第6章 終わる世界 EP10 End Of The World<終わる世界に>Part4
捕えられているミハルの前で・・・
ミハリューの記憶が蘇る!
戒めから解き放たれるミハエル・・・それが本当の自分なのだと教えられた。
遂に・・・
遂に解放の時が訪れた。
全能の神を名乗る者に因って穢された戒めが。
((パキンッ))
胸に着けられていた紅き玉が消え去る。
それは闇に呑まれていた記憶の解放をも意味している。
<あ・・・あああっ?!私・・・今迄どうして?!
今迄なぜ人に・・・罪もない人に・・・なんて事をしてきたの?!>
思い出せた記憶と、殲滅の神として行った所業が交差する。
<ミハエルさんは何も悪くないよ。だって・・・
大魔王に誑かされていたんだもん。
私も貶められそうになっているから・・・解るんだ>
ミハルの声に今一度姿を観る。
緑色の液体に穢された身体・・・そして。
<ミハル・・・今助けるからね!奴を倒してやろう!>
大魔王との闘いを勧めるミハエルに、悲しそうな声が返って来る。
<駄目。今は闘っても勝てないんだよ。
今二人で闘っても返り討ちに遭う事になるんだよ?
太陽神の力でも太刀打ち出来なかったの。
そして今は・・・リーンの手に奪われているの・・・力が>
悲し気に答えるミハル。
答えられた意味を知る為、そっとバリフィスを横目で見るミハエル。
<あのエンブレムを奪われちゃった・・・
太陽神<理を司る者>の証を。
だから今は闘う事も出来ないの・・・あの中に居る子にも。
身勝手に戦ってしまえば、私の秘密もリーンの記憶さえも奪われてしまう事になるから>
ミハエルの眼に、バリフィス(リーン)の肩口に着けられたエンブレムが映り込む。
<あれを奪われちゃったから。
私は戦えなくなっちゃったの。アレを奪われる時に知っちゃったから・・・
リーンの心を・・・操られているリーンが泣いているのを知ったから>
振り返りミハルを観る。
狂ったような振りをしながらも、必死に抵抗しようとする心を知った。
我が身を捨ててまでも大切な者を護ろうとする気高き心を。
<ミハル・・・じゃあいつまで?
いつまでこうやっている気なのよ?!>
助けたい気持ちが先走りそうになるのを堪えて訊く。
<・・・解らない。
私にも判らないけど・・・きっと。
きっと新たな希望が来てくれる・・・そう想うの。
だから・・・どれだけ虐められても我慢するよ。
私を貶めなければ、あの光線は発射出来ない筈だもん。
この世界を護れるのなら・・・抗い続けるから・・・>
ミハエルは気が付く。
答えたミハルの眼には、微かに光が宿っている事を。
綺麗だった蒼き瞳が赤く汚され、光も差さない牢獄で拷問を受けているというのに。
<ミハル・・・あなたは?
あなたは何を望むの?そんなに苦しめられても・・・
何が望みでそこまで頑張れるのよ?>
<・・・約束だから・・・リーンを救い出すのが。
二人でまた明るい未来へ歩めるのが望み・・・それだけが望みなの>
二人の中にあるのは・・・
<そうか・・・約束なんだ。
その望み・・・叶えなくっちゃいけないよミハルは。
私みたいに薄汚される前に・・・穢される前に・・・>
ミハエルは思う。
もう・・・自分は人へ生まれ変われる事も無いと。
穢された心はあの人に逢える資格を喪わされてしまったのだと。
だとすれば。
自分が執るべき道は・・・
<ミハル!私がリーンとあなたを救い出す!必ず救い出してみせるから。
もう少しだけ・・・チャンスが来る迄辛抱して!
ユピテルの監視を遮断する方法を考え着いたら、
直ぐに助けに戻るわ、だから・・・堕ちないで!>
自分が消されてしまおうと、二人を必ず救い出してみせると誓うのだった。
<うん・・・私も頑張るからね。
新たな希望が現れてくれるのを待ってるから・・・>
二人の心が通い合う。
助けるべき大切な人を想う二人が。
ミハルがリーンに振り向き、願う様にミハエルの心に言った時。
「休憩時間はこれまでよ!ミハリューはそこからお退きなさい。
デザイアにもっと遊ばして貰うんだから・・・」
バリフィスの癇に障るような声が掛けられる。
「バリフィス・・・遊ぶって?
もうこれ以上の責めは必要ないんじゃないの?」
辞めさせたかった。
これ以上の責めは観ておられなかったから。
「あらぁ?ミハリューともあろう者が言うセリフとも思えない。
私の玩具にどうしようが勝手でしょ?
壊さない程度の責めなら良いって仰られているんだから」
モニターを見上げたバリフィスが嘲笑う。
その悪意に満ちた顔とは裏腹に、瞳は霞んでいるように観えた。
<リーン・・・あなたも。
あなたも泣いているんだね・・・悔しいでしょうに。
悲しいでしょうに・・・可哀想に・・・二人共・・・>
ミハエルはミハルとリーンの心を想った。
そして今直ぐに助ける事が叶わない自分の無力さに口惜しさが滲む。
モニターを睨んでバリフィスに場所を譲ったミハエルの耳に、
嘲るバリフィスの言葉が突き刺さる。
「デザイア!いつまでワァームに縋っているのよ!
