第6章 終わる世界 Ep9 Battle at Journey's End <旅路の果てに立ちはだかる者 >Part7
開かれた扉の中へ一歩踏み入れた。
巨大な門から想像していた通り、中は奥まで見渡せない程の空間が広がっていた。
しかも・・・薄暗い。
松明が燈る周りだけが漸く観える状態・・・
そこに居るべき相手に向かって叫んだのだが。
「何よ・・・誰もいないじゃないの」
扉の中に居ると踏んでいたのだが、相手の姿は観えない。
「そうくるのね。
だったら・・・炙り出してあげるから!」
女神の魔法力を使って敵の姿を曝け出そうとするミハル。
右手を翳し、<裁きの剣>を取り出すと。
「出てきなさいよ!さもないとこの部屋ごと吹っ飛ばしてやるわよ?」
威嚇を含めて言い放った。
隠れて観ている者が居る事は解っているのだからと。
「「ふふふっ。そう焦るなデザイアよ。私はここだ」」
声と共に現れたのはモニター。
ミハルの前に映し出されたのはユピテルを名乗る影。
「あなたがここの主ね?私をここに呼び出して何を企む気なのよ?!」
左手に理の盾を装備したミハルが剣を突き出す。
「「ふむ・・・それは他でもない。そなたのソフトウェア―が必要なのでな」」
影が勿体ぶらせて答える。
モニターに映る影からの回答に、ミハルの眉が跳ね上がる。
「ソフト・・・何よそれ?
リーンの記憶が欲しいんじゃないの?
狙いは私にあるって事・・・どういう事よ?」
ミハリューから仕入れた情報とは違う事に、ミハルは訊き返してしまう。
「「確かにバリフィスの記憶も必要だが・・・
私の本当の狙いはデザイア・・・お前だ!お前を我が物とするのが狙いだった。
ずっと・・・そう。お前が産まれた時から・・・
その身体の中で目覚める時を待っていたのだ!」」
影が笑っていた。
気味が悪い程、口を裂けさせて。
「デサイアさんは私と一つになった・・・理の女神となった時に。
それがあなたの言う目覚めだというのなら、確かに私は覚醒した事になるわ。
でも、私はあなたの物なんかに成りはしないから!」
剣を構えて臨戦態勢を執るミハルに、影が笑いを停める。
「「何も知らんのか?そなたは・・・MIHARUとして目覚めた筈ではなかったのか?」」
何かに気が付いたのか、影が不気味な声で聞き咎めてくる。
「「まさか・・・そなたは目覚めておらんのか?
未だに起動してはおらんというのか・・・何故だ?!」」
苛ついたかのような影の声に、意味を図りかねるミハルの方が訊き返す。
「あなた・・・勝手に何を言ってるのよ?
目覚めたとか目覚めていないとか・・・それに、起動って何よ?
私は機械なんかじゃないんだからね!
それに私は初めっからミハルなの!産まれた時に与えられた名前なんだから!」
影とミハルの言い合いが交わらない。
ユピテルの影が求めるのはミハルはMIHARUとして起動したのかという事。
ミハルが訊いているのはどうして自分を求めるのかという事。
「「私を停める様にプログラミングされたインストールプログラム。
月の住人が私を削除しようと試みた・・・前の千年周期にも。
だが、そのプログラムは不発に終わった・・・起動せずに。
だからこそ、そなたが降り立ったのではなかったのか?
更なるプログラムを用意し、地上へ降り立ったのではなかったのか?」」
影がミハルに話すのだが、本人には何の事やら筋道さえも判らずにいる。
「あなたねぇ、そんな話を信じろって言うの?
私は月の住人とかプログラムとか・・・そんな存在じゃないわよ。
勘違いにも程があるわ。思い込みは勝手だけどね」
話が理解不能なミハルが肩を竦めてため息を吐く。
「人違いしないでよね。
私の母は人間、父も人間。
どうして二人の間から機械が産まれるのよ?
