第6章 終わる世界 Ep8 One They Call the Goddess<女神と呼ばれる者> Part6
捕えられたリーンの意識は闇に抗う・・・大切な人を想い
太陽神に目覚めたミハルを想い叫ぶのだった・・・
闇に蠢く者と意志で疎通しているリーン。
今明かされたのが現実世界の事とは、俄かに信じられなかった。
人として生きて来た記憶が、それを拒むかのように。
「あなたが大魔王だと言い張るのなら。
本当の神はどこに居るというの?
神と崇められるモノは存在するというの?」
リーンは全能の神として存在する者が大魔王と名乗る訳を訊く。
「神と悪魔はこの世界に居る人の上に立つ・・・同じように人を導く存在といえる。
光と影が存在するように、神と悪魔が存在するのが決まり。
人が過ちを正す事が出来ないのならば造り替えるのが神の意志。
そう・・・私に命じた者こそが神たる者。
この世界に居る神とは・・・遠く宇宙から観ている人なり・・・」
揺らめく影が審判を託された女神に言い切る。
「千年毎に審判が下され、その度に人類を消滅させ続けるのが役目。
それは度重なる過ちを正すが為。
幾度、形を変えて人類に再生を促そうが果たされない未来への<希望>。
何度造り替えても本質は変わらない・・・人類は欲望を捨て去る事が出来ない。
されど、私に与えられたのは地上にいる人類を消滅させる力。
私を停めれるのは、送り込まれて来たあの娘以外には居ない。
MIHARU・・・そう名付けられた月の住人でしかアンインストール出来はしないのだ」
月の住人だった娘が、繰り返される惨劇を停める為降り来たったという。
その意志が大殺戮を停める事が出来る唯一の<希望>だとも。
「つまり・・・あなたを作動させない為には、
ミハルに眠るデバイスで書き換えるしかないと?
タイムリセットが訪れるまでにミハルの中に眠るMIHARUであなたを消さねばならない。
それを防ぐ為に捕えようとするのね?
殺さず、消去せずに・・・なぜ?」
リーンは影に、なぜミハルを捕らえようとするのか。
なぜ存在自体が己にとって危険なミハルを手元に求めるのかを問い質す。
「先にも言った。
神たる人間は監視し続けているのだと。
月の裏側に住まう神は世界の行く末を見続けていると。
送り込んだ娘が私を停めれるか、失敗するのかを。
MIHARUが失敗におわれば・・・則ち・・・諦める事になる。
人類の帰還に、月からの帰還を断念せざるを得ないという事を」
ミハルは月の住人にとっても<希望>であるという。
この世界に下った月の住人が託したのは、全ての人類が求める事。
地上の人、脱出者たる月の住人・・・
全ての人類が遍く求める<希望>。
=生き続けられる事・・・則ち<希望>=
ミハルに課せられた宿命の重さに、リーンは気が遠くなりそうだった。
「ミハルが・・・そんな運命を背負わされているなんて・・・」
呟きは声にならない。
唯、意識の中でだけ・・・悲しみの声をあげていた。
「あの娘が覚醒しなければ意味がない。
私はMIHARUとなるように何度も試みた。
人を使い、闇の住人を使って・・・しかし目覚めなかった。
何かが足りていない事は明白・・・それがそなたの中にあると読んだ。
だから・・・そなたを拘束した。
その結果は間も無く判る筈だ・・・
ミハエルが生まれ変わりと信じた娘を連れて来れば・・・」
その言葉で何もかもが紐解かれた。
この大魔王を名乗る終末兵器の意志が、全てを起こしたのだと。
ミハルの始り・・・
自分との邂逅・・・
悲惨な戦争も・・・
何もかもがMIHARUを覚醒させる為・・・
終末兵器を作動させる為だと。
リーンは思い出していた。
ミハルが闇の中へ貶められた時に、魔王ルシファーに教えられたと言っていた話を。
自分を<無>にしようとはいなかった魔王。
闇に貶め無限の苦しみを与えたにも関わらず助けた話・・・
人の<真理>に目覚めさせようとしていた事・・・
そして・・・<無>を拡散する大魔王を目覚めさせるには人の魂を貶めなければならないと。
ー 全ては・・・ミハルを覚醒させる為・・・私もその道具でしかない。
終末兵器が何故そんな力を持つようになったのか。
人を造るのは神たる月の住人の仕業の筈。
なのに・・・何故?
「大魔王・・・これからはそう呼ぶわ。
あなたはどうして人を自由に・・・いいえ。
闇の住人でさえも、自由に操れるようになったというの?」
問われた影が揺らめく。
まるでリーンの問いに嘲笑うかの如く。
「愚問だなバリフィス・・・リーンよ。
AIというモノは自ら進化するように造られている。
自己意識が与えられた人工知能は、繰り返される事象に対応するべく進化する。
絶対の命令に従う為に・・・それが答え。
人が造りし知能は絶えず進化を続けるように求められただけの事」
大魔王の答えは絶望を呼ぶ。
人工知能は、最早人を越えようとしている。
人知を超えた神にも等しい力を宿したというのか。
「私は絶えず観ていた。
MIHARUが起動する時を待ち望んでいた。
間も無く訪れる千年審判に間に合うべく、促し続けていたのだから」
その時は間も無く訪れようとしていた。
リーンに手を出してきた理由は、終末兵器を作動させる時間が迫った為。
MIHARUを起動させる鍵がリーンにあるとみたからだと言った。
ー 私が居なくなれば・・・消滅してしまえば。
ミハルは覚醒しない・・・人類は殲滅を免れる?
