魔鋼騎戦記フェアリア第2章エレニア大戦車戦Ep2伝説の魔女と皇女Act2これが本当の伝説の始まり?
ユーリ大尉とリーン中尉に教えられるミハル。
<双璧の魔女>の伝説・・・
魔女と王女の真実の物語を。
それはファンタジー・・・剣と魔法の物語
団らんのひと時の中、少しだけ憂いを持っている顔があった。
ー ユーリ参謀。私に何の用があるんだろ。どんな話があるのかな・・・
ミハルが考え込んでいると。
「ミヒャルセンパーイ。ろーしらんれしゅかぁ」
赤い顔をして目をグルグル廻したミリアが絡んで来た。
ー 誰よ、もう。ミリアにお酒飲ませたのは
絡んで来るミリアをジト目で見て、ミハルは愚痴る。
ミリアの向こうには、昇級の事でユーリ大尉に抗議するラミルとキャミーが居た。
「変わった奴等だな。昇級したくないって言うとは・・・」
ユーリが呆れた様に二人にため息を吐く。
「ですから、私は下士官になりたくないって言っているのです」
赤い顔をしたラミルが昇級を拒む。
「あたしも、今迄通りがいいんです。兵長って呼ばれてもピンッと来ません」
もっと赤い顔をしたキャミーが、さらに訳が判らない理由で拒んでいる。
ー あのお二人さん。そんな理由で昇級を拒むの?
ミハルは聞いていてデカイ汗を垂らす。
「はっはっはっ。本当に変わった奴等だな。
よし、解った。進級は後日まで預かっておく。
その代わり・・・」
ユーリが大笑いして小隊員全員を見ると、
「2人の進級を取り上げる代わりに、お前達にデカイプレゼントを用意しよう」
何か楽しそうに指を一本立ててウインクする。
「姉様、何ですかそのプレゼントって?」
突然の事にリーンが訊く。
「ふっ、それは後日、奴に持って来させるさ!」
意味有り気な言い回しでユーリが答える。
「わーいっ、クリスマスプレゼントだぁー」
ミリアが目を廻しながら喜ぶ。
「あなたは黙ってなさい!」
ミハルがミリアをコツンと叩いて黙らせる。
ミハルの目がユーリ大尉と合う。
視線に気付いたユーリはミハルに頷く。
「さて、後は皆で好きに過ごせ。私はリーンとシマダ兵長を借りていくからな」
そう告げて立ち上がるユーリはリーンに目配せする。
「はい!」
リーンはユーリの後を追って立ち上がると。
「ミハルも来て」
ユーリの後に続いて指揮官室へと向う。
「は、はいっ!」
ミハルも慌てて立ち上がり後を追う。
会場に残った者達は3人を不安げな目で追っていた。
ユーリ大尉は指揮官室へ入ると指揮官席へ座り、
持参した鞄を開けて一通の書類を取り出した。
「リーン、シマダ兵長。2人の戦果について訊く」
書類に目を通した後、
2人を見るユーリ大尉の瞳は先程までの柔らかい眼とは違い、鋭い視線を向けていた。
「撃破16両か。
内一両は魔鋼騎KG-1。大した戦果だが、どうやって撃破したのだ?」
ユーリ大尉の質問に答えるリーン。
「徹甲弾で半数近く、敵重戦車は魔鋼弾で撃破したの」
返答を聞いて書類を指で弾いたユーリ大尉がミハルを見詰める。
「魔鋼弾で・・・か。リーンだけの魔鋼力でか。
それともシマダ・ミハルの力でか?どっちなのだ?」
「え?そ、それは・・・」
リーンが戸惑って返答に困っている。
「どうなんだ。シマダ兵長」
ユーリ大尉の矛先がミハルに向けられる。
ー リーンが困っている。正直に答えていいのかな?
ミハルは口篭もるリーンをチラリと見て考えた。
「私・・・私一人の力では有りません。
中尉の力と・・・私の魔鋼力を合わせて闘った結果です。
全ての戦果は私と中尉の能力が合わさった事で成し遂げたのです」
ミハルは意を決して正直に答えた。
ユーリ大尉はじっとミハルの顔を見詰めて何かを考えている。
「そうか。
魔鋼騎士2人の力で、この戦果をあげる事が出来たと言うのだな」
ユーリはリーンに視線を向けて返答を求めた。
リーンはユーリの視線をかわす様に顔を背けると、か細い声で答えた。
「はい・・・姉様」
消え入る様な声で返答した。
「では、リーン一人で闘ったとしたらどうだ?
