第7章 永遠に紡がれる物語 Together Forever EP1The Blue Jewel<蒼き珠>Part6
女神バリフィス・・・本当はフェアリア皇女リーン
彼女を知る者が、その名を呼びかける・・・
マモル達フェアリア艦隊が暗黒大陸へと向かっている時・・・
「リーン!漸く時が来たのよ。目覚めなさい!」
大天使ミハエルだった者が誘う・・・目覚めの時だと。
<本当にミハエルさん?殲滅を司る女神じゃなくて?>
身体を起こそうとせず、リーンが眼だけで訊いた。
「そう!今迄の女神じゃなくて、ミハエルに戻ったの。
あの子に目覚めさせて貰ったのよ、私もね!」
疑いの目を向けるリーンに、自分を取り戻せたと言ったが。
<でも・・・私はもう何も信じられなくなっちゃったから。
あなたに大切な者を全て奪われちゃったから・・・ミハルさえも・・・>
リーンは頑なに心を閉ざしたままだった。
今の今迄、ミハリューという女神に苛まれ、グランまでも消滅させた女神の貌を見据えて。
「そう・・・それに関しては言い訳出来ないわ。
あなたにも、ミハルにも。
酷い事をして来た事・・・解っているから。
だけど、今は本当に解き放たれたから・・・此処に居るのよ」
リーンの胸に手を置いたミハエルが謝る。
「この手に触れて御覧なさい。
私が誰なのか、私がどう思っているかが判る筈よ?
神の力を持つ者なら、審判の女神として覚醒したあなたなら・・・」
ミハエルの心が閉ざされたリーンの心に訴えかける。
穢されてしまった者同士、身体を操られていた者同士。
心まで貶められ、大切な者まで穢してしまった過ちを悔う者同士。
「リーン・・・この部屋はね。
ミハルを救う為に用意した特別な部屋なの。
ユピテルの監視から逃れる為に外部からの侵入を遮断してある。
疑われないように替え玉を用意してあるから・・・動いたって大丈夫なの」
ミハエルはリーンの身体を起き上がらせ、自分が図った意図を教える。
「それに此処では大魔王の術も遮断出来ているから。
自由なのよ?身体も心もリーンの意のままに動かしたって良いのよ?」
リーンの眼が輝く。
ミハエルが本当の事を言ってくれているのなら。
<それって・・・本当なの?
支配され続けている身体を動かしても・・・自由に声を出しても良いの?>
そう。
今は心の中だけで喋っていたから。
リーンとして声を出す事も無理だと思っていたから。
「喋ってみたら?
口を動かす事が出来たら・・・信じて貰えるかしら?」
微笑むミハエルの顔に嘘偽りを感じられず・・・
「本当?・・・ほ、本当なのね!」
喋れた・・・操られていない事を身体で知った。
「でも?どうやって?!
あの大魔王にバレはしないの?」
跳び起きたリーンが自分の身体に手を当てながら訊く。
「うん、辛うじて数十分なら。
この部屋に入ってから数十分間はバレないと思う。
今はミハルに懸かり切りになっている筈だから尚の事ね」
ミハエルは身代わりに置いている人形と、生体反応装置を思い出しながら答えた。
「じゃあ、この中に居る間は自由を取り戻せるのね?
自由に思った事や考えた事を話せるんですね?」
リーンの問いに頷いたミハエルが逆に問いかける。
「そうよ、今は。
でも、それより聞きたい事があるの、審判の女神リーンに。
エンブレムに込められていたミハルの秘密を大魔王は知ったの?」
太陽神のエンブレムには、力と共に秘密が込められている事を知っていた。
だから大魔王はリーンを使って真っ先に奪った。
ミハルから抵抗する力を奪い去る為と、
その中に秘められてあるリーンの人としての記憶。
そして女神デザイアが持つとされる<ケラウノス>停止のインストールフォルダ。
その二つを手にしたのかと。
手にしたのならなぜ未だにミハルを使って人類と闘わせる必要があるのかと。
「知ったの・・・奴は。
あのエンブレムに秘められている術の存在を。
あの中に居る者の存在を・・・だからミハルを心まで貶めようと企んでいる。
ミハルによってのみ解除出来る・・・誓約を知ってしまったから」
リーンが立ち上がってミハエルを観る。
「誓約?それは?」
自分に向いたリーンから告げられた事の意味を訊き返す。
「それは・・・エンブレムの中に居る龍の子が護っているから。
唯の龍の子なら、力ずくで奪う事も可能だけど。
あの龍の子は特別なの、ミハルも知っているか判らないけど。
あの子には大魔王に対抗出来る力がある・・・そう言っていたわ大魔王自身が」
咄嗟には意味が解らなかった。
リーンを観つつ考えられる事を整理する。
<つまり、太陽神のエンブレムの中には龍の子が宿っていると。
そして護っている者は唯の龍の子ではない・・・
大魔王にでさえ手出しが難しい程の力を有していると。
龍の子はミハルに因ってのみエンブレムから取り出せる・・・
守護を辞めてエンブレムから取り出せる・・・大魔王の欲する物と共に>
考えられるのは大魔王が未だにミハルを貶めようと試みる事。
身体だけではなく、心までも操ろうとしているという事だ。
ミハエルの考えた事は、おそらく間違いではないであろう。
では、この後自分達が行える方策とは?
