第6章 終わる世界 Ep8 One They Call the Goddess<女神と呼ばれる者> Part7
魔砲を使う者・・・
魔砲を放つ者・・・
それは神が与えた魔法の力。
人に与えられた可能性の一つ。
人類が変わる為に地上へ降りた娘と共に与えられた<希望>・・・
「出向いてやったのに、居留守をつかうつもり?
このミハリュー様を待たせるなんて、良い度胸ね?!」
月夜に囀るのは黒き魔法衣を纏う女神。
「あんな事を企てておきながら、出て来ないなんて!
女神を馬鹿にするにも程があるわよっ!」
腕を組んで見下ろすミハリュー。
眼下の艦隊は知らずか、何事も無いように進撃している。
「そっちがその気なら・・・何隻か沈めてやろうか?!」
声高に叫ぶ女神ミハリュー・・・だが。
「聴こえんのか?!あの娘を差し出せって言ってんのよ!」
幾度叫ぼうが眼下の艦隊には異常が認められない。
「・・・赦さんっ!」
ピクピク震えながらデバイス剣を手に出現させる・・・
と。
その途端に。
「ちょっと!遅かったじゃないっ、待ちくたびれたわよ!」
背中越しにミハルの声が掛けられる。
「うわぁっ?!いつのまに?」
月をバックに現れたミハルに飛び退き、目を向いて驚いた。
「さっきから居るわよここに。
あなたの邪な気が呼んでたから・・・ね」
月明かりをバックに現れたミハルが呆れたように答える。
白い女神の魔法衣姿で、月明かりを背に受けたミハルが見下ろしている。
ミハリューの眼に映るミハルの姿は神々(こうごう)しい位に輝いて観えた。
「キッ、サマァっ!
バグの分際でっ、私を愚弄する気か?!降りてこい!」
剣を突き出し、自分を睨むミハリューにため息を吐きながら、
「はいはい、今そっちに行くから…」
すぅーっとマントを靡かせ、敵意をむき出しにする女神に近寄った。
「で?返事を聞かせてくれない?
どうしたらリーンを返してくれるの?」
いきなりミハルは本題を切り出して来る。
目の前まで降りて来て、問われたミハリューが牙を剥き言い返す。
「それは・・・お前をぐちょんぐちょんに叩きのめせば良いんだ!
これまでの恨みを晴らしてやるっ!
そんでもって身動きできない様にして連行してやるっお前ごと。
そうすればバリフィスも壊されずに済むんだからな!」
吠えるミハリューが剣を突き出し言い放つ。
「待って!」
闘おうとするミハリューを手で制したミハルが訊き返す。
「私が倒されれば、リーンは壊されない?
どういう意味?リーンが壊されるって?」
一方的に告げられた言葉の意味を問い直す。
「解らんのかお前には?
バリフィスがお前に授けたデバイスを差し出せと言ったんだ!
記憶のデバイスを・・・
それが無いとバリフィスは壊され、記憶装置を取り出されてしまうんだぞ!」
突き放された言葉に、ミハルは胸のネックレスを押さえる。
「これ?このネックレスをあなたにあげれば・・・リーンを救えるの?」
リーンから授かった記憶が詰め込まれたネックレス。
戦いの最中砕けた・・・蒼い魔法石が付いているリーンのネックレス。
このネックレスだけがリーンとの接点。
このネックレスに詰められたリーンの記憶・・・
それは審判の女神であるリーンが人類を護る為に自分に託した記憶。
「そうだ!バリフィスの記憶を差し出せ。
そうすればバリフィスはユピテルの親爺に壊されずに済む。
人類補完計画に則り、終末兵器を作動させる為にはそれが必要だと聞いている。
それが無ければ終末兵器は起動すら出来ないのだからな」
ミハリューは当たり障りが無いと判断した部分を知らせた。
その瞬間に、ミハルの眼がピクリと跳ね上がる。
「そ・・・っか。
リーンの記憶がなければ・・・殲滅なんて出来ないんだ?」
ミハルの口元が緩んだ。
「そう聞いているから・・・それを渡せ!
さもないとバリフィスは破壊されて・・・」
言い募ったミハリューの声が遮られる。
ニヤリと笑うミハルの顏に。
「なっ?!なにを笑うんだ?
バリフィスの事が心配じゃないというのか?」
月明かりの元、嘲笑うかのように口元を歪めたミハルに動揺する。
「ふっ!ふふふっ!聞ぃーちゃった!
リーンの記憶が無いと、終末兵器は作動出来ないんだよね?
このネックレスさえ護れば人類は殲滅を免れるって事よね?
リーンが私に授けてくれた記憶さえ渡さなければ起動も出来ないんでしょ?
