第6章 終わる世界 Ep5 ジェットランド沖海戦 Part4
ミハルはデサイアと伴に機械と話し合った。
どうやったら喰われずに済むのかと。
そんな時、敵は勝負を焦ったのか突然の不可解な行動に出て来るのだった・・・・
敵艦隊からの砲火は止まない。
直線状に並んだ6隻は何をしようとしているというのか?
「防御力が80パーセントまで落ちています!」
ミツル航海長が出力ゲージを確認して振り返った。
ミノリに宿った狐の神にも限界が着た事を教える為に。
「まだ6隻と闘わねばならん。イナリよ後どれ位保てる?」
艦の魔鋼機械に力を与え続けている憑き神に残り時間を教えるように呼び掛ける。
「「そうじゃのぅ・・・もって後10分位かのぅ・・・」」
艦のスピーカーからイナリの返事が教えて来た。
「10分・・・いくらなんでもそれだけでは6隻を相手に戦えんな」
ミノリが悟ったように呟く。
「艦長、どうしますか?」
レナもこれ以上戦闘継続は困難だと認識してどうすべきかを問いかけてくる。
「うむ・・・反転して逃げたとしても逃げきれんだろう。
ここは<薩摩>を信じて攻撃するしかあるまい」
レナもミツルも艦長の判断に頷く。
「そうですね、ここで逃げ出しても追いかけてくるでしょうしね。
逃げ出したところで打開出来る訳でもないでしょう」
レナの言葉にミツルも頷く。
「魔法力が尽きたら、その時はその時です。
一隻でも多く道連れにしてやりましょう!」
2人は自艦が撃沈されるとしても、敵との交戦を中断しない事を望んでいるようだった。
「・・・そうだな」
ミノリは腕を組んで前を向いて頷いた。
前面防御ガラスに映る爆焔が艦橋の中まで紅蓮に染める。
魔法障壁で敵の攻撃に耐え続けている<薩摩>艦橋で、ミノリ達は敵を睨んでいた。
「じゃあ、時間が経つにつれて私もイナリ様も力を失っちゃうだけで済む訳じゃないって事?」
もう身体半分程を消されたミハルが再度訊き直した。
・・・そう。同化を停めるには闇の魔力が必要。
しかもその時には戦闘も終わっていなければならない。
そうでないと敵に破壊されて艦ごと皆やられてしまうだけだから・・・
ミハルの内なる世界に入り込んで来た魔鋼機械に宿る者が言い切った。
「つまり、目の前にいる敵全てを倒さねば・・・いずれは皆死ぬと。
そう言いたいのだな、そなたは」
デサイアが念を押し、何かを考えて腕を組んだ。
「でもぉ、2隻を倒しただけでこんな状態になっちゃったんでしょ?
残り6隻も居るんだよ?どうやったら倒せるというの?消えちゃう前に」
ミハルはどんどん消えて行く身体を観て、懇願するように方策を訊ねる。
その傍で腕を組んで考えていたデサイアが何かを思い出したようにミハルに訊いてきた。
「憑代よ、もう一匹いたな。
魔力で姿形を変えている奴が。
強大な魔法力を備えた縫いぐるみが・・・そなたに宿っていたな」
誰を指しているのか直ぐに判る。
「え?!リィ君のこと?
そうですけど、あの子が何か?」
話の意味が解らずに、怪訝な表情を浮かべたミハルが意味を知りたがる。
「その龍の子といえば元々リヴァイアサンだった筈だな?」
デサイアの答えに益々意味が解らなくなる。
「・・・そうですけど?」
小首を傾げて促す・・・その真意とは?と。
・・・ほほぅ、リヴァイアサンだったと?
女神デサイアさんはその正体を使おうとされるのですね?・・・
察しが早い機械が代わりに答える。
頷いたデサイアがどこに居るか解らない機械に向かって頷き。
「どうだ?そなたに出来るか?
