第6章 終わる世界 Ep8 One They Call the Goddess<女神と呼ばれる者> Part3
東に向かった艦隊は、敵の接触を防ぎ切れていなかった。
逐一、艦隊の行動は敵の知る処となっていた。
明らかに敵は有志連合軍第3艦隊に対し、警戒を怠ってはいない事が解る。
それは一人の女神が居たから。
敵はその女神に対し、何らかの行動を執る恐れがあった。
艦隊を向かわせてくるのか・・・それとも?
「ミハルゥ~っ、この2日程敵が来ないねぇ」
頭の上からリィ君が訊いて来る。
「そうだね。それはそれで良いんじゃないの?」
齧られながらミハルが上の空で答える。
士官次室で机に向かって何かを書いているのを見ながら龍の子が、
「で?それをミハリューっていう女神に渡すの?
黙って受け取る筈が無いんじゃないの?」
齧るのを停めて、不思議そうにミハルに訊くのだが。
「黙って受け取ってくれなくったって・・・何とか話してみるから」
一心に書き綴る文章には。
どうすればリーンを返してくれるのか、何が目的なのか。
そして、もう闘わなくて済むには何を差し出せば良いのか・・・
そうした事が書き連ねられていた。
「これをどうやってミハリューに読ませるの?
差し出したって、はいどうも・・・って受け取るような奴じゃないよ?」
頭を捻ったリィ君が訊ねると。
「うん、そうだよね。だから直に渡すんじゃなくって。
敵に運んで貰おうかなって・・・考えたんだ」
「敵に?それって・・・捕虜でも取る気なの?」
書き終えたミハルが封筒に納めながらニコリと笑う。
微笑まれたリィ君が自分の言った事が、あながち冗談事ではないと解る。
「えっ?!本当に?
敵の機械を捕まえるの?どうやって?」
話に夢中になったリィ君が机の上に降り立ち、ミハルを見上げて訊き直す。
「機械を捕まえるなんて冗談でしょ?
もし捕まえたとしたら、その場で自爆しちゃうんじゃないの?」
「そ・・・だねぇー」
頬に指を当てて考える仕草をみせるミハルに。
「なんだ・・・また考えてなかったんだ・・・」
思い付きを話されたのかと、龍の子が落胆した。
その様子にミハルがまた笑い掛けて。
「あははっ、冗談だよ。
ちゃんと考えてあるから、大丈夫!」
胸をトンと一叩きして龍の子に考えた作戦を教えた。
「「敵接触機、艦隊の北方から近づきます。距離8マイル!」」
艦橋からの報告で飛行甲板に足を運んだ。
「ミハル?なんで出るんや?
隊長自ら出馬する必要なんてあらへんやろ?」
相手が唯の一機で、しかも偵察が任務と思われるのに。
ホマレが止めたのも頷ける。
「ううん、今回は私だけで行かせて。
ちょっと渡す物があるから・・・郵便屋さんに、ね?」
ミハルが魔法衣姿にチェンジして断ってくる。
「うん?なんやそれ?ますます訳が判らん事を・・・」
カタパルトに乗ったミハルに小首を捻るホマレ。
艦隊の偵察を任務とした敵小型機一機にミハルが何をしようと企んでいるのか興味を惹かれたが。
「まぁ、偵察機一機に二人で出なあかん事もないやろーし。
ミハルが何を考えているんかも分からんし・・・ここは一つ、様子見やな」
一緒に出撃する事も無いと踏んだホマレが納得して、
「万が一の為にウチも準備だけはしとくさかいにな?」
射出準備が整ったミハルに一言断りを入れる。
デバイス槍を右手に携えたミハルがホマレに頷いて答え、前方の空を見上げた。
「じゃ、ちょっとポストまで行ってくるよ!」
打ち出されたミハルを見送って、ホマレはまたまた小首をかしげるのだった。
「ちょうどいいな、あの雲が隠してくれそう」
飛び上がったミハルは、敵偵察機に見つからないよう後方から近づいていく。
艦隊の上空には適度に雲が貼り付いていた。
敵偵察機も断雲に身を隠しつつ、情勢を伺うそぶりをみせている。
雲を隠れ蓑にしたミハルが気付かれないよう後下方から忍び寄っていく。
<ミハルぅ~っ、本当にするのぉ?>
胸の魔法石から龍の子リィ君が訊ねてきた。
「しぃ~っ、静かに!
音声も聴音されてるかもしれないから・・・って。私か・・・」
声を出したのはミハルだけだった。
<あのねぇ・・・緊張してるのはミハルでしょ?
それにしても・・・ホントにやるの?>
魔法石の中から意志だけで疎通してくるリィ君に。
<やるの!チャンスなんだからっ、絶好の!>
雲に身を隠してこっそりと近付くミハル。
何をしようとしているのか?
リィ君はなぜ戸惑うというのか。
<ミハルぅ~っ、機械が素直に言う事を訊いてくれると思うの?>
敵偵察機に忍び寄る最中にも、龍の子は心配気に訊いて来る。
<訊いてくれるかどうかなんて関係ないから。
多分私の思う通りだと・・・心配ないよ!>
どんな作戦を思いついたというのか?
