第6章 終わる世界 Ep8 One They Call the Goddess<女神と呼ばれる者> Part9
ミハルの前から忽然と姿を消したミハリュー
自分の存在が揺らぐ・・・
己が誰なのか・・・調べるのだった
強制的にシステム介入を試みた。
パスワードの入力もすっ飛ばす勢いで・・・
「私は・・・ミハリューとは誰を指すのか・・・
神の記憶にいるミハリューとは何者なのか?」
音声入力がモニターに記される。
コンピューターの解答が記される。
<<もう一度初めから入力し直してください>>
入力ミスだと思ったミハリューが繰り返す。
だが・・・
「なんで・・・見つからないのよ?
なぜ私の事が何も記されてはいないというのよ?!」
コンピューターからの解答は白紙に近かった。
唯、一つの事を覗いては。
「ミハエル・・・あの娘が言っていた名。
それと私がどう繋がっているのか・・・ミハリューとの接点は?」
入力した問いに、一つの答えが記された。
<<ミハエルは神の神託を受けし天使なり。然れども闇に堕ち人界に消える・・・>>
確かにミハエルという天使は存在していたという。
「じゃ・・・じゃあ、そのミハエルの行方は?
ミハエルという天使はその後どうなったのよ?」
もしかしたら・・・そう考えた。
<<人界に堕ちた後、全能の神により女神を宿す娘の元へ送り込まれる。
敵対した堕神との契りを利用する為・・・全ては人類補完計画を発動するが為に>>
モニターに映る回答文。
「これって・・・ユピテルの親爺が?
全能の神が人類補完計画を初めから発動していたというの?
審判が下される前から・・・殲滅を企画していた・・・人類の?」
人類を殲滅させる事は審判の女神が下す決まり。
全能の神とはいえど、人類を消滅させる決定を独断で下せない事が掟。
「じゃあユピテルは・・・全能の神はずっと前から消滅させようと?
じゃあ、バリフィスの記憶は必要じゃなかったの?
審判の記憶が人類を裁く骨幹ではないというの?」
コンピューターは即座に回答をモニターに表した。
<<人類補完計画の発動は千年周期に発動される。
人類を裁く事は無意味、
そもそも<サタン>は自動的に人類を消滅させる機械にしか過ぎない>>
モニターの解答を読んだミハリューが見慣れぬ名を観て声をあげる。
「サ・・・タンだと?
その名は私でも知っている。大魔王にしてこの世を滅ぼす者。
我々神の怨敵・・・悪魔の王の名だぞ?」
コンピューターに向かってその名が意味する本当の事を探らせる。
<<通称<サタン>・・・人造人類を駆逐する為に開発された中性子発生装置。
地上人類最期の者が発動させた破滅装置にして人工知能を持つ兵器。
地上に再構築される世界の基礎を求める者達が<無>に期す為に稼働させた>>
人類殲滅装置自体が<サタン>と呼ばれるのだと記していた。
「自動的に殲滅させるのなら・・・私達が今行っている事自体が無意味じゃないの!
なぜ・・・私達神が存在して・・・人類を滅ぼしているのよ?
なぜユピテルは私に人類を駆逐しろって命じているのよ?」
自分の存在が揺らぎ始める。
殲滅の女神などは必要ない・・・存在しなくても構わないのだと。
<<今現在の千年周期には異変が発生中。
特異点が月の住人によって送り込まれて来た事に因るバグが発生。
現在ミッション発動中。
特異点を目覚めさせ<サタン>の回路に組み込まねばならない。
<サタン>の暴走を喰い止め、悪戯に人類を消滅させる事を停めねばならない。
地球を<サタン>の復活から護る<MIHARU>ミッションが発動中>>
自分には解らない。
知る術さえも持ち合わせてはいなかった。
世界の裏で起きている事象・・・全ての終わりと始まり。
神と悪魔、そして地上の人類。
全ては神の為せる業だと思い込んでいた。
全てが機械によって支配されていたとは思いもよらなかった。
自分が誰で、何を目的に遣わされたというのか。
本当の自分が誰で、何という名なのかも最早解りもしない。
「狂ってる・・・何もかもが」
ポツリと溢したミハエルがしゃがみ込む。
「こんな世界・・・絶対に間違っている。
自分がどこの誰だかも判らなくなって、やがては滅び去る。
いいように使われて・・・自分の記憶も心さえも奪われて・・・」
ミハリューなのか、ミハエルなのか・・・
そんな事はもう、どうでも善くなってきた。
唯、今は自分が何を為すべきなのかを考える。
「この世界が喪われるかは<MIHARU>に懸かっている。
そう・・・あのミハルに・・・何もかもが」
ふと見上げたモニターに映っているのは質問を求めるブランク表示。
「・・・最後に。
ルシファー・・・って、どうなったか知らない?」
モニターにミハリューの質問が表示され・・・
回答を映し出したモニターへ虚ろな目を向ける。
<<堕神ルシファーは・・・女神によって人へ転生した・・・>>
映し出された文字に、涙が零れ落ちた・・・
「ルシファーッ!」
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「けしからんっ!」
怒鳴り声が轟いた。
「すっ、すみませんっ!」
平謝りに謝るけしからん損な娘。
「そやそや!ミノリ姉さんの言う通りやでミハル!」
頭を包帯でぐるぐる巻きにしたホマレが頷く。
艦長と3尉を前に、ミハルは頭を垂れて謝り続ける。
「どーしてっ勝手な行動を執るのだ!
