第6章 終わる世界 Ep7 They Who Govern Reason <理を司る者> Part3
<金剛>に作戦を伺いに来たミハルとミノリ。
仁科司令官に告げられたのは・・・この世界を<無>へと導こうと企てる者。
それは・・・闇そのもの
旗艦<金剛>に赴いたミハルとミノリ。
艦隊司令官仁科少将に告げられるのは、次期作戦の詳細。
女神となったミハルを以って、艦隊が目的とするのは・・・
「これから話す事は胸の中だけに仕舞っておいてね。
我々に与えられた任務は・・・有志連合軍主力艦隊と呼応し攻撃に参加する。
勿論今度は正面切っての戦力として。
だが、敵も今度は嘗めてはかからないだろう。
現れ出る神も独りではないかもしれないし、戦闘艦隊も総力を挙げて迎え撃つだろう。
こちらの損害もどうなるか判らない・・・」
仁科少将が順々に話すのは尋常ではない最終決戦への覚悟。
ミノリもミハルにも、覚悟を求めているのが判る。
「期待するのは人類に味方してくれる神のみ。
その僅かな期待に応えられるかが全て。
刺違えてでも止めねばならない・・・魔神の復活を。
如何なる犠牲を払おうが、撃たせてはならない・・・ケラウノスの矢を」
ケラウノス・・・全能の神によって放たれる最終兵器を意味するその名。
人類を一瞬で消滅させ得る神の雷矢。
仁科司令官・・・祓狗が知らしめたのは前世で起こった悲劇。
「あの矢を放たれては人類に希望はない。
放たれてしまえば一巻の終わりとなろう、この世界に生ける者全てが。
それだけは防がねばならない、それだけが人類の明日を護る事になるのだ」
ミハルには気になる事があった。
全能の神ユピテルが鍵をどうしたというのか。
なぜ全能の神ともあろう者が鍵を求めるというのか?
そして・・・その鍵とは何処に、誰が持つというのか?
「仁科司令官、神の求める鍵って?
その雷矢を放つ事になる鍵って何処にあるのですか?
誰が神の鍵を握るというのですか?」
訊ねたミハルに偉子の眼が向けられる。
女神となった女の子の顏に・・・
「ミハルさんは・・・知らないようね。
日の本に遣わされた神に目覚めた処だからかしら?
それともあなたを頼った女神に告げられてはいないからかしら?」
ミハルに寄るとヨリコが胸元を指し示す。
「えっ?!もしかしてリーンのことですか?
リーンに授けられたこのペンダントが・・・でしょうか?」
ミハルの答えに首を振ったヨリコがツンっと、胸を突いて。
「それだけじゃないわ。ペンダントは飾りだけ。
あなたに与えられた力の中にある、あなたに授けられた記憶こそが・・・
魔神を呼び覚ます鍵。
そしてあなたに託された<理>がユピテルの求めた物。
そうよミハル、あなたが鍵なのよ。
目覚めし太陽神の力こそが大魔王の狙いなのよ!」
途方もない事を告げた。
俄かには信じられる筈も無い。
女神に覚醒したといっても僅かな時間しか経ってはいない。
その中で告げられたのは、自分がこの世界を崩壊へと導く鍵だという事。
女神に覚醒した事に因って起こりうる惨劇の鍵だという。
「ミハルさん。
あなたは知らず内にユピテルの策略に掛かってしまった。
あの殲滅の女神に追い詰められる事に因ってね。
きっとユピテルはあなたを求めて現れる。
鍵を取り戻す為に・・・この世界を滅ぼす為に。
その事実を知ったのなら。あなたが女神になったと知れば。
間違いなく手を伸ばして来る、どこに隠れたとしても」
偉子・・・いや、祓狗が教える。
逃げても無駄だと。
ミハルをどれだけ匿おうと、いずれは手が伸びて・・・
「いいことミハルさん。
あなたはこれより後、神の神殿に往って破壊兵器ケラウノスを壊さねばならない。
あなた自身の手で壊す事に因り復活を停めねばならない。
・・・そうよ、大魔王の完全復活を阻止し、人類を救わねばならない」
偉子が覚悟を仄めかす。
「私が?・・・私はリーンを助け出したいだけなのです。
神がどうだとか、大魔王が復活しようが・・・
そんな事どうだっていいの!私は愛する人にもう一度叫びたいだけ!
リーンに愛してますって叫んでみたいだけ!