リィ君にだけ教えた作戦とは?
<しかし・・・ミハルってとんでもない事を思いつくんだねぇ>
呆れたかのようにリィ君はため息を吐く。
それには答えず、目前に迫った敵偵察機に集中して。
<それじゃぁ・・・((どっきりカメラ大作戦))開始だよ!>
・・・
作戦を決行に移すのだった・・・
艦隊を見張る様にプロミングされた小型機は、艦隊の情報を採る為カメラも回していた。
海上を進む艦隊の画像を逐次報告する為に。
((バン))
何かが機体に接触したのか、突然画像が乱れた。
その瞬間、偵察機にアラームが鳴り響いた。
「「警告!警告!機体に障害物が付着!直ちに確認せよ」」
艦隊を映していたカメラが障害物を検知して画像を映し出した。
「「警報!警報!人類が付着している模様!ズームして確認せよ」」
カメラはあるまじき行為を行う者に向けられる。
「「蒼髪と蒼い瞳を確認!魔砲師と思われる・・・」」
機体下部に張り付いた人間にズームして画像を識別する。
「「障害物は目標と思われる、画像を至急転送。指令、音声も聴取せよ」」
カメラだけではなく人間が発しているであろう声も録音するように判断を下した。
「やっほぉーっ!聞こえてるかなぁ?
私だよミハリュー!ミ・・・ハ・・・ルっ!
あのねぇ、この機械さんにお手紙託すからぁ、読んでねぇ?!」
偵察機の下部に張り付いたミハルが封筒を差し出してから・・・
((ドゴンッ))
魔砲で機体下部を打ち壊した。
「ここに仕舞っておくからぁ~っ、ちゃんと読んでよねぇ~っ!」
風圧で言葉がややおかしいが、伝えたい事は話す事が出来たとにっこり微笑んで。
「それじゃぁ~っ、ちゃんと返事を返してねぇ~っ!
ヴィっ!」
紅いレンズがこちらを向いているのに併せて、
にっこり笑うミハルがVサインを贈って・・・
「バァイバァ~ィっ!」
手を振りながら急降下して離れて行った。
<ああああっ・・・・・マジか?>
リィ君が頭を抱える。
「ふふふっ!どうリィ君!
巧くいったでしょう?私の((どっきりカメラ大作戦))!」
離脱した敵機が損傷を受けて直ちに引き上げるのを見ながら、自慢げにミハルが言い切った。
<・・・どっきりかどうかは知らないけど。
とにかく、手紙を渡す事にはなったかな・・・っと>
付き合わされたリィ君はミハルの考えが巧くいったのか計りかねて・・・
<後は・・・手紙が辿り着くまであの機械が飛び続けられる事を祈るよ>
ため息と共に気になる一言を呟いた。
((ぴく))
ミハルが固まる。
<だって・・・機体に穴が開いちゃってるんだから・・・さ>
((ぴくくっ))
ミハルが石になる。
<航続距離がどれくらいあるのか・・・辿り着く前におっこちちゃうかも>
((ひゅるりら~))
「あああああああっ?!損なぁーっ!」
魔砲で穴をあけてしまったミハルが頭を抱える。
後の祭り・・・って、事?
<ミハルぅ~っ、やっぱり・・・考えてなかったでしょ?>
龍の子の方が・・・まともだったか・・・・
で?
「あんの馬鹿チンめぇ~っ!」
苛立った声をあげる殲滅の女神。
「内部に放棄されてある怪文章って・・・これよね?」
ファイリングされたコピーを見詰めて顔をヒクつかせる。
部下のコンピューターに確認を執りながらモニターを睨むミハリューの眼に入るのは。
「そう・・・アイツが。
デザイアが・・・これを寄越したのよね。
それにしても何てお粗末な・・・手書き文章なのよ。
読み辛いって思わないのかしら!」
モニターに映された文体にも文句を言うミハリュー。
「それに・・・何て顔で映ってるのよ・・・」
風圧で顔がへちゃけているミハルの画像を見せられ、呆れ果てていた。
「これがあなたの大切な人だなんて・・・どう?」
モニターを指し示すミハリューが後ろに立つ者に教える。
女神の魔法衣を纏ったリーンに。
「バリフィスを返せだって・・・笑える事を言ってくれるわね」
ニヤリと口元を歪めるミハリューが正気のないバリフィスに話す。
無反応の女神バリフィスに・・・
「でも、答えてやらなくっちゃならないわよね。
バリフィスを取り返したくば、どうすれば良いのかを・・・」
モニターに映る理の女神に向けた殲滅を司る女神ミハリューが紅き瞳を細めるのだった。
ミハルの誘いに乗るのか?
ミハリューは再びミハルの元へと向おうとするのだが・・・
次回 終わる世界 Ep8 One They Call the Goddess<女神と呼ばれる者> Part4
君は記憶の淵に堕ちる・・・大切な人の思い出を求めて
人類消滅まで ・・・アト 41 日
作者から)2018年も今日まで。来年もどうか宜しくお願いします!