「ねぇリーン?ミハルを救い出したくはない?
あのままじゃあミハルはいずれ貶められちゃうかもしれない。
なんとか此処に連れ込んでみせるからリーンがミハルを取り戻してくれないかしら?」
どうやって・・・とは、言わずにいた。
次の機会を狙えるかどうかも今は答えにくかったから。
ミハル自体の心が未だに保てているかどうかさえも分からなかったから。
「ミハエルさん。
ミハルをこの部屋まで連れ込めたとしても。
私の様に自我が残っていなければ?
もし・・・ミハルの心までもが悪魔に魅入られていれば?
私なんかが救えるか・・・」
女神となっても、抗う事も出来ずにいた自分に自信がないのか。
リーンは戸惑ったような顔でミハエルの答えた。
「そこよね?悪魔に魅入られていたとしたら。
ミハルの心が堕ちてしまっていたとすれば・・・
何か自分が誰で、どんな想いを抱いていたのかを思い出させれば。
悪魔と堕ちた者でも救いは差し伸ばされる筈よ?」
思い出せ・・・そんな表情でミハエルはリーンに言った。
大天使ミハエルが教えたかったのは、とある城に宿っていた悪魔の事。
「記憶を取り戻したんじゃなくってリーン。
だとしたら、ミハルを闇から取り戻せた双璧の魔女達の戦いを思い起こしてみなさい。
あのルキフェルとか云う貴族が最期の時どうなったかを」
ミハエルが教える。
嘗てフェアリアで起きた闇との闘いを。
フェアリアに千年もの間、巣食っていた悪魔の事を。
ミハルがルシファーに因って救われたあの時の事を。
「ルキフェル?
ああ、双璧の魔女達が因縁を断ち切った時の事ですね?
悪魔を撃ち滅ぼして・・・滅ぼして?
違う!そうじゃなかった!彼は優しき魂に癒された。
千年の呪いさえも打ち消す程の魂に癒され罪を赦された!
そして悪魔なのに天に召された!」
リーンの記憶が蘇る。
自分の前世と言っていた魔女達の最期の戦いを。
撃ち滅ぼすのではなく、赦しを与えた。
そして悪魔から解放し、天に向かわせられた。
「罪を憎まず・・・赦しを与える事に因って。
悪魔と化した者にも清浄なる心を取り戻させれた・・・伝説の魔女達は」
思い出したリーンが呟くのを聞いていたミハエルが。
「そう。あなたにもその時が来たのよリーン。
女神の今なら尚の事。あなたの力でミハルを救うの」
大天使ミハエルに戻った今、女神となった娘に諭す。
力だけでは何も解決しない・・・人の真理を。
「そうなんですね!私がミハルを救う!
私ならミハルを闇から解放出来る!絶対に!!」
力一杯握り締められた拳に、決意が漲って観えた。
「そう!リーンにしか出来ない事なの。
私はその手伝い位しか出来ないから・・・悲しいけどね」
ミハエルはリーンを羨望の眼差しで観た。
自分が出来るなら助け出してやりたい・・・ずっと迷惑を掛け続けて来たから。
でも・・・と、自分の手を見詰める。
<私の手では救い出せない。血で穢れてしまった私には救い出す権利さえもないの>
殲滅を司る女神として操られていたとはいえ、人類に対し行ってきた所業が罪の意識を苛む。
<もうこれで・・・生まれ変われることも無くなった。
例え生まれ変わっても・・・もう人には生まれ変わる事も無い。
穢れた魂ではきっとあの人も逢ってはくれないだろうし・・・>
悲しかった。
生まれ変わって人となり、ずっと大好きな人と契るのが願いだったのに。
その願いが、虚しく夢に終わろうとしている事が。
「リーンだけなのよ、ミハルを取り戻せれるのは。
他の誰でもない、あなたが大切な人を取り戻すの!」
自分には叶えられなかった夢を、リーンに授けれると思った。
この二人だけには自分と同じ思いをして欲しくなかったから。
「ええ!絶対に救い出します!
ミハルが堕ちていようと、悪魔に染められていたとしても!」
希望に満ちた輝くマリンブルーの瞳を、眩しく感じる大天使だった。
リーンはミハエルが用意した特別な部屋で、その時が訪れるのを待っている。
闇に染められてしまったもう一人の娘を。
女神2人が解放を誓い合って居る時・・・人間達は?
弟マモル達は・・・そして一人の魔砲師がやって来る・・・
魔砲少女チアキ・・・遥々(はるばる)登場?!
なんだか・・・ややこしくなる気配濃厚・・・・Orz
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君は新たなる希望を見つけられるか?いや、損な娘じゃなくってさ・・・
人類に残された時間は少ない 残り15日!