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魔鋼騎戦記フェアリア  作者: さば・ノーブ
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第6章 終わる世界 Ep5 ジェットランド沖海戦 Part11

久しぶりに・・・鉛筆画です・・・すみません。


挿絵(By みてみん)


唸りをあげて砲火が飛ぶ。


蒼き魔鋼の弾がゴリアテ目掛けて飛び征く。


ミハルが狙うのは敵の弱点でもある中央の円環部分。


「回転する円環が衝撃砲の骨幹。

 あそこさえ壊せれば、もう衝撃波は放てなくなる筈だから」


砲身が水平に戻り、次弾を装填させる。


「魔砲でも。

 この魔鋼の弾でも、相手が一隻なら十分太刀打ちできる。

 敵が撃って来ないのならば・・・だけど」


巨大な空中の戦艦からの砲撃を警戒しながら、ミハルは次の狙いを定める。

円環に次の一斉射を放つのか、他の部分を狙うのか。


「円環を撃つより、敵の動きを攪乱させる方が良い。

 バランスを崩させた方が敵の狙いを狂わせる事にもなる」


空中に浮かぶ戦艦がこちらを狙いにくくする為、外周に着けられた小型の円環に狙いを定める。


「先ずは右側の2個に砲撃しよう!

 主砲発射っ!目標右側円環部・・・撃て!」


主砲が砲煙をあげ、魔鋼の弾が蒼く輝きながら飛んで行った。





_________________






「海上の艦隊が近づきます!

 こちらに主砲を向けてきています!」


レナ砲術長が電探レーダー報告を受けて測距儀の画像をモニタリングしていた。


「今の距離、40キロ!

 間も無く砲撃可能範囲内に入ります。

 ミサイル警報が発令されてます!」


水上の艦隊から遂に攻撃を受ける事になった<薩摩>艦橋で、

ミノリ艦長はそこで未だ闘う艦を思っていた。


ー  美夏みかよ・・・まだお前は闘うというのか?

   まだ<早蕨>は沈まぬというのか?


海上で砲火が未だ閃いているのが、その艦が沈んでいない証拠。


だが、力の限り闘うその艦には残された時も、砲弾魚雷も少ないと思われる。

敵艦隊の只中に在りながら数十分も沈まずに居られたのは、

あの駆逐艦が魔鋼の力を持つから。

<早蕨>はミカ達乗員の魂が模らせているのだから。


ー  呪われし艦・・・いや。

   今は魂までも削り、艦と運命を共にするだけが彼らの<望み>なのか?

   ミカよ・・・もう十分だろうに。

   もう闘わず、安らかなる世界へ向かえば良いだろうに・・・


ミノリは同郷の魂に呼びかける。

後輩だったシマダ・ミカの魂に安寧を願っていた。



「艦長!大変ですっ、電探に新たな敵艦隊を捕捉しました!」


スピーカーから、電探士の叫びが流れ出る。


「後方から近づく艦隊は、目前の艦隊より規模が大きいですっ!

 空中艦隊の数、12隻。水上の艦隊は電探レンジ一杯になる程の数です!

 詳細不明なれど、大型艦の数・・・30以上!」


このジェットランド沖に、敵<神軍>は総力で挑みかかって来たというのか?

