第6章 終わる世界 EP10 End Of The World<終わる世界に>Part2
指令室で女神の怒鳴り声が響き渡る。
「人間共の艦隊を捕捉したですって?!今頃何を言ってるのよ!」
戦略地図上のマークを指し示してコンピューターに怒りをぶつける。
「この私に今迄知らせなかったというの?!
人類殲滅を司るこのミハリュー様に内緒にしていた訳?!」
赤黒い髪を振り回し、信じられないと怒鳴り散らした。
「「主ユピテル様の御云い付けを優先しました」」
コンピューターは悪びれもせずに返答する。
その言葉に益々怒りがこみ上げたミハリューが苛立ちまぎれに魔砲をぶちかまし、
モニターとスピーカー諸共部屋の一部を吹き飛ばした。
「くそぉ!ユピテルの親爺め!ただじゃ済ませないわよ!」
怒りの矛先をどこかで観ている筈の全能の神を名乗る者に向ける。
「「只今ユピテル様はバリフィス様に付き添われておられます」」
苛立つミハリューに恐れを抱いたのか、コンピューターが居場所を知らせる。
審判の女神バリフィスの名を聞いたミハリューの手が停まった。
「なんですって?!ユピテルが?バリフィスと?」
バリフィスの身を案じたミハリューが聞き返すと。
「「最下層の地下牢におきまして、侵入者を尋問されておられます」」
訊き返されたコンピューターが先走って場所と目的を知らせてくる。
ミハリューは聴きなれない言葉に思えた。
侵入者がこの神殿に?
捕らえた侵入者を尋問している?
咄嗟には判断が出来ずにいた。
コンピューターが告げた言葉に、疑いを抱くと。
「もう一度言え。お前の言った意味が解らないから・・・」
眼を細めてコンピューターに確かめる。
このコンピューターが故障したのではないかと考えて。
「「最下層の地下牢にて審判の女神バリフィス様の手により、
捕らえた反逆者である女神に尋問を。
秘密の在処を吐かせる為の拷問が執り行われており、
直にユピテル様が見分されておられます」」
ミハリューはもう一度耳を疑った。
捕らえた相手・・・つまり侵入者とは女神だという。
捕らえた女神が何かの秘密を持っている・・・
捕らえた女神から秘密を暴く為に・・・拷問を行っている。
神が、神たる者を・・・戒めているというのか。
頭の中で何かが閃く。
<まさか・・・そんな筈は?
あのデザイアが単身乗り込んで来たというのか?>
自分が何度試みても応じようともしなかった筈なのに・・・
<もし、デザイアだというのなら・・・
奴の口から直接聞かなければならない事がある>
自分の中に眠る記憶の断片が、もし・・・本当だとすれば。
<デザイアと呼んでいた娘は・・・私の大切な約束を知っている筈だ>
ミハリューはどうしても確認しなければいけなかった。
自分が本当は誰なのかという事を。
ユピテルと呼ぶ全能の神によって書き換えられていた記憶を打ち消す為にも。
「よし、解ったわ!私もバリフィスの元へ行くから!
人類殲滅作戦は自動更新して行え!いいな、命令だぞ!」
コンピューターに向かって命じると、足から魔法羽根を出して飛び上がって行った。
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第3艦隊は戦力の半数を失う大打撃を受けてしまっていた。
襲い掛かって来た航空攻撃だけでも6次に亘る。
そして今、電探に映るのは・・・
「距離50(50000メートル)!敵要塞戦艦ゴリアテ級3隻、
水上戦艦3、巡洋艦6、護衛の小型艦船多数。
本艦隊に向かって来ます!」
電探室からの報告をレナ砲術長が復唱する。
「来たか・・・主砲魔鋼弾装填!
