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魔鋼騎戦記フェアリア  作者: さば・ノーブ
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第6章 終わる世界 EP10 End Of The World<終わる世界に>Part3

囚われたミハルに加えられる責め。

闇に貶められてしまうのか?


闘う仲間達は無事を祈るのだが・・・

呼びかけられた自分の名前。

耳に届いた声に、微かに保った心が気付く。


<今の・・・声は・・・ミハエルさん・・・>


ミハルの瞳に僅かな光が戻った。


身体全体が燃える様に熱く感じる。

少しの衝撃でも狂おしいまでの快感が苛む。

身動きするだけでも頭の中が快感に支配されそうになる。


倒れ込んだままの姿勢から起き上がるだけで、頭の芯が真っ白になりそうなる。

だが・・・


<ばれないように・・・しなきゃ・・・>


身体中の感覚が麻痺しているのを押し殺し・・・ワザと狂った様に嗤ってみせる。


「うっ・・・うふふっ・・・あはははっ!」


快感に支配されそうになる心を奮い立たせてミハルは起き上がった。


「「ほほぅ・・・まだ起き上がるだけの気力が残っていたか」」


モニターの影が半ば呆れたように呟く。

ふらふらと起き上がる娘の身体から緑色のジェルがしたたり落ちていく。

全身を魔汁に染められたというのに、気絶もせず起き上がる様子を観て。


「「ならば、まだまだ続けてやらなくてはならんな。

  そなたの玩具はなかなかに辛抱強い・・・そうだなバリフィスよ」」


ユピテルの言葉に笑う事を停めていたリーンが、命じられたように頷く。

その姿は、まるで機械仕掛けで動いているかのようにぎこちなかった。



モニターからの言葉に反応したリーンが、

ミハルの前に居るミハリューの間に割って入ろうとしたが。


「待ちなさいバリフィス!

 あなたはこんな事をして良いと思っているの?!

 ユピテルの親爺に誑かされているのよ?」


バリフィスに向かって停め様と言葉を掛け、その表情を観た時。


<あ・・・バリフィスの眼が・・・泣いている?>


気が付いた。

このバリフィスは、身体の自由を奪われているのだと。


「なんて事を?!ユピテルにマリオネット化されているのね!」


叫んだミハリューがモニターを睨む。


「「そうだミハリューよ。

  この娘にはちょうど良いみせしめであろう?

  記憶の中に居る者を辱め貶めるのであるからな。

  バリフィスがこの娘の名を叫んだ時に気付いたのだ。

  バリフィスによってのみ<理の女神>は貶められる・・・

  そう・・・バリフィスに玩具にされて、バリフィスの手で貶められるのだ」」


ユピテルが教えた、ミハリューに。

ミハルはリーンの手で貶められる・・・そう。

一番大切な者の手で、何もかも破壊し尽くされるのだと。


しかし、ミハリューに教えた事はユピテルにとっての落ち度であった。

殲滅を司る女神として操っている者に、自らの手段を知らせてしまったのだから。


「そうか・・・そういう事なのね。

 ユピテルは・・・全能の神たる者は。

 他人ひとを操る事が出来るのね・・・」


心の中で何かが弾けるような感覚。

調べて来た事の裏付けともとれる話。

ミハリューは今こそ本当の自分を知るチャンスだと考えた。


自然とふらつくミハルに近寄る。


「「何をする気だミハリューよ。

  その娘に助けなど無用だぞ、一刻も早く貶めて秘密を暴かねばならんのだ」」


モニターからの忠告も無視し、歩んだ先に居るミハルに言った。


「一つ訊く。初めにゴリアテを倒した時、堕神が傍にいた筈だ。

 そ奴の行方はどうなった?あの堕神は今どこに居るのだ?」


ふらつくミハルに向かって問い質す。

一つの記憶を確実なものとする為に。


「答えるんだ!あの堕神は今どこに居る?

 消滅させたのはなぜだ?・・・彼の・・・堕神の名は?」


声が震えていた。

早く答えを聴きたくて。

ミハルの口からその人の名を聴きたくて。


答えようとしない。

答える事も出来ないのか・・・


ふらつくミハルは一瞬だけ眼を瞬いた。

・・・ように、ミハリューの目に映った。


「?!」


なにが・・・そう思った次の瞬間。


「あははははっ!ねぇねぇ、この子って凄いの!

