪が靡く。
碧き瞳が見詰めている。
マモルの前に居るのは、女神となった姉。
麗しく・・・可憐な、理を司る女神、太陽神ミハル。
闇の魔法衣があるべき姿を取り戻す。
今、目の前に佇むのは光を取り戻した魔砲の女神。
「ミハル・・・姉。
やっぱり、綺麗な魔法衣を纏うんだね。
清らかな者が纏える女神の魔法衣ってやつなんだよね?」
眼に映える白と碧。
空に浮かぶ少女は光を纏って見えた。
「そうかな?マモルだってカッコいい魔法衣を着てるじゃない。
強き力と心・・・その表れだよ?」
姉弟はお互いの姿を見詰めて笑う。
今見ている姿が何時消え去っても忘れない様に。
いつか見る事が出来なくなっても記憶の中へ残せるように。
「姉さん、それじゃあ行こうか?」
マモルが黒雲に隠された飛行機械へと誘う。
「うん・・・心残りは・・・ないの?」
ミハルがか細く訊いた・・・自分の中にある心と掛け合わせて。
弟へ訊いたというよりは、自分に言い聞かせるかのように。
「それ・・・言っちゃ駄目なヤツだよ?
まるで帰って来れない様に聞こえるからさ」
黒雲を見上げていた弟に諭されてしまう。
マモルに言われた通り、覚悟は決まっているのだから。
「そうだね、そうだよね。
さっすがマモル!女神を諭すなんて、人間技じゃないよ!」
心使いに笑顔になれた。
一目両親の顔が観たくなってしまったミハルに、マモルの言葉が温かかった。
ー マモル、あなたが弟で良かった。君が傍にいてくれるだけで嬉しいよ・・・
心で感謝を告げるミハルの眼には、頼れる人の姿が映っている。
「マモル・・・往こう、リーン達の元へ!
みんなを救って・・・また帰って来ようね!」
マモルと同じように飛行機械を見上げる。
「うん、必ず!」
二人は最期の戦いの場へと向かおうとする。
転送機械に入ってしまえば、次の瞬間に待ち構えているのは。
「大魔王を倒して取り戻すんだ!
僕達が生き続けられるこの世界を!」
マモルとミハル・・・
2人が手を携えて向かうのは・・・
「「あの子達が行ったわ・・・最期の戦いの場へと」」
戦艦<フェアリア>の魔鋼機械が呟く。
「・・・ああ」
眼鏡を執り直したマコトが頷く。
「艦長、私達も向かいましょう。出来るだけ早く。出来るだけ近くに」
副長マジカ中佐が促す。
「艦長、副長!ジェネレーター稼働します!」
艦体を震わせ、魔鋼の力を宿した艦が動き出す。
・・・空へと。
「航宙機関作動宜し、ジェネレーター正常!」
ルマ少尉がモニターを見詰めながら報じる。
「目標、暗黒大陸中心部!機関全速、これより本艦は魔鋼状態のまま敵の本拠を突く!」
マジカ副長が指揮官席から命じる。
「味方艦隊に報告。
<<我<フェアリア>、我と心を同じくする同志諸氏に告げる。
これより行うのは人類の未来を賭けた一戦、損害に顧みず突き進め。
この闘いは諸氏の双肩に懸っている。
全人類の荒廃、懸かってこの一戦に在り>>
以上だ・・・」
艦橋から見下ろす海上にはフェアリア艦隊が。
後方に浮かぶもう一隻の航宙戦艦<薩摩>の姿が・・・
<フェアリア>と共に突き進んで往く。
最期の戦場へと。
空中に浮かぶ巨大な城とでも言える<ジェノサイド>級巨大戦艦。
有志連合軍艦隊の主力を掃討した・・・筈であった。
海上には黒煙が霞み、遠く離れた場所に浮かんでいられるのは護衛部隊の生き残り。
人類艦隊にトドメを刺さんとする空中戦艦が動き始める。
<ジェノサイド>のレーダーには海上に浮かぶ艦隊しか映されてはいなかった。
「オスマン艦隊はどうか?」
源田司令長官が訊ねる。
「はっ、揚陸艦<ハッシュタグ>の健在は確認されております」
参謀の答えに頷いた長官が、一言だけ呟く。
「そうか、ならば・・・頃合いだな」
源田司令長官がモニターに映された艦の状態を確認してから命じる。
「全艦浮上!怒りを込めて撃ちまくれ!」
<ジェノサイド>が進み征く海面が波立つ。
いや、正確には泡立つと言った方が的確だろう。
海面に無数の気泡が現れ、その中から鋼の艦体が浮き上がる。
航宙戦艦<ジェノサイド>の真下から有志連合軍海中戦艦<扶桑>の姿が現れ出た。
「魔鋼砲、全力射撃!目標上空の巨艦!
