表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔鋼騎戦記フェアリア  作者: さば・ノーブ
547/632

第6章 終わる世界 Ep5 ジェットランド沖海戦 Part13

沈む事を拒むかのような<早蕨>。


周りを囲まれている駆逐艦を救うべく、ミハルの魔砲が唸る!


だが魔砲師独りには荷が重かった・・・その時!

周りを敵艦に囲まれた駆逐艦から炎と黒煙が舞い上がっていた。


未だ行き足は停められてはいないが、損傷具合は最早戦闘不能に近い状態だった。



「ミカよ、良く頑張ってくれた。

 魔鋼の力も、もう残り少ないだろうに・・・」


艦長の門田大尉が掌砲術長に礼を贈って来る。


「島田君、ここまで本当に良く尽くしてくれた、感謝するよ」


先任士官も喜び、心からの感謝を言って来る。


「砲長!もういいんだ。

 もう満足なんだよ、我々の呪いも願いも果たされたのだから」


皆がミカに礼を述べ、感謝の言葉を伝えてくる。


「そうですよね。

 ここまで戦えたのですから・・・思い残す事もありませんよね」


たった一隻で敵艦隊に挑み、多数の敵に損害を与えた。


それは不意打ちの魚雷によって撃沈されてしまった無念を晴らすに足る大戦果だった。


「そうさミカ。

 我々の魂は晴れたのだ。

 恨みも憎しみも・・・全てがここで終わりを迎えられた。

 君の従妹いとこに感謝するよ・・・君が連れてきてくれた事に」


艦長の門田大尉が帽子を脱いで頭を下げた。


「艦長・・・ありがとうございます。

 その言葉をミハルに伝えたく思います。

 あのには、迷惑を掛けたとは思うのですが。

 きっと解ってくれると思いますから・・・」


ミカの魂は上空を見上げてそう答えた。


「そう願いたいな。

 後、どれくらい保つだろうか・・・

 出来れば最期くらい日の本海軍らしく散りたいものだな」


門田艦長が願った事に、ミカも頷く。


「ええ・・・勿論です。

 もう間もなく、その時が来てくれますから・・・」


遠く・・・遠い海上に眼を向けたミカの魂が、それを期待して見詰めていた。




挿絵(By みてみん)



魔砲が唸る。


敵艦の艦橋部に火花が散る。



「ミカ姉ちゃんに手を出すな!

 浮かばれぬ魂達に汚い手を出すなっ!」


<早蕨>に砲火を撃っている一隻の艦橋から炎が上がる。

ミハルは駆逐艦<早蕨>を囲んだ敵に攻撃を掛けていた。


「ミハルっ!無茶すんな!

 独りで叩ける数やないんやで!」


ミハルをカバーするホマレが止めに入るのだが。


「だって!ミカ姉ちゃんが!<早蕨>が沈められちゃう!」


ホマレの制止を振りほどいて再度の攻撃を掛けようとするミハルに。


「ホマホマの言う通りだよ、ミハル。

 落ち着いて、もう間もなく全てが終わるんだから」


胸の中に宿る龍の子リィ君が何かを伝えようと話しかけてくる。


「リィ君まで?

 ミカ姉ちゃん達を救うなと言うの?

 私は黙っていられないよ!観ているだけなんて出来ないから!」


制止を振り切って突入しようとするミハルに、リヴァイアサンの声が届く。


「間も無く・・・現れる。

 彼方の国から救援のふねが。

 我と我の力を求め、日の昇る国からやって来た戦士のふねが・・・」


リィ君の声ではない、重々しい声がミハルに届いた。


「えっ?!それって、どういう事なの?」


その時、ミハルの声を裂いてホマレの叫びが聞こえた。


「ありゃーなんや?!

 まさか・・・あれは。

 魔鋼のふねなんか?人間が操る魔法のふねなんか?!」


ホマレが指さす先には・・・・



海上を滑るふねが観えた。

そう・・・滑る様に観えたのだ。

恐るべき速さで進み来る・・・戦闘艦艇の姿が。


「あれは?!

 そんな・・・まさか・・・まさか?!」


海の中から湧き出た様に現れた艦から光が瞬いた。

前後に備えられた砲から延びた砲身の先から炎と煙が湧き出た様に観えた。


ミハルにはその事より、マストに掲げられた旗に眼を盗られていた。


艦橋後部に建っているマストに掲げられるのは・・・


「なんやて?!ありゃー・・・日の本の駆逐艦やないのか?!」


ホマレが叫んで教えるまでもなく、旗が教えていた。


「ホーさん!間違いないよ。

 あのふねは日の本の駆逐艦だよ、菊の御旗を掲げているんだもの!」


マストに掲げられた日の本の艦を示す<菊の御旗>。

白地に金の菊が描かれた日章旗。

その下に掲げられるのは菊の周りを放射状に囲んだ<旭日旗>!


