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魔鋼騎戦記フェアリア  作者: さば・ノーブ
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第6章 終わる世界 Ep7 They Who Govern Reason <理を司る者>  Part9

現れたリーン・・・

だが、その瞳は澱み赤黒く染まってしまっていた。


ミハルの前に揺らめく姿は・・・堕ちた女神としか写らなかった・・・

白い魔法衣が赤黒い魔法衣へと近寄る。


求める様に手を指し伸ばして・・・




月が雲に隠された。


月の光が陰った闇夜に、白い魔法衣だけが浮かんで見える。

まるで幽鬼の様にぼんやりと霞む、上空に居る者へと近づく。


「リーンなんだよね?

 ・・・私のリーンでしょ?」


闇夜の中で浮かぶ人影に近づくミハルが呼びかける。

だが、目の前に居る者は答えてくれない。


「リーン?私だよ・・・ミハルだよ?」


別れてから待ち焦がれた瞬間だというのに、声さえもかけてくれない。

呼びかけても返事も返してこない、上空に佇む者に何度も呼びかける。


美しかった金髪が、微かな星明りだけでは輝いては観えない。

風に靡いているのであろう髪は魔女の様に忌まわしく観える。


蒼く美しかったマリンブルーの瞳でさえもが、酷く澱んで観える。


そう・・・目の前に居るリーンらしい者の姿は、闇夜に浮かぶ魔女の如く忌まわしく観えた。


「ミハルっ!いけないよっ!邪な女神に近づいちゃぁ!」


リィ君の叫びも、今のミハルには届きもしない。

ミハリューに対しても無防備に近い状態で、黒き影に近づいて行こうとしている。


「・・・リーン・・・リーンだよね?

 逢いたかったんだよ?話したかったんだよ?

 抱き着きたかったの!あなたの手で私を抱きしめて欲しかったんだからっ!」


すぐ傍まで近寄ったミハルの眼に、リーンの右手に光る紅き光弾が入った。


「リーン?!その光は・・・邪なる魔力・・・なんかじゃないよね?」


信じたくなかった。

右手に現れた紅き光の弾を観て・・・信じられなかった。


「本当にリーンなの?

 あなたはリーンの姿を盗んだ闇の者なの?

 だとしたら・・・赦さないからっ!」


自分に向けられた紅き瞳に気が付いたミハルが即応体制を執る。


ミハリューを救った光弾の威力から考えて、相応の力を秘めている事は解っていた。

太陽神ユースティアの光弾を弾けさせられるだけの威力を持つのなら、

無防備に弾を当てられでもすれば、相当のダメージを喰らう事になる。


即応したミハルも、防御障壁を展開しつつ相手の出方を探りながら、

未だに信じられてはいなかった・・・目の前に居る者の姿を。


「リーン?!あなたは本当にリーンなの?

 もしリーンなのだとしたら・・・私の声に応えて!」


再度の問いかけにも、答えは返ってはこない。

唯、右手の魔砲弾を揺らめかせて佇んでいるばかりだった。


「答えてくれないのなら・・・一つだけ言って。

 <ミハル、ペットに成れ>・・・って、呟くだけで善いから!」


確かめようとしたのか。

ミハルはリーンである事を願ったのか?

それとも?


「あなたが言ってくれないのなら・・・言わせてみせる!

 それではっきりするんだからっ!」


喋る事も、呟く事もしない目の前に佇む者に、ミハルが接近する。

防御魔法陣を手の先に構えたまま。


闇夜に金色の輝きを放つ魔法陣を先立てて、リーンらしい女神へと近づいた。


「どうしたの?!あなたがリーンではないのなら、撃ってみなさい!

 私の魔法陣を喰らい破ってみたらどうなの?!」


目の前まで寄ったミハルが嗾けた時。


「・・・私は・・・女神。

 ・・・私は命じられた事を果たす。私に与えられた役目を果たすの・・・」


目の前に居る者が瞳を向けて来た・・・呟きと共に。


「?!・・・その眼は!」


半ば開いた赤黒き瞳。

呪われし者が放つ邪なるオーラに気付いたミハルが間近に観た顔は。


「リーン・・・やっぱり。

 貶められてしまったんだね・・・・」


呆然と正気のない顔のリーン。

半ば開いた瞳は赤黒く澱み、嘗て一度だけ観た事のある闇に支配された色に染まっていた。


「あ・・・あああっ?!でも・・・やっぱり。

 リーン!リーンなんだよね?!リーン!!」


その時、ミハルは自分でも知らず内に防御を忘れてしまっていた。

眼前に居る貶められたリーンの姿をの当たりにしたから。


魔法陣を解き、胸元まで近寄り見上げる。

懐かしいその顔を。

取り返したいその人を。


「リーン・・・お願い。私を抱いて?」


手に触れられる所迄来れた・・・離れ離れになってから。

話し合える距離まで来れた・・・ようやく。


ミハルの切なき想いは・・・


挿絵(By みてみん)



