第7章 永遠に紡がれる物語 Together Forever EP1The Blue Jewel<蒼き珠> Part1
世界は終末を迎えようとしていた・・・
人類の生存は神に因って絶たれようとしている。
それが繰り返されて来た運命だと言わんばかりに。
人類の文明は再び閉じられようとしている。
全能の神ユピテルを名乗る者に因って・・・
人類は神に抗う。
生きる為に・・・そう。
人類が希求するのは、人たる者の<真理>・・・
誰しもが願う<理>・・・それは生きる希望を描く事。
生き残り子孫を残す・・・生者の願い。
「「あの子は・・・堕ちてしまったのね・・・」」
モニターに映る人影は、黒雲を纏ったように闇の者の姿を魅せて居る。
「まだ、そうと決まった訳ではないよ、ミユキ」
機械に魂を宿らせた者と、艦橋で指揮を執る艦長が交わす。
「「あなた・・・こうなる事は。
ミハルが捕らえられてしまったと分かった時に心していた筈。
あの子の中に秘められた希望は、闇に覆われてしまった・・・」」
ミユキの声が覚悟していたと告げる。
「「闇に覆われた光を取り戻す事が無理なら。
闇を撃ち祓わねばならない・・・それが私の務めだった。
神官巫女の家系を継いだ私の務め。
陰陽師阿倍晴明の名の下に闇の者を祓わねばならない・・・」」
古来から脈々と引き継がれた討伐者の家系。
陰陽師直系に産まれたミユキの言葉が夫たる島田誠の心に刺さる。
「それが君と私の間で交された誓いだったね。
あの子を宿した君が最初に教えてくれた・・・
聖箱の中に宿りし者が知らせたという御子の存在。
千年周期で断罪させられる世界を。
終えられる事の出来る・・・御子が宿ったと」
18年前。
日の本皇国は東亜の中で戦乱に明け暮れていた。
島々の覇権を奪い合い、遠く南洋の島々迄攻め込んでいた。
東洋のちっぽけな国が支配領を増やしていくのを苦々しく思った強国は、
日の本が攻め込むのを阻止する為に戦端を開いた。
それは当時の帝国主義が横行する世界の中で、覇権を争う支配国同志の戦い。
列強の一つであった、エギレス王国との一戦だった。
ガポールに攻め入った日の本皇国の前に立ち塞がるのは、
当時最強の要塞として知られたマギカライン。
戦車師団と要塞に護られたガポールに立てこもるエギレス軍に、
日の本皇国は苦戦を余儀なくされていた。
半月もの膠着状態を終わらせたのは、機甲部隊であった。
エギレスではなく、日の本陸軍の<魔女支隊>に因って。
その当時、魔砲の力についての研究がどの国よりも進んでいた日の本に因って。
全ては神の啓示から。
戦争に応用したのは人の業・・・
神から与えられた力を戦争の道具としたのは人類の不幸を招いた。
折角神から贈られた力だったのに、人類は誤った選択をしてしまった。
人を幸せにするはずだった魔法の力は、人を邪なる者と化してしまった。
魔砲の力は戦争を引き起こす。
魔砲で人を殺める・・・誤った使い方をしてしまった。
神々は人類を見限った。
神々は人の子に希望を与えなくなった。
いずれまた・・・人は自らの手で滅んでいくであろうと。
だが、神の中で従わない者もいた。
人が何時かは誤りに気付けるだろう、いつかは真の平和を手に出来るであろうと。
主神たる者に反旗を翻す神の中で、堕神と呼ばれる者が現れる。
堕神は神々と争い、敗れ人の世に貶められた。
神に抗うのではなく、人を貶める者として。
闇に住まう者の主として、人の世に下った。
人は彼らの事を悪魔と呼び、忌み嫌った。
その闇の住人を撃ち祓う者が彼の地に存在した。
神にも等しい魔力を放てる、陰陽師と呼ばれた魔砲を放てる聖者が居た。
土御門一門の中で、神の御子と呼ばれた者の直系がミユキだった。
千年に一度生まれるかどうかと謂われるほどの強い魔力を備え、
国家に召しだされたミユキは、嫌々ながらも戦車で闘う事になった。
新たに発明された<魔鋼機械>に因って造られた部隊。
列強の戦車隊に勝るべく、
新設された戦車部隊に配属されたミユキは魂を穢されながらも戦争を生き抜いた。
戦争は膠着状態となり、帰還が赦されたミユキに待っていたものは。
皇家に謁見を賜るという名誉だった。
実働戦車部隊の副隊長で、撃破王のミユキに感状を贈られる時。
ミユキは戦争の悲劇と無意味さを言上した。
戦争に魔砲の力を使う事へ異を呈し、停戦を勧めたのだった。
