第6章 終わる世界 Ep5 ジェットランド沖海戦 Part12
まだ・・・それの姿が確認出来なかった。
空に浮かぶ巨大な艦隊の姿が。
しかし、電波の眼は確実に捉えられていた・・・
「敵艦隊の規模、空中艦隊が12隻。
水上艦隊は戦艦12、巡洋艦36。護衛艦多数・・・
第7艦隊に向かうモノの如し!」
電探室よりの報告が入る。
艦橋の中では薄暗い灯りの中、数名の幹部達が計器盤を睨んでいた。
艦長らしき人物が命じる。
「今の距離は?
敵水上部隊との距離は?」
「およそ80マイルです、間も無く攻撃範囲に到達します!」
命じられた士官が即座に答える。
頷いた艦長が指揮を執る。
「砲雷撃戦の準備にかかれ!
左舷の<高波>に信号!
ー<<我、敵艦隊に突撃ス>>貴艦は直ちに本隊に合流し、艦隊を誘導せよー
・・・以上だ!急げっ!!」
艦長命令で各員が行動を起こす。
波を蹴立てて進む艦上が途端に騒がしくなる。
各砲台に灯が入る、発射管が旋回を始める。
そして・・・
「掌砲術長に命令!魔鋼機械発動せよ。
これより本艦は戦闘に突入する!全艦戦闘配備、砲雷撃戦の機動を指揮せよ!
日の本の<艦娘>たる者の力を示せ!」
艦橋上に備えられた測距儀に配置された少女に命じた。
ヘッドフォンとマイクを着けた魔砲の少女が復唱する。
「了解!これより本艦の戦闘を指揮します!魔鋼機械発動っ、魔鋼状態になります!」
襟元に金線一本の階級章を着けた黒髪の少女が応じ、機関部に備えられてある魔鋼機械の火を入れた。
少女の眼が紅く染まり髪が白く染まる。
その姿は高位の魔砲使いたる証。
この艦に魔砲の力を与える魔女の証。
魔砲の力を与えられた機械が高速回転を始め、それにつれて艦形も変わる。
「これより本艦は第2形態となり、敵艦隊との砲雷撃戦を行います!」
濃緑色の海軍軍装から白色の魔法衣姿に替わった少女が発令する。
「主砲魔鋼弾装填!93式魚雷発射用意!対空機銃電探射撃用意!
本艦第2形態にて突入開始!戦闘っ!!」
荒波を蹴立てて往く艦。
その側面に書かれてある艦名は・・・
ネイビーカラーの側面に白くカタカナで描かれたその名は。
ユウダチ・・・<夕立>・・・・
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「ミハル1尉、発艦っ!」
蒸気カタパルトに載ったミハルが押し出される。
「ミハルっ、イッキまーす!」
デバイス槍を片手に捧げ持ったミハルが空へと舞い上がる。
進路を反転させ元来た方角に換えた<薩摩>から、後方に展開しつつある敵艦隊に向けて上昇を続ける。
小型機隊との交戦を終えたホマレ3尉の元へと向かったミハルの眼に、
新たなる敵が目に飛び込んで来る。
「12隻も居るんだ・・・なるほど。
それじゃあ、逃げるより他はないかな・・・」
砲撃戦ではとても勝ち目がない事を悟ったミハルが、ちらりと<薩摩>に振り返る。
「でも。
逃げたとしても敵が追撃すれば、いつかは追い詰められて・・・」
暗い想いが頭を過る。
「それに・・・ミカ姉ちゃんの艦も。
・・・なんとか今迄持ち堪えてくれていたけど」
海上に眼を落とすと、未だ交戦している様が観えた。
「私の魔砲では無理だ。
艦を沈められるほどの装備もないし。
出来るとすれば、敵を攪乱する位がやっとだろうな・・・」
これからどう闘えば良いのかを思案しながら、ホマレの元へ急いだ。
前方に一塊になっている編隊に近づくと。
「あれ?ミハルやないか!
どないしたんや?主砲でも壊れたんか?」
一番にホマレが近づき訊いて来る。
「あっ、ホーさん!
あのね、新たな敵艦隊が近づいているんだよ。
多数の敵に囲まれる前に後退してるんだ<薩摩>が」
ミハルは訊き齧った情報をホマレに伝えた。
「そう・・・なんや。
そんでミハルは空に駆り出される事になったんか。
6隻も倒したちゅーのに、ご苦労さんやなぁ。
疲れてへんのか?なんや魔法衣も変わっとるみたいやけど?」
ホマレに言われて、改めて自分の魔法衣を確認する。
ホマレの言った通り、今迄無かった上着の側面に蒼い襷のような防御魔法壁が着いていた。
魔法文字が描かれてある襷は、敵の攻撃からどの程度防ぐ事が出来るのか。
また、ミハルの能力がどれ程レベルアップしたのかが解ってはいない状態であったのだが。
兎に角、魔法衣は以前とは少し変わったようであった。
「ああ、これね。
私も初めてだから・・・どれだけの力があるのか解らないんだ」
マジマジ観てくるホマレにことわって、苦笑いを浮かべる。
「ふーん、そーなんか。
まぁ、悪いようにはならへんやろ?