いや、この艦に出来るか?」
2人の考えに着いていけないミハルが独り困ったように意味を教えを乞う。
「ねぇねぇ?二人ともどんな意味があってリィ君の事を話しているの?」
モジモジしながら問いかけるミハルに白い眼を向けるデサイアが。
「察しの悪い娘だな。
あの龍の子も同化させられるかと訊いたのだ、この艦にと。
あの魔力をこの機械がどう受け止められるかを問うたのだ!」
イラっとしたようにデサイアが答える。
「へ?!リィ君を同化させるの?
駄目だよそんなことしちゃあ!
あの子は魔力がなくなったら元の身体に戻っちゃうんだから!」
巨大な龍の姿を思い出しながらミハルはそうなった時のイメージを膨らます。
<薩摩>に蜷局を巻く巨大なリヴァイアサンが乗っかっている想像図を。
「ないない!絶対ないっ?!そんな事したら艦が沈んじゃうでしょ!」
頭に描いてしまった想像図を揉み消す様に手を振って、無理だと言ったのだが。
デサイアに呆れた様な目で見られる。
「何を想像したのだ?
私が言いたいのは、艦と同化出来ないのかという事なのだぞ?
あ奴の攻撃力を使えないのかと訊いただけなのだぞ!」
・・・それが損な娘の良い処でしょう・・・
呆れた声が二人から返って来た。
「はぁ?!リィ君の力?・・・って、ナニ?」
まだ理解不能なミハル。
・・・つまりですね、デサイアさんの仰りたい事は。
私に同化させる事で艦自体を変えられないのかという事ですよ。
リヴァイアサンの攻撃力を艦に与えられないのか、って事ですよ・・・
機械が看兼ねて助け舟を入れてくる。
「はぁ?!変化って?・・・えっ?!」
漸く飲み込めて来たのか。
ミハルにもどうやら少し意味が解ったようだ。
「そうだ!
リヴァイアサンが宿った潜水艦を思い出せ。
あの強力な音波砲の事を。
アレをミハルの力と同化させれれば、唯の一撃であの艦隊を吹き飛ばす事も可能だろう?」
どうだと言わんばかりにデサイアが教える。
そう。
魔鋼機械は力を与えられると物質を変化させられる。
フェアリアにて戦車を変えられたように。
この戦艦<薩摩>事態を変えれられる事を思い起こさせる。
ミハルの魔法力で主砲が変わったように、
リヴァイアサンの力で艦自体を変えれはしないのかと、デサイアは訊いていたのだ。
・・・あの波動とミハルさんの魔砲を合わせれば。
確かに6隻全部を倒す事も可能かもしれませんね・・・
イナリの魔法障壁によって被害は被らなかった事を思い起こしたように、
機械もその魔力に興味を持ったようだ。
「それに・・・だ。
このままほっておいても、あ奴は元の姿に戻ってしまうのだからな。
ミハルの魔力を失った龍の子は間も無く元の姿になることだろう」
身体半分魔法力を喰われているミハルを見詰めてきっぱりと言い切った。
デサイアに言われて、忘れていた大事な事を気付かされた。
「そっ、そうでした!
あの子に魔砲の力をあげないと!
大変な事になっちゃうんでした!」
慌ててジタバタし始めたミハルに、二人は大きなため息を吐くだけだった。
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「うわあぁんっ!もう保たないよぉっ!
ミハルの魔力が食べたいよぉ!」
リィ君が齧りつきながら泣き叫んでいた。
気絶してから魔砲力が齧れども齧れども出て来なくなってしまったミハルの頭の上で。
・・・ちょっと、いいですか?・・・
リィ君の頭に直接誰かが入り込んで来た。
「わぁっ?!とうとう幻聴まで聞こえてきちゃった!」
泣くのを辞めて頭を抱え込んだ龍の子が叫ぶ。
・・・いえいえ。幻聴なんかではありませんよ。
私はこの艦の機械。ミハルさんと一緒にいるんですよ、今・・・
ミハルと聞いた縫いぐるみのリィ君が、ぱっと顔を上げる。
「えっ?ミハルと居るの?
じゃあ、早く元に戻してよ!
魔砲力を食べないと大きな体になっちゃうんだから!」
リィ君の頭の隅には、<女神デサイアは何をしてるんだろう?>という疑問符があったのだが。
「さぁ!早く!
