魔鋼騎戦記フェアリア第1章魔鋼騎士 Ep2訓練開始!Act4
そして、次の日。
((キュラキュラキュラ))
キャタピラが砂埃を巻き上げ荒地を噛む。
「軍曹!始まりました!!」
ミリアが装甲牽引車の天蓋に立って、M・M・T-3の動きを双眼鏡で追いながら報告する。
ー ミハル先輩、砲の旋回が上手くいけばいいですね・・・
ミリアが双眼鏡の倍率を上げて、砲塔を注視する。
双眼鏡の中に砲塔がアップに映る。
その中では、
「これより走行、砲撃訓練に移る。
昨日より秒時を短縮させるのが目標だ。解ったか?!」
リーン少尉が命令を下す。
「了ー解!」
全員がマイクロフォンを押えて、返答した。
ー さあ、何秒縮める事が出来るか。実戦のつもりで掛かろう・・・
ミハルは拳に填めたグローブを締め直して無線手席を見ると、
曹長を見ていたキャミーがミハルの視線に気付き、にやっと笑いかけて来た。
その笑顔に、笑顔を返して頷く。
「よーし、戦闘訓練。前方1500メートルの窪地に前進、急停車。
停車後射撃訓練。・・かかれっ!」
リーン少尉の号令で、ラミルが発進させる。
相変わらず荒地を走ると車体が酷く跳ねる。
ー サスペンションの問題か、それとも車体幅、キャタピラ幅の問題か解らないけど。
これでは走行射撃は無理ね、よっぽど相手が大きいなら当てられるだろうけど
ミハルはブルワークの腰掛に浅く座りながら思った。
「目標点、到達!」
ラミルがギアを変えて停車させる。
「砲戦!左舷後方8時!敵戦車。徹甲弾装填!」
車長のリーン少尉が命令を下す。
昨日と違い、実戦さながらの訓令だった。
ミハルはブルワーク下部の砲弾ラックから徹甲弾を取り出し急いで装填し天井の安全ボタンを押して、
ー さあ、補助ハンドルを!
ハンドルを廻しながら砲手側を見ると、曹長も廻してくれている。
ー 良かった。キャミーさんがちゃんと、伝えてくれたんだ!
そう思って車長席を見上げると、
ー ええっ!?少尉も?廻してくれている!
リーン少尉も車長席で、旋回ハンドルを廻しているのが見えた。
「砲撃準備完了!」
曹長の声がヘッドフォンから聞こえてくる。
「よし、3.5秒。方向から考えて、上出来だ。この調子でいくぞ!」
リーン少尉が、上機嫌で言う。
ー 良かった。方位角から考えて、3.5秒で準備出来るなんて、やれば出来るもんなんだな
「気を抜くなよ。事故の元だぞ!」
曹長が注意をする。
ー そうだ、集中しなきゃ。気を抜くと、事故の元だから・・・
ミハルは気を引き締める為、グローブをパンっと、叩いた。
それから1時間、砲向訓練は終了した。
「砲向訓練を終了します。皆、小休止!」
リーン少尉がキューポラから身を乗り出して、帽子を脱ぎながら達した。
「ふう、両手がカチカチになっちゃった!」
ミハルが、グローブを外しながら一息入れていると。
「おい、ミハル。ちょっと代われよ」
バスクッチ曹長が、砲手席から手招きをして呼ぶ。
「え?代われって・・。砲手をですか?」
ミハルが驚いて、聞き返すと、
「ああ、砲手席に着け!」
そう言って、砲手用ハッチから外に出る。
ミハルは慌てて、装填手用の側面ハッチから外へ出て曹長に、
「あの、・・私が何故砲手席に?」
「ん?これも訓練だよ。
もし、オレが撃てなくなった時の為にな。
砲手経験の有るお前が適任なのだから、当然だろ?」
バスクッチ曹長はさも当然といった風に、さらりと言って装填手用のハッチから中に入ってしまった。
「あ、あの。えっと・・・」