シマダ兵長抜きで闘ったとしたら何処まで闘える?」
ユーリの質問が、まるでミハルを他の車両に転属させるみたいに思えたリーンは思わず叫ぶようにお願いする。
「ユーリ姉様。私からミハルを取り上げないで。
バスクッチの時みたいに私からミハルを奪わないで!」
リーンはユーリ大尉に求める。
ミハルを転属させないように。
そんな必死なリーンに、苦笑いを浮かべたユーリが。
「慌てるな。誰もシマダ兵長を取り上げるなんて言っていない。
私の言ってるのは仮にミハルが居ない時、
もしくは戦闘不能となってもリーンは闘う事が出来るのかと訊いたのだ」
ユーリはリーンを宥めて訊き直した。
「あ、ごめんなさい姉様。勘違いして。
私一人では護る事は出来ても倒す事は難しいと思うの。
私の能力は防御が殆んどですから」
リーンの答えにユーリは少し思案して。
「ではシマダ兵長に訊く。貴様はどうだ。
自分一人の攻撃力で今迄と同様の戦果を上げられるか?」
ミハルは即座に応える。
「いえ。それは無理だと思います。
アラカンでの戦闘でも解りましたが、
リーン中尉の魔鋼力が無ければとても敵弾を防ぐ事が出来ません。
今の車両の装甲では主力と為りつつある75ミリ以上の弾を弾くのは至難の業ですから」
答えが予想通りであったのか、頷くユーリが一つの提案をする。
「では敵弾を弾けて敵の装甲を撃ち抜ける砲を装備する車両を与えたら、
どちらかが能力を失ったとしても闘えるのだな?」
当たり前の事をユーリ大尉は言う。
「それは・・・誰が乗っていても・・・」
リーンは怪訝な顔でユーリを見る。
「違う。
その車両を与えれば少なくとも今以上に安全に闘う事が出来る・・・
リーンが居なくともミハルが居なくとも・・・だ」
ユーリの言葉にリーンとミハルは見詰め合って戸惑う。
「ではやはり私とミハルの間が分かれてしまうと?」
リーンはユーリを疑いの眼で見る。
その視線にユーリはため息を吐くと。
「リーン。あなたは知っているでしょう。
<双璧の魔女>の伝説を。
もし、あなたが伝説の皇女の生まれ変わりだとしたら
<双璧の魔女>が、どんな苦戦をしたのか解っている筈。
私は伝説の通りにあなたを苦しめたくないだけなの」
リーンに向けていた視線をミハルに移して、厳しい眼で見詰めた。
「<双璧の魔女>の伝説?
ユーリ姉様、姉様は伝説の皇女と同じ事が起きると・・・
そう思っておられるのですか、お姉様は?」
リーンがミハルを見るユーリに訊く。
「そう。
出来れば起きて欲しくないわ。
けどね万一、伝説通りの事が起きればリーンを苦しめる事となる。
私は少しでもリーンに危険が迫るのを防ぎたいだけ・・・」
ミハルを見詰めたままのユーリがリーンに答えた。
「あ、あの。どう言う意味なのか、全く・・・」
ミハルは自分を見詰めるユーリ大尉に説明を求めた。
「そうか、シマダ・ミハルは知らない訳ね。<双璧の魔女>の伝説を」
ユーリ大尉がふっとため息を吐いて頷いた。
「え?あの。
<双璧の魔女>がこの国を救ったと云う事位しか知りません。
学校で習う事くらいしか知りませんから・・・」
ミハルはユーリ大尉に困った様に答えた。
「そう・・・ね。どうかしら、リーン。
シマダ兵長に教えてあげたら。
<双璧の魔女>の伝説を。
私達皇族しか知らない真実の言伝えを」
ユーリがリーンに振り向き、皇族に伝わる本当の魔女の物語をミハルに教える事を勧める。
「でも・・・ユーリ姉様。どうしてそれをミハルに?」
リーンがユーリを見詰めて訳を訊く。
「知っておいても・・・いえ、知っておくべきだと思うから。リーンと共に歩むのならね」
ユーリは何かを求めている。
それが何なのかを思いながらも異存はないと頷く。
「ユーリ姉様が私に求めている事は救国の皇女になる事ですよね。
でも私にそんな力があるとは思えません」
自分の力を過大評価しない様に釘を差す。
「リーン。あなたを救国の皇女だと思っているのは皇父様。