じゃぁ、あーげない!」
ツンっと明後日の方を向いたミハルが宣言する。
「んなっ?!なんだとぉ?おまえっ、それがどういう事になるのか解っているのか?」
あっさり拒否されたミハリューが慌てる。
「どうもこうも。
記憶を渡しちゃったら殲滅機械が作動するって言ったよね?
そんな事をしちゃえば、折角助けたリーンも私も・・・みぃーんな。
みんなが殲滅されちゃうんでしょ?破滅兵器に因って・・・
だぁーかぁーらぁーっ、嫌!」
指を突き立て、ミハルが拒絶する。
「あ・・・なんだってぇ?バリフィスを助けたくないと言うのか?」
自分が言ってしまった事で、ネックレス回収の道が閉ざされてしまった事に焦るミハリュー。
「ううんっ、助けるから。
だけど、今直ぐって訳にもいかないんじゃない?
リーンには悪いけど、もう少し待って貰う事にするんだ」
「な・・・ん・・・だ・・・てぇっ?!」
あっさり言い返され、益々慌てふためくミハリュー。
今回が自分に残された最後の機会だというのに。
目の前に居る<理を司る者>は平然と言い除けてしまったから。
「馬鹿馬鹿馬鹿っ!そんな悠長な事を言って!
ユピテルがバリフィスを破壊したらどうするんだよっ!」
焦るミハリューが何を呑気に構えてるんだと喚いたが・・・
「それに・・・言ったよね?
リーンの記憶だけでなく・・・私も連れて行くって?
それって、本当は私が必要なんじゃないの?
リーンの記憶だけが必要なら、私を壊してでも奪い去ればいいのに。
この間から私を消し去らずに連れて行くって、話が変わってたもん。
怪しいなぁーって思うんですけど?」
((ぴくんっ))
冷や汗がミハリューの額に浮かぶ。
ー バッ・・・バレテーラ・・・
「ほ・・・おほほほほっ?!さぁーてぇ、ナンノコトヤラァ(硬)」
「・・・声が固いよ?やっぱり・・・そうなのね?」
腕を組んで見詰められたミハリューは恍けたが、あっさり看破される。
このままでは埒があかないと思ったミハリューが焦りを苛立ちに替えて。
「うるさいっ!こうなりゃー強硬手段しかないわ!」
剣を構え直して突きかかって来る。
「お前が言う事を聞かないというのなら!
お前が護ろうとする物をみんな消し去ってやるまでよ!」
目前でくるっと身を翻したミハリューが艦隊に向かおうとする。
「はぁーっはっはっはっ!お前には歯が立たなくても人質を獲りさえすれば!」
やっぱり・・・闇堕ちした女神の行動は邪だという事か?
ミハリューは一目散に<薩摩>目掛けて降下して行く・・・
が。
「あなたねぇ・・・どんだけ卑怯な手を使おうとするの?
それでよくも女神だなんて言えるものね?」
<理を司る女神>の剣と盾を装備したミハルが廻り込み。
「とりゃっ!」
ミハリューが咄嗟に構える前に・・・跳び蹴りを噛ます。
((ドゴォッ))
もろに飛び蹴りを喰らったミハリューが噴き跳ぶ。
「あがっ?!げほぉっ!」
女神の飛び蹴りは破壊力抜群・・・
殲滅を司るミハリューに対し、蒼き剣を揮わなかった訳は。
「どう?私の龍乗キックは?
こう見えても翔龍使いなんだよねぇ私って」
胸元にある太陽神のペンダントを指差して笑いかける。
「キッサッマァ・・・ゲホゴホ・・・舐めおってぇ!」
明らかに力の差を思い知らされたミハリューが痛みに耐えて睨み返す。
邪なる赤黒き瞳で・・・
「そうそう!ミハリュー。
あなた、デサイアさんに言っていたよね?
バグがどうとか・・・覚えてるかな?
あの話なんだけど、ちょっと違うと思うんだよね」
睨む自分に対し、朗らかに話しかけてくる蹴りを喰らわした娘。
その娘が言い放った。
「ねぇあなた。
やっと解ったんだ・・・今の蹴りで。
触れられたから・・・あなたの身体に・・・
あなたって・・・ミハエルさんじゃないの?」
微笑みを浮かべていたミハルの眼が、すぅっと細く研ぎ澄まされた。
蹴りがそれを呼んだ?
体に触れられたミハルには何が解ったというのか?
ミハリューの事を自分の生まれ変る前の名で呼んだミハル。
そう・・・<理の女神>には目の前に居る者が誰なのか解ったというのか?
次回 終わる世界 Ep8 One They Call the Goddess<女神と呼ばれる者> Part8
君は友に闘った事のある者を呼び覚ます・・・彼の名を知らせる事に因って!
人類消滅まで ・・・ アト 37 日