「ミハルっ!避けてぇっ!」


リィ君の衝撃波が背後に迫った者を立ち止まらせる。


「ちぃっ!邪魔者がぁっ!」


紅き剣で衝撃波を弾き返すミハリューの苛立った叫びに我に返った。


「リィ君!ミハリューっあなたこそ邪魔よ!」


飛龍に向かって吠えたミハリューに、ミハルが振り返った。


「ミハルっ!その女神から離れるんや!」


今度はミハルとリーンの頭上から声がかかった。


「えっ?!」


ミハリューに気が散ったミハルの眼に映ったのは。


けるんやでミハル!」


頭上からの声と自分に向けられたリーンの右手。


ホマレの声だと気が付いた時には、リーンの紅き光弾が眼の先に輝いていた。


((ドドドドッ))


頭上からホマレの機銃弾が降り注いでくる。

女神リーンは機銃弾に手を翳すと・・・


((ドオォンッ))


紅き光弾で降り注ぐ弾を消し去った。


「ホーさんっ?!どうしてっ?」


自分が止めたのに、自分だけで闘おうとしているのに。

そう言おうとしたが、口には出せなかった。

振り向いた先に居るリーンの姿に気が付いて。


闇の中に消えて行くように、女神達の姿が翳み始めたから。


「あっ?!待ってリーン!

 お願いっ一言だけでもいいから私に応えて!

 あなたは本当に<審判バリ女神フィス>なの?」


闇夜の中へと溶け込む様に、二人の女神が消えて行く。


「あーっはっはっはっ!バリフィスに話しかけたって無駄よ!

 今夜は挨拶だけで帰る事にするわ!

 悔しい?悔しかったら私達の元まで来たら?

 そうすればあなたはバリフィスに会えるのよ。

 ・・・まぁ、私の許可が受けられればだけどね!」


負け惜しみか・・・それとも罠なのか。


「ミハリュー!待って!

 その人に一言だけ答えて欲しいの!

 自分の名を・・・あなたは・・・何て名のかを!」


必死の願いにミハリューの眼が細まる。


「・・・いいわ。

 答えてあげたら・・・バリフィス。

 あなたが人間だった時に名乗っていた名を・・・」


求める声は月の陰った闇に向けられる。

2人が姿を消してしまった闇夜に、再び月光が差し始める。


「・・・私は・・・私の名は・・・思い出せないの」


答えはそれだけで終わった。

ミハルにはその声だけで良かった。

耳に届いた声が、何を表わしているのかを感じ取って。


女神の姿は月明かりに消え、もはやどこにも感じる事さえも出来なかった。


2人が居た空間を見詰めたミハルの姿が微かに震えていた。


上空から助けに入ったホマレも、ミハリューを近付けまいと闘っていたリィ君も。

ミハルが涙を零して震えている事に気付き、声を掛ける事も出来ずにいた。


「ホー・・・さん、リィ君。そこに居るんでしょ?」


傍に寄れずに佇んでいる二人に、ミハルが呼びかける。


「ああ、おるで・・・ここに」


そっと近づくホマレに振り返らず、ミハルは泣いているようだ。


「傍に居るよミハル・・・」


縫いぐるみに戻ったリィ君がホマレの頭に乗っかる。


「あのね・・・二人共・・・今夜はありがとうね」


共に闘ってくれた事に感謝しているミハルの声は震えていた。


「良いんやそないな事は。

 あの女神が・・・ミハルの想い人なんか?」


自分が撃った事をどう感じているのかと、恐る恐るに訊いて来るホマレに。


「そう・・・だよ」


振り返らずミハルが答えた。

泣いているにしては悲しそうには思えない声で。


「ミハル・・・寂しいの?悲しいんだね?」


ホマレの頭上でリィ君が訊いた。

夜空を見詰めてミハルが首を振る。


「ミハル・・・もう帰ろうや。皆も心配してるさかいに・・・な」


手をそっと掴んだホマレに、ミハルが振り返る。

悲しみの中に、微笑みを浮かべた様に・・・


「ミハル?」


涙には暮れては居るが、その瞳に輝くのは<希望>の光。


挿絵(By みてみん)


「判ったのホーさん。リーンなんだって・・・私の御主人様だって」


微笑む顔にホマレの方がドキリとする。


「リーンは記憶を私に託してくれたんだから。

 私がリーンに記憶を返さないといけないんだって・・・解ったから」


リーンの最後の声に、ミハルは気が付いた。

闇に貶められた訳でもなく、記憶を奪われた訳だけでもなく。


リーンを救うには自分が逢いに行き、返せばいいのだと。

<希望>を手渡し、約束を果たせるように・・・


「私・・・やっぱり。

 やっぱりリーンの事が大好きなんだなって・・・判ったの!」


涙を拭いた太陽神ユースティアミハルが、ホマレと龍の子に微笑んだ。


「私・・・やっぱり女神になって良かったと思う。

 だって・・・リーンに人の<ことわり>を知らせてあげれるんだから。

 だってそれが私・・・<理を司る者>の務めでもあるんだから・・・」


微笑むミハルは月を見上げて手を振った・・・もう一度逢う人の為に。


再び逢える時を約束するかのように・・・


<理>を司る者としてミハルは決意を新たにする。


大切な約束を果したいが為に・・・


大切な人を取り戻す為にも。


ミハルが女神として心を新たにする時、その身を案じている者達が集う。

一縷の望みを持つ者達は一つの電文に狂喜する・・・


次回 終わる世界 Ep8 One They Call the Goddess<女神と呼ばれる者> Part1

君は愛する人を想う・・・届かぬと知っていたとしても

人類消滅まで ・・・アト 43 日

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