第7章 永遠に紡がれる物語 Together Forever EP3 sister and brother<姉弟> Part5
ミハルが弟を誘う時。
闇の間から嘲笑う声が響き渡る。
「「そうだ、それで良いのだミハルよ。
さぁ、来るが良い!我が元へ、大魔王の元へと!」」
その声の主は<ケラウノス>たる者。
大魔王を名乗る人工頭脳、人類を支配する悪しき機械。
「「お前が何を企んでいるのか知らんとでも思っていたか?
バリフィスもミハリューも我が手の内にあるぞ!
救いたくば弟と共に来るが良い、そしてMIHARUを差し出すのだ!」」
大魔王の狙いは、自らを停める為に月から降りて来た娘。
ミハルに因って目覚めし<希望>の徴。
MIHARUを手中に納めんとする大魔王の謀略が功を奏したというのか?
「姉さん、敵の親玉が勝手な事を言ってるけど?」
マモルは意に介さず、姉の手を握る。
「うん。こうなる事が解ったから・・・マモルに頼んだんだよ?
私と君とでやっつけちゃおうと思ったんだ・・・大魔王を」
握られた手を強く握り返した姉の心の内に在るものに。
「そうだよね、リーン様も救い出さなきゃいけないもんね。
ミハル姉と一緒なら勝てるさ・・・きっと」
強くなった弟、固い決意を秘める姉。
二人は人類の希望を担う者・・・悪魔の如し機械を停める事の出来る蒼き珠を持つ者。
「ねぇマモル・・・君はもしかして知っていたの?
お姉ちゃんが女神になっていた事を。
大魔王と闘う運命だった事を・・・」
ミハルは黒雲の中に隠された転送機械を見詰めて訊く。
「そうだよミハル姉、教えて貰ったんだ母さんから。
蒼き魔法石の秘密と姉さんの強さの訳を・・・ね。
光の人が母さんに誓約した話、産まれる姉さんに<希望>を託した話。
そして、時が来れば僕も姉さんと同じ力を託されるって・・・」
マモルの言葉に頷いた。
それで今迄の事が、全てはっきりしたから。
弟が強くなれた訳も、此処まで来てくれた訳も。
「そっか。マモルは分かって一緒に行ってくれるんだね。
お姉ちゃんと同じ力を持つ事が出来るんだよね?
蒼き珠を作動させられるんだよね?」
自分が失敗したら・・・
もし、リーンを救う為に蒼き珠を作動するタイミングが失われたとしたら。
弟に頼めるのかを訊いた、自分の代わりに蒼き珠を作動させられるかを。
静かにマモルは首を振る。
「違うよ姉さん。
僕じゃない、僕が蒼き珠を使うんじゃない。
姉さんが使わなきゃいけないんだ。
蒼き珠はミハル姉でしか作動しないらしいから、僕では駄目なんだって」
どこまで母から教えられたというのか。
ミハルは自分でも知らない事を言う弟に驚いていた。
「それに・・・さ、ミハル姉。
二人でって言っただろ姉さんは。
だから一緒に行くんだよ、姉さんだけに闘わせる訳にいかないんだから。
独りで全部やり遂げようとする気だったんだろ、初めは?
僕を心配してくれるのは嬉しいけど、、僕も同じだから。
父さんや母さんも、マジカさんやルマ・・・皆みんな。
ミハル姉の事を心配しているんだよ?」
皆が自分を心配しているのだと、マモルから告げられる。
ミハルの手を曳いて、振り返らせた弟は、艦隊の居る海上へと視線を落とし。
「だから、さぁ。
みんなの元へ帰ろうよ、皆が待ち望んでいるから。
ボスキャラぶっ飛ばしてさ、皆の元へ帰ろうよミハル」
白い魔法衣姿の弟に、名前だけで呼ばれた。
姉弟として、でもなく。
恋人としてでもなく・・・大切な人が呼ぶ声が心に沁み渡る。
嬉しかった・・・とっても。
なぜだか、名前だけで呼ばれた事が他の誰かに告げられるよりも嬉しく思えた。
「君の声でミハルって呼ばれるの・・・嬉しいな。
お姉ちゃんって・・・呼ばれるよりずっと」
姉弟だけで・・・空に浮かんでいられた。
握られた手の温もりが愛おしかった。
「小さい頃を思い出したよマモル。
私の後ろをテクテク着いて歩いていた君の事を。
笑ったり泣いたり、怒ったり・・・みんなみんな懐かしい君の顔。
いつもいつも・・・私を追いかけてくれていた。
・・・慕ってくれていた君の事を思い出したよ」
握った手に、少しだけ力を籠める。
離したくない・・・心の表れのように。
「思い出した?