今度の遊び友達がお待ちかねなんだからね!」
瞳を紅く染められたミハルに命じ、闇の中を指差す。
「さっさとこっちにおいで!
今度のお相手達は待たされるのが大っ嫌いなんだから。
どんなに赦しを乞うても満足するまで放してくれなくなっちゃうわよ?」
闇の中に蠢いている者が観えてくる。
「うっ?!まさか・・・まさかそんな数で?!
やめなさいバリフィス!そんな数のスライムをどうやったら満足させられると思うのよ!」
色とりどりのジェル状の魔物が這い進んで来る。
スライムがどんな責めをするのかを考えただけで顔が蒼くなるのは。
<私にも経験があるわ。
ルシファーに出会う前に闇の中で襲われた事があるから・・・
あの時は・・・天使の魂だったから。
闇の中での話だから・・・死んでも蘇られた。
そう・・・何度も殺されたのよ・・・スライムに。
たった一匹のスライムでも・・・無限に責められて>
魔物は獲物へと這い寄る。
今の自分の魔力なら、一撃で葬り去れる・・・ミハエルは魔物へ睨む。
だが、獲物とされる娘は微かに首を振る。
構わずに行ってくれと。
固く握った手が震える。
助ける事が出来る筈の娘に、何も出来ない事が悔しくて。
「あら?まだ居たのミハリュー。
私の遊びに付き合うの?それなら居てもいいけど?」
見下したような声がバリフィスを名乗る者から流れ出す。
「くっ?!帰るわよ!帰ればいいんでしょ!」
振り返り門の方に歩き出す時、横目でミハルを観た。
さっきまで狂ったように笑っていた顔には恐怖と絶望が滲んでいる。
誤魔化しようがない恐怖の顔と、虚ろな悲しき表情が。
<ミハル・・・赦して!>
一刻も早く助け出す事を心で誓い、門を後にする時に耳と心が裂けそうになった。
ミハルの恐怖と絶望の声を耳にしてしまったから。
門が閉じるまでの間、絶望の叫びがやがて苦痛の呻きとなり・・・
((ガチャンっ))
扉が閉じると、泣き叫ぶ声も途絶えた・・・
____________
急降下途中の敵機が爆発して消えた。
上空で待機している攻撃機がたちどころに消え去る・・・黒煙を残しただけで。
「敵機撃墜?!どこから?」
見張り員の眼にも、状況が把握できてはいなかった。
電探室からも報告は来ていなかった。
「<金剛>からか?駆逐艦からか?」
対空砲火でも放ったのかと思った砲術長が報告を求めるが。
「いいや・・・そうじゃない。これは魔鋼の弾が成し得る技だ」
ミノリは瞬間に後ろを振り返る。
遠く離れた所から放たれた・・・魔砲の弾を感じて。
((シュンッ))
蒼き弾が遥か敵艦隊に飛んで往った。
数十キロ離れた前方に火花と水柱が立ち上る。
((ドッドォーンッ))
一瞬遅れて遠雷のような飛翔音が轟いた。
迫り来る敵艦隊が明らかに動揺を見せ始めた。
たったの3隻と思って侮っていたのか、攻撃を受けた事に動揺する。
「この距離で?
しかも命中しているぞ?!」
<薩摩>直掩隊の生き残り、ホマレ3尉が立ち上った黒煙を観て叫んだ。
上空から観た水平線に、ゴマ粒のような艦隊が現れ出た。
そこから発射された弾が第3艦隊を通り越して、敵艦隊に届いたのだ。
「それに・・・アイツは?誰なんやろか?」
ホマレの眼に入って来るのは白き魔法衣。
「まるで・・・ミハルが帰って来てくれたみたいや」
蒼髪を靡かせ、金色の魔法陣で翔ぶ魔砲師姿。
「あれで髪が長かったら・・・ミハルなんやろーけど」
遠くで良くは観えないが。
「ホンマに・・・ミハルかと思うたわ!」
その人は、ホマレに気が付いているのか手を軽く振って合図を送って来る。
「よう来てくれたわ・・・ホンマ。
流石やな・・・ミハルの弟!」
白い魔法衣を着た少年はデバイス槍を片手に、空を征く。
危機に陥った友を救うべく。
偉大な魔女の魂を宿すとされる蒼き魔法石を右手に填めて・・・・
抗い続けるミハルに、助けが来るのは何時の事か?
戦闘は激しさを増す。
闘う仲間が集いつつある時・・・
ミハルに襲い掛かるのは・・・闇
次回 終わる世界 EP10 End Of The World<終わる世界に>Part5
君は闘い続ける・・・必ず助けに行くと誓って・・・・
人類消滅まで ・・・ アト 25日!