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魔鋼騎戦記フェアリア  作者: さば・ノーブ
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第6章 終わる世界 Ep5 ジェットランド沖海戦 Part15

現れた駆逐艦にミハルは願う。


どうか安らかな安息を与えて下さいと。


残されてある一本の魚雷で、最期を迎えさせてあげてくださいと・・・

魔鋼の駆逐艦<夕立>の上空に、魔砲師が舞っている。


何かを伝えようと手先信号を送りながら。




「やはり・・・それを願うというのね・・・」


カナは悲し気に魔砲師を見詰めて呟く。


「<早蕨>を海の底へ還す為に・・・」


魔鋼の掌砲術長は測距儀のレンズに映る駆逐艦を観る。

往き足を停め、傾斜しつつも尚沈む事を拒んでいるかのような<早蕨>を。


「島田美夏先輩がそれを望んでおられるのね」


カナは上空を舞い続ける魔砲師に了解の印として短く照明灯を一度だけ点灯した。


「後は・・・艦長の判断に委ねましょう・・・」


呟いたカナはもう一度眼を<早蕨>に向けた。




「良かった、解ってくれたみたい」


ミハルの眼に、魚雷発射管を旋回させた駆逐艦が映る。


「ミカ姉ちゃん・・・これで良いんだよね?

 私に出来る事は・・・

 艦と運命を共にする皆さんの魂を送ってあげれる事位しかないんだよね」


<早蕨>に向けて速力を落とした駆逐艦に手を振って別れるミハルは、

間も無く訪れる事になる悲しい一瞬に想いを馳せた。




<早蕨>上空に向かうミハルの傍にホマレが近づく。


「ミハル!大変やで!もう間もなく新たな敵艦隊がやって来やがる。

 急いでこの場を離れなあかんのや!」


ホマレが彼方を指差し、敵艦隊の接近を知らせて来た。


「うん、解ってる。けど・・・最期の時まで見届けてあげたいの」


海上を見下ろし、<夕立>に託した<早蕨>の事が気になって、

離れがたいミハルの気持ちを分かっているホマレも海上を見下ろす。


「そやな・・・味方の駆逐艦を見放す訳にもいかんのやし。

 ウチ等だけでもここに留まろか・・・」


味方の援護を口実として、ホマレは部下達だけを後退させる手筈を執ってくれる。


「ごめん・・・ホーさん」


感謝を告げつつも<早蕨>から眼を離れさせないミハルに、

手を挙げてホマレは部下達に命令を伝えに戻って行った。




<夕立>から1本の魚雷が放たれた。


馳走深度を浅くとってある魚雷は薄く航跡を残し、<早蕨>へと向かう。


「総員脱帽!栄誉礼!!」


味方駆逐艦の葬送するべく、艦長が命じる。

上甲板にいる全ての者が<早蕨>に対し、敬礼を贈った。


魚雷の馳走が終わる時。


轟音と水柱が舞い起こる。


それが・・・日の本駆逐艦<早蕨>の最期・・・であった。




眼を閉じたかった。

でも・・・無理やり眼をこじ開けて見詰めていた。

それが、最期の一瞬だと解っていたから。


<やっと・・・迎えられる。

 遂にこの時を迎える事が出来る・・・>


艦に宿る魂達が、歓喜の一瞬を迎えた。

測距儀に居るミカもまた・・・


「ありがとう・・・さようなら。

 あなた達に感謝するわ。

 ミハルの力で救われた事に感謝するから・・・

 私達と同じように、この世界を救ってくれると信じているから・・・」


上空に留まり、最期の瞬間まで見届けてくれた従妹いとこだったミハルに向けて最後の敬礼を贈った。


魚雷が側面真ん中に命中する瞬間。

ミカはミハルに向けて笑った。

最高の笑みを・・・


挿絵(By みてみん)




「ミカねぇちゃーんっ!」


魚雷によって真ん中から真っ二つに裂け、一瞬の内に水面から姿を消した。

轟沈・・・いや。

魂が終焉を受け入れた・・・冥界へと向かう事を喜び勇んで向かって行った。

本来の<早蕨>が迎えた終末をやり直せて、満足したかのように。


水面から<早蕨>の姿が消えた。

ミハルは最期の瞬間まで看取れた事を報告する、心の中で。


<ミカ姉ちゃん、笑って逝けてよかったんだよね?

