第6章 終わる世界 Ep5 ジェットランド沖海戦 Part9
海戦の最中だというのにミハル達はのんびりしている??
いえ。
魂の問題こそが本当の闘いに向けたプロローグなのですよ・・・
最後に残った一隻のコンピューターは自己の判断が間違いではないと確信する。
「「敵は二の矢を放てない」」
5隻を倒した一撃が、敵の全てだったと。
「「第2射を撃ってこない事がそれを証明している」」
勝利の行方は、自らの手にあると。
「「こちらはまだダメージを受けずに済んだ」」
5隻は間に合わなかったが、円環から繰り出していた破壊波を中断した。
それにより超音波魔砲弾が繰り出した破壊から何とか被害を受けずに済んでいた。
対峙する敵艦からの第2射が来ずに済んでいる事から、
メインコンピューターはもう一度破壊波を発射する為の準備に掛るように指令を下した。
「「敵を粉砕すべし!勝機は我が方にあり!」」
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モニターには一隻だけ空中に残ったゴリアテ改級戦艦が映っている。
最期に残った敵が態勢を変えず、こちらに迫って来ていた。
「アイツ・・・性懲りもなくまた発射する気だな。
で?お前達はどうしたいのだ?」
ミハルの前でデサイアが二人に訊いた。
「もう一度超音波魔砲弾を撃ちたいの!魔力を貸して!」
敵を撃滅する為に・・・そう言おうとしたのだが。
ミハルが言う前に女神は首を振って断って来た。
「駄目だ!
いくら私の魔法力を与えたにしても、直ぐには発射出来ないのだそうだ。
この機械に訊いてみるが良い、再発射するには相当の時間が必要だそうだ」
機械に宿る魂から聞いていたのか、デサイアが澱みなく教える。
「え?!それ・・・ホントなの?
じゃあ、あの敵の破壊波動を停めるにはどうしたらいいの?」
焦燥感を滲ませたミハルの声に応えるのは。
・・・敵の波動から護るには狐の神様が適任でしょう。
あの神は守護力のみに力を発揮できますから・・・
魔鋼機械に宿った者が教えるのは、元の魔法障壁を展開すべきだという事と。
・・・急ぎあなた方はその場所から身体に戻られなくてはいけません。
この機械から魂を抜き、主砲で応戦すべきです。
魔法力はデサイアさんが闇の力を知る事で、応急的に措置が可能でしょう・・・
魔鋼機械に魂を宿らせているミハルに、女神の力を借りるように勧めて来た。
「じゃあ、女神デサイアさんは闇の力を放てなくっちゃいけないんだよ?
もしかしたら女神じゃなくなっちゃうかも知れないんだよ?
・・・私は知っているの、神は闇の力を使えはしない事を。
闇の力と光の力・・・両方使えるのは私だけ・・・人たる者の私だけなの」
そう。
闇の力を授けた魔王は、神に戻ってからは光の魔力はあっても、
闇の魔力は使えなくなっていた。
ルシファーは神に戻った時に闇の魔力が使えなくなっていた。
ミハルはその事を思い返し、デサイアが闇の力を放てるようになる事に不安を感じていた。
・・・ですが、今のあなたには魔法力が足りない。
一刻も時を争う今、
あなたに選択出来る方法は一つしかないのではありませんか?・・・
魔鋼機械が言う事も判る。
だが、その結果もし、デサイアが闇に堕ちる事になれば。
「デサイアさんが闇に堕ちれば、憑代の私も堕ちてしまう・・・
闇に堕ちて・・・出口のない空間で彷徨う事になる。
私の記憶に残っている・・・あの闇の中へと」
過去にあった悍ましき出来事に、ミハルは心を塞がれてしまう。
闇に堕とされ、<無>へと為らしめようと悪魔達に貶められ続けた。
・・・あの闇の中の記憶が決断を鈍らせる。
ミハルが躊躇していると、憑き神たるデサイアが軽い口調で言った。
「憑代よ、何を迷っておるのだ?
私が闇に堕ちるとでも思っているのか?
良く考えてみてみろ、そもそもお前の中に宿る事になった私だぞ。
お前の力で闇に堕ちる訳が無いではないか。
私に闇の力を知らしめれば如何なる神にも対抗できるようになる」
そこまで話したデサイアが、おもむろに言い放った。
「それに、これしか方法がないのだ今は。
時間がないぞ!
