第6章 終わる世界 Ep8 One They Call the Goddess<女神と呼ばれる者> Part8
月夜に浮ぶのは<理を司る者>太陽神ミハルの姿。
何もかも悟ったように見下すその瞳には、何が映っているというのか?
月明りを背に受ける女神が告げた。
「あなたは自分の素性が分かってはいないの?
自分が誰なのかが本当は解っていないようね。
記憶を操作されて・・・いいえ。
誰かに操られている事に・・・ミハエルさん」
太陽神の魔法衣を着たミハルが殲滅を司る女神を見下ろす。
「な・・・にを・・・言っているんだ?
私はミハリュー、殲滅を司る女神だ!」
言い返すミハリューが断言する・・・が。
「いいえ、ミハエルさん。
私には解るんだよ、だって私は<理を司る者>なんだから」
見下ろすミハルが太陽神の天秤を現し突き出すと。
「嘘だと思うのなら、この天秤に指し示したら良いよ。
自分が誰なのか、なぜ私があなたの事をミハエルさんだと解ったのかが表されるから」
<理を司る女神>太陽神ミハルの左手に持たれた真実を図る天秤が、
殲滅を司る女神と、大天使ミハエルたる者を量るべく差し出される。
「うっ?!そんな事がある訳が無いっ!
私はミハリューだ、それ以上での以下でもない」
抗うミハリューがたじろいだように後退り、天秤を恐れる。
「ミハエルさん、抗うのなら・・・信じられないというのなら。
調べれば良いじゃない、あなたが本当にミハリューというのなら。
この秤に掛かれば全てが明かされるのだから・・・」
太陽神ミハルが真実を量る天秤を差し出しながら勧める。
「私が感じた事を疑うのなら、自らで証明してみたら?
殲滅の女神だなんて言ってるけど・・・それは誰に言われているの?
操られている事も、あなたが誰だという事もはっきりするから」
突き付けられた天秤に抗う様に後退るミハリュー。
自分の事を着け狙う殲滅の女神が誰なのかが分かってしまったミハル。
双方が睨みあう中、ミハルが悲し気に呟く。
「ミハエルさん、あなたは操られていたのね。
私を一度死に追いやった・・・時も。
大切な・・・とっても大切な人達を私から奪い去った時も。
そして・・・彼も。
ルシちゃんを私から奪い去った・・・あの時も」
睨む瞳から涙が溢れる。
真実を知った時、ミハルは悲しかった。
操られていたとは謂えども、自分にとって一番大切な人を消滅させようとした娘に。
邪魔になる者として攻撃した娘に対して・・・涙が溢れてくるのを停めれなくなる。
「ルシちゃんは私にとって掛け買いのない人に成っていたの。
ミハエルさんとの約束を果たそうとしていたルシちゃんの事が。
最期の瞬間まで私に寄り添ってくれていたルシファーを、
私自身が送り出す事になった・・・約束を果たしてあげたかったから。
あなた・・・ミハエルさんとの約束を果たしてあげたかったから。
その時の気持ちがミハエルさんには解る?
私がどんな想いでルシちゃんを送出したかが・・・解る?」
睨むというより、訴えるかのようにミハリューの心に語り掛け続けるミハル。
涙の訳に圧され、後退り続けるミハリュー。
「あなたはルシちゃんとの約束までも忘れちゃったの?
一番大切な約束も失っちゃってしまったの?
例え操られているとしても思い出さなくてはいけないんだよ?」
諭すが如く・・・
教える様に<殲滅の女神>に話しかけるミハルの眼を見詰めたミハリューは。
「信じられるか・・・信じろと言うのか?
私が女神では無いと・・・この力が天使如きに扱えるものか!」
抗うミハリューが剣先を太陽神目掛けて伸ばす。
しかし、紅き光はミハルに突き立つ事は無かった。
「やめてミハエルさん。
もう気付いて・・・あなたの力では私を倒せない事に」
左手に現れた盾で防いだミハルが首を振る。
最早、太陽神として目覚めたミハルにはミハエルの力では太刀打ちできない。
ミハエルの魔力程度では傷つける事さえ、不可能になってしまったのだと。
「くぅっ?!お前なんかにっ!