砲雷撃戦用意!砲撃可能距離に入ったゴリアテを狙え!」
既に敵艦隊からのミサイル攻撃を受けた第3艦隊は、
その殆どの艦が多かれ少なかれ被害を被っていた。
「味方艦隊の被害に構わず、敵艦を攻撃しろ!」
航宙戦艦<薩摩>は、魔鋼機械と狐神イナリが護っている為損害を受けずに済んでいたが。
魔砲師隊には犠牲者が出ていた。
6次に亘って襲い掛かって来た敵機に数で圧倒された味方を、
航空攻撃から護る為に善戦していたのだが・・・
「大高2尉・・・今日が観念のし時かもわからんなぁ」
機銃口を煤けさせてホマレが後ろを飛ぶ分隊長代理に言った。
「ホマレ3尉、お前らしくない弱音を吐くじゃないか。
私だってそれくらいの事は解っているさ・・・」
11名いた分隊員も、今傍を飛べるのは僅かにホマレとジュンのみ。
魔砲力が底をついてしまった者達は、母艦の中で呻いている。
傷付いた者、闘いたくても飛ぶ事すら出来ない者。
士官でもある魔法衣を纏える2人だけが、<薩摩>魔砲師隊で闘い続けられる者であった。
「<金剛>隊も・・・全滅してもうたみたいやしな・・・
ウチ等も次の敵に歯向かえるかどうか・・・解らんもんなぁ」
ホマレの言葉はどことなく晴れやかにも聞こえる。
「ウチも・・・引導を渡されるんやろなぁ。
まぁ、敵と道連れになるんやったら本望かも知れんけど・・・」
言葉を切ったホマレが。
「せやけどなぁジュン。
ウチは約束を果たさんうちに散るんわ嫌や。
ミハルを護れんかった責任を執れへんのやったら死んでも死に切れんわ」
心の内を吐露した。
「ホマレ・・・それを考えたら。
私もまだまだ死ねないさ・・・魂と約束したんだから」
ジュンがホマレに笑い掛ける。
共に闘った者を想い。
共に死すべき人を観て。
「せやな・・・まだまだ死に場所とは言わへんな、此処は」
笑うジュンの魔法衣が、煤けているだけではない事に気付く。
赤黒き染みが所々に付着している。
ホマレはその時思った。
<・・・ウチと同じ気やったんか、ジュンの奴も>
死に場所を求めてフェアリアまで志願してまで来た。
そして命令されていた通り、彼の地に居る日の本の少女と邂逅した。
自分に命じられているのは唯の一つ。
<ミハル・・・アンタを護り抜かねばいけなかった。
どうして・・・独りで行ってしもうたんや・・・
なんでウチを置いてきぼりにしてしもうたんや・・・>
不意に涙が溢れそうになる。
短い間であったが、魔砲少女に惹かれ続けた自分の心がそこにあった。
みんなに迷惑を掛けない様に・・・そう考えての行動である事は間違いないと思った。
<ミハル・・・そうやったとしても。
ウチに何を託していたんや?何を願うているんや?>
寂しさと悲しみが心を締め付ける。
消えたミハルが戻って来ない。
消えない敵が襲い来る。
・・・その意味は。
<ミハルは・・・ミハルは今どこにおるんや?
今神の神殿で闘おうておるんか?無事でいてくれるんか?
早ぉー帰って来てぇな、あの笑顔をウチに見せたってぇな・・・>
ホマレにはミハルがどうなっているのかが心配で堪らなかった。
女神といえど・・・その身に何か悪い事が起きてはいないかと・・・
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扉を解放させる。
コンピューターが認証する間も苛立つようにもどかしく感じてしまう。
(( ギ・・・ギギギィ・・・))
巨大な門が漸く開き始める。
立ち込めている瘴気が、門から流れ出てくる。
「むぅ・・・これは・・・闇の瘴気じゃないの?!」
足に絡まる瘴気を魔砲力で薙ぎうと、ミハリューは中へと足を踏み入れる。
赤黒い霧状の瘴気が立ち込め、見通しが利かない。
唯、周りに何者かの気配だけが感じられている。
「ふっ・・・うっ・・・」
誰かの・・・くぐもった声が耳に入る。
「ふふふっ・・・あはは・・・」
何者かが嘲笑う呟きも。
「バリフィス?居るんでしょ?」
声が聞こえる先に向けて返答を待った。
「ユピテル、バリフィスを使って何をしているのよ!
バリフィスに手を出さないって約束じゃなかったの?!」
実体化が出来ないユピテルに向かって吠える様に訊いた。
闇と瘴気が立ち込める中を、声が聞こえる方へと歩み続ける。
「ううっ・・・うううんっ・・・あぅ・・・」
悲鳴のような、悲痛な声が続いている。
声を出す者がどうなっているのかが、ミハリューには解らなかった。
悲痛な声が何を意味するのかが・・・
「「おや、ミハリューではないか。戦況は如何した?」」
ユピテルの声がどこかから訊ねてくる。
「「ここまでバリフィスを迎えに来たというのなら。
まだもう少し時がかかるかもしれんぞ?」」
半ば嘲るような声が掛けられてくる。
「なにを?バリフィスはこんな場所にはふさわしくないわよ。
さっさと元の場所へ還してくれないかしら?!」
嘲るユピテルに言い返すミハリューの耳に、
バリフィスの嘲笑がひっきりなしに聞こえてくる。
その声が尋常ではないように感じられたミハリューの焦りが思わず声となって出た。
「バリフィスに何をしているの?まるで狂ったような声を出してるじゃないの!