 こんなに気持ち良くしてくれるんだよ?ねとねとの液で身体中満たしてくれるの!

 ほらぁ~っこんなに大っきな口で無茶苦茶にしてくれるんだよ?

 あなたも一緒に入らなぁいぃ?」


淫らな言葉使いでミハリューを招く。


挿絵(By みてみん)



「こっちにおいでよ・・・気持ち良くしてくれるよぉ~っ!」


手を差し出して招くミハルの姿に戸惑いを隠せない。


「どうしたというのよ?!私に返事をしなさいよ!」


もう壊されてしまっているのか。

ミハルに真っ当な答えを返せるだけの心は失われてしまったというのか。


ミハリューは苛立ち、返答を迫る為に薄汚れたミハルの手を取った。







_________________






いくら狐の神がバリアーを展開したとても、全てを防げるわけでは無かった。


「右舷推進軸破損!出力維持不能っ!」


切迫した叫びがミノリに飛ぶ。


「左舷高角砲大破!防空能力40パーセントに低下!」


敵航空攻撃により、大きなダメージを被ってしまった<薩摩>艦橋で指揮官達の焦りはピークになる。


「航海長、空中状態の維持は出来るのか?」


ミノリの問いに、航海長ミツル3尉は苦悶の表情を浮かべて首を振る。


って後10分って処でしょう。

 本艦の魔鋼機械も能力の殆どを喪失してしまいました!」


艦側に突き出ているジェネレーターの内、右舷にある1枚が使用不能となっている。

それだけでもバランスが取れなくなり、艦は右舷に10度近く傾斜していた。


「そうか・・・もう海上へ降りねばならんようだな・・・」


報告を聴いたミノリが一考の後。


「これより本艦は海上へ降り、海上戦艦として闘う。

 魔鋼機械の一時停止を命じる・・・」


その決断は航宙戦艦としての能力を放棄し、唯の戦艦として闘う事を意味していた。


「しかし艦長。本艦には戦艦としての防御力がありません。

 魚雷を喰らえば4本ある胴体の内、外側の艦体を放棄せねば即刻沈没してしまいます!」


レナ砲術長が航宙戦艦として設計された弱点を述べる。

空に浮く為、装甲防御を削った艦体の欠点を。

少しでも軽くする為、戦艦とは名ばかりの装甲しか持たなかったつけを。


「そんなことは百も承知だ。

 だが、このまま空に浮かんでいても戦えんぞ?