未知の大艦隊を前にして、誰もが恐怖を覚えるだろう。

最早勝利はあり得ないと。

逃げても追われれば必ず敗北するのだと。


だが。


ミノリは小さく笑う。

航海長も砲術長も・・・頷き合う。


「敵はこちらの思う壺に嵌ってくれたようだな。

 これだけの大艦隊をこちらにいたのなら・・・

 本拠地の防衛力は著しく落ちたともいえるのだからな」


ミノリは口元を緩めて呟く。


「艦長!敵がこちらへ頭を向けて来た事を報告しなければいけませんね」


細く笑むミツル3尉が求めてくる。


「そうですよ、どうやら<エンガノ>作戦は成功したようですからね」


頷くレナ砲術長も暗号名を告げる。

ミノリは軽く頷くと命じるのだった。

父親から託された命令を思い出しながら。

日の本海軍司令長官でもある<源田げんだみのる>海将から託された作戦電文を。


「ミツル3尉、直ちに全海軍向けに打電せよ。

 <<我、敵艦隊を誘出せり。地点<エンガノ>沖200マイル>>とな!」


作戦は見事に成功した。

<神軍>を誘出し、敵を分散させる。

謀略エンガノ作戦は人類を賭けた闘いの一翼として計画通りに動き始めていた。

そこに居る者の犠牲を問わずに。


<囮>艦隊に敵が誘い出される事に因って、

本隊である主力が本拠を叩くべく計画されたこの<エンガノ作戦>。

人類の存亡を賭けた大作戦の発端はこうして第1段階に到達したのだった。


勿論。

囮艦隊の犠牲は承知の上で・・・








「ミノリ。

 お前は我々人類をどう考える?

 我々がこのまま生き続ける事が良き未来に繋がると思うか?」


呉軍港に停泊する艦隊の中で、ミノリは父と向かい合っていた。


「どう云う意味でしょうか?」


日の本海軍司令長官に抜擢された父を見詰めて、話の意味を訊く。


「うむ。それはだな、神が何故人類に攻撃を掛けているのかと問うたのだよ。

 我々人類を滅ぼす意味が何処にあるのかと言ったのだ」


父が問う意味は、このまま人類が存続したとしても未来はあるのかという事。

ミノリには問われた事の意味が大き過ぎて答えようがなかった。


「私達の一族は古来から神を宿す者として皇家に仕えて来た。

 巫女でもあるお前に宿ったのは日の本を護る守護神。

 その神はなんと答えるのだろうか、そう思ったから訊いたのだよ」


慈父たる父に、そう訊ねられたミノリが狐の神に伺いを立てる前に。


「私が思うに、人類は間違った方向に歩み始めたのではないだろうか。

 戦争は未だ世界中に蔓延っている。

 その度に無数の人が亡くなり、恨みが呪いと化していく。

 まるでこの世を闇に閉ざす様に。

 悪魔が世界を牛耳ろうとしているが如く・・・」


父の話はスケールが大きかった。

憑き神に伺いをたてる前に告げられた言葉の真意を量った。


「では、父上は人類が消滅するのは自らが招いた贖罪だと?」


「言い切れぬが、そうとも思えてな」


初老の海軍大将が見せたのは、何かを思い悩む父の姿。


「何をお迷いになられていられるのです?

 私にそのような話を聞かせる為に呼ばれた訳ではないでしょう?

 私に何をしろと仰りたいのですか?

 自分に何を命じたいと言われるのです?」


軍隊にあっては個人の都合など関係なく、命じるべきだとミノリは考えた。

しかし、父たる司令長官は口を濁したまま命じなかった。


「ミノリ。

 お母さんが亡くなった時を覚えているか?

