第7章 永遠に紡がれる物語 Together Forever EP1The Blue Jewel<蒼き珠> Part3
悪魔ミハルの手が弟へと向けられる時・・・
現れるのは白き魔法衣・・・マモル遂に?!
黒い魔法衣を着ているとは謂えど。
髪の色も眼の色さえもが変わってしまっているにせよ。
その娘は間違いなく自分の知っている女神だと思った。
だから・・・
「ミハルぅっ!よう戻って来てくれた!よう帰って来た!」
状況からみても、姿をみても。
普通ではないというのに、ミハルだと思い込んだ。
それは見間違いというのではなく、ホマレが抱いた希望だった。
飛び上がって近づくホマレに気が付いた時には。
「いけない!中島3尉!」
悪魔ミハルの光弾が、不意に近づいたホマレに放たれてしまった。
紅き光弾がホマレに向かう。
悪魔と化したミハルの手で、友に向かって魔砲が撃ち込まれた。
「危ない中島3尉!避けてっ!」
マモルの叫びがホマレへと届く前に・・・
「うわっ!」
ホマレが間一髪で・・・いや。
「な・・・んでや?!ミハル・・・」
避けた・・・筈だった。
だが、ミハルの砲撃能力は悪魔になっても健在だった。
避けるのを見越してなのか、僅かに避けれた筈の光弾は腕を掠めていた。
普通の魔砲師ならば、それだけでも致命傷となっていたかもしれない。
空戦技術も、魔砲の力も格段に上であるホマレでも、ミハルの射撃には敵わなかった。
「中島さんっ!」
傷付いたホマレを呼ぶマモル。
手を下したミハルが、更なる紅き弾を現わしたのを見詰めるホマレ。
「なんで?なんでやねん・・・ミハル?」
腕を傷付けられたホマレが闘う意思が無いとばかりに機銃を消し、
悲し気な声でミハルの名を呼びながら手を指し伸ばす。
敵意が無い事を示された悪魔ミハルが、ホマレから眼を逸らして。
「邪魔をするのならば容赦はしない。
傷を負ったお前に用はない・・・失せるがよい」
歯向かう者を探すかのように海上を見下ろす。
「ミハル・・・どうしたんや?なぜそんな悲しい瞳をするんや?
ウチの事が赦せへんのやったら・・・殺してくれても構わへんのやで?」
腕を押さえたホマレが近づき、ポケットから紅いリボンを取り出す。
「これ・・・返さなあかんやろ?
ミハルから預かっていた大事なリボン・・・ミハルの・・・モンやったろ?」
差し出されたリボンに振り向きもしない悪魔ミハル。
掛けられた言葉に耳もかさない目の前に居る娘。
「なぁ・・・ミハル。
ウチの事覚えておらへんのか?記憶を失くしてしもうたんか?
せやったら・・・ウチが思い出させてやるさかいに・・・」
近付くホマレに澱んだ眼が向けられる。
近付く人間を・・・傍に寄られる事を許さない悪魔の眼が。
「?!・・・まさか・・・その眼は?!
ミハルっ?ミハルなんやな!その涙・・・ウチの事を覚えてくれているんやな!」
悪魔ミハルの眼に浮かんだ涙を観てしまったホマレが更に近づこうとした。
ミハルだと信じ、思い出してくれたのだと踏んで。
・・・だが。
悪魔ミハルの手が、ホマレに向けられる。
紅き光弾を翳したまま・・・
「辞めるんだ姉さん!その人は闘おうとはしていないんだ!」
思わず手を差し出し、二人の間に割って入ろうとした。
躊躇いも無く身を挺し、辞めさせようとデバイスに力を込めてしまった。
悪魔ミハルの口元が歪んだ。
自分に向けていた紅き目に浮かんだ涙をそのままにして。
翳していた光弾を振り向き様デバイスを持った少年目掛けて放った。
「あっ?!ミハル!」
自分に翳していた紅き光弾が振り向き様放たれた。
声をあげる間も無く、光弾がマモルへ飛ぶ・・・ミハルの弟へと。
紅き弾が一直線にマモルへ飛ぶ。
避ける余裕などは無い距離で・・・
悪魔ミハルの口元が余裕の笑みを見せる・・・邪に歪んだ笑みを。
それは人を殺めるのも何も感じない悪魔の笑み。
唯・・・瞳だけは違った。
大きく見開いた瞳の中で観ている娘は違うのだった。
<嫌ぁーっ!ホマレさんっマモルっ!逃げてっ私から逃げてぇっ!>
身体を乗っ取られても、心はミハルのまま。
最悪の展開をみせる空で、虚しい叫びだったのか・・・
まさか、本当に友を撃ち・・・弟までも手に掛けようとしている状況に。
<ああ・・・やっぱり。
私・・・死んでしまいたい・・・こんな事になるのなら死んでしまえばよかった>
紅き瞳に映る惨劇が、心までも闇に染めて行こうとしていた。
微かに残されていた希望が、まるで砂山の様に砕け崩壊していく様を感じて。
<マモルにもしもの事があったら。
ホーさんにだけでなくマモルにまでも傷を負わせる事になるのなら・・・
私はもう・・・生きていたくない・・・いっそこのまま闇に染められて・・・
誰かに消滅させて貰いたい・・・悪魔ミハルとして。
討伐して貰いたい・・・誰かに>
瞳を閉じる事さえも出来ず、目前の出来事を甘受させられ続けるミハルの心が闇に染められていく。
<ホーさんを撃った時にさえ、心が張り裂けそうになったのに。
今はマモルにまでも撃ってしまった。
どうか避けて・・・私に最期のチャンスを与えて・・・マモル>
紅き弾がマモルと重なる。
紅き光が弾け飛ぶ。
<ああっ?!マモルっ、どうして避けなかったの?!>
気が遠くなりそうだった。
心を閉じてしまいそうになる・・・観てしまった現実に。
空を紅き光が染めた。
それは爆光と言える程の眩き光。
それは自分が放ってしまった悪魔の力。
目の前で起きた光が、ミハルの希望までも霞めてしまう。
「ミハルっ!辞めるんや、弟なんやで?!