 これだけ傾斜していれば砲撃能力も喪失したと同じなのだぞ」


艦体が10度も傾斜してしまえば、砲撃しても命中は覚束ない。

まして、主砲を撃てばその衝撃で更に傾斜が増してしまうかもしれない。


「そうでしたね・・・もう覚悟を決める時かもしれませんね・・・」


モニターに映る光点の数は、たったの3隻。

味方の中で浮かんでいるのは<金剛>と護衛艦<夕立>のみ。


その二隻が<薩摩>を含めて、第3艦隊の生き残りであった。



「もう・・・ここまでだな。撤退しよう・・・」


艦隊司令官の仁科少将がポツリと呟いた。

戦艦<金剛>の護り神として、魔鋼機械と共に闘っていた狗神に言った。


「「そうだとしても・・・見逃してはくれまい」」


狗神は覚悟を決めているのか、撤退に反対しているようだが。


「このまま進んでも敵には辿り着けない。

 敵本土には辿り着く事だって出来ない・・・あたら味方の被害が増すだけだよ」


仁科司令官が宿りし神に言う。


「いくら命令だからって、従えない事もある・・・そうだろ、狗神」


仁科司令官が後方に居る<薩摩>を振り返って言った。


「・・・仁科の名に賭けて。

 我が名に賭けても護らなければならない・・・あの人を。

 源田閣下の娘だけは・・・それに<薩摩>を・・・ね」


撤退命令を命じる本当の訳を狗神に教える。


「あの艦は沈めてはならない・・・そうだっただろ、狗神よ」


<金剛>に宿る神に、自分の判断に従わせようと言った。

本当は撤退など考えても居ないのだと。

唯、あの艦を護りたいが為・・・<薩摩>と、その乗員を護る為だと。


「「ならば・・・殿しんがりは我らが引き受けねばならんな・・・」


狗神の答えに頷いた仁科司令官が。


「それが務めなのだから・・・皆には申し訳ないと思う」


仁科司令官の言葉に、狗神が笑った・・・



発光信号を読み取った時、ミノリは旗艦に敬礼を贈った。


「艦長!撤退するのですか?!」


言葉を荒げて訊き返すレナ3尉。


「<夕立>からも信号!<敵艦隊ミユ>ですっ!」


<金剛>の護衛に付いている唯一隻の駆逐艦から、緊急信号が入る。


「もう・・・撤退もままならんな・・・」


ミノリは艦隊の最期を覚悟した。

撤退をしても傷ついたふねでは逃げきれない。

あるのは唯・・・


「傾斜復元、左舷防水区画に注水!

 主砲砲撃用意!砲雷撃戦用意!!」


闘うふねとして、最期を迎えようと決心した。


近付く敵艦隊。

上空には未だ敵機が乱舞している。


たった一人の魔砲師だけが直掩についている状態で、

たった二基の主砲を振り立たせて。


<父上・・・お別れの時が来たようです・・・>


胸に納められた写真に手を当てて、ミノリは訣別を贈る。


一言だけ・・・一言を心で捧げたミノリの耳に。


「敵機直上!急降下!!」


見張り員の叫びが突き刺さった・・・・






_______________






((ネト・・・))


握った手に、緑色の液体が纏わり付く。

細い指先に違和感が奔る。


<・・・・さ・・・ん・・・>


誰かの声が聞こえた。


<ミ・・・ハ・・・エ・・・ル・・・さ・・・ん・・・>


確かに聞こえてくる。

周りに居る二人以外の声が。


「誰・・・誰なのよ?」


小声で聞こえた声に訊き返す。


<私・・・あなたの手に触れられたから・・・>


差し伸ばしてきた手を握った。

そう、気がふれた様に嗤うミハルの手を今、掴んでいる。


<ミハエルさん?気が付いたんだね、やっと・・・>


目の前に居るミハルの声。

だが、目にしているミハルの口からは聞こえてはいない。


<どうやって喋っているんだ?それにお前は正気を保てているのか?>


口には出さずに問いかけてみた。

眼で見詰め、心で話しかけて。


<うん・・・女神の力を使って・・・なんとか正気で居られてる。

 でも、この機会を逃したらどうなってしまうかも判らないんだ>


答えが返って来た。

ミハリューは眼を見開き、ミハルを観る。


<機会?その意味は・・・私に何を教えたい?

 何を願っているというのだ・・・このミハリューに?>


自分を未だにミハリューと言った事に、違和感を覚える。


<ミハリューじゃないよ、ミハエルさんだもん。

 あなたは間違いなくミハエルさんなんだよ?

 私に生まれ変わる前の天使だったの、彼と約束を交わした天使なの!>


ミハルの声が教える・・・辛そうな声で。


<よく聞いてねミハエルさん。

 あの人は約束を果たせたの・・・あなたとの。

 最期の瞬間に果たせた筈なの・・・人に生まれ変われた筈だから。

 だから・・・ミハエルさんも・・・生まれ変わってね。

 彼が・・・ルシちゃんが。

 ルシファーがあなたを待っている筈だから>


ミハルの声が届く。

ミハリューにではなく、大天使ミハエルの元に。


心の中で何かが消え去った・・・・

ミハルは責め苦を耐えていた。

正気を保って・・・ミハリューに光を取り戻させる為にも・・・


流石ミハル・・・頑張れよ(意味深)


次回 終わる世界 EP10 End Of The World<終わる世界に>Part4

君は抗い続けられるのか?

身体を責め続けられたとしても大切な想いを抱き続けられるのか?

人類消滅まで ・・・ アト 25 日

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