第7章 永遠に紡がれる物語 Together Forever EP3 sister and brother<姉弟> Part1
黒雲を纏う飛行機械から現れ出て来た。
闇の魔法衣を着た女神の姿が・・・確認された。
「「ミハルは・・・あの子はもう戻っては来れないのね」」
戦艦<フェアリア>のコンピューターが呟く。
「ミユキ、まだ諦めては駄目だ」
艦長シマダ少将がメガネの縁を持ち上げてモニターを睨む。
「ミハルは必ず取り戻してみせる。ここに来たのはその為だろう?」
画面上に映る女神の姿を見据えて魔鋼機械に同化した妻に諭した。
「「ええ・・・そうね」」
艦橋で操艦している誰しもがミハルの姿を固唾を呑んで見詰めていた。
空に浮かんで艦隊を見下ろしていた。
操られているフリをしながら・・・
<マモルにどうやってしらせたらいいのかな?>
心の内で伝えられた作戦を反芻する。
<ミハエルさんやリーンがまだ囚われた今の状態で。
私が出来る事は限られているんだ・・・だから・・・>
紅き瞳のままで、髪の色も茶色く濁らされたままの姿で。
怪しまれないように弟と接触し、話を伝えなくてはならない。
<リーン・・・私、巧く出来るかな?
マモルと話せて巧く宝珠を貸して貰えるのかな?>
母から贈られた魔法石。
今は弟の物となった蒼き魔法石。
<あの魔法石に秘められてあるのは、きっと強力な魔力。
太陽神のエンブレムに匹敵する程の力が隠されている筈・・・>
自分が魔鋼騎士と為れたのは、あの蒼き魔法石のおかげ。
生き残って来れたのもあの石の力・・・
ミハルもミハエルにも、あの石に秘められた力がどうしても必要だった。
弟マモルをして女神を越えれる力を放てた石の力が、大魔王と闘うには手にいれたかったのだ。
<マモルを巻き込んだりしなくて済むには。
マモルからあの魔法石を借りなきゃ・・・どうしても>
操られたままの姿を見せつつ、どうやって弟と接触を果たせるのか。
ミハルの頭の中は、その一点に絞られていた。
艦隊を見下ろすミハルに、大魔王の指令が飛ぶ。
「「デザイア・・・いや、ミハルよ。
そなたはこれより仲間を滅ぼすのだ。そなた自身の手に因って!」」
来た・・・と思った。
この指令が、行動に移すチャンスでもある。
操られている間、闘いに入ってしまえば瞬間瞬間は大魔王の意志に行動を制限されなくなる。
先のマモルとの闘いでもそうだった。
咄嗟に防御魔法を放った自分の身体。
あれは確かに無意識の内に防御していた・・・そう思い出していた。
<だから・・・マモルに接近戦を求めるフリをして。
体が触れれる距離にまで肉薄して・・・話しかけよう、女神の力を使って>
ミハエルとリーンが求めていたのは、マモルを神の神殿迄連れ込む事。
蒼き魔法石の力で味方になって貰い、一緒に闘って貰う事。
しかし、弟の身を案ずるミハルには蒼き石だけで十分に思えた。
<なにもマモルを危険な目に遭わせる必要なんてないんだから。
リーンには悪いけど、神々の戦いに人間を巻き込むなんて危な過ぎるんだから>
薄く眼を開けて、艦隊を見下ろしていた。
早く弟が現れてくれることを祈って・・・
しかし、ミハルの予想は覆される事になる。
「ミハル分隊長!闇に囚われてしまったのですね!」
どこかで訊いた少女の声が聞こえた・・・様な気がした。
<・・・はぁ?!>
紅き目が見開いてしまった。
「この剣聖チアキがお救い致します!
闇からミハル分隊長を取り戻してみせましょう!」
弟が現れる筈だった・・・なのに。
<げぇっ?!まさかの<<チマキ>>?!