早くこっちに来させなさいよ!早く!!」
良からぬ事をバリフィスに与えているのかと勘ぐったミハリューに。
「「そうまで言うのなら、そなたが近寄れば良い。
バリフィスの事が心配だと思うのなら・・・だが。
今、近寄って帰る様に勧めても、素直に聴くかは分らぬぞ?」」
更に嘲るユピテルが面白そうに囃し立ててくる。
「言ったわね?!それじゃあ連れ戻すわ!」
嘲られたミハリューがバリフィスの嗤い声へと向かう。
闇の中、ゆっくりと・・・
「うっぶぅ・・・ぶぷっ・・・ううっ・・・」
「ふははっ!あははっ!」
くぐもった声と、嘲り嗤う声が近づく。
((ぐちょっ・・・ぶちゃっ))
近付くにすれ・・・
何かの液体が床に飛び散る様な音が聞こえてくる。
((ギシッ ミリッ))
骨が軋む様な嫌な音も。
「な・・・なんなのよ?」
誰かの影が観えてくる。
嘲笑い身体を逸らして嗤い続ける者の影が。
「バ・・・バリフィス?バリフィスなの?」
漸く女神バリフィスの金髪が解る距離まで近づいた。
「ねぇバリフィス?なぜそんなに笑い続けているの?」
恐る恐る。
手を伸ばして女神を掴もうと呼びかけたのだが。
「あははっ!ふふふっ!もっと泣け!もっと苦しむが良い!」
呪われた声を上げ続ける悪魔の如き姿に手が停まる。
((ぶっちゅっ グチャッ ぶちょっ))
女神バリフィスが見詰めて笑う先から、異音が流れ出ている。
「うっ・・・あう・・・うう・・・ん」
異音と同じ所からくぐもった声が。
「な・・・なによ・・・これは?!」
「あははははっ!」
バリフィスの笑い声にミハリューの絶句が掻き消される。
((ずりゅっ ぐちゅっ ぶちゃっ))
近付いたミハリューの足元に、異音をたて続ける物から液体状の何かが飛び来たった。
((ベチャッ ドボッ ボシャッ))
何者かが蠢く度に、汚らしい液体が床に飛び散る。
「あ・・・ああっ?!ま・・・さか?!
こんな・・・こんな事って?!」
薄汚れた視界の先に観えたのは・・・
「あれは?!ワァーム?!なぜこんな所に?!」
闇の顫動虫・・・悪魔のような姿。
体毛が蠢き、そのどれもから生臭い液体を垂れ流している。
大きな顎を開き獲物を丸呑み・・・捕食する。
咥えた者に無限の苦痛を与え、穢れた体液を注ぎ込む・・・
肉体にその体液を注がれた者は神経をも冒され、苦痛が快楽へと挿げ替えられてしまい・・・
「あれを?!あの悪魔が快楽責めにする魔の液を直接注がれでもしたら?!
苦痛を快楽に替えられ・・・やがて狂わされてしまう・・・」
目の前で。
信じられない物を見せられ続けるミハリューの耳に飛び込んで来るのは。
「う・・・あ・・・いっ・・・嫌ぁ・・・あっあっ、ああぁーぁあっ!」
断末魔の悲鳴。
闇の顫動虫が激しく蠢き暴れまわる。
顎の中に囚われて居る者がどんな目に遭わされているのか。
どれ程の苦痛を与えているというのか?
暴れまわるワァームが突然動きを停め、身を震わせる。
「うっ?!うわうわうわあぁああぁっ?やぁめぇてぇえーっ!あああああぁーっ!」
絶望の叫びがワァームの顎の中から流れ出す。
そして・・・
((ボシャッ ブシャアァッ ドボドボドボ))
観ているミハリューの目に、それが焼き付く。
ワァームの顎から、体毛から。
一斉に体液が放たれる・・・悲鳴を掻き消す様に。
ワァームが何度となく痙攣し、緑色の体液を出し尽くす。
捕らえた獲物に死をも超える苦痛を与える様に・・・
ミハリューの足元までワァームが吐き出した体液が流れて来る。
「あ・・・ああ。なんて・・・なんて惨い事を・・・」
ワァームに飲み込まれている者の苦痛を思い、惨たらしさに吐き気をも覚える。
((ごぶっ ごぼぼぼぉっ))
満足でもしたというのか、ワァームが捕えていた者を吐き出した。
((ぼちゃっ))
顎から吐き出された者は身動きもせず床に転がる。
身体全体を薄汚れた液に染められて。
身体中をねばつく緑色の魔汁で穢されて・・・
茶色い長髪が顔に貼りついて半ば隠している。
ドロドロにされた身体を痙攣させている事だけが、生きている証の様に観える。
「あっ・・・あああっ?!」
ミハリューの眼に映る無残な姿の少女。
「まさかっ?!こんな酷い事って!」
思わず声にしてしまったミハリューに。
「「面白い余興であろう?どこまで耐えられるのか・・・まだまだ終わらぬぞ?」」
悪魔の声が墜ちてくるのも耳に入らなかった。
唯、目の前で倒れる少女の名を叫んでしまった・・・
「ミハルっ?!なんて惨い事をぉっ?!」
ミハル無惨?!
損な娘だけに・・・でも、これは始まりでしかなかったのだが。
ミハル闇堕ちパートの開始ですね・・・・と、いうことは?!
次回 終わる世界 EP10 End Of The World<終わる世界に>Part3
君の仲間は闘っている・・・空も海でも。そして君も抗う!だが・・・
人類消滅まで ・・・ アト 26 日!