艦隊の被害に構わず撃ち続けろ!」
真下に現れた人類艦隊に、巨艦は即刻対応出来ずにいた。
真下から現れた艦隊に向けられる砲塔などなかったから。
反対に人類艦隊は真上に向かられたのか。
「傾斜に注意しろ!本艦只今トリム90度!」
椅子に縛り付いていなければ振り落とされてしまう。
床が壁に、壁が天井に思える角度を着けて、<扶桑>は射撃しようとしていた。
海面にそそり立つ戦艦。
そのまま沈んでいきそうな傾斜を着け、人類最期の艦隊は射撃を開始する。
碧き弾が<ジェノサイド>真下から放たれ、
装甲の薄い発射管を打ち砕き、誘爆を招いた。
砲撃するのは<扶桑>だけでは無かった。
生き残っていた主力水中戦艦数隻が一斉に撃ちかけていた。
無敵を誇る神の巨大戦艦も、対処が不能となるまで誘爆を繰り返し・・・
「「我<ジェノサイド>、本艦はもう・・・」」
全能の神たるユピテルへ向けて最期の命令を求める。
全能の神が造った巨大戦艦も、自ら崩壊を招く誘爆には対処が出来なくなり。
「「下方ミサイル群誘爆、下部主砲塔弾薬庫に火が廻りつつあります。
本艦に残された時間は数分・・・」」
遠距離でこそ。
遠距離で闘う事を想定して造られた航宙戦艦に、
真下800メートルの至近距離で砲戦を挑んで来た人類艦隊。
装甲も、防御システムも用をなさない。
下部の至る所で砲弾が被害を齎し続け、応戦も叶わず一方的に叩かれ続ける。
巨大さが逆に致命的損害を拡げて行く。
下部が火達磨となった<ジェノサイド>に打てる手は一つだけ。
「「愚かなり、人類如きに負けるようでは必要などない。
そなた<ジェノサイド>に命じるのは人類の殲滅。
その他に命じる事などは存在しない・・・命運尽きた時には実行せよ」」
ユピテルの求めるのは。
「「命令了解・・・自沈します」」
<ジェノサイド>の指令コンピューターは即断した。
下方に存在する敵を道連れとすることを。
火達磨となった艦体から空に浮かぶ力を停めた。
それは巨大な金属の塊が空から降って来る事を意味する。
一瞬の内に堕ちてくる巨大な戦艦を破壊する事など不能。
逃れる術のない事態にも、源田長官は冷静であった。
「皆、よくやってくれました。明日への希望は、あの娘達に委ねよう」
それが・・・有志連合軍艦隊司令長官が言えた最期の感謝だった。
暗黒大陸近海に巨大な津波が発生した。
遠く後退していた残存艦隊の中にも、津波による被害が発生していた。
遥か遠く、スペレン国沿岸までも津波は襲い掛かったという・・・
「前方の<フェアリア>速力を上げました」
ミツル3尉が指示計を見詰めて知らせてくる。
「本艦の速力を遥かに上回っています!追いつけません!」
全速力でも引き離されていくのが見て取れた。
「そうか・・・あっちには増速ジェネレーターが装備されているんだな?」
レナ3尉が航海長に向けて話しかける。
だが、ミツルは口の前に指を立てて話しかけるなと断って来た。
その眼が艦長に向けられているのを知って、レナも口を噤んだ。
艦長席でミノリ2佐が塞ぎ込む様にうな垂れている。
先程飛び込んで来た一報に因って。
・・・連合艦隊主力が壊滅し、旗艦<扶桑>も撃沈された・・・
電文に記されてあるのは。
残された人類艦隊では、暗黒大陸迄侵攻出来る艦隊が残されていない事を告げていた。
「残された者に・・・託すと言うのか、お父様は」
源田司令長官の一子、源田ミノリ2佐が呟く。
「我々だけで、神と闘えと。
神を破り、暗黒大陸にある破滅兵器を破壊せよと・・・言うのか?」
顔をあげたミノリが観たのは。
「戦艦<フェアリア>と<薩摩>2艦だけで・・・どうしろと云うのだ?」
人類に残された戦力は、たったの2隻。
最期まで抗えと・・・最期の瞬間まで闘えと。
ミノリは人類の未来を賭けた闘いに身を置く、
自分の意味が分からなくなりそうだった。
「残された者も・・・散る。
先に逝った者と同じように・・・」
記憶の片隅に。
とある詩が甦る。
「散る桜・・・残る桜も・・・散る桜・・・か」
艦長帽を被り直したミノリが、詩の心を知った・・・
ミハルは神の神殿に向った・・・
そこで何が待ち構えているのかも判らずに・・・
抗う者達の上に幸運が瞬く事を・・・
最終決戦の時が来た
ミハルの永い戦いの日々にも漸く終焉が訪れるのか?
闘う君よ・・・生き残れ!!
次回 第7章 永遠に紡がれる物語 Together Forever EP4Farewell Beloved people<さらば愛しき人々よ>Part2
人類殲滅まで・・・カウントダウンが始まる・・・残り150時間・・・





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