第6章 終わる世界 Ep6 殲滅か希望か Part3
艦隊戦に一区切りした<薩摩>艦橋で、航海長が指揮を執っていた。
「駆逐艦<早蕨>に艦長の後輩が乗っていたみたいだな」
指揮を執るミツル3尉に、砲術長レナ3尉が話しかける。
「ああミハル1尉の従姉でもあったようなんだ。
なんでも相当な魔砲師だったみたいなんだが・・・」
並んだ席で二人が前方を見詰めたまま交わす。
「残念だったろうなぁ・・・二人共」
「でも、二人共さばさばした顔をしていた気がするけどな」
指揮を任されたミツルが艦長とミハル1尉が昇った、
防空指揮所に想いを馳せるかのように天井を見上げる。
「きっと、心の中で割り切っているんだろうさ。戦死する者の事を」
航海長の言葉に、砲術長は軽く顎を引いて同意するのだった。
風が吹きつける最上甲板から凡そ20メートルの高さにある艦橋最上部。
測距儀が据えられてある見張り台の事を防空指揮所と呼んでいた。
「そうか・・・最期の瞬間に・・・」
ミカの最期を看取ったミハルに、その模様を訊いていた。
<早蕨>がどのような戦いを行い、どんな最期を迎えたのかを。
「はい・・・笑ってくれたんです。
私に向かって・・・微笑みを浮かべてくれた気がしたのです」
艦と運命を共にした島田美夏少尉の最期を知る者として、
ミハルはミノリに訊かれるままに教えるのだった。
「それがアイツの真心だったのか。
ミカは最期の瞬間まで仲間と共に居る事を望んだというんだな」
頷いたミハルにミノリが続けて訊く。
「ミハル1尉を救ったのも、その為だったと言ったんだな?
まぁ、アイツらしいと言えばそれまでだが・・・」
ミノリが言ったのは、半分が正解だった。
「いいえ、ミノリ艦長。
自分達の為だけに私を蘇らせた訳ではありませんよミカ姉ちゃん達は。
人の未来を私に宿った女神に託す為・・・
そしてこの世界を少しでも護る為に尽くそうとしてくれたんだと思います」
ミハルは包み隠さず話そうと思っていた。
それが死んで逝った者への手向けだと信じているから。
「私に宿ったデサイアさんに気付いたミカ姉ちゃん達は呪いを掛けました私に。
でも、それは私に目覚めて欲しかったから。
女神が宿っている事に・・・神の力に抗えるのは神だけだって・・・
教えてくれていたんだと思います」
死の門でアヌビス神に教えられた事と、ミカが告げた言葉が重なる。
<<ミハルは遠い昔にこの地上に堕とされた神を宿している>>
宿った神は人たる者の味方になってくれている。
だが、それがいつまで続くのか。
デサイアの力は覚醒したのか?
覚醒したとしたら本当に人の味方になってくれるのか?
最後に現れて以来、心の中に呼びかけても返事をしないデサイアに心配が過る。
「ミハルよ、そなたの中に居る女神じゃがのぅ。
どうやら何かを待っておるようじゃぞ?」
ミハルの心配を見透かしたようにイナリの言葉がミノリの口から告げられた。
「あ・・・ミノリさ・・・いえ、稲荷様。
それはどういう事でしょうか?何を待つというのでしょうか?」
突然現れた狐の神様に訊いてみるのだが。
「それはワシにも解らんのじゃ。
唯、娘っ子は己が宿命を解っておるのじゃろう・・・」
意味深なる言葉をミハルへ投げかけてくるだけだった。
「宿命・・・ですか・・・」
自分に宿った女神がどんな宿命を背負っているというのか。
それが自分にどんな影響を齎す事になるのか。
防空指揮所の露天甲板で、ミハルは空を見上げて考えていた。
「うん?」
前方の空に浮かぶ敵残存艦隊の中に紅い光が見えた様な気がした。
ー 気の所為かな?