敵の攻撃を受ける前にここより抜け出さなくてはならんのだからな!」
急かしたデサイアがミハルの右手を掴む。
右手に填められてある宝珠から闇の力を取り出そうとしているかのように。
「さぁ!早く!」
女神デサイアがミハルに決断を迫る。
「もう敵が射撃態勢に入ってるよ?
ミハル、ここから出ないとみんなが倒されちゃうんでしょ?」
リヴァイアサンに宿るリィ君も急かして来る。
ー でも。
本当に大丈夫なのかな?
何か釈然としないし・・・私に魔法力を授けてくれれば良いだけなのに?
ミハルはマゴマゴしている。
・・・ ミハルさん、何をそんなに気にかけているのです?
あなたの闇の力を女神デサイアが必要としているのですよ?
神軍を殲滅する為に。
女神デサイアが目覚める為に・・・
ー そう。
気になっていた事が漸く解った。
この間からずっと気になっていたんだ。
私に憑いたデサイアさんの事が・・・
ミハルは右手を持つ女神デサイアを見詰めて考える。
ー この魔鋼機械に宿った魂も、リヴァイアサンも。
女神デサイアは目覚めては居ないと言った。
それは一体何に?
デサイアさんの魔力は桁違いに強いというのに?
まだ何かに気付いていないというの?
それは私の中にある闇の力が必要だというの?
自分を見詰める女神の顔には何かを求め続けて来た者が、
最期に欲して急かしているようにも感じてしまう。
ー デサイアさんは私にどうして宿ったというのかな?
そもそもリーンの力を与えられる筈だったのに・・・
私もそうなると思っていた・・・死の間際に。
そう願って・・・死を受け入れた筈なのに・・・
全ての疑問が甦る。
フェアリア沖で死に至らしめられた、あの時。
身体の中を壊され、死んだ筈だった。
気が付くと死の門に立っていた。
ー そこにアヌビス神が待っていた。
私を死界に入れようとせず・・・話された。
私は死ぬ事を赦されない娘なのだと。
生きる事を諦めてはならないと・・・
その身は人の為に尽くさねばならないと。
そして・・・教えられた・・・
女神デサイアを見詰めて思い出した。
ー アヌビスは私を生き返らせる為、ミカ姉ちゃん達の呪法を取り入れた。
呪いをワザと授け、死者としてでも蘇らせた・・・強制的に。
ホーさんが生きていた証を与えてくれなかったら、
私はきっと未だに半死人状態だった筈。
だけど、生き返らせて貰った・・・友に
ミハルの記憶は、そして・・・と、続ける。
ー 私の中にもう一人の人格。
いいえ、神格が宿っている事に気付かされた。
このデサイアを名乗る神が宿った事を・・・
握られた右手から魔法力を感じる。
自分よりもっと強い魔法力を。
ー この女神に闇の力を与えれば、確かにもっと強くなる。
でも、一つ間違えばとんでもない事にもなる・・・かもしれない。
神が悪魔と化す・・・かもしれないんだから・・・
もしかしたら・・・デサイアさんこそが<無>を求める者になりかねない・・・
神の力と悪魔の力を兼ね備えれば。
確かに思うままに出来るかも知れない。
世界を混沌へと招く事も。
世界を地獄へと化せる事にもなるかもしれない。
自分の決断一つで世界が終わるかも知れないと。
あの闇の中で辛苦を嘗めさせられた時のように。
今、ミハルは決断を迫られている。
<光>か、<闇の無>か・・・を。
考えていた時間は無限に思われたが。
一つの約束が突き動かす事になる。
ー そうだ、リーンの力をまだ私は使っていない。
胸に仕舞ってあるペンダントにまだリーンの力が眠ったままになっている。
この力を使えないの?
もし、デサイアさんが闇に堕ちるような事があったなら・・・
リーンが救い出してくれるのかな?
今は右手の宝珠より大切に想っている割れたペンダントを思い出して、
ミハルは一つの想いに願いを祈った。
ー 私は何があろうとリーンを助ける。
そうじゃなかったらルシちゃんに何て言い訳が出来るの?
いつか必ず逢えると信じていた・・・あの日に誓った約束を。
だったら、自分の願いを信じて今を切り抜けるしかない!
考えが纏まると、ミハルはデサイアに頷く。
「デサイアさん、闇の力を教えるわ!
ここから抜け出せる力の使い方を!
