第6章 終わる世界 Ep5 ジェットランド沖海戦 Part5
敵艦隊の動向に変化が・・・
そしてミハル達は覚悟の闘いに向かう?
巨大空中戦艦6隻が横倒しとなっていく。
一列に並んで真ん中の空間を晒していく。
そこにある円環が回転を始めているのが解った。
円環から黒い霧状の雲が流れ出始める。
それは空気を極端に圧縮している証。
濃度の濃くなった空気に砂状にも見える鋼鉄を流し込み始めている為、
局部が黒く変色し始めているのだった。
「ありゃなんや?なんで横倒しになるんや?
勝手に沈むと言うんやないやろーな?!」
ホマレが空戦の合間に6隻全部が横倒しになっていくのを観て、
何が起きているのか解らずに叫んでいた。
「分隊士!もしかしたら何かの魔法で6隻一度に撃破したのでしょうか?」
部下の魔砲師の声がヘッドフォンから聞こえる。
「まさか?!そんなこたぁーないやろ。
そこまでミハルはスゴーないで?」
そう思ったホマレが断言したが。
「でも分隊士。本艦からの砲撃も止みましたよ?」
そう言われてみれば、<薩摩>の砲撃が止んでいた。
「まさか・・・ホンマかいな?ミハル・・・」
双方を見詰めて考え直そうとして居た時の事だった。
「ぶっ、分隊士!アレをっ、<薩摩>がっ!母艦がぁっ?!」
部下の声を聴くまでもなかった。
ホマレの眼にもソレが映ったから。
<薩摩>の艦型が変わって行く姿に声が出せなくなったから。
「・・・・っ!」
6隻の敵に正面を向けた<薩摩>が、魔砲を現していく姿に・・・
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航宙戦艦・・・魔法の力で空を飛べる人類が初めて造った鋼鉄の艦。
その原動力たる魔鋼の機械は、闇の魔力で造られていた。
元は人だった魔法使いの魂を同化させた魔法の機械・・・
<日の本>で開発された魔法の力で物質を変化させる魔鋼機械。
スーパーウェポン魔鋼機械は発動されると、
魔力を与えた者の力で物質を変化させる能力を秘めている。
その技術にある変化が齎されたのは日の本で起きた、とある事件によってだった。
偶然魔法使いの魂が宿った戦車が産まれた。
意識を持つその戦車が何故生まれたのかを調べる内に、
担当した技術者が解明した事とは・・・
<<闇の力によってのみ与えうる魂の同化。
悪魔とは言い切れない者によってでも成し得る魔法の技。
一度同化してしまえば
機械本体が動かなくなるまで抜け出す事も出来ない。
若しくは・・・魂自体が消滅しなければ同化は終われない>>
偶然発生した出来事だった・・・
だが、人類は悪魔の兵器を産んでしまう事になる。
同化された魂を元に、二通りの兵器が産まれた。
文字通り悪魔の兵器たる極大魔鋼弾。
それに込められてしまう魂は必殺の威力を手にしただけに留まらなかった。
敵を呪う魂が宿った場合、炸裂した弾は手近にある魂を闇に葬る。
その魂を知る魂をもまた、手近な魂を闇に・・・そして周り中に闇を拡散させる事になる。
一発の極大魔鋼弾で都市部に命中した場合の人的被害は計り知れない。
まさに・・・悪魔の砲弾。まさに人類が手に染めてはならない悪魔の弾だった。
もう一つの兵器は、魂を同化させる事により武器を自ら動かせるようにする。
つまり島田美夏少尉のように、砲を独りで操れるようにする魔法の技術。
死んでしまったミカが、駆逐艦を独りで操っていたのはまれなのだが。
基本的には魔砲の力を備えた者が独自で戦えるようにするのが狙いだったようだ。
フェアリアとロッソアが闘っている時、
ミハルも自ら望んでパンテルと同化した時があった事を覚えておられるだろうか?
闇の力でしか行う事も、解除する事も出来ない。
その技術を日の本は独自に開発していたのだ。
魔法使いの魂を闇に染める事によって。
人格者が行えば間違いは興り難いであろう。
しかし、間違った見識の者が担当してしまえば、それ自体が人の仇と還って来る。
日の本が海外に伏せていた事も納得できる。
その技術を外国に渡してしまえば国防上の見地からも、
人類全てに於いても危険この上ない事だったのだろう。
今、人類存亡の危機に際し、日の本の政府は判断を下した。
技術を広く海外にも伝え、少しでも人類の未来に賭けようと。
世界中に技術を広め、戦力増強を願う為に。
機械が説明を終えた。
・・・で。
そういう事ですから、お判りになられましたでしょうかね?・・・
ポカンと口を開いたままのミハルがいた。
うーんと首を捻る龍の子が飛んでいる。
ここはミハルの胸に着けられている魔法石の中。
ミハルの内なる世界。
女神デサイアの元に集うミハルとリィ君、そして声だけの機械。
「まぁ、そんな事だろうとはおもったが・・・
やってみるだけの価値はあるんだろうな?」
デサイアが機械に訊ねる。
・・・それは私にもなんとも。
ですが、やらないよりはマシだと思いますけど?
