第6章 終わる世界 Ep6 殲滅か希望か Part9
リヴァイアサンへ向けて放たれた光弾が目標を僅かに逸れて着弾する。
手元を狂わせた者に怒りの表情を向けて叫んだ。
「お前等・・・赦さないからね!」
ミハリューが咄嗟に手を引いた為に魔砲弾はリィ君を僅かに掠め去り海に墜ちた。
物凄い水柱が建ち、リィ君の姿を隠してしまう。
あの巨大なリヴァイアサンの姿を。
邪なる赤黒き瞳を、邪魔をした者達に向けていたミハリューの口が歪んだ。
口惜しさではなく、自分に向けて放たれた弾を撃ってきたものに対して嘲笑ったのだ。
空に浮かんだ一人の魔砲師と、空中戦艦に・・・
「お前等、殲滅の女神を撃ったんだねぇ。
自分達が何をしたのか解ってるんだよねぇ・・・」
黒いマントを翻したミハリューがリヴァイアサンの居た所から背を向ける。
自分に対して人間が邪魔をした事に怒り狂い。
「そんなに消滅したいのならお前等から先に始末してやるわ!
今更後悔したって手遅れなんだからねぇ」
嘲笑うかのようにデバイス剣を白い魔法衣の少女に向け、一方の手を戦艦に翳す。
狙いをつけた魔砲師が何かを叫んでいるのが見えるが、ミハリューは構わず光弾を放とうとした。
「リィ君が!ミハルが大ピンチなんや!
ミノリ姉さん攻撃するで!ウチ独りだけででも突っ込むわ!」
緑のホマレがデバイスの機銃を構え直す。
片耳に着けたヘッドフォンが命令を伝えてくる。
「中島3尉!接近は控えてくださいっ、こっちも砲撃します!」
<薩摩>からレナ砲術長の声が届く。
「な?!・・・解った!ウチもピンポイントで撃つからな!」
戦艦の砲撃の威力は自分のデバイス機銃の数百倍もある事に、納得するしかなかった。
目前の女神が一時的に攻撃を辞めたと思った次の瞬間に。
「中島3尉、今です!砲撃始めっ!」
<薩摩>から魔鋼の砲撃が始まった。
「よっしゃーっ!こいつを喰らいやがれやっ!!」
同時にホマレの機銃が火を噴いた。
戦艦の弾に気付いたのか女神が一瞬手を引いた。
だが、ホマレの放った機銃弾には気付かなかったのだろう。
避けたつもりの女神に気付かれず、ホマレの弾は紅き光弾に命中していた。
飛んで行った光弾は僅かにリヴァイアサンを掠めて海上に突き立ち、
猛烈な蒸気と水柱を噴き上げさせた。
水柱に隠れたリィ君を確認し、自分が狙った通りになった事で喝采を挙げた。
「どやねん女神はんよ!
ウチの射撃術は!あんたの弾を防ぐにはこれしかないんやからな!
ミハルに危害を加える奴はウチが許さへんで!
悔しかったらここまでおーいで!」
まるで女神を小馬鹿にして、自分に気を逸らせさせようとしているかのように。
ホマレはミハリューにお尻を向けて<あっかんべぇー>をみせた。
女神に聞こえたのかは判らないが、赤黒い瞳を怒りで滾らせ睨んで来た。
「そやそや!ウチが相手になったるさかいにな!
ここまでおーいで・・・って。そこから撃つんかぁーい?!」
デバイス剣をその場で向けて来た女神にトチ狂い、ホマレは慌てて防御の為に機銃を持ち替える。
これではリィ君やミハルから女神は引き離せないと臍を噛む思いで。
女神が持つ剣から紅き光が迸る。
逆の手に更に大きな何かが現れ出て来た事に眼を見開く。
「なんやありゃー?!
あれを<薩摩>に向けて放つっちゅーんか?!」
ミハリューの左手の先に現れ出たのは、巨大な魔鋼弾だった。
直径がミハリューの身体より太い。
口径にして1メートル70センチを下らないだろう。
砲弾の長さは優に4メートル以上あるかに見える。
そんな巨大な砲弾が存在している事にも驚くが。
「どっから出したんや?