命令も無く飛び上がるとはっ、しかもたった独りで!」
「そやそや!ウチをこんな状態にしておきながら!」
腕を組んだミノリと、頭の包帯を撫でるホマレに怒られている。
「ホーさんのはっ!シャワールームに飛び込んで来たからっ!
ちょっと度が過ぎたかもしれないけど、正当防衛ですっ!」
度が過ぎたのはホマレの方だと応戦するが・・・
「人を気絶させといて、よぉー言うわ!
折角ウチがやな、背中を流してあげよーっとしたのに・・・ぼげっ?!」
黙って聞いていたミノリの飛び膝蹴りが炸裂して、哀れホマレは吹っ飛んだ。
「今のは・・・聞かなかった事にする。
それよりミハル。
私はお前の為だけを言っているんじゃないのだぞ?!
お前の身体は最早お前だけの物じゃない事を自覚して貰わねばならんという事だ。
艦隊にとっても、人類全てに於いても・・・なのだ!」
ミノリが言いたい事。
それはミハルはもう、ミハルとして振舞うだけでは済まなくなったのだと。
「はい・・・すみませんでした・・・」
自分に課せられた重圧。
人類を背負って闘わねばならない事。
今迄みたいに自分本位で行動する訳にはいかないという事。
「いいかミハル。
お前が大切な人を救い出したい事は知っている。
その為に有志連合軍に加盟している事にも。
しかし、もう時局はそれさえも許さなくなっているのだ。
明日には作戦が決行される・・・しかも・・・
今迄の様には問屋が卸さん戦局になるだろう。
今、ミハルを失う事は人類全てにとって計り知れない損失になる。
戦争に勝利できるかどうかの瀬戸際に立っているんだと心して欲しい。
勝手な行動を執り、ミハルが居なくなれば我々には<希望>が無くなる。
我々にとってミハルは女神というだけでは無いのだ・・・
人類の存亡を担った<希望>なのだ」
順々にさとすミノリの横で、ホマレは眼を廻して失神している。
艦長ミノリの言葉に、ミハルは目を伏せて頷く。
「私・・・私は。
この闘いが終わるまで助けに行く事も出来ないんですね?
リーンに逢いに行く事も出来ないの・・・ですね」
答えたミハルがそっと月夜を見上げる。
「ミハル、今は我慢してくれ。
もし、ミハルが戦闘の場に居なくなれば・・・我々だけでは勝つ事は出来ない。
多くの命の為、闘う仲間達の為・・・我慢してくれ」
言葉使いは優しかったが、ミノリの眼は言っていた。
「私に・・・リーンを・・・見殺しにしろと?
私の一番大切な人を見捨てろと言うのですね・・・」
見上げた月が、雲に隠されていく。
雲の中に隠される月を、ミハルとミノリは無言で見上げる。
<薩摩>の甲板が明りを失い黒い闇に支配され、
真っ暗な甲板に、2つの人影だけが霞んで観えた・・・
決戦の時が近付き、艦隊に緊張が奔る。
ミハルは助けたい者の事を想い続けるのだった・・・
いよいよ・・・リーンの身が危なくなってしまう・・・
間に合うのか?間に合わせられるのか??
女神となった者は一つの誓いを起てるのだった・・・
次回 終わる世界 Ep9Battle at Journey's End<旅路の果てに立ちはだかる者> Part1
君は闘う運命だったのか・・・滅ぶと知っていても
人類消滅まで ・・・ アト 36 日!