齧らせて!食べさせて!ミハルを!」
待ちきれないのか齧りつくリィ君に、声の主が言った。
・・・食べるのは後で。それより大切なお話がございます・・・
声の主、機械が縫いぐるみのリヴァイアサンに頼んで来た・・・
・・・あのですね。ミハルさんと一緒に噴き祓って貰えませんでしょうか?・・・
機械の頼みに、キョトンとしたリィ君が眼をパチクリと瞬かせた。
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主砲が漸く沈黙した。
そして超電磁砲状態だった砲身も元へと戻った事に気付く。
「どうやら女神はミハルの救出に成功したようだな」
ミノリは判断を下すと主砲砲手席をモニタリングした。
砲手席で、まだ身動きしない状態のミハルが映っている。
「?おい、ミハル1尉。聞こえているか?」
その光景に不信感を込めてマイクに話しかけて漸く分かった。
「ミハル?龍の子は何処に行ったのだ?」
ミハルの傍から離れない縫いぐるみのリィ君の姿が見えない。
魔法石に帰っているのかどうか。
そして何故まだ動かないのかを確かめる為に呼びかけたのだが。
「どうなっているのだ?ミハルよ」
ミノリに返事が狩って来る事は無かった。
確かに主砲は砲撃を辞めている。
だが、ミハルの身体は身動き一つしない。
結論は唯一つ。
「まだ、ミハルは気絶したままなのか・・・・」
女神デサイアもリヴァイアサンだった龍の子も答えを返しては来ず、姿も見せなかった。
ミノリが注意をモニターに寄せていた時。
「艦長!大変ですっ」
慌てたレナの声が呼んだ。
声に気付いたミノリが砲術長に目を向けた時。
「なんだ?!これは!」
艦橋の窓ガラス越しに映り込んで来たのは、敵艦隊の異常さだった。
円盤状の戦艦が姿を晒して来る。
中心核をこちらに向けるように。
「敵艦隊っ、こちらに向けて下方を晒してきます!
敵艦の中心核をこっちに向けてきます!」
ミツルが叫ぶより早く、ミノリの眼に写ったのは6隻全部が一直線上になっていく姿。
巨大な円形の戦艦が下方をこちらに向ける為に、
まるでバランスを崩したかのように180度横倒しになっていく姿。
上空にある電解層に一部壊されつつも構わずに横向きになっていく。
下方の海面まで到達した一部分が海面に沈む。
6隻全部が徐々に横倒しになる姿は、まるでドーナツが6個並んだようにも見える。
「奴等・・・何をする気なんでしょう?」
レナが理解不能になって見詰めていた後ろで・・・
「奴等はあの魔砲を撃つつもりなのだ。
ミハルに放った必殺の砲を。しかも6隻の力を一点に絞る為に!」
ミノリが恐れていた秘密兵器の事を教える。
神が宿った魔砲師を一撃で窮地に追いやった魔砲の事を。
中央の円環から繰り出された竜巻のような破壊波を。
「あれを6隻で?しかも一列に繋がった状態で・・・ですか?」
信じられない物を見るような目でミツルが呟く。
「そのようだな。
今度ばかりは奴等もしくじれないようだ。
自分達が壊れても本艦を完全に破壊しようと目論んでいるんだろう」
ミノリは立ち上がってコンソールに手を置いた。
「ここを切り抜けなければ人類の明日はないぞ!
奴等に打ち勝たねば何度でも同じ戦法を繰り返す事だろう!」
ミノリの脳裏に、独りの士官の姿が過った。
白い海軍将官服に身を包んだ老齢なる父の姿が・・・・
損な娘ミハル・・・言い切られてしまうのは最早慣れっ子?
リィ君を呼び込む事に反対していたのだが・・・
敵の行動に併せるかのように<薩摩>もミハル達の手で変わろうとしていた?!
次回 終わる世界 Ep5 ジェットランド沖海戦 Part5
君は機械と同化する意味を知らない?嘘つけ!!
人類消滅まで ・・・アト 75日