お前如きに私がっ、私がぁっ!」
紅き剣を打ち付けて叫ぶミハリュー。
太陽神の盾には疵さえも付けられない・・・
気が狂ったかのように剣を打ち付けてくるミハリューをあしらって、
ミハルが悲し気に言ったのは・・・
「どうしても判らないというのなら・・・裁きの天秤に載せる。
あなたに矯正を与える事になるわよ?
それがどんな事になるか判らないけど・・・
その身体では居られなくなるかも知れないけど・・・いいの?」
太陽神ミハルの声に漸く我に返ったミハリューが飛び退く。
「うっ、うるさいっ!誰がお前なんかの審判を受けるものか!
お前を神々の神殿に連行すれば全ての方が付くんだ!
そうする事だけが私の任務、そうしなければバリフィスが壊されてしまうんだ!」
必死に叫ぶミハリュー。
自分の存在を疑い始めた証。
ミハルはミハリューの変化に気が付いた。
叫ぶミハリューの髪が、白く変わり始めた事に。
それはミハリューが闇から抜け出そうとしている。
闇に染まった心が、何かに気付いた証。
「そう・・・だったら。
あなたをここへ送り込んだ者に問い質すといいわ。
私を必要とする訳を。本当は何が必要なのかを・・・ね」
ミハリューと名乗らされる訳が判る筈だから。
ミハルはミハエルとして再び蘇る事に期待していた。
殲滅を名乗らされた生まれ変わる前の天使に。
「ミハエルさんが私の生まれ変わる前の天使だというのなら。
太陽神ミハルの名において許してあげます。
ルシファーや友を奪った事を・・・あなたが自分を取り戻せるというのなら」
眼を瞑って、敵意が無い事を示すミハル。
目の前に居るミハリューから敵意が感じられなくなった事で。
「私も一緒に連れて行ってくれてもいいんだよ?
私もリーンに逢いたいし・・・話す事だってあるんだからね」
目の前に居るミハリューが言っていた、
最期の機会との言葉を思い出して自ら赴くと言い放った。
「だから・・・ミハリュー。
あなたと闘う必要なんてなくなったの・・・一緒にリーンを助けよう・・・」
ミハルがミハリューに促そうと眼を見開いて話したのだが・・・
「えっ?!」
敵意は確かに感じられない。
だって・・・
「ありゃっ?!」
周りを見渡す。
・・・ミハリューの姿は何処にも観えない。
「えっ?!うそっ?!」
慌てて見渡したが・・・もぬけの空・・・
「あの~ぅ・・・」
いつの間にかリィ君も魔法石から出てきていたようで。
「ミハルが目を瞑ってる間に行っちゃったよ?」
ぴくぴく震えるミハルに恐る恐る声を掛けて来た。
((ヒクッ))
「な・・・ん・・・で・・・すっ・・・てぇ?!」
顔を引き攣らせるミハルがリィ君に聞き咎める。
「だからっ!ミハルが御託を並べてる間に帰っちゃったんだってば!」
((ヒクッ))
「なんで早く言ってくれないのよぉ!」
損な娘は月夜に叫ぶ・・・やっぱり赦せんと・・・・
「最期まで私の話を聞けぇーぇっ!馬鹿ちんがぁっ!」
やっぱり・・・ミハルはミハエルの生まれ変わりなのかもしれない・・・な
月夜の空に残ったのは・・・損な女神ミハルと龍の子リィ君だけだった・・・
最後は・・・やっぱりミハルだったと言う事か。
ミハルの言葉で何かを思い出したのか、ミハリューは神の神殿へと馳せ戻ったようだが。
次回 終わる世界 Ep8 One They Call the Goddess<女神と呼ばれる者> Part9
君は自分が誰だかを問う・・・大切な約束を取り戻そうとして
人類消滅まで ・・・ アト 36 日





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