 あれが死ぬ間際に私に願った言葉を。

 <ミノリだけは戦争で殺さないでください>・・・そう願った言葉を」


まだ女学生だった当時。

ミノリの母は胸の病で亡くなった。

母がミノリを思って吐いた言葉だと思っていた。

しかし、戦争が拡大し軍に入らざるを得なくなった時に知る事になった。

自分には魔鋼の力があるのだと。

それも並外れて強力な・・・<憑き神>の力がある事に。


「お母さんが闘いに出す事を拒み続けていたのが・・・

 私の事よりも<神>が、闇に堕ちる事を恐れての言葉だと気付いた。

 でも、時代がそれを許さなかった。

 <神軍>との戦いになるまで・・・人同士の戦争が激化していたから」


父の言葉で記憶にある戦争を思い出す。

人同士の戦いは悲劇を見せつけた。

傍にいた人が敵に斃され、目の前で死を迎える・・・

それでもミノリの中に居る憑き神は墜ちなかった・・・闇に。

いにしえから日の本を護る神は動じなかった。

敵たる者からこの国を護るのが守護神たる者の務めだと頑なに守った。


「お母さんが言いたかった事は解ります。

 ですが、私も日の本を護る為に闘ったのです。

 この身を捧げてでも大切な人々を護ろうと誓ったのです。

 喩え・・・死を免れないとしても・・・」


ミノリは父が何を求めているのかが解る。

どうしてここへ呼んだのかも。


「命じてください。

 それが私に死を与える事だとしても。

 海軍司令長官として。人類を救う為に命を投げ出すのなら本望なのですから」


決死の作戦に向かわせられる事を承知で求めた。

父と娘の垣根を越えて、一軍人として。


「・・・我が海軍も有志連合軍に加盟するのは知っているな?」


重い口を開いて司令長官が訊く。

黙って頷くミノリに告げられたのは、想像していた事より遠大だった。


「我々海軍が新型戦闘艦艇を建造しているのは知らないかもしれんが。

 その一番艦の飛行長として赴任して貰いたい。

 本作戦が発令されるかは<とある女神>によるのだが・・・

 計画通りならば、後に<秘密機械>をその艦に投入する事になる。

 人類始まって以来、未曾有の作戦となるだろう戦いでお前は死を賭す事が出来るか?」


一度話を切ってミノリの反応を確かめた父だったが。


「これはお前に命じるしかないのだよ、ミノリ。

 憑き神を宿すお前にしか出来ない・・・

 神軍に対して<囮>部隊の一員として赴いて貰いたいのだ。

 友好国フェアリアに・・・

 そこに居る筈の娘を補充要員として迎え、闘って貰いたい。

 人類の存亡を賭けて・・・全滅しようとも・・・」


人類を存亡を賭けて・・・全滅しようとも。

<囮>部隊の一員として・・・


言葉は司令長官として抑えられているが、告げる顔は悲し気に観える。

親として。

娘として聞いてはいけない言葉。

死地へ追いやる親の言葉としては聞いてはいけない。

これは戦争が追いやる軍人としての言葉だと割り切らねばならなかった。


最初に父が問うた言葉の意味が漸く解った。


こんな戦争をいつまで続けなければいけないというのか?

これが人類に投げられたかせというのか。


親が子を死地に追いやらねばならない・・・そんな事がいつまで続くのか?


人類に課せられた業に、父は疑問符を投げたかったのだろう。


だが・・・と、考える。


ー  我々は軍人だ。国を想い、大切な人を想う。

   それもまた人たる者の本心。

   自分が死ぬ事で護れるというのなら良いじゃないか。

   生き残った人達を信じて・・・その先駆けとなる。

   滅びを免れた人達を信じて未来を信じて・・・散れるのなら。

   まさに、本望じゃないか!


ミノリは父の苦心を想うより、未来に希望を見出す。

後に残された命に、希望を託せるというのなら自分の死は無駄ではないと考える。


「司令長官、私は征きます。

 それが人を救う方法と言うのであれば。

 後に残す事が出来るのであれば・・・希望を。

 喩え散る事になるとしても、

 残された者がきっと未来を掴んでくれると信じれますから」


はっきりと希望が目の前に観えた気がした。

戦争を繰り返すだけの人類では無いと。

いつかはきっと地上に平和が訪れてくれると信じて。


「そうか・・・ミノリは希望を描けるのか・・・大きくなったな」


父たる海軍大将は娘の成長を誇らしげに観ていた。


「私もお前と同じ気持ちだよ。

 お前が散るのなら残された者としてこれだけは云っておきたい。

 私達の後に続く者が必ず果たしてくれる筈だから。

 <散る桜、残る桜も散る桜>

 おまえ達だけを散らせようとは思ってはいない。

 この命令は我々人類に語り継がれる事になろう。

 後の人類がどう評価するか・・・解らないが」


父もこの闘いに散る覚悟を決めている事に、

悲しみが浮かんだが、後の人に託す気持ちが同じだったと気付く。


「後の人がどう言おうと私達が出来る事は、

 <希望>を残す為に闘わねばならないという事ではありませんか。

 その戦いに身を捧げられれば本望なのです、一死を以って残せられれば!」


残せられれば。


それは名を? 希望を? 願いを?