約束を果たすのが私の<理>なんだから・・・」
とんでもなく大きな宿命を背負わらされたミハルが心の内を叫んだが。
「そう、それで良いのよミハル。
あなたは神々の神殿に赴き、闘う事になる。
どんな相手が待ち構えようと闘わねばならない。
それが・・・あなたの宿命。
それが<理>を司る者の務め。
我々人類とこの世界を護る者の<希望>なのだから」
偉子に諭されるのは、己の運命。
ミハルに与えられた宿命は、世界を己が手で救うという桁外れに重い運命だった。
「私・・・戦う事は辞さないつもりでした・・・
もしもリーンが闘いを挑んでくるのなら・・・救う為に・・・」
ポツリとミハルが俯き加減に答える。
「でも・・・それが事実だというのなら。
私に全ての運命が託されたというのなら。
闘う事しか出来なくなる・・・運命に。
抗う事しか出来なくなる・・・宿命に。
・・・だから・・・
・・・そうだとするのなら・・・
・・・太陽神として。
・・・人として・・・理を司る者として。
私は大魔王と闘う!闘わねばならないの!
だって!リーンを救わなきゃいけないんだから!」
顔をあげたミハルの眼が蒼く染まり魔砲力が迸った。
覚醒した女神の力を身に纏い、人間は力の限り誓うのだった。
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神々の神殿で・・・
ミハリューが呆然と立ち尽くして己が手を見詰める。
「そんな・・・私が?
殲滅の女神として・・・今迄闘ってきたこと自体が・・・
なにもかも・・・お前の掌の中で踊っていたというのか?」
女神となり、人類を駆逐するのだと息巻いていた。
だが、今告げられてしまったのは自らの位置が崩壊するような言葉。
「そうだミハリュー、いいや。
天使ミハエルと呼んだ方がいいかな」
思い出す事は出来なかった・・・何もかも。
「お前がミハルに生まれ変わる様に仕向けたのも。
お前が助けるよう仕向けたのも・・・全てが<余>の仕組んだ事。
周りに居る者全て・・・
この世界に居る者全てが我の想いのままに動く様に仕組んだのだ。
余が復活を果たす為・・・余が求めるモノの為に・・・な」
声だけが聴こえてくる。
その声が自分の居場所を消し去ろうとしている。
「私は・・・私は・・・・」
掌を見返し、ミハリューは呟く。
「神でもなければ天使でもないというのか?
それが本当というのなら、私達は何の為に存在しているというのだ?」
「無・・・」
ユピテルが言った。
全ての終わりを。
「<無>だと?
それはどういう意味なんだ?答えろ親爺!」
話された意味が考えを越えている為に、声を荒げて聞き返す。
「判らんか?全ての終わりだという事だ。
神も悪魔も・・・人類その物さえも。
何もかも終わりを迎えるという事だ。
それが余の願い、それが余の欲するモノ。
全てを闇で覆い全てを生まれ変わらせる。
この世界を終焉へと導き、消滅させる・・・それが<無>」
ユピテルの答えは終焉を求めていた・・・全ての。
この世界を造り替えると訊いていたミハリューに教えるのは・・・
「余が宿命、余が運命、余が始まり。
そして・・・余の蘇る時。地上は無に還る。
それこそが世界の終わり。終わりこそが始まり。
繰り返らされる人の世を何度も終わらせるのが余に与えられた真理」
ユピテルと呼ばれし全能の神は言い切った。
自分の存在が何者かによって作られた事を。
<真理>とまで言い切るユピテルに言い知れぬ怒りがこみ上げる。
「ユピテルの親爺よ!
お前を駆り立てる者は誰なのよ?
お前に<無>を託した者とは誰の事なのよ?」
世界を混沌へと貶めようと画策する者を訊く。
全能の神として神々に君臨する者は答える。
「その答えは・・・人。
地球人類が滅びを迎えし時、遠く宇宙の先から観ていた者達に因って。
余は生み出された・・・余を造り、世界を何度でも創世するは<人>なり」
モニターに今迄観た事も無い影が映る。
その姿にミハリューは叫びをあげる。
「おっ?!お前が?お前がこの世界を造ったというのかユピテル?!」
だが、モニターに映った影は否定するのだった。
「違うなミハエル。
私はユピテルなんかじゃない。
私の名は…大魔王・・・<無>を撒き散らす者だ」
ミハリューに告げる者。
現れた巨悪!
遂に世界を<無>へと戻そうとする者が姿をみせる・・・
ラスボス・・・その名は・・・大魔王!
次回 終わる世界 Ep7 They Who Govern Reason <理を司る者> Part4
君は<理>を司る者・・・女神ミハル
人類消滅まで ・・・ アト 49 日