今も変わらないから・・・あの頃と同じだから。
だけど今度ばかりは一人で行かせたりしないから、一緒に行くから。
今、この瞬間から僕達は一心同体。離れる事なんて絶対にしない!
二人揃ってこその姉弟だろ?二人でなきゃ姉弟って呼べないじゃないか!」
見透かされていたと知ったミハル。
離れてしまっても助けようと願う、姉の心を知っていたマモル。
姉弟に授けられた力。
姉弟へ託された未来。
姉弟の運命は過酷で重かった。
唯・・・今は二人で在り続けられる事が幸せに感じられていた。
「君・・・いつの間にこんなに立派になっていたのよ?
もう、お姉ちゃんだなんて言えなくなっちゃった・・・な」
姉は弟の碧き瞳を見詰める。
「何言ってんだよ?そういうミハル姉も・・・女神なんだろ?」
はにかむ様にマモルは、<理の女神>に笑う。
「これを・・着けて?」
自分の右手から宝珠を外し、姉に差し出す。
普通の魔砲師なら、デバイスが無ければ魔砲力も放てない筈なのに、
マモルは変わらずに飛べている。
「僕にはもう一つ。
この魔法石が渡されているんだ、お母さんとお父さんから譲られた蒼き石が」
マモルの胸に下げられてあるのは、魔力を秘めた魔法石。
嘗て、日の本に居た時母が下げていたペンダント。
陰陽師の血筋が引き継ぐとされた、古から伝わる魔法石。
「母さんの?それをマモルに?」
頷いたマモルが一言、言い添えた。
「母さんはね、今この石を必要としない身体になってるんだ。
ミハル姉が使えた闇の力と同じモノで機械と同化してるんだ。
お父さんの研究を覚えて居るだろ?
あれでさ・・・戦艦のコンピューターに納まったんだ」
眼を見開いた。
母は機械と同化する道を選択したという。
そうまでして・・・と、思った。
だけども、それが母ミユキの強さでもあると考え直した。
「お母さんはね、
姉さんを連れ戻すには暗黒大陸まで行かなければいけないと言ったんだ。
だから、機械と同化してまでも、願ったんだよ?」
「そっか・・・お母さんも。
そうする事で救おうとしているんだ・・・」
自分も。
克て闇の力を使ってでも護ろうとした事があった。
そうまでしても、大切な想いがあったから。
話す間にも瞳の色が変わり始める・・・蒼色へと。
太陽の光を浴びた髪が、茶色から蒼空に染まるかのようにキラキラ煌めく。
「戻ったね、ミハル姉・・・」
「ええ、マモルのおかげだよ?」
闇の欠片さえも、身体にも心にも残されてはいなかった。
碧き珠をミハルへと渡したマモルに感謝の声を告げ、眦を決して睨むのは。
「往こうマモル!
暗黒大陸にある神の神殿へと!」
黒雲に隠れていた転送装置が備えられた飛行機械。
固く握られた手と手。
固く交わされた心と心。
二人の魔砲姉弟が歩みだす・・・終わりなき世界を求めて。
助けるのは人類・・・全ての希望。
遂げるのは、永久へと歩む<希望>への願い・・・
ミハルは弟と共に向かうのでした。
リーンを救う為。人類を消滅から護る為。
姉弟は秘めた誓いと願を込めて旅立ちました・・・
そこにどんな罠が待ち構えているとしても
いよいよ・・・最期の戦いの時が?!
君達は・・・生き残る事が出来るのか?!
次回 EP4Farewell Beloved people<さらば愛しき人々よ>Part1
君は愛すべき人との別れを告げられますか?理不尽な別れだとしても・・・
人類に残された時はもはや幾許も無い!最期の瞬間まで後160時間!!