あの子なんやで?マモル君なんやで!」
声を限りにホマレが叫ぶ。
耳に届く叫び・・・言われるまでも無い。
<ああ・・・ホーさん。
私・・・堕ちる・・・貶められちゃうの。
だから・・・手遅れになる前に・・・滅ばせて・・・お願い>
マモルを打ち倒したと思ったのか、操る者がホマレに向かせる。
<嫌・・・嫌だ・・・もう嫌。
これ以上苦しめないで。これ以上貶めないで・・・>
また手の中に紅き弾が現れ、負傷したホマレに翳そうとした。
ミハルの心は薄澱まされ、闇を享受しそうになっていた。
「ミハル・・・姉。ちょっと・・・酷いんじゃない?」
一瞬で心が晴れ渡る。
その声で闇が祓われる。
<マモル!無事だったのね!>
振り返りたい・・・弟の顔を観たくて。
「さすがに直撃だと堪えるけど・・・僕も普通じゃ倒せないんだよ?」
悪魔ミハルの顔が酷く歪んだ。
瞳だけは大きく見開き弟の姿に驚喜したが。
白い魔法衣・・・蒼き髪。
そして翳された蒼きブレスレット・・・
<あ・・・あああっ?!マモル?!あなたは本当にマモルなの?
私の弟の・・・あの優しい子。
可愛い私の・・・私だけの弟なの?!>
揺れる蒼き髪。
涼し気に輝く蒼き瞳。
白い魔法衣に蒼いブレスレットが輝く・・・眩いばかりの聖魔砲師姿。
<そうだったよね?マモルも魔砲師だもんね。
こんなに凛々しく、カッコよくなっちゃって・・・>
悪魔ミハルの中で、心が弾んだ。
澱んだ姿の中で、姉の心が感謝した・・・天に。
<ああ・・・嬉しいな。
マモルがこんなに強くなってくれていて。
きっとマモルなら・・・私を倒してくれる。
悪魔となって人を滅ぼそうとしている私を消し去ってくれる・・・>
瞳の中でミハルは手を指し伸ばす。
自らを消して欲しいのだと。
弟に滅ぼされるのなら、何も怖くない。
大好きな弟に消し去られるのなら・・・本望なのだと。
「貴様・・・私の弾を受けた筈だが?
なぜ無傷なのだ?なぜそんな軽口を言えるのだ?」
悪魔ミハルが少年に向けて言い放つ。
明らかに動揺したような口ぶりで。
自分に敵う者など、人間風情にいる筈が無いと。
「そっか・・・ミハル姉は知らないんだったよね。
僕にも力があるって事に・・・お母さんから教わった力がある事に」
マモルが手にしていた機銃を槍に変換する。
「ミハル姉。この槍の事覚えてる?
ミコトさんから授かっていた神の槍・・・使えるのは継承者だけ。
この力を使えるのは僕・・・そしてもう一人の継承者だけ」
手にした槍をミハルへと突き出す。
「神の槍・・・そして。
この神の盾・・・二つの神器を今は僕が与えられているんだよ?」
突き出した右手に填められた蒼きブレスレット。
神の槍と神の盾・・・二つの力が合さって輝きを倍増させていた。
「ミハル姉が闇に堕ちたというのなら・・・連れ戻す!
ミハルが助けを求めるのなら・・・助け出す!この僕が!」
蒼き清浄なる瞳が闇を睨む。
弟が睨むのは、邪なる姿の悪魔。
<なんて・・・強くなったんだろう。
あんなにお姉ちゃんっ子だったマモルが・・・こんなに男の子になってるなんて。
物凄い力を感じる・・・私以上に強い・・・清らかな力を!>
感極まる心。
弟の成長・・・いや、男らしさに心が揺れる。
<でも・・・助けて欲しい。
もう身体は闇に堕ちているの・・・だから。
心まで貶められる前に・・・滅ぼしてね?
マモルに倒して貰えるのなら、滅ぼしてくれるのなら・・・死んでもいいの!>
紅い瞳の中で。
ミハルは弟に手を差し出す・・・招くように。
悪魔ミハルとして・・・滅ぼして欲しいのだと。
姉としてではなく・・・邪なる悪魔に消滅の時を与えて欲しいのだと・・・
「お前・・・この殲滅の女神デザイアに歯向かえるとでも思っているのか?
小賢しい人間よ・・・我に歯向かうというのなら。
その身に受けてみるが良い、神が絶対である証を・・・」
悪魔ミハルの手が掲げられる。
巨大な闇の波動を表し、巨大な紅き光弾を頭上に描いて・・・
白い魔法衣姿と化した弟!
その力は女神の一撃にも屈しなかった!!
強いぞ弟!!
さぁ、戦いの鐘がなったぞ!
次回 永遠に紡がれる物語 Together Forever EP1The Blue Jewel<蒼き珠> Part4
君は弟の成長に歓喜した!そして自分を助けてくれると確信するのだったが・・・
人類に残された時間は少ない・・・人類消滅まで・・・残り18日!!