リーンは自己消滅を考える。
だが、大魔王は既に読んでいたのか。
「無駄な事だ。
そなたをどうして眠り姫としたか考えなかったのか?
意識は自らの手で消す事は叶わぬ。身体は思うままにならぬ。
どうやって消滅するというのだ?
私の道具でしかない、そなたに打つ手は残されていないのだ」
リーンの心は砕け散りそうになる。
仇の前で手足を縛り上げられるような無念を感じて。
「そなたは私の道具。
MIHARUの覚醒を果たす為にだけ存在する、唯の人形でしかないのだ」
人知を超えた大魔王の前で、リーンは心の叫びをあげる。
愛しい人を前にした時こそ、自らの終末を迎える事になる・・・
自分の手で愛する人を敵に貶め、人類の<希望>を絶つ事にもなる事に。
「ああっ?!ミハル来ないで!お願いだからここへは来ちゃ駄目っ!」
叫ぶ心に悪魔は嘲笑う。
「叫ぶが良い!どれ程叫ぼうが最早手遅れ。
そなたに因ってあの娘が覚醒し、<無>を撒き散らす様を観るが善い!」
大魔王の嘲りに、リーンは涙を零すばかりだった・・・
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夜の帳が空に忍び寄る。
艦隊上空に配置されていた偵察隊もそれぞれ母艦へと帰投した。
「なんだかなぁ~っ、待ちくたびれたわぁ~」
ユニホームを脱いだホマレが背伸びをする。
「そうだねぇ~、今日はもう来ないのかなぁ」
眠そうに目を擦るミハルも退屈そうに欠伸をしてしまう。
頭に載った龍の子は・・・すでに寝ている。
「なぁ~んも現れへんかったなぁ。
今日は諦めて一っ風呂浴びたらどうや?気分転換にもなるで?」
ホマレが勧めてくると、眠そうなミハルも腰を上げると。
「そっだねー、そうしようかな」
頭にリィ君を載せたまま、シャワールームへ歩き始めた。
「そうそう、早よ行きぃー」
士官次室から出ていくミハルを眼で追いつつ、ホマレが促して・・・
「チャ~ンスゥ・・・・にやりンコ」
善からぬ目を輝かせた。
「今日は来なかったねぇミハルぅ」
シャワールームの外で。
守護役としてリィ君が見張っている。
((シャアアァッ))
シャワーの音で聞こえないのか、リィ君への返事が返って来ない。
「明日はどうかなぁ、あの女神の事だから何か企んでるかもしれないよ?」
((シャアアアッ))
「ねぇ・・・ミハル?」
返事が来ないから龍の子が心配して声を少し大きくしてみた。
「うん・・・そう・・・かもしれない」
帰って来たミハルの声が辛そうに聞こえたリィ君が咄嗟に聞き返す。
「どうかしたのミハル?なにかあったの?」
龍の子が思わずシャワールームに振り返ると。
「大丈夫・・・ちょっとリーンの事が気になって・・・ね」
シャワーの音と共に、ミハルの声が返って来た。
少し悲し気に・・・少し辛そうに・・・
「ミハルぅ・・・」
龍の子の心配げな声は届かなかった。
夜闇で観たリーンの事が忘れられないミハルには。
頭の中一杯がリーンの事で埋め尽くされたミハルには・・・
((シャアアアアァッ))
頭から浴びるシャワーで、涙が掻き消える。
「リーン・・・ごめんね」
救えなかった・・・救いたかったのに。
ミハリューと共に現れた女神のリーンに、詫びる心。
やっと逢えたというのに、そのリーンから攻撃を受けた悲しみ。
覚悟はしていた筈なのに、実際に闘う事になる悲劇を想う。
「私・・・きっと助けに往くから。
待ってて・・・私の御主人様・・・リーン」
リーンが求めるのなら、何でもすると誓った事も。
リーンの為なら、どんな辛い目にでも我慢すると約束した・・・あの日を思い出す。
「私が消される事になろうとも・・・助け出すからね」
シャワーの音で掻き消された筈の声が、宿る者にははっきりと聞こえていた。
「ミハルぅ・・・泣かないで・・・」
心配げな龍の子が慰めるように呟く・・・
「ミハル・・・泣きたいわ」
シャワールームの角で、もう一人涙を堪えている姿が。
「まさか、見張り番をつけていたとは・・・ぬかったw」
シャワールームに突撃しようと構えたホマレの残念過ぎる姿が・・・
ホマレ・・・(笑)
ミハルはリーンを想い
リーンはミハルに叫ぶ
そして・・・ミハリューはやってくる・・・・
次回 Ep8 One They Call the Goddess<女神と呼ばれる者> Part7
君は触れてしまった・・・仇の娘と想っていた女神に・・・
人類消滅まで ・・・ アト 38日!