どうしてこの子がこんな所にいるのよぉっ?>
錯乱しかけた。
思わず操られているフリをしているのも忘れて叫ぶところだった。
<最悪だわ・・・よりによって、なぜ<チマキ>がぁっ?>
飛び上がって来て、自分の前に姿を見せた魔砲少女に毒づく。
「ミハル分隊長!解ります?私ですよ、チアキですよ?
・・・声を掛けてくれない処を観ると、やはり操られたままなのですね?」
自己完結するチアキに、本当の意味で声を失ってしまう。
呆れた様な顔を向ける茶髪のミハルに、そんな剣聖チアキが呟く。
「そっか・・・じゃあ、仕方がありませんね。
闇に染められし者を救うのが剣聖の務めでもありますので。
この剣でミハル分隊長を斬り捨てましょう!」
自己完結した上に、更に自己流の退魔術を放とうとして来る。
<あははっ、これは困った。困ったちゃんねぇ・・・Orz>
苦笑いしてしまうミハルの前で、チアキが胸の魔法石に祈りを捧げる。
「ミハル分隊長!これが新しく委ねられた力なのです!
まだ観られた事は無い筈・・・秘宝石の力を!」
緑の光がチアキを包む。
胸から現れた石の力を受けて、チアキの姿が魔法衣を纏う。
<おおっ?!ホントだ!これは凄い(棒)>
闇の女神の前で、人間チアキの姿が替わる。
蒼の魔法衣姿となり、神から授けられし剣を抜き放って。
<おおーっ!凄い凄い!(棒)パチパチパチ>
ミハルは観ている前で変身を遂げたチアキに喝采(?)を贈った。
でも。
「あなた、チアキとか言ったわね。
怪我したくなかったらそこからどきなさい。さもないと・・・」
右手を翳して魔砲の弾を現す。
力の差を見せつけて、チアキを退かせるつもりだったのだが。
「どきません!そんな魔砲弾なんて弾き返してみせますから!」
却ってチアキに闘えと言ったようなものだった。
<もうっ!どきなさいよチマキ!
本当に怪我じゃあ済まなくなるわよ?>
翳した魔砲弾を振り下ろす事も出来ず、引き攣った顔をチアキに向ける事になってしまった。
「ほらほら!闇の者よどうしたの?!
ミハル分隊長を操っているんでしょ?
撃ってみなさいよ、叩き斬ってあげるんだから!」
威嚇するというのか?
単に力自慢をしたいだけなのか?
ミハルは先に攻撃を掛けて来ないチアキを睨むだけで、魔砲を放とうとしない。
いや、放ちたくても放てなかった。
操られていた時に誓約した事を思い出して。
<先に自分から攻撃したら。
却って怪しまれちゃう・・・何かがおかしいと勘ぐられちゃう>
大魔王に操られたままなのだと思い込ませる為にも、ミハルから先制攻撃を掛けては怪しまれると踏んだ。
先のマモルとの戦いでも、自ら攻撃を掛けてはいなかった。
<それにしてもマモル遅いなぁ、早く来てよ。
このままじゃあチアキとにらめっこ続けなくっちゃならないよぉーっ!>
引き攣る顔でチアキを見詰めながら、弟が現れるのを切望したが・・・
「そっちから撃てないというのなら!私から行きますっ!」
剣聖チアキが聖剣を振りかざして向かって来る。
<ぎゃぁっ?!馬鹿馬鹿馬鹿っ!こっちくんな!>
心で舌打ちするミハル。
翳した手にある紅き魔砲弾をチアキに放つかを逡巡して。
「往きます!ミハル分隊長っ、正気に戻ってください!」
聖剣から神の力を宿した蒼き光が迸った。
<こんのぉーっ、馬鹿チンがぁっ!>
攻撃を掛けて来た魔砲少女チアキに対して、ミハルも応射する。
空に、蒼と赤の光が交差した・・・
思わぬ展開に闘う事となってしまったミハル。
オスマン派遣隊での元部下、チアキが待ち受けていたとは。
どうするミハル?
このままでは弟に逢えなくなっちゃうぞ?
次回 EP3 sister and brother<姉弟> Part2
君はおっちょこちょいの娘に構ってる暇はないのだ?
人類に残された時間は・・・アト200時間?!