どんな砲で撃つというんやねんな・・・それ?」
剥き出しになった砲弾を<薩摩>目掛けて撃ち出せるのか半信半疑だったが、
女神は嘲笑いながら狙いをつけてくるのだった。
「嘘やろ?そんな弾を受けたら戦艦やかて一撃で沈むわ!」
ホマレは自分に向けられた剣先よりも、<薩摩>に向けられた砲弾に狙いをシフトした。
「やらせへんっ!そんな弾をミノリ姉さんに撃たせて堪るもんか!」
魔法障壁を展開したとしてもダメージは計り知れない。
出来るなら放たれる前に破壊してしまわねばとホマレは焦る。
自分に向けられた剣先を無視してでも。
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金色の光が揺蕩う。
目覚めた光は少女に集う。
目覚めた想いは少女を輝かせる。
淡い蒼髪と透き通る蒼き瞳。
手にしているのは剣と天秤。
そう・・・それが神の姿。
ミハルに宿る女神ジャステス・・・ユースティアの姿。
リーンから授かった女神の力の表れ。
いいや、ミハル自身が産まれし時から定められていた力の覚醒。
理を司る女神でもあり、希望を託された真の女神への覚醒。
人類が何度も滅び、幾度も再興を繰り返しても現れ出て来なかった・・・今迄は。
だが、本当の神から人へと贈られた箱の中に佇んでいた<希望>。
人の世に出るのが一番最後になった<理>
リーンが審判の女神であるならば、ミハルは真理を教える<希望>の女神。
<愛する事の尊さを伝える為に生まれし女神>として、目覚めた裁判の神。
天秤は真理を伝え、剣は過ちを犯した者に裁きを与える為。
神の魔法衣を纏ったミハルは眼を見開き天を観る。
「そう。
神の名を語る者に過ちを正させなくてはいけないの。
神をして思い上がった考えを正させるのも私の務め。
希望を託された女神の役目なの・・・デサイア」
ミハルに宿りし女神デサイアに自らの務めを伝える。
「あなたは私に宿った。
でもそれは私の分身だったから。
まだ目覚めの時を迎えられていなかった私を護る為に。
<光と闇を持つ者>・・・人間だったから。
死を迎えた人間ミハルの中で死ぬ事を赦されない女神のあなたが目覚めたから。
宿ったのではなく目覚め始めただけ・・・そう、今を迎える為に」
天秤をデサイアに突き出して真実を求めた。
「そうよミハル・・・いいえ、ユースティア。
本当のあなたが目覚めを迎えるまで。
闇も光も持つ太陽神として覚醒する時まで護るつもりだった。
呪われても挫けない強き心の中で、私は待っていたのよこの時を。
でも、やっと気づいてくれた。目覚めてくれる・・・女神だと。
だから私はあなたに戻る、私もミハルなのだから」
捧げた天秤にミハルの魂と女神ユースティアの魂が載せられる。
初めはユースティアの方へ傾いていたが・・・
「私は誓ったわ、リーンに。
喩えどんな事になったとしても助けに行くと。
どんな運命だとしても抗うと・・・約束を遂げるその時まで」
約束・・・それは人の愛ゆえに。
運命・・・それも人たる証。
天秤は人たるミハルと女神ユースティアとを推し量る。
人と神が同じ重さなのかは想いで測られる。
天秤は水平となった。
天秤は理を評価した。
人は女神と替わらぬと判断された。
想いは神であろうが人であろうが変わらぬと。
「おめでとうミハル。
あなたは女神であると同時に人でもあると証明された。
あなた自身の手に因って、ユースティアとしてではなくミハルのままで女神と同化したわ」
デサイアはミハルの中に還る。
そうする事に因って完全に目覚められた事になる。
女神の力をミハル自身で放てられるようなる・・・これからは。
デサイアに頼る事も、デサイアが出現する事もなくなる。
それが本当の自分だと認識するのだから、今からは。
「デサイアさん・・・いいえ、もう一人の私。
これからは私自身の力になって。女神ユースティアじゃなく・・・
人間として、伝えに往く為に・・・リーンの元へ往く為に!」
ミハルにデサイアが重なる時。
光がミハルを模る。
金色の魔法陣と粒がミハルに集った。
「消滅してしまうが良い!
殲滅の女神ミハリューの力で!」
光弾と魔鋼弾が放たれる。
「アカンっ?!間に合わへんっ!」
ホマレの絶叫が空を焦がす。
紅き弾はホマレに。
巨大な魔鋼弾は<薩摩>へと。
「沈め!沈め!滅びろ!滅んでしまえ!
お前達を滅ぼした後、リヴァイアサンも消滅させるから安心しなっ!」
嘲るミハリューが遠吠えを吐く。
その声がホマレ達へと届く前に。
((ズバアアァンッ))
海が割れた。
リヴァイアサンが水柱と蒸気に隠された部分が真っ二つに割れたのだ。
水の壁が割れた部分に現れ、その中から金色の波動が飛び来ると。
((ビシャッ))
ミハリューとホマレ達が居る間を駆け抜けた。
紅き弾と魔鋼弾を消し去って。
それはあまりの速さ。
目の前を光が過ぎたと感じただけ。
人間ホマレにとって、それはミハリューの攻撃が一瞬の内に掻き消えたとしか感じられなかった。
「なっ?!なんやて??」
<薩摩>に乗艦している狐の神にとっても同じように感じられた。
「ほぅ・・・消えたのか?」
イナリの言葉がミノリから吐かれる。
攻撃を掛けた殲滅の女神にとっても、青天の霹靂。
「な?!私の魔砲が・・・消されちゃった?」
早すぎて何処から何が自分の攻撃を打ち消したのか解らず、
ミハリューは空と海を見渡して相手を探した。
眼下に眼を向けた時に映ったのは、割れた海とそこに居る者の姿。
金色の光を指先に輝かせ、自分を見上げている少女の姿。
「ば・・・馬鹿な?!そんな事がある訳が無い!」
少女が身に纏うのは蒼き魔法衣。
ミハルが以前から女神モードとなった時に着ていた魔法衣。
だが、ミハリューには観えていた。
「それは・・・太陽神の魔法衣。
あり得る筈が無いっ、戦女神ミネルヴァと同級だというのか!」
自分より上位の魔法衣を纏っているミハルの姿が。
それは女神となったミハルに因って防がれた。
圧倒的魔砲力を見せ付けられたミハリューは・・・
神の領域に踏み込んだミハルの力の前に殲滅の女神は畏怖するのだった!
次回 終わる世界 Ep6 殲滅か希望か Part10
君は圧倒する力を持っても闘いを辞めるように勧めるのだった・・・
人類消滅まで ・・・ アト 54日