第6章 終わる世界 Ep4 神託の御子 Part9
艦隊に突入を図る<早蕨>。
敵攻撃隊を邀撃する<薩摩>。
戦闘はまだ主力同士の戦いへは入ってはいなかった・・・
高角砲が鳴り止んだ。
それはこれから起きる砲撃戦の前触れ。
これから始まる<鋼弾の嵐>の前触れ・・・
「ミハル1尉、3式弾射撃用意!
目標左舷10時の方向、高角20度。距離15キロ!」
艦橋からの指令で、我に返ったミハルの指が操作パネルに添われる。
「はっ、はいっ!射撃準備よし!」
ミハルのデバイスたる槍が光を放ちだす。
砲塔コンピューターが指示通りに仰角を計算し、砲身を擡げさせていく。
連装2基の両舷主砲が的に向けられる。
「主砲一斉射撃!撃てっ!」
レナ3尉の射撃命令が下され、操作パネルに指示マークが現れる。
準備していたミハルが、射撃グリップを握り締めて・・・
「発射ぁっ!」
トリガーを引き絞った。
((ズッダダッダーンッ))
28センチ4門が火を噴く。
4発の対空砲弾は向かって来る重爆撃機編隊の、ど真ん中で炸裂した。
白煙が編隊を包み込む。
砲弾の中に仕込まれていた25ミリ機関砲弾が飛び散り敵機に突き刺さる。
充填されていた黄燐が火の手となって降り注ぐ。
機関砲弾に因って開けられた風穴に、黄燐が滲み込むと・・・
「敵機編隊約20機、撃墜を確認!」
防空指揮所からの報告によって、第1撃が成功したのだと解った。
「敵編隊引き返します!
次弾装填待て、追って指示あるまで待機せよ!」
艦橋からの報告で、ミハルはほっと一息入れられる瞬間を迎えた。
「やったねミハル。
この調子だったら僕の力は必要ないかもね」
一息ついたミハルの肩に飛び乗って来た龍の子リィ君を観て、先程の話を思い出した。
「リィ君、あなたは何を知ってるの?
あなたは自分が誰なのか知っているんじゃないの?
神の御子だなんて、そうそう言い切れる話じゃないもの」
疑いの眼差しで聞き咎めるミハルに、龍の子はきょとんとした顔で見詰め返して来る。
「だって・・・記憶があるって事でしょ?
この世界の秘密を知っているのなら・・・あなたは何者なの?」
肩に載っていた縫いぐるみを掴んで目の前に据えて訊く。
「怖い・・・ミハルの眼が怖いよ。
僕がそんな事言ったの?一瞬、目の前が暗くなったけど・・・
僕が何をミハルに言ったというの?」
「へ?!」
きょとんとミハルを観て小首を傾げるリィ君。
気付いていないと言われて眼をパチクリするミハル。
「だって、ミハルが忙しいって相手に出来ないかも・・・って言うから。
しょうがないから出番を求められるまで寝て待つしかないなって思ったんだ。
・・・だってぇ・・・齧れないんだから力を温存しないと」
「・・・はぁ?!」
モジモジしながら訳を教えてくるリィ君に目が点になる。
「じゃあ・・・じゃあ?!
さっきのはリィ君じゃなかったって言うの?
あんなにはっきり受け答えしてたのに?!」
「だから・・・なんの事?」
・・・・・
ミハルは顔を引き攣らせてリィ君を観る。
龍の子は小首を傾げたままミハルに訊く。
「あああああっ?!また訳の分からない事が発生しちゃいましたぁ!」
頭を抱えて泣くミハルに、リィ君がきょとんとして固まっていた。
ドヨンとなって泣くミハルの肩に戻ったリィ君が。
「さっきからどうも変だよミハルは。
訳が解らない事言ってるし・・・訳が解らないのなら女神様に訊いてみたら?
