第6章 終わる世界 Ep7 They Who Govern Reason <理を司る者> Part6
漸く・・・目覚めた。
頭の中が酷く重い。
確か・・・目覚めてはいけなかった気がする。
目覚めれば自分ではなくなるような気がしていた・・・
ー 私は・・・誰?
目覚めた私は・・・何者なの?
この身体・・・自分ではない気がする。
思い出そうとすればするほど、違和感が渦巻く。
不自然な想いが頭の中で燻り続ける。
「ああ・・・何故だか判らないけど。
私は本当にこれで良いのだろうか?
何か大切な事を忘れているような気がする・・・」
独りの女神が暗闇の中で身悶えていた。
周り中何かの機械に囲まれた空間で。
身体を起こした女神は自分の姿に戸惑いをみせる。
黒く澱んだ瞳を開けて・・・
闇の中で佇む女神の前に、一つの影が現れる。
その影が自分に手を指し伸ばして話しかけてくる。
「さぁ・・・おいでなさいな。
バリフィス・・・時が来たのよ・・・」
どこかで聞いた事のあるような声が自分を招いている。
「あなたの務めを果たす時が・・・あなたにしか出来ない役目が待っているの」
進み来た影が人の形となる。
赤黒き髪を紫のリボンで括った娘の姿に・・・
_________
青い空が何処までも続いているような気がした。
この蒼空を進めば、きっと辿り着く事が出来ると思った。
喩え果てしなく続いたとしても・・・いつかは・・・
「こちらピケットライン。
間も無く視界内に捉えられると思います!」
前方遥かに黒点が観える。
そのゴマ粒のような黒点から偵察報告が入る。
「ピケットラインより本隊へ!
敵編隊ミユ!敵はおよそ50機・・・全て小型機ばかりです!」
前方に配置させた偵察騎からの一報が入った。
「了解!進路を確認し、本隊に合流せよ!」
魔法無線機に向かって命令が下され、偵察に出ている一騎が踵を返して戻り始めた。
高度を執り始めた編隊は接敵行動に入る。
「各員、機銃の安全装置を解除。
これより敵との空戦に突入する・・・各小隊は緊密に連携せよ!」
編隊指揮官からの命令を受け、各自が所属する小隊ごとに編隊を解いた。
指揮官が敵編隊を捕捉し、空戦へと導く。
「<薩摩>隊は左から攻撃せよ!<金剛><榛名>隊は右側から攻撃する!」
編隊指揮官からの命令を無線で訊いたミハル1尉が、11名を指揮して側面に廻り込んでいく。
「こちら<薩摩>隊、左から攻撃します!」
白い魔法衣姿のミハルが編隊を率いて攻撃態勢に入った。
「全軍突撃せよ!」
制空隊指揮官騎からの攻撃開始命令を受け、11名を率いてミハルが突っ込んだ。
敵小型機編隊は上空からの奇襲を受け、瞬く間に撃墜されていった・・・
「制空隊が着艦する!整備員は受け持ち騎の整備に掛かれ!」
<薩摩>艦上に次々と降り立つ魔砲師達に、整備員が執り付き武装の点検に掛かる。
白い魔法衣姿の二人が一番最後に飛行甲板へと降り立つ。
勿論ミハルとホマレの二人だった。
「お疲れ様、ホーさん」
一足先に降りた中島誉3尉に分隊長の島田美春1尉が労った。
「ミハルゥ・・・ありゃないで?」
声を掛けて来たミハル1尉に振り返って、ホマレが文句を言う。
「あ・・・バレてーら・・・」
引き攣った笑みを浮かべるミハルにホマレが言い寄る。
「敵に身体を晒すのは辞めーな。いくら仲間のピンチっつーても・・・
観ているこっちは心臓が停まりそうになるんやで?」
白い魔法衣に着いた黒点を指差し、言い咎めるホマレに苦笑いを浮かべる。
「だってぇ・・・咄嗟に身体が飛び出しちゃったんだもん・・・」
怒られたミハルが両手の人差し指をツンツンさせて言い訳を呟くと。
「そないな事しとったら、その内に怪我すんで?
そないな時こそ隊長らしく部下を信じんとあかんやろ?」
3尉にお小言を喰らう1尉の姿に、周りから失笑が起きる。
「はぁーい、解りましたぁ教官殿!」
自分を空の闘いへ導いた部下に、笑って誤魔化しながらも注意された事に感謝していた。
「そやけどミハルも巧ぁーなったやんか。
もうウチのカバーもいらへんような迄になったみたいやなぁ。
なんか・・・寂しいわぁウチ」
ポツリと本音が出たホマレが慌てて言い直す。
「せやけど、ミハルはウチのモンやからな!