ミノリが言い放った言葉の意味とは。


大切な人を想い、残ってくれた人達に希望を与えられれば・・・

それこそが本当の勝利。

未来が残された事こそが人類の <希望> なのだと。





___________

   




ゴリアテ改級のコンピューターが弾き出した答え。

それは、後から迫る第2部隊に受け継がれる。



「「我々の勝利は確定した。間違いなく人の艦は沈められる」」


6隻を相手に闘い、性能の全てを把握した。

コンピューターは敵艦の弱点も、強力な攻撃力も計算に入れての答えを弾き出す。


「「12隻の我々が周りを囲んで攻撃すれば敵は対処不能となる」」


メインコンピューターの結論は直ちに後続部隊に受け継がれた。

海に沈む前に・・・撃沈される瞬間に。




「やっとだよ・・・砲弾の消費も凄かったけど。

 私の魔砲力もそれなりに減っちゃったよ・・・って。

 まだ齧ってるぅ~っ!」


砲撃で魔砲力を消費したのか、リィ君に齧られ続けたからなのか。

モニターに映るゲージの減り方にミハルが戸惑っていると。


・・・ミハルさん、もう直ぐ新たな敵がやってきますよ?

   今度はちょっと大変そうですからね・・・気が付きませんでしたか?・・・


魔鋼機械に宿る魂が教えた。


「えっ?!新たな敵?

 うそっ?!そんなの聞いていないよ?!」


砲撃に集中していたミハルには初耳だった。


「あれ?そうだったの?

 僕はてっきり耳に入っていたものとばかり。

 だからお腹いっぱいになるまで齧って魔法力を補給してたんだよ?」


龍の縫いぐるみが話しながら満足げにゲップした。


「リィ君・・・お行儀が悪いよ。

 そうだったんだ・・・また魔砲を撃つ事になるのかな?」


一撃で5隻を倒せた超音波魔砲をもう一度放つとなると・・・


「でも。私の魔砲力が足りないよ。

 撃ってもまたデサイアさんに助けて貰わないと・・・」


困ってしまい素直に聞けないミハルが戸惑っていた時。


「「これより本艦の進路を180度転換する。

  後続部隊に追いかけさせる事にする、ミハル1尉は飛行甲板に急げ」」


敵に背を向けて逃げ出すと知らせて来た。

後ろを向けて逃げるという事は前部甲板にある主砲はもう役には立たないという事。


「え~っ?!そんなぁっ、折角魔法力をミハルから齧って補給したのにぃっ?!」


龍の縫いぐるみが落胆の声をあげる。


「え~っそんなぁっ?!もう砲手を辞めさせられちゃうんですかぁ?!」


砲手席が自分にとって一番手慣れた場所だと思っているミハルが落胆する。


「「いいからさっさと持ち場へ急げ!もたもたしてるとホマレ達が危ないぞ!」」


魔砲師のホマレ達に危険が迫っていると言われては、急ぐしかなかった。


「そっか!ホーさん達が・・・急がなきゃ!

 リィ君はどうする?私と一緒に飛ぶ?」


弾かれた様に砲手席から立ちあがったミハルに、縫いぐるみが頷く。


「当たり前だよ!ミハルと離れちゃったら齧れないしね!」


胸の中に潜り込むリィ君がウィンクを贈って応えた。


「オッケ!それじゃあ一緒に飛ぼう!

 みんなを護る為に、皆と共に闘うために!」



反転し始めた艦の飛行甲板に向けて走り始めたミハルの手にはデバイス槍が光を放っていた。


<薩摩>は方向を変え、後退し始める。


それは作戦の為。

出来るだけ永く。

出来るだけ遠くにへと・・・敵を連れ出す為に・・・


次回 終わる世界 Ep5 ジェットランド沖海戦  Part12

君は海上での闘いに介入する。敵を撹乱する為に!

人類消滅まで ・・・アト 68日

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