第6章 終わる世界 Ep9 Battle at Journey's End / 旅路の果てに立ちはだかる者 Part5
編成を遂げた有志連合軍主力艦隊は一路、暗黒大陸目掛けて速力を上げた。
「間も無く敵ピケットラインに到達します。
艦隊に警戒配備を執らせます!」
日の本海軍の源田司令長官に作戦参謀が申告する。
「うむ。航空機だけでなく、潜水艦にも気を配る様に・・・」
頷いた源田大将に敬礼し、作戦参謀が通信参謀に伝達するように命じた。
有志連合軍主力艦隊旗艦<扶桑>から各艦隊に命令が届く。
その中の小規模な輪形陣を構成するオスマン帝国艦隊に・・・
「おいチマキ!いよいよだな」
ラミル中尉が飛行甲板に佇む少女に言った。
「ですからぁ~っ、チアキですってば!」
部下の小隊員の前で苦笑いするチアキ少尉が機銃を手に、ラミルに言い返す。
「うん、それだけ言い返せれば緊張してはいないな。結構けっこう!」
ポンとチアキの肩に手を添えたラミルが笑う。
「それはそうですけど・・・
初空戦に自信がある訳ではないので。
飛んだのも5回くらいしか経験がありませんからね」
気を休める為に冗談を与えて和ませてくれた分隊長の笑顔に肩を竦める。
「それだよチアキ。
お前の事は心配しとらんが・・・部下達の事だ。
お前のリード次第では部下達の生き死に関わるのだからな」
笑い掛けていたラミルが心配げに訊く。
「只の魔砲師達にとって空中戦は勝手が違うだろう。
なにせ3次元の闘いなんて誰も経験が無いのだし・・・
お前だって初空戦なのだからな。
無茶は他の編隊に任せて、様子をよく見て行動しろよ」
戦闘経験の多いラミルの言葉に頷いたチアキが、
「そうですね、編隊行動もろくに訓練出来てはいませんもんね。
とにかく初めは日の本飛行隊を真似てみます」
艦隊に配備されている筈の他国の魔砲師隊を参考にすると答える。
「うん、まぁな。
始めが肝心って言うし、初戦果を求めるより無事に帰る事の方が重要だぞ?」
闘いの基本を思い出させるように、分隊長が求めてくる。
最初が肝心なのだと。最初の戦いで生き残れれば道が開けるのだと。
「解ってますよ分隊長。
私もオスマンでミハル隊長から嫌になる程教わりましたから」
そう答えたチアキが機銃を左手に持ちかえると。
「それじゃあラミル分隊長、往ってきます!放れてください。
<剣聖>モードになりますから!」
右手に填めた碧い魔法石を掲げて魔法衣姿になる。
光の粒がチアキの姿を取り巻く・・・
魔法石から現れ出た<剣聖>の魔法衣がチアキに装着されていく。
オスマン近衛士官服が弾け消え、素肌にプラグスーツが貼り付く。
その上にマギカジャケットが装着され、内蔵装甲を秘めた白い巫女服が被さる。
襟元に紅きネクタイが。
両脇から聖なる者の力を表わす金のストライプが巫女服を引き締める。
素足にプラグスーツと同じミスリル鋼で造られたストッキングが巻き履かされ、
両足に金色の光を纏った<翔騎>が履かされた。
ラミルの眼には一瞬で魔法衣姿になったチアキが映っていた。
「ふぅーん、でもこれじゃあ飛びにくいですよね?・・・再チェンジ!」
チアキが一声かけると、巫女服の袴が消え、タイトスカートに替わった。
「よし、完了!
それじゃー、小隊を率いて哨戒飛行にでます!」
身体をくるりと一回転させたチアキ少尉がラミルに魔法衣を確認して貰ってから出発に掛かる。
「おいチアキ、くれぐれも無茶は辞めるんだぞ!」
<翔騎>から放たれる魔砲の力で飛び上がる魔砲師小隊に手を振って、ラミル中尉がチアキを見送る。
「解ってますってば!