 皆さんと共に逝けて良かったんだよね?

 引き留められなかったけど・・・良かったんだよね?>


自然と涙が零れ落ちる。

人の死に慣れた筈のミハルにも、近親者が死に逝く事を停めれなかった事に後悔の念が募る。


<でも・・・闇の力で無理やりミカ姉ちゃんを艦から引き離しても。

 いずれは大切な友の元へ逝こうとしたでしょう?

 自殺を図る事にもなったかもしれないし、一生後悔する事になったかもしれない>


自分もミカも。

今をおいて他はないと判断して、認め合った。

しかも、ミカは云っていたミハルに。

<自分の肉体は既に死に絶えている>・・・と。


死者に魂を入れても、肉体は滅びたまま。

却って助ける事にはならない。逆に死者に鞭打つような事になる。


ミハルの判断は不幸な事だったのかもしれないが、

ミカにとっては一番の幸せだったのだろう事は、最期の笑みに表わされていた。



「さよなら、ミカ姉ちゃん。皆さんと永遠に・・・」


ミハルは何もなくなった海面に、訣別の敬礼を贈った。




<早蕨>の消えた海上を一隻の駆逐艦が走っている。


「そうだ、お礼を伝えなきゃ!」


葬送してくれた艦にお礼を伝えようと、水面ぎりぎりまで降下した。

艦橋と同じくらいの高度を執って、艦橋に居る士官達に敬礼しながら大声で呼びかける。


「ありがとうございました!

 これで<早蕨>も天に召されられたと思います。

 送ってくれてありがとう!」


味方艦を海没処置してくれた艦に手を振る。

魔鋼状態を一時解いている駆逐艦の測距儀に、少女が佇んでいるのが解った。

その白髪の少女が敬礼し答えてくる。


「我、日の本海軍駆逐艦<夕立>!

 貴官の尽力に感謝す!貴艦隊の作戦遂行に敬意を示すものなり!」


はっきりとミハルには聞こえる。

白髪の少女からの声が。


「あ・・・あなたも?

 あなたにも魔砲の力があるんだね?ミカ姉ちゃんと同じように?」


普通の声で喋った。

空に浮かびながら・・・駆逐艦と同じスピードを執りながら。


「そうよ!

 あなた方と同じく、私にも力は備わっているのよミハル・・・シマダ。

 光と闇を抱く者よ、希望の女神になる者よ!」


カナはミハルが何を背負っているか知り尽くしているようだった。


「・・・あなたは?あなたの名は?

 私の事をどうしてしっているの?」


ミハルの眼が相手の表情を掴もうとする。

しかし、カナは何も顔には出さずに名を名乗った。


「私は有志連合軍加盟国、日の本海軍所属1等駆逐艦<夕立>。

 この娘に宿る日本海軍駆逐艦<夕立>の魂。

 娘の名は保井ほい 香奈かな3尉という。

 見知っておかれるが善い」


解ったのは、少女には艦の魂が宿っているという事。

表情も変えずに喋りかけたのは魔鋼機械に魂を預けているから。

<夕立>も、やはり魔鋼の艦だという事だった。


保井ぽい3尉ありがとうございました!

 憶えておきますから、今は直ぐに後退してください!

 新たな大艦隊がもう直ぐそこ迄迫って来ていますから!

 私が上空を護っておきます!」


ミハルの言葉になぜか顔を歪めたカナが応えた。


「ミハルさん・・・私はポイじゃないから。

 それに私独りだけでここへ来た訳ではないのよ?

 後退する必要なんてこれっぽっちもないから!」


カナは意味ありげにミハルへ返答し、手を空へと向ける。


「?!」


指差された方向に眼を向けた瞬間に飛び込んで来たのは・・・



駆逐艦<早蕨>と、乗員の魂は天に召されて逝った。


残された<夕立>の魔砲師カナが指差した先に観たモノとは?!


遂に来る。

ミノリが云っていたモノがやってくる・・・


次回 終わる世界 Ep5 ジェットランド沖海戦 Part16

君は現われし艦隊に目を見張る・・・その強力なる砲撃能力に!

人類消滅まで ・・・ アト 64 日

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