それよりこれからどないするかやな。
敵小型機編隊はあらかた撃ち墜としたしな。
ウチ等のやる事と言ったら敵を邪魔する位やろ?」
ミハルの考えていた通りの事をホマレが言って来る。
「そーだね。
それくらいしか思いつかないね。
でも敵艦隊に近づくのも危険だし、水上の艦隊に突入するなんて無駄だし。
手の下しようがないってこの事だよね?」
自分達の装備が、空中戦にしか向いていない事に頭を悩める。
「そやけど・・・なんもせんっちゅー訳にもいかへんわ。
どないかして敵に一泡吹かせたいって、思うんやけどなぁ」
ちらりとミハルの表情を伺うホマレに、ミハルがドキッとする。
「ま、まさか。
ホーさんっ、敵艦隊の只中に突っ込むつもり?
それは駄目。絶対駄目です!
みんなを危険な目に遭わせる事になっちゃうんだから!」
ミハルはホマレの言う前に釘を刺したつもりだったのだが。
「あのな・・・どっからそんな特攻じみた考えが湧くんやねん?
ウチが思うんは、上と下を二分割させるっちゅー事なんや。
上下の艦隊を合同させへんようにするっちゅー事やで?」
ホマレは上空の艦隊と水上の艦隊を交互に指し示して教える。
「うん?
つまり、ホーさんの言いたいのはどちらかの艦隊だけに的を絞るって事なのね?」
「せや!
ウチが思うんは<早蕨>の援護を兼ねて、
水上の艦隊に機銃掃射を咥えて攪乱する。
そうすりゃー艦隊機動も取り辛くなるやろーし。
おまけに行き足を停められるかも知れへんって事なんや。
どやろーか?」
最後は命令を下すべきミハルの判断に委ねた。
「そっか。
2つの艦隊に追われるのを防げば、空中の艦隊も進撃し辛いって事ね!
良いじゃないっ、ナイスアイデアだよ!」
ホマレにニコッと笑いかけ、ミハルが同意すると。
「みんなっ、集まれーっ!
これから作戦を伝えるから!」
周りに集う11名の魔砲師を呼び集めると、攻撃方法の確認を始めた。
「これより敵水上艦隊に攻撃を集中します。
残り弾数の少ない人は上空にて弾が来ない場所を旋回してください。
弾が残っている人は複数人で塊り、一隻に集中攻撃を掛けます。
攻撃目標は艦橋上部にある電探。
機械の眼を潰して落伍させるのが主眼ですから撃沈などはしません。
あくまで敵艦隊を混乱させるのが目標ですから、深追いは厳禁ですよ?
それに無理に突っ込まないように・・・解かりましたか?」
命令を聞いていた魔砲師達が頷くと。
「ホーさん達は右舷から。私の班は左舷から。
同じ目標に同時攻撃を掛けます。
一隻を行動不能としたら一時退避、その連続攻撃ですからね」
ホマレの指揮する編隊とミハルの指揮する編隊と、
上空に待機する編隊とに分けて作戦を命じた。
「それじゃあ、水上艦隊に攻撃開始。
先ずは一番外側に居る巡洋艦を狙います!
突入開始、かかれっ!」
ミハルに率いられた4名とホマレに率いられた3名が、左右に分かれて急降下に入った。
水上の巡洋艦が早くも気付いて対空砲火を打ち上げてくる。
「先ずは左舷に備えられた対空砲を黙らせなくっちゃ!」
いの一番に突っ込んだミハルがデバイス槍を魔砲に変換する。
25ミリ機関砲を対空砲であるフォノンバルカン砲に向けて一連射を加えた。
((ガガンッ))
いとも容易く弾が射貫いて沈黙させた。
「よしっ、これで後は他の艦からの砲撃だけを注意すればいい」
ミハルは後ろから続く部下に進路を譲り、攻撃の指揮を執る事に務めた。
部下達が機銃掃射で艦橋周りに撃ち込むと、忽ちに巡洋艦の行き足が鈍り始める。
「よしっ、先ずは一隻!」
ホマレ隊が上空に引き返すのを確認し、長居は無用とばかり隊を纏めて上空に駆け上がる。
「さて・・・仲間の艦はどうするだろう?」
艦橋部から煙を揚げて立ち往生した巡洋艦から視線を外し、
艦隊がどのような機動をするのかを見詰める。
艦隊は一隻が落伍しても前進を続けているようだった。
「うーん・・・
一隻だけでは無理なのかな。
それじゃあ、もう一度!」
次の目標をどれにするか迷っていると、目の中に煙が映り込んで来る。
「あっ?!ミカ姉ちゃんの艦が!」
数隻の護衛艦と撃ち合っている<早蕨>が、煙を噴き上げながらのたうっているのが観えた。
「しまった!
<早蕨>が!ミカ姉ちゃんの艦が!」
居てもたっても居られず、ミハルは急降下に入る。
一隻の駆逐艦を救う為に・・・
<早蕨>を救おうとしたミハル。
だが、敵戦力は圧倒的だった。
自分の持つ火器では艦隊を相手とするのには無理があった。
<早蕨>に最期の時が近付く・・・その時!
次回 終わる世界 Ep5 ジェットランド沖海戦 Part13
君は身を捨てて仲間を救おうとした。魂だけとなっている人でも・・・
人類消滅まで ・・・ アト 67 日