第6章 終わる世界 Ep9 Battle at Journey's End / 旅路の果てに立ちはだかる者 Part3
ミハルは解いたリボンを差し出した。
それは・・・約束を果そうとする友への決別。
自らの在り処を手渡すかのように・・・
差し出された紅いリボンに眼を落とす・・・
「ミハル・・・正気かいな?独りで敵中に行くんやで?」
差し出されたリボンを受け取らず、拒絶するように後退った。
「ホーさん・・・これを持っていて。
もしもの場合にはきっと役に立つと思うから・・・」
微笑むミハルの顏には、もう迷いはないのか。
「もしもって何や?
そないな事を言うんやったら、絶対受け取らへんさかいにな!」
拒絶する事で引き留められるとでも言うのか、視線を逸らすホマレに。
「ホーさん、お願いだから私を行かせて?
リーンを救う為に・・・戦争を停める為に」
ホマレに跳び寄ったミハルが、強引にリボンを手渡す。
「きっとリーンの元に辿り着いて助け出してみせるから。
必ずこの闘いを止めてみせるから・・・だから・・・」
握らせたリボンに、自分の想いを託すようにして。
「これはホーさんが私に返してくれたリボン。
私を取り戻してくれたホーさんに預けたいの・・・私の帰るべき道しるべとして」
微笑むミハルに言い返し辛くなるホマレ。
そうだとしても行かせる気にはなれなかった。
ミハルを独りで行かせるなんて・・・どうなるか判らないというのに。
「待つんやミハル!そうやったらウチも一緒に行く!」
握らされた紅いリボンを握り締め、ミハルを停めようと手を伸ばす。
差し出されたホマレの手を握り返したミハルは微笑みを絶やさずに言う。
「ホーさん、リィ君が一緒に行ってくれるんだ。
この子も自分の事を探しているんだよ、名前も判らないんだから。
神の神殿に行けば、どうしてリヴァイアサンに閉じ込められていたのか。
何故自分の事が失われているのかも判るかも知れないから。
だから・・・二人で行くんだよ。
ここからは女神の仕事なんだよ。
今からは神々との闘いになるんだよ?
もしかすると・・・リーンと闘わなければいけないかもしれないんだ」
最後は少しだけ辛そうに話したミハルに、
「せやったら・・・尚の事ウチも・・・」
仲間が一緒の方が良い・・・そう伝えたかった。
ホマレの手を放したミハルが首を振る。
「ごめん・・・ホーさん。
解って欲しいの・・・これからは人が介入出来る程生易しい力関係ではなくなるって。
神々との闘いも覚悟しなければいけないんだって・・・
その時ホーさんが居れば、私は護り切れないかもしれないの。
ホーさんを護り切れるだけの力がないかも知れないから・・・」
微笑む瞳には仲間を想う心が読み取れる。
だが、ホマレにはそんな事などどうでも善かった。
「ウチは・・・ウチの事が大事なんやったら!
離れとーないって言うてぇーな!
一緒に行こうって言うてぇーなっ!」
放された手を取り戻す様に、ホマレがミハルに抱き着こうとしたのだが。
「ごめん・・・ね、ホーさん」
ミハルの右手から魔法障壁が現れてホマレを阻んだ。
「待てやミハルっ!行ったらあかんっ!」
必死に呼び止めるホマレに謝り、その場から離れだす。
「行かんといてミハルっ!
行かんといてぇーなミハルゥっ!」
阻まれたホマレはそれでも手を伸ばしてミハルを呼び続ける。
「ごめんなさい・・・ホーさん。
ミノリ艦長に伝えて、皆にも・・・」
別れの合図に手をそっと上げたミハルが、か細く呟くと二人の敵の元に寄り。
「さぁ、連れて行きなさい。
あなた達を此処へ送り込んだ者の元へ!」
決意を顕わに呼びかける。
タームの姿を真似た者が無言でミハルの手を握る。
「くっくっくっ!最期の別れね。
あの娘もいずれは消え去るのだから、しばらくの辛抱って訳ね」
アルミーアの姿を真似た者が嘲笑う。
「それはどうかしらね?
私を甘く見ない方がいいわよ!
理を司る女神なんだから私は!」
二人に連れられるミハルが抗ったが。
「お前こそ!全能の神ユピテルの前で後悔する事になるだろうさ!」
言葉を返した者が前方の空間に現れた小型機からの光に入る。
アルミーアを真似た者の姿が瞬時に消える。
「さあ来い、女神ミハル!」
手を引かれるミハルが振り返る。
自分が出した魔法障壁に阻まれても手を伸ばし続けるホマレの姿が瞳に焼き付く。
「ホーさん・・・ホーさん・・・ごめんね」
光に照らされたタームの姿が消えて行く時、ミハルは心の内を顔に出してしまった。
別れを告げて独りで立ち向かう寂しさと、友の心配に心を痛めて。
(( シュンッ))
光がミハルの姿を掻き消した・・・
「ミ・・・ミハルゥッ!行ったらあかんっ!!」
小型機は光を消すと、反転上昇して全速力で元来た方角へ飛んで往く。
ミハルが消えた事で魔法障壁が消える。
「待て!ミハルを返せっ!!」
魔砲力を全開にして追い縋るホマレを置き去りにして、
ミハルを乗せた戦闘機が遥か彼方へと飛んで往く。
「ちくしょうっ!なんでやねんミハル!
なんで独りで行ってしまうねんなぁ!」
叫ぶホマレの前には、もう小型機の影も観えはしなかった・・・
「ミハル・・・無事でいてくれや・・・
直ぐに助けに行ったるさかいにな・・・」
紅いリボンを握り締めるホマレは、敵の本拠地<暗黒大陸>へ目掛けて叫ぶのだった。
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巨艦が波を蹴立てていた。
それも数十もの数で・・・
「敵艦隊は第3艦隊へ矛先を向けたようです。
我々に向かって来るのは残存艦隊でしょう」
参謀が司令長官に報告を入れる。
「作戦参謀、それは君の意見かね?
どうしてそう言い切れる?」
源田司令長官が参謀の報告を鵜呑みにせず反論する。
「君は楽観し過ぎだな。
敵の規模を甘く見過ぎている・・・
敵主力艦隊は未だに出て来てはおらんのかもしれんぞ?」
慎重派の司令官の言葉に、参謀が委縮してしまう。
「君くらい楽観が私にも出来たらなぁと思うよ。
しかし、この度の戦は慎重でなければならん。
我々の手に人類全ての未来が懸かっているのだからな」
司令長官はそう教えると前方に塊る黒雲を見詰めた。
「暗黒大陸か・・・漸く観えて来たな・・・」
黒雲の下にある筈の島に向かっている有志連合軍主力艦隊。
この艦隊に人類全ての希望が託されていた。
艦隊が勝利を掴めなければ、則ち・・・
「この闘いに勝利を納められねば・・・人類の未来はない」
源田司令長官は覚悟を決めていた。
もし・・・その時が来るのなら・・・
人類に与えられた最期を甘んじて受け入れようと・・・
ミハルは神々の元へと旅立った。
敵の手中に飛び込む行為は、何を呼ぶというのか?
残された者達に与えられるのは闘いという修羅場。
<希望>を失った戦士達は未来を求めて戦おうとしていた・・・
次回 終わる世界 Ep9 Battle at Journey's End / 旅路の果てに立ちはだかる者 Part4
君達の前に立ち塞がるのは戦場という名の修羅場・・・
人類消滅まで ・・・ アト 33 日





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