そんなお伽話信じられる筈がないじゃない!」
呆れたように言い放つミハルの言葉に、影が再び嗤う。
「「この世界は月の住人が造ったモノなのだ、元々は・・・な。
しかし、今は私が管理者なのだ。私こそが全能の神を名乗れる者なのだ。
世界の終末と始りを司る者・・・それがこの私。
始まりはユピテル、終わりはサタン・・・神と大魔王。
そのどちらもが私の本性。そして今、世界を終わりへと導く者となるのだ」」
影は自らの存在理由を告げる。
「「千年前に現れる筈だったそなたの前任者がどこに居るのか判らない。
だとすれば今私の前に居るそなたを使わねばならない。
私を停める事の出来るプログラムを解析し、
二度と同じ企てが不可能にしなければならない。
そうする事で私はまた一歩、完全体に近づける。
月の住人に私を停める事が出来ないと見せつけられるのだ!」」
モニターに映る影が嘲笑う。
「・・・いい加減にしなさいよ!
黙って聞いていれば馬鹿げた話ばかりして。
この世界が誰かに因って造られた?月の住人?
そんな世迷言を信じろっていうの?馬鹿にしないでよ!」
一方的に話されたミハルが怒気を孕んだ声で言い返す。
信じていない口ぶりで・・・・
「「やはり・・・目覚めてはおらんというのか。
早計であったか・・・しかし、時は近い。
もはや覚醒を促している場合ではないということになる。
これ以上の問答は無用・・・そなた自身から奪い去るまでだ」」
モニターの影が意を決したようにミハルを睨む。
「そのようね。
話し合いじゃあ解決しそうにもないもの。
だったら、私はリーンを取り返すだけだから!
あなたを壊して・・・この尖塔を木っ端微塵にして!」
剣を天井へ向けて魔砲力を解放しようと呪文を唱えるミハルに。
「「そなたの力ではこの<ケラウノス>は壊せはせぬ。
無駄な事は辞めておくが良い。
それに、私にも力はあってな・・・そなたを捉えるぐらいの力は」」
天井に魔砲を放とうとするミハルに向かって影が何かを唱えた。
「私を甘く見ない方が良いわよ?
こう見えても<理を司る者>として覚醒したんだから!」
モニターに向かって言い放ったミハルの魔砲が火を噴く。
「聖光破弾!」
剣先から現れ出た金色の魔法陣が収束し、光の弾となって天井へと飛ぶ。
((グワアアンッ))
猛烈な破壊波が天井の一部を吹き消した。
「まだよ!もう一発お見舞いしてやるわ!」
穿かれた穴に向けて、次弾を放とうとしたミハルに。
<ミハルっ!危ないっ!>
リィ君の叫び声が・・・
((キィンッ))
何かが飛び来たり・・・
((カランッ))
<裁きの剣>が床に転がる。
「うっ・・・くっ?!」
弾き飛ばされた剣を観て、何が起きたのか瞬時に解る。
自分の剣を弾き飛ばした相手が居る事に。
薄暗い闇の中から、誰かが近づいて来る。
足音も立てずに・・・足も動かさずに。
それが何を意味しているのか・・・ミハルが呟く。
「どうやらお出ましのようね。
私を捕まえに来たってことよね?」
闇から観えるのは紅き魔法陣の光。
足元に輝く魔法陣の意味するのは・・・
「神たる者が現れたって処ね。
だけど・・・私は捕まらないわよ!捕まえられたりはしないんだから!」
現れ出る者に言い放ったミハルの眼が、大きく見開かれる。
「う・・・そ?!まさか・・・そんな」
取り落とした剣を掴もうとした手が停まる。
「どうして・・・なの?」
見開いた眼に映るのは・・・
「あなたが・・・私を捕えに来たの?
・・・・リーン?!」
紅き瞳を曇らせる女神。
その姿は操られし闇の力を纏いし者・・・
ユピテルと対峙していたミハルの前に現れたのは・・・
「御主人様ぁ~っ!」ミハル
ああ・・・ミハルの想いは届かないのか?
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君の想いは届かないのだろうか?君の悲しみは届かないのか?
さよなら・・・ミハル?!
人類消滅まで ・・・ アト 29 日 !