だけど、言っておくから。
神と悪魔の力を持ったとしても、無敵なんかじゃないって!
両方の力を持ったとしても、
正しい使い方をしなければ只の悪魔なだけだからっ!」
ミハルの言葉にリヴァイアサンとデサイア。
そして機械に宿った者は、沈黙するだけだった。
「それじゃあ、デサイアさん私と一緒に唱えて!」
右手を放したデサイアに右手で印を切りながら離脱呪文を教え始めた。
・・・やはり。
この娘は唯者ではなかったか。
ミハルと言う娘は選ばれし御子であったか。
古代文字の記した通り・・・本当の神の御子だったのか?・・・
機械に宿る魂が目の前で目覚めた者を観ながら考える。
・・・予定では光と闇に目覚めた女神は、人と神・・・両者を滅ぼす筈だったが。
もしかしたらこれが本当の人。
いいや、ミハルは本当の<希望>に目覚めし者なのかもしれない・・・
魂を肉体に戻したミハルの身体に寄り添うように龍の縫いぐるみが眠っていた。
・・・リヴァイアサンに宿った少年も気がついてはおるまい。
あの龍に懸けられていた邪なる術も、覚醒したミハルによって祓われた事に。
海神が素直に撤退した訳では無かった事も・・・知るまい。
今は・・・この事は黙っておくべきだろう。
<希望>の女神デサイアたるミハルには。
気が付くまでの・・・・暫しの間は ・・・
魔鋼機械は沈黙する。
瞼を薄く開けだしたミハルに気が付いて。
今は目覚めの時を迎えた女神ミハルの覚醒を観た後は・・・
「あれ・・・れ?
戻ってる・・・ここは主砲の砲手席!
あっ!リィ君も居る・・・良かった!戻れたんだね!」
気付くとミハルは龍の子を目覚めさせる。
「リィ君おはよう!戻れたんだよ!デサイアさんは闇には墜ちなかったんだよ!」
ミハルの言葉にキョトンとした縫いぐるみが言った。
「何を言ってるのか判んないよ?
僕がどうしたって言うの?
それよりお腹が減ったよ、齧らせて!」
「へ?!」
さっきまで機械の中に居たとは思ええない。
なぜだかリィ君は記憶がないのか、無心に齧りついて来る。
「リィ君!齧っても魔法力は残ってないよ!
もう魔砲さえも撃てない位・・・って。
あれ・・・あれれ?!」
頭に齧りつかれて魔法力が残っていた事に気付いた。
「ミハルの嘘つき!
こんなに魔力が残っているじゃないか!
・・・でも、さっきまでとは味が違うなぁ。
もっと美味しくなってるような気がするけど?」
カジカジしながら龍の子が訊いて来る。
「もしかしてミハル・・・何か変えたの?
味付けが変わるような事をしたの?僕が知らない間に?」
「はいぃ?なによそれ?」
思わず聞き返して気付く。
ー リィ君は機械の中であった事を覚えていない?
抜け出すのにデサイアさんが闇の魔法を使った事も?
私達の魔砲力が足りなくなっていた事も?
齧られながらミハルは思った。
ー じゃあ、今のリィ君は記憶に留めていないんだ。
私に自分の姿を見せた事も・・・何も覚えていないんだ?
無心に齧りついて来る龍の子に想いを馳せていたが。
つい、聞きたくなってしまう。
「あのね、リィ君。
さっきまで機械の中に居たのは覚えてる?
魔砲を放って魔力が底をついた事も覚えていないの?」
尻尾をツンツン引っ張って訊いてみたミハルに。
「んーっ?なんだか知らないけど?
そんな事もあったのかなぁ?どーも覚えられなくってさ」
無邪気に答えられたミハルは、がっくりしてしまう。
「そ、それじゃあ・・・何も覚えていないのと同じだよ!
リィ君は健忘症なの?!どーしてついさっきあった事を・・・」
言い返して気が付く。
この子は記憶が出来ないのだと。
なにかの理由で記憶を残せない身体になっているのだと。
名前を忘れたのではなく、名前を思い出させなくされているのだと。
何者かによって・・・
その瞳は何を意味する?
その絆はなんの為?
戦いの中でミハルは忘れ去っていた事に気がついた・・・
次回 終わる世界 Ep5 ジェットランド沖海戦 Part10
君は過去の自分を覚えていますか?その記憶は間違ってませんか?
人類消滅まで ・・・ アト 70 日 !