このままいけばドノミチ皆さんも私と道連れになってしまうのですからね・・・
機械は戦闘が長引けば魔法力が足りなくなって、
護る事も攻める事も出来なくなると断言した。
「ふむ。
と、いう事だそうなのだが。分かったか憑代よ?」
デサイアはポカンと放心状態のミハルに言った。
「はい!僕は解ったよ!
だから早くやっつけちゃおうよ!ね・・・ミハル」
飛び回っているリィ君は無邪気に話しかけていたが。
「リィ君・・・あのね。
私に齧りつきたいだけなんじゃないの?
こんな事になってるのをどう思っているのよ?!」
放心状態から我に返ったミハルが言い募る、自分の状態を指差して。
「こんな恥ずかしい姿を晒せっていうの?!
みんなに見られたら・・・もう生きていけないよぉっ!」
泣き叫んで身を捩っていた。
「・・・あのな、憑代よ。
ここはそなたの内なる世界なのだぞ?
実際に外部から観える訳が無かろう事ぐらい解らんのか?!」
呆れたデサイアが突っ込みを入れる。
ミハルが思い描いた自分の姿とは?
「だってぇ、機械さんが言ったのを考えてたらこんな感じなんでしょ?」
具体像が形になってしまう内なる世界でミハルの思い描いた姿は。
ミハルの上半身が<薩摩>の艦橋になり、手が主砲を持ち、艦の下に足が出ている。
全く持って無様過ぎる姿・・・
その姿になっているのを指差している・・・これまた無様過ぎる。
阿保らしくてデサイアは取り合わなくなった。
龍の子リィ君が傍に寄らず飛んでいた訳も判ろうものだ。
「ミハルは置いておこう・・・それで?
具体的にはどうするんだ?リヴァイアサンと同化してどんな砲で攻撃するのだ?」
真面目な顔でデサイアが話を進めた。
・・・先ずはリヴァイアサンの力を攻撃一本やりに備えます。
そうする事によって攻撃力が増す筈ですので。
そして魔砲の力で撃ち出すのです、破壊波動を・・・
言うがやすし。
威力も発射方式さえも判らない。
つまり機械自体にも解っている事はそれぐらいしかないという事だろう。
「・・・そういう事だ。
ミハルとリィ君の力に期待するぞ・・・まぁ、やらねばならんのだからな」
人ごとのようにデサイアがミハルの肩に手を置いて言った。
「そんな簡単に言わないでくださいよぉ!
実行する者の立場になってみてよぉっ!」
半泣き状態のミハルが騒ぐのを、デサイアが無理やり引っ張り・・・
「さっさとせんか!この着ぐるみ娘!」
リィ君を伴って機械に同化させた。
「うわぁあんっ!覚えてろよぉ、おたんこナース!」
女神に向かって悪態を吐いたのが最後の抵抗だった?!損なミハルでした・・・
ミノリの居る艦橋の中が光に包まれた。
いや、<薩摩>自体が光に包まれたように感じた。
「なんだ?!この光は?」
自分の前にある計器類が瞬く間に替わる。
魔法の力によって・・・
「艦長!たっ大変ですっ、艦が二つに割れて行きます!」
泡を喰った叫びをあげるレナと、指で艦首を指しながら悶絶するミツルの姿にミノリも共感した。
「・・・そのようだな・・・」
他に言葉も見当たらないのか、ミノリさえも泡を喰う。
目の前で起きている不可解な変化に戸惑うよりも呆れ果ててしまった。
「どういうことだイナリよ?」
艦に宿らせた狐の神に訊いたのだが、声は返って来ない。
「答えんかイナリよ。
一体本艦はどうなったというのだ?」
・・・・・・
「いきなりの変化は何が原因なのかと訊いているのだ!」
苛立ったミノリの叱責が飛ぶ。
「「おっコン。憑代よ、騒ぐでない。
この変化はミハルと龍の子が齎したものじゃ。
魔鋼の機械に同化したようじゃのぅ・・・困ったものじゃ・・・」」」
やっと答えが返って来たのだが、どうもイナリらしくない歯切れの悪い声だった。
「イナリよ、ミハルと龍の子が本艦と同化したというのか?
ならばお前はどうなっている?元々居たお前は今何をしているのだ?」
3人が魔鋼機械に宿ったというのならイナリは何をしているというのか。
「「ワシか?
ワシは今迄通り魔法障壁を司ってはおるがのぅ。
機械本体にミハルと龍の子が入ってしまって、
障壁が張れなくなって困っておるのじゃよ」」
イナリの言葉にミノリが愕然となる。
「それでは何か。今本艦は無防備状態なのか?」
「「そー言う事になるかのぅ」」
言い辛そうに狐の神が答えた。
魔法の壁が張れなくなった<薩摩>との決戦を挑む敵艦隊。
双方が必殺の技を展開しようとしている今、防御力を無くしてまで放とうとしているのは?
ミハルとリヴァイアサンの放つ魔砲は敵艦隊を破る事が出来るのか?
相対する敵味方の姿に、ホマレ達魔砲師は壮絶なる砲撃を予感していた。
漸く海戦らしく(?)なりそう・・・
でも相変わらずのミハルにデサイアはため息を吐くばかりだった・・・
敵の秘密戦法の前に、<薩摩>も最終奥義を放とうとしていた?!
次回 終わる世界 Ep5 ジェットランド沖海戦 Part6
君は必ず勝たねばならない・・・魔砲少女は無敵なのだから?!
人類消滅まで ・・・アト 74日