2時間の訓練飛行って思ってますから!」
二人の部下を伴って、チアキ少尉は艦隊上空へと舞い上がっていく。
ラミル中尉はその姿を飽きずに眺めていたが、ふとポケットに手を伸ばすと。
「ミハル・・・お前の教え子は立派に育っているぞ」
内ポケットから取り出した写真に向かって話しかける。
「間も無く・・・そう。
ミハルの元へ行くからな。待っていろよ・・・」
写真の中には、銀髪のラミルの横に微笑む黒髪の少女が映っていた。
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有志連合軍主力艦隊から離れる事700海里・・・
「旗艦<金剛>より命令!
「「本艦隊はこれより敵艦隊との戦闘に突入する。全艦戦闘準備」」です!」
ミツル航海長がミノリ艦長に報告する。
「全艦に通達!本艦は只今より魔鋼状態へと移行する!
全艦内、戦闘配備!第1魔鋼状態へ!」
航宙戦艦<薩摩>に備えられた魔鋼機械が唸りをあげる。
両側面に備えられているリング状の飛行機械が水平迄下がる。
「敵雷撃機の攻撃を無力化する!<薩摩>浮上!浮き上がれ!!」
ミノリの命令でミツル航海長が、魔法のハンドルを持ち上げる。
(( ズザザザーッ))
2万トン近い満載排水量を誇る<薩摩>が、軽々と水上へと舞い上がる。
「全火器の使用を許可する!
本艦第1種戦闘配備!全艦砲雷撃戦用意!」
レナ砲術長の指が砲撃指示ボタンを押し込む。
((ブブーウゥッ))
警報ブザー音が艦内隅々まで鳴り渡る。
「電探室!目標の探知を急げ!」
レナの命令で艦橋上に備えられた電探が前方の空に向けられる。
「旗艦<金剛>より。
敵艦隊と思しき大型艦多数近づく!」
<薩摩>より大型の戦艦<金剛>が、いち早く敵を探知した。
「魔砲師隊が空戦を開始しました!」
ミツルの声が艦橋を緊張に包む。
「よし、砲術長。
主砲3式弾装填!対空戦闘用意!」
ミノリの命令でレナが方位盤射撃の準備に掛った。
「主砲砲撃準備!露天甲板上の配置に在る者は退避!」
砲撃の際に衝撃波を喰らわないよう、艦内に避難を命じて。
「艦長!砲撃準備完了!主砲3式弾射撃準備よし!」
目の前にあるモニターに警告が解除された事を報告する。
「主砲電探射撃!魔砲師隊を退かせろ!
砲撃始めっ!撃ち方始め!」
ミノリの命令で砲撃戦の幕が切って落とされる。
現れたのは艦隊を空襲する為の小型機編隊。
黒ゴマの様に固まったその数は、およそ100機。
味方の魔砲師隊はおよそ30騎。
「ここで無意味な消耗は避けねばならない。
・・・あの子が居なくなったのなら・・・尚の事」
旗艦<金剛>の仁科司令官が艦長帽を被り直して呟いた・・・
「・・・ミハルよ、何故だ?何故私の言った言葉に耳を傾けなかったのだ?」
戦闘が始まる前、もう一度ミノリは呟くのだった。
「あれ程諫めたというのに。
おまえは・・・ミハルは我々人類最期の希望だと言ったのに・・・」
空に舞い上がっている魔砲師隊の中で、独りの魔法衣姿が見えなかった。
緑のホマレといつも一緒だったミハルの姿が・・・
「頼むミハル・・・もう一度戻って来てくれ。
ミハルだけが頼りなのだ。お前しか頼れるものは居ないのだから」
艦長帽の端から見上げるミノリの瞳が、希望を求めて空を睨んだ
ミハルが留守にしている間にも。
艦隊決戦の時が近付いていたのだった。
オスマンからはるばるやって来た魔砲使いのチアキ。
彼女とミハルの間柄をお知りになられたい方は。
とりあえず・・・「熱砂の要塞」をお読みください。
ずっと後になったら此処に連結させるかもね・・・・もしかしたら。
次回 終わる世界 Ep9 Battle at Journey's End<旅路の果てに立ちはだかる者>Part6
君は約束を果たさんとする娘。それが旅路の果てと知る者・・・
人類消滅まで ・・・ アト 31 日