何か判るかも知れないよ?」
困ったときの神頼み・・・を教えてくれた。
「そ!その手があったか!ナイスっリィ君」
ミハルは思いっきりガッツポーズを決めて、リィ君を褒め称えた。
龍の子は最早ミハルに愛想が尽きたのか、頭に齧りついていたのだが・・・
「デサイアさ~んっ、どういう訳なのか教えてくださーい!」
胸元に向かって問いかけるミハル。
「・・・・・」
しかし・・・返事はない。
「あっあのっ!デサイアさ~んっ、デサイアさんっ?!」
「・・・・・」
唯・・・空しくミハルの声だけが砲塔に木魂する。
「そんなぁーっ、こんな時に限って。
留守なの~っ?!・・・な、訳ないでしょーが!」
傍で見たら・・・単なる阿呆・・・な、損な娘。
「「ミハル・・・何を独りで騒いでるんだ?今は戦闘中だぞ!」」
ヘッドフォンから呆れたようなミノリの声が聞こえてくる。
ミハルはハッと我に返ると。
「そうだ!イナリ様でもいいや。
リィ君が不思議な事になってるんですけど。
どういう訳なのか御存じありませんか?!」
ミノリに宿るお狐明神様に訊いてみた。
「うん?イナリに何を聴きたいというのだミハルは?」
訝しむ声が返って来る。
聞き返されたミハルがざっと掻い摘んで説明すると・・・
「人間全てが神の御子・・・それは宗教上の話か?
それとも何かの暗示か?」
ミノリも何の事なのか解らず。
「おい、イナリよ。
お前にミハルの言っている事が解るか?」
宿りし神に訊いてくれた。
「コーンっ、まあなんじゃ。
龍の子リィ君はのぅ、昔話をしておったんじゃよ。
この世界になる前の・・・遠い遠い昔のお話を・・・な」
遠い目をした狐の神が答える。
「昔話?
益々訳が解らなくなってきましたよぉ」
ミハルは頭を抱え込むと、操作パネルに突っ伏す。
「ほーっほっほ、じゃろ?
そなた達にはまだお伽話にしか聴こえんじゃろーに。
この世界になる前の記憶が龍の子には残っておるんじゃろ。
その記憶が何かの拍子に現れるんじゃ・・・神の使徒だったリィ君にはのぅ」
頭を抱えていたミハルがむっくりと起き上がる。
右目を紅く染めた状態で。
「狐の神よ、ミハルにはまだ早い。
この世界が終わりを迎える時はまだ来ないのだぞ?
この<殲滅の女神デサイア>が居る限り・・・」
頭の上で齧りついていたリィ君が驚いたように飛び退く。
ー ああ、そうだったっけ。
この人間界で女神を呼び出すのには<神>の一言が必要だったんだった
気が付いたリィ君が物凄く損な娘の事を想った。
ー ミハル・・・哀れ・・・
龍の縫いぐるみは思いっきり大きなため息を吐くのだった。
「おい、そこの縫いぐるみ。
お前には前世の記憶が残っておるようだな。
お前が何故自分の名前が思い出せないのか解ったぞ。
記憶の混乱が招いたという事がな!」
女神状態になっているミハル・・・もとい。
デサイアがリィ君に言い放つ。
「しかも、この世界を創った者にも左右されずに。
本当の転生を果たした・・・転生者のようだな!」
デサイアの右目が龍の子を射る。
「僕が?!転生者?
・・・って、どういう事なの?」
龍の子は女神たるデサイアに訊き返した。
本当の自分を知るきっかけが欲しくて。
「私と同じ・・・何かの間違いで造られた。
何かの都合でこの世界に現れた・・・特異点なんだよ、お前も私も」
デサイアは龍の子を見据えたまま、真実を伝えた。
混乱する世界感。
混迷する世界にあって、人はどうなるというのか?
何を告げているというのか?
ミハルに宿る2つの魂はこれから何をさせ様としているのか?
損な娘ミハルは・・・どうなる?
その前に!
艦隊決戦はどうなるんだ?!
次回 終わる世界 Ep4 神託の御子 Part10
人類消滅まで ・・・アト 81 日