他隊の者に二番騎を任すんわ辞めてぇーな?」
ぐいっと腕を掴んでミハルを引き寄せるとニヤリと笑う。
「あのねぇ、ホーさん。
他の人が聴いたら誤解を招くような事を言わないでよ?!」
ニヤニヤするホマレを引き剥がして、報告する為に艦橋へと歩き出す。
「待ちぃーなミハル!ウチも上がるわ」
戦闘詳報を艦長ミノリへ報告に行くミハルの背後から駆け足で追いかける。
ミハルとホマレの仲の良さに魔砲師達は我が事のように微笑むのだった。
艦橋で報告を終えると、ミハルは魔砲力の補給に掛った・・・
「この頃さぁ、ミハルって少食になったんやなぁ」
一人前分の食事を摂るミハルに向かってホマレが小首を傾げる。
「そう?普通じゃない?」
((カジカジカジ・・・))
リィ君はいつも通り。
ミハルの頭に齧りついている。
「せやけど・・・前は・・・数人前食べてもフルチャージ出来てへんかったやろ?」
((カジカジカジカジ・・・))
前より齧るのが多い気がするのは気のせいか?
「ミハルは少食に・・・リィ君は大喰らいに。
逆転しとるがな?大丈夫なんかミハル??」
前を知るだけに、ホマレは気になって仕方がなかった。
「うん、今の処。
食べなくても魔砲力が回復するんだよ・・・不思議な事に」
あっさりと食べ終わり、ホマレの疑問に応えたミハル。
「せやけど・・・齧られて無くならへんの?
リィ君、食べ続けとるでまだ・・・」
((カジカジカジカジ・・・ごっくん))
ミハルの頭に乗っかり、魔法力を齧っていたリィ君が食べるのを停めると。
「ホマホマさん、ミハルの魔法力は太陽が照っていると自然に回復するみたいなんだ。
だってさ、太陽神なんだから・・・って、事」
以前なら食べ物が魔砲力に変換されていたのだが、女神となった今は・・・
「太陽光発電か?!」
・・・違うと思うぞ、ホマホマ。
「まぁ・・・そんなとこかな?」
・・・・ミハルもか?!
「太陽神ならではって事なんじゃないかな?
だから僕も遠慮なく齧ってるのさ・・・昼間ならね」
リィ君が気になる一言を言った。
ホマレは聞き逃さず訊ねた。
「じゃあ・・・夜はどうなんや?
太陽光発電不能なんやろ?」
・・・だから・・・違うって。
「別に夜だからって。
確かに回復力は鈍るみたいだけど・・・大丈夫でしょ?」
夜間は戦闘も多発しないだろうと思ったミハルが気にしない振りをみせたが。
「あっかぁーんっ!
夜やさかいに余計に魔砲力を使うんや!闇に包まれたらどないするんや?!」
・・・あ。・・・・なるほど!
「ちょっと・・・魔鋼機械がまたしゃしゃり出ておるみたいやけどな。
なに聞き耳たててるんや?聞いてなにするっちゅーんや?」
・・・あ。バレました?
「ホーさん、<薩摩>さんが聴いててなにか問題でも?」
<薩摩>の魔鋼機械に宿る者が二人の会話に聞き耳をたてている。
ミハルには端から解っていたのだ・・・女神だから?
・・・いえ、なに。女神の魔砲力が無尽蔵ではない事にある意味驚いています。
「それはそーだよ。リミッターなしに魔力が放てるのなら、チート過ぎるモン」
・・・それは。言わない方が華ってもんでしょ?
女神の答えにツッコミを入れる機械の声。
「それにしても、ミハルの魔砲力は相当なもんだって聞いたぞ?
そんな強力な魔力を太陽の光だけで補えるんか?」
ホマレの問いかけに機械も訊き直す。
・・・問題は光がある間は回復力も高く、夜間とか光が無くなるとそうでもないと?
2人が問うのは日没後は不必要に魔力を消耗しない方が賢明なのかという事。
「う~んっ、回復はするけど・・・戦わない方が良いのかも?」
まだ目覚めてから闇の中で闘った事が無いミハルには答えようがなかった。
「そうなんや・・・夜戦は駄目やっちゅーことやな?」
・・・夜の営みも・・・ですね?
((カジ・・・・ぷ))
ミハルの魔力を齧っていたリィ君が噴き出す。
・・・あ。龍の子が・・・知ってた・・・
機械が驚く・・・ミハルとホマレが小首を傾げる。
「夜の営みって?」
ミハルが何の事なのかと頭上の縫いぐるみに訊く。
・・・い、いや。その事は措いておきまして・・・ですね。
「ミハルゥ、機械さんは夜間の戦闘は控える方が良いって言ったんだよ?」
・・・ナイス龍の子!
何か・・・割り切れないホマレとミハル。
しかし、リィ君の言った事が正しいと解る時が近づいていた。
図らずも、ミハルの身に闇が迫ろうとしていたのだった。
そう・・・
ミハリューが再び現れる時が・・・
いよいよ3度やってくる・・・殲滅を司る女神が。
その時ミハルはどう迎え撃つというのか?
新たなる戦いの幕が開こうとしているのか・・・
次回 終わる世界 Ep7 They Who Govern Reason <理を司る者> Part7
君は現われし者と対峙する・・・闇夜の空で?!
人類消滅まで ・・・アト 46日