一瞬だけ・・・そう。一瞬だけ瞬いたような気がした。
赤黒き邪なる光が、空中戦艦から放たれた気がした。
8隻生き残っていた空中戦艦ゴリアテ改級の旗艦らしい一番後方の艦に、
赤黒き輝きが現れた気がしたのだが一瞬だったので見間違いだと眼を逸らした。
・・・だが。
((キュワン))
旗艦らしいゴリアテ改級から紅き光が海上へと墜ちて行った。
「あっ?!」
ミノリも憑き神イナリも驚きの声をあげるだけだった。
紅い光が墜ちたその先にあった海上の艦が・・・
((ズバッ))
光に貫かれた。
紅い光は弾と化し、追撃をかけていた小型艦を直撃する。
光弾に貫かれてしまった有志連合軍駆逐艦の行き足が停まり、黒煙を噴き上げる。
「ああっ?!たったの一発で?」
ミハルの眼に写るのは光弾に貫かれた艦がひとたまりも無く戦闘不能と化した姿。
今迄敵艦隊に痛打を与え続けていた魔鋼の駆逐艦を唯の一撃で大破させた紅き光に驚愕を覚える。
「さっきまで目標を攫めず、目蔵撃ちしていただけだったのに?」
日の本の神が宿る戦艦<金剛>によって電探射撃を回避していた艦隊に向けて、
的確な射撃を加えて来た事だけでも信じがたいというのに。
今の光弾は動き回る艦に対して直撃を加えて来た。
しかも、駆逐艦のような小型の標的に致命的一撃を加えられるピンポイント射撃を。
「電探射撃を加えるにしても・・・あの距離から放って命中させられるだけでも困難な筈なのに?」
後退していくゴリアテとの距離はもう30キロを超えている。
巨大な砲を撃って命中だけを狙ったのならまだしも、
駆逐艦の機関を撃ち抜いただけの小口径砲で、この距離に届く筈も無いように思えるのだが。
「だけど・・・命中させた。
間違いなく狙って撃ってきたに違いない。
だって、たったの一回だけしか撃っていないのだから・・・」
砲手だったミハルには、撃ってきた相手が何を考えて撃ったのかが解った。
「この後、砲撃の制度を確かめる為に2・3発撃ってくるだろう。
そして・・・本格的攻撃に移る・・・艦隊を殲滅しようとするのなら・・・」
ミノリがミハルの考えていた通りの言葉を発し、空中から視線をミハルに向け直すと。
「今、イナリが気付いたようなのだが。
敵の中に現れたようなのだ、力ある者が。
<神>の射撃を撃てる者が・・・いいや、人を滅ぼす者が降臨したようだ」
ミハルにというより、宿る女神に対して告げた。
「あの・・・ゴリアテ改級に?
神たる者が降りて来た・・・神・・・人を滅ぼそうとする・・・神?」
ミハルの右目が赤く染まり始める・・・
宿りし女神デサイアの力の表れ。
神々に背く者としてミハルに宿った女神デサイアがスペルに呼び覚まされた。
「そうか・・・遂に本性を現すというのだな・・・」
ミハルに宿る女神はゴリアテ改級に手を伸ばして何かを探っている。
「ミハルに宿りし女神よ。
そなたも現れた敵の力を探る必要があるくらいに警戒するのか?」
ミノリが蒼髪になったミハルへ・・・憑き神デサイアに訊いた。
「ああ・・・今現れた神はそんじょそこらの神ではないようだ。
そうやらあの機械たちの親玉らしいぞ?」
手を降ろしたデサイアがミノリへ振り向き。
「多分、今の私では勝つ事は難しいだろう。
この娘が覚醒し、私に力をくれなければ・・・な」
苦笑いを浮かべてミノリに言った、
女神デサイアの言葉の意味を図りかねてミハルは心の口を閉ざしていた。
「女神よ、そなたほどでも現れた者には勝てぬというのじゃな?」
憑き神同志、イナリがデサイアに真意を訊ねようとしてきた。
「何が必要だというのじゃ?このミハルが覚醒する為には。
そなたに何を教えれば良いというのじゃ?」
狐の神が、古来の神同志として詰問した。
「それは・・・ミハルが気付かねばならない。
私の口から言ってしまえば、覚醒の妨げとなってしまう。
この娘には世界を救わねばならない運命があるのだ・・・」
デサイアは現れし神の宿る戦艦を見上げて教える。
ミハルがこの世界を救わねばならない・・・運命の子だと・・・
撃たれた光弾は何を意味したのか?
赤黒い光は何が来たというのか?
宿りし神は時が訪れるのを待っていた・・・
次回 終わる世界 Ep6 殲滅か希望か Part4
君は決意を込めて言い放つ。自分が闘わねばならないのだと!
人類消滅まで ・・・アト 60 日!