それが掲げられてあるのは、

そのふねが日の本海軍に属し、戦闘を行っている証。


「日の本だ!

 日の本の海軍が誇る駆逐艦、魔鋼の駆逐艦だ!」


周りの魔砲師達も一斉に気勢を上げる。


「うそ・・・私・・・狐に騙されているんじゃないでしょーね?」


砲撃を開始した駆逐艦を見詰めながらホマレに訊いてしまう。


((むにゅ))


ホマレが自分の頬を抓って。


「間違いないわ!ほらっ、こんなに痛いんやから」


ミハルの頬を抓るのではなく、自分の頬を抓って錯覚では無いと教える。


「・・・確かに・・・そうみたい」


苦笑いを浮かべて、ミハルはホマレにその通りみたいと答えた。





「こちら、日の本海軍所属艦<夕立>!

 これより貴艦の援護と、敵水上部隊の撃滅を図る。

 これまでの作戦遂行に感謝を贈る」


艦橋で直に聞いていたミノリが、艦の後方を振り返って即座に命じる。


「漸く来たか!

 よしっ、これより本艦は敵艦隊に向け再度攻撃を掛ける。

 反転180度!主砲砲撃準備をなせ!」


艦長の命令を受け、直ちにミツル航海長が復唱する。


「反転180度、よーそろーっ!」


主砲の電路を確認したレナ砲術長が弾火薬庫に命令を下す。


「主砲、電探射撃!魔鋼弾装填!射撃は本砲術長が行います!」


今迄の鬱蒼感が一気に晴れた。


<薩摩>は空中で反転を開始する。

無傷だった砲が一斉に鎌首を擡げ始める。


「目標は空中艦隊に絞れ!水上の敵は味方に任せておけ!」


立ち揚がったミノリが右手を差し出して命じた。


「主砲っ、砲撃始め!」







海上では・・・


「行き足が停まりましたね・・・」


黒煙を噴き上げつつも尚、沈まずにいる駆逐艦を観て静かに言った。


「ああ、彼も。彼等も漸く旅立ちの時を享受するようだな」


敵艦隊が大混乱に見舞われている最中。

<夕立>艦橋では、魔砲少女と艦長が話し合っていた。


「きっと、彼等は沈められるのを拒んではいないようです。

 彼等と彼女は・・・死を受け入れているようです」


今の今迄、闘い続けて走り続けていた駆逐艦が、往き足を停めて浮かんでいた。


「そのようだな・・・

 門田君は・・・無念を晴らせたのだろうか?」


「いいえ艦長。

 彼等と言った筈ですよ・・・彼女と彼等・・・と」


測距儀に宿った魔砲少女が悲し気に答えるのだった。




周りを囲んでいた敵艦の囲いが解けた。


たった一隻の駆逐艦が現れただけで?

いや。

違う。


水中を迫り来る魚雷の推進音に気付いたからだ。


「「警報!警報!!魚雷接近!急速回避!」」


各艦のコンピューターが警報を発した時には、ソレは目の届く距離まで到達していた。


「「回避不能!回避不能!!」」


断末魔の判断が、コンピューターを狂わせる。


<早蕨>だけを避けたように、魚雷が突進してきた。


巡洋艦には2発。

護衛の小型艦には1発・・・


それで十分だった。


((ズダァーンッ))


8本の魚雷達に打ちのめられた敵艦は、一瞬で戦闘不能になるか。


((ぎぎぃいいいぃ))


不気味な軋り音と共に、海底へと旅立って逝く。



「ありがとう・・・同胞はらからよ」


ミカは感謝の言葉を仲間たるかんに贈った。


最期まで闘い抜いた。

最期まで闘う事が出来たのだと・・・満足げな微笑みを浮かべて・・・

現われしは・・・日本駆逐艦にして夜戦の勇者。


その名は永遠に語り継がれる<夕立>!

たった一隻で米艦隊に痛打を与えた・・・ソロモンの英雄


次回 終わる世界 Ep5 ジェットランド沖海戦 Part14

君は消え逝く魂の願いを訊けるだろうか?

人類消滅まで ・・・アト 66 日

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