その当時、近衛師団技術官であったマコトと出逢ったのもこの時の事だった。
魔鋼の力に異議を呈していたマコト。
魔砲の力をより良き未来へ使うべきだと進言するミユキ。
2人が惹かれ合うのにも時間はかからなかった。
やがて二人は恋に落ち、一人の女の子を授かる事になる。
島田姓を名乗る様になったミユキに、初めて授かった子。
その娘の名を選ぶ時、ミユキの中に宿った者が初めて己の意味を教えた。
<<MIHARUと呼ばれる仲裁者。月の住人にして2番目の希望>>
二番目と言わしめたのは、もう一人の存在があったから。
<<私は2番目。初めに来た筈の弟と交わした約束を果たす為に降りて来た者>>
ミユキに告げるMIHARUと名乗った月の住人が教えた。
自分は2番目で、初めに降りた者との約束を果たすのだという。
母となるミユキは自分の子に宿る者に訊ねる。
あなた達の目的はなんなのだと。
姉弟が交わした約束とは何が目的なのかと。
<<世界の終末を停める事。人類に残された時間は残り少ない・・・
あなたの娘が年頃になる前に終わりの刻がやってくる。
人類全てが消滅させられる・・・悪魔の如き兵器に因って。
私と弟はその刻を停める為に今此処に居る・・・筈だった。
弟は前の千年周期では現れなかった。
どこかで眠ったまま、時を越えてしまった。
だから私が降りた・・・弟の替わりを務める為。
弟を探し出して、共に月へと帰る為に・・・>>
ミユキの中に宿った命。
その子に宿命を背負わされるのは自分が強い魔力を宿している為だと嘆いた。
神官巫女でもある自分ではなく、産まれ出る子に宿るという。
出来る事なら替ってやりたいと願う。
出来る事なら成就させたいと想う。
<<私の名を名乗る娘は<運命を背負いし者>となる。
ミハルと呼ばれる娘に授けるのは運命だけではない。
類い稀なる力・・・その力の在処は・・・これに>>
宿る者が差し出すのは蒼き玉。
魔力が納められた蒼き玉・・・
<<この中に納められてあるのは魔砲の力。
神と呼ばれる者と等しき・・・いいえ。
この世界には本当の神などは存在しない。
在るのは虚構の神、神と名乗る機械が支配するまやかしの世界。
この偽りの世界で神に立ち向かえる力がその中に納められてある。
蒼き玉は虚構を砕く。蒼き玉は人を解き放てる。
あなたの娘は希望と為れる筈、誤らねば・・・>>
蒼き玉を贈られたミユキが訊き返す。
最期に告げられた言葉の意味を。
<<誤れば、このMIHARUに因って世界は再び<無>に帰す。
闇に染められれば二度と解放の時は訪れない・・・
月の住人にも、この世界に生きる者達にも>>
それはMIHARUが最期の使者なのだという意味。
ミハルが闇に染まれば最早、世界は消滅から逃れられない。
人類にとっての最後の賭けなのだという事。
ミユキは身籠った子を産んだ。
娘に与えられた名は<美春>といった。
蒼き玉はミユキがその時まで預かる事にし、知らされた時局が訪れるのを待った。
日の本皇国に平和が訪れたのはミユキがもう一人の子を授かった・・・二年後の春であった。
「「あなた・・・ミハルは闇に染められた。
では、蒼き玉は誰が使えるのでしょうか?」」
悲し気に娘を想うミユキが訊ねる。
「ミハルにしか出来ないというのなら。
あの娘が闇に染められたというのなら。
始まりの子に託すしかないだろう・・・弟に」
マコトが機械に答える。
「蒼き玉は娘にだけ贈られた。
もう一人の仲裁者が使えるかも判らない・・・
だが、もう一人の聖者ならば、姉を取り戻す事も出来るだろう」
答えたマコトが空を見上げる。
そこに居る一人の子を観て。
そこに現れた闇の女神を見詰める息子を見上げて。
「だからミユキ、絶望はまだ早い。
希望は失われた訳では無い、手の届く距離に留まってくれているのだから」
白い魔法衣を纏う少年は、黒き魔法衣姿を見詰める。
澱んだ紅き瞳の中に、微かな光を見出そうとして。
マモルは姉と対峙する。
蒼き魔法石に願いを託して・・・
黒雲の中から現れ出る姿・・・
闇のベールを纏い・・・
紅き澱んだ瞳に何を映すというのか?
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君は愛しき人に何を思うのか?何を願うというのか?
人類滅亡まで残り19日!最期の時は近い!