そして<双璧の魔女>の由来たるもう一人の魔法使いが救国の皇女と共に国を救った。
遥か東の国から現れたというその魔女が伝説を作った事は真実。
あなたとシマダ兵長・・・まるで伝説の再来の様ね」
ユーリがリーンとミハルを見て話す。
「解ったわ。私がシマダ兵長に教えるわ」
ユーリはミハルに語る。
伝説となった物語を・・・
2人の少女の物語・・・救国の魔女の物語を。
ミハルはユーリ大尉が話す伝説を聞き入った。
<双璧の魔女>の伝説。
フェアリア皇族にしか伝わっていない真実の物語を・・・
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それは昔々の事・・・・
「リイン!リイン姫!危のうございます。
闘いは我等が致します。お引きください!」
甲冑で身を固めた兵士が剣を抜き払いながら、
青白色の鎧で身を固めた金髪の少女に叫んだ。
「馬鹿者!王家の者が先に逃げる事など出来ない。断るっ!」
凛々しい金髪の少女は自らの剣を抜き、退く事を拒んだ。
少女の前には蒼い双頭の獅子の旗の元、数百の兵士が数を倍する敵軍と戦っている。
「おのれ、ロッソアの蛮族共め。数で押し出してくるとは!」
リイン姫が不利な状況を見て愚痴る。
姫が率いるフェアリアの兵士達はそれでも良く闘い、倍する敵を食い止めている。
今から千年程前、巨大な隕石が大西洋に落下する以前の事だという。
フェアリアは周辺の小国と同じく、東の大国ロッソアに侵略を受けていた。
ロッソアに歯向かう小国は次々と倒れ、奴隷の様に扱われて民は皆苦しんでいた。
周辺国の惨めな有様にフェアリアの王は地の利を活かし、対抗していた。
今迄は辛うじて防いで来ていたが国力の違いは如何ともしがたく、
最早王都近くまで攻め込まれていた。
フェアリア王国第1王女のリイン姫は、自らの指揮でロッソアの大軍を迎え撃って出た。
敵は我に数倍、数十倍の兵力を持って攻め掛けて来る。
フェアリアの兵は王女を奉じ善く闘い何度も敵の侵攻を食い止めて来たが、
それももうこれまでと思える程、リインの伴をする者が少なくなった。
そしてついにリインは一人敵に囲まれてしまう。
「ふははっ、生け捕りにしろ。
フェアリアの王の前へ連れて行けば降伏にも応じよう」
囲んだ敵兵の将が言い放つ。
囲まれたリイン姫は諦めて自らの命を絶つ事を望む。
「捕まる位なら、この命を絶つまでよ!」
剣を自らに宛がい、敵将を睨み付けてそう叫んだ。
「はーはっはっ、やれるものならやってみるが善い。この者達がどうなっても善いのならばな」
敵将が指し示すのは力尽き捕えられたフェアリアの兵士達の姿があった。
「くっ!卑怯者め!」
リインの瞳が光を失う。
そして剣を持つ手も力を失う。
「はっはっはっ。解ったか姫よ。その剣を渡せ!」
敵将が嘲り笑った時。
「汚いなあ。闘う事が出来なくなった者を人質にするなんて!」
何処からか少女の声がする。
「誰だ!?」
敵将が周りを見回すが誰も居ない。
「女の子一人に大の男が何人も囲んで。それでも兵隊なの。男なの?」
少女の声が続ける。
「出て来い!何処に居るっ!?」
敵将が喚き周りを探す。
「ここだよ。ロッソアの将さん」
その少女は空中に浮かんでいた。
白い着物と赤い袴を着て。
槍に腰掛けて・・・
紅き瞳の色と、美しい銀髪が印象的だった。
「なっ!なんだとっ!」
空中に浮く少女を見上げて敵兵達がたじろぐ。
「諦めないでっ!」
少女がリイン姫に呼び掛ける。
ユーリ大尉の語る少女達の物語。
ミハルは<双璧の魔女>と呼ばれる二人の少女の物語に心躍る。
それは空想の世界・・・
それは真実の物語!
次回 魔法の代償は食べ物なんですっ!
おいおいっ・・・決め台詞言えないじゃないか・・・





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