どうして良いか解らず、戸惑っていると、
「早く、席に着きなさい。ミハル!」
髪を手串で伸ばしていたリーン少尉が、優しい瞳でミハルを見て言った。
「あ、はい。了解です」
ミハルは砲手ハッチから中へ入り、砲手席に着く。
「いいか、ミハル。こいつの扱い方は解るか?」
曹長が照準器を指して訊いてくる。
「あ、はい。大体の処は」
「よし。こいつの特徴は8倍まで拡大出来るのが他の砲の照準器との大きな違いだ。
それに伴って自動的に照準点も集約される」
「は、はい!」
曹長の説明に照準鏡に目を合わせ、左側の望遠切替スイッチを最大にしてみると、
1800メートル先の草原が手に取る様に見えた。
「照準点は十字。砲の上下角はA字で表されている。
停止目標については、十字とA点を重ねれば当たる。
だが、動目標については照準点下に表示されている目盛で調節してやらねば当たらない。
その1目盛が1シュトリッヒ。
倍率によって実メートルは変わるが、2~5メートルの間を意味する。
これは砲術訓練で教わっただろ?」
曹長の問い掛けに、
「あ、はい。教わりました」
ミハルは即答し、逆に訊く。
「あの、この砲はどれ位低伸するのですか?偏差だけでなく、上下角も必要かと思いますが?」
「はははっ、さすが砲術科の特技章付だな。
この砲は、良く伸びるよ。
最大射程ならいざしらず、有効射程である2000メートル位迄なら、
直接照準だけでいいんだ・・・特に魔鋼弾ならな」
ー えっ?魔鋼弾!?それって、この車体は!
「まっ、魔鋼弾が撃てるって事は、
この陸戦騎、戦車は魔鋼騎なのですか?じゃあ、誰が魔女なのですか?」
「ん?ああ。誰も言わなかったか。すまんすまん」
曹長がミハルに告げる。
「この小隊の隊長さ。リーン少尉だよ、魔力を持つ人は!」
ラミルがヘッドフォンを通じて話す。
「悪い悪い。言ってなかったっけ?」
キャミーの笑い声も流れる。
「あ、う。皆さん、どうしてそんな重要な事を言ってくれなかったのですぅ?」
ミハルは涙目で訴える。
「いやー、つい・・。言いそびれちまってさあ」
キャミーがにひひっと、悪戯っぽい声で話す。
「でもさ、ミハル。
少尉に対して魔女は無いと思うぞ。
魔法少女とか、魔法使いとか。そう言う風に言わないとな!」
ラミルが言葉使いを注意する。
「あ、そうですね。言い直します。魔法少女のリーン少尉」
その時、砲手側側面ハッチから金髪のリーン少尉がミハルに、
「別にいいわよ、魔女で。
魔法力があるのは事実だから。それに少女って歳でもないから。てへ!」
舌を出してミハルに笑顔を振りまいて、
「そー言う事。本当の魔鋼騎へようこそ。ミハルさん!」
そう言って右手を差し出す少尉にどぎまぎして。
ー ああ、この人の笑顔。
綺麗で優しくて、何時までも見ていたい。
私はこの人に憧れている。好きになっている・・・
そっと右手で握り返して、
「お、お願いします。リーン・マーガネット少尉!」
赤い顔をして頭を下げた。
漸くミハルは、この試作戦車が並みの戦車では無い事を知る。
この国の呼び名、陸戦騎では無く、魔鋼騎。
つまり魔法の力を持つ者だけがその威力を発揮する事が出来る魔法戦車。
そして、ミハルが着任して1週間が経ったある日の事だった・・・
次回 魔鋼騎戦記フェアリア
第1章魔鋼騎士 Ep3訓練!あの戦車を撃て!
君は生き残る事が出来るか?!





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