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魔鋼騎戦記フェアリア  作者: さば・ノーブ
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第6章 終わる世界 Ep4 神託の御子 Part7

艦隊との闘いが始まった。


<薩摩>は単艦で立ち向かって来るモノと考えていた。


<神軍>のコンピューターは判断しているようだったが・・・

海は波が高かった・・・


大型艦ならビクともしないだろうが。


駆逐艦には波が高ければ高い程、戦闘には不向きだった・・・





「どうやら・・・私達の運命を暗示しているみたいね・・・」


たった一人の艦橋の中でミカが誰かに話しかける。


「でも・・・それもいいかも知れない。

 私達の願いが果たされるのなら・・・こんな波も悪くないわね」


駆逐艦<早蕨>艦橋で佇むミカがほくそ笑む。


「さぁ・・・始めましょうか。

 私達の門出の・・・いいえ、最期の闘いを!」


ミカの力が艦を操る。


「「ミカ・・・島田少尉。

  今迄の苦労を感謝する。今日まで独りで操艦してくれた事に感謝するぞ」」


美夏みかの周りに影が現れる。

喪いし魂達の影が・・・


「艦長!航海長、砲術長っ、先任士官!」


美夏が周りを囲む影に敬礼する。

囲んでいた魂達が模られていく。


「「やっと・・・迎えられるのだな。

  我々の呪いが解ける日を・・・願いを果たせる日が」」


影だった人型がミカに話しかけた。


「艦長!門田大尉っ!そうです、やっとこの日を迎える事が出来たのです!」


懐かしい人達がミカを囲んだ。


「そのようだ・・・ミカ。

 いや、今は<早蕨>艦長だったな、島田少尉」


もう、逢える訳が無いと思っていた。

もう・・・話し合う事は無理だと思っていた。


ミカの頬に涙が流れる。


「艦長っ艦長っ!みんなっみんな!逢いあたかったです!話したかったです!

 私独りが生き残ってしまって・・・ごめんなさい!」


門田大尉の胸に飛び込み、ひたすら泣いて謝るミカ。


「いいや、謝るのは私の方だよミカ。

 辛い想いをさせてしまったね、悲しい想いをさせてしまったね。

 もういいんだよミカ。君は十分尽くしてくれた、十分過ぎるくらいね」


泣きじゃくるミカの髪を撫でて、本当の艦長門田大尉が慰める。


「シマダ分隊士のこれまでの功績に感謝する。

 だから魔鋼機械から魂を抜きなさい。

 そうすれば君だけは助かるのだろう?

 この艦の中にある君の身体に返せば、君だけは助けられるのだろう?」


周りに居る先任達が挙って勧める。


「その通りだミカ。

 君だけは助かるべきなのだ。お母さんやお爺さんの元へ帰るべきなのだよ?」


門田艦長は優しく諭して来る。

だが、ミカは首を振って拒絶する、自分だけが生き残る事に。


「嫌です!

 私はみんなと運命を共にしたいからこうやって我慢してきたのです。

 艦長のご厚意は嫌という程解っているつもりです。

 ですが、生き残った後に想ったのです。

 私だけが生き残る事がどれ程辛いかという事に。

 だから・・・お願いです!

 今度こそ・・・今日こそご一緒させてください!

 もう独りぼっちは耐えられません・・・死なせてください!」


周りに居る魂だけになった者達が戸惑う。

折角救えると思っていた娘にこう願われては。

眦を決して訴えるミカに、考えを翻させるのは無理とも思われた。


「島田 美夏少尉。

 君の気持は十分判る。

 分かるけれども、考え直しては貰えないだろうか?

 我々に更なる罪を犯させないで欲しい。

 やっと天に召されられるというのに、

 君までも連れていく事は憚れるのだよ」


門田大尉が説得を試みたが。


「いいえ、艦長。

 私はもう死を迎える事に決めたのです。

 それに・・・身体は滅びました。いえ、滅ばせました。

 私も滅びを迎えたのです・・・だからご一緒させてください!」


そう。

ミカの身体は既に息絶えた状態で安置させてあった。

自ら水に浸し、艦と運命を共にする為に。


「キングストンバルブのある艦の最下部に水浸しにして。

 溺死状態で安置しました・・・

 だから、もうご一緒させて頂くしかないのです!

 どうか・・・お願いします。

 最期を皆さんと一緒に迎えさせてください!」


艦橋の中に乗員の魂が集った。

97名の浮かばれぬ魂達が・・・


「門田艦長!我々からもお願いします。

 分隊士の御霊を・・・島田少尉を一緒に連れて行ってあげてください」


砲術班員達の魂が願う。


「艦長・・・私も。

 我々からもお願いします。美夏を連れて行ってやってください!」


先任将校が頼んで来る。


「門田艦長、お願いです。私も一緒に・・・」


哀願するミカの心に、乗員達が求めてくれた。


「・・・そうまでして。

 そうだな・・・それが駆逐艦乗りというものだったな。

 島田 美夏少尉、命令!

 本日の決戦で本艦は敵を撃滅せんと闘う。砲術の指揮を執れ!」


ミカの心は報われた。

島田美夏しまだみかは<早蕨>に魂を捧げられるのだ。

本当の願い・・・呪いを解く闘いを遂げられる喜びに満ち溢れ。


「はっ!島田 美夏少尉はこれより魔鋼機械を再稼働させます!

 誓って敵を撃滅致します!」


門田艦長達、乗員一堂に敬礼を贈って微笑む。

そう・・・やっと。

やっとその時を迎えられる喜びに満ちた笑みを浮かべて。





_________________






下方の敵編隊が視野全体に写り込んだ時。


「かかれっ!」


身体を左右に揺らしてバンクを振ったホマレの命令が全小隊に下された。


第2第3小隊の魔砲師が小型爆弾を抱えて突っ込む。

手にした小型爆弾を敵編隊上空から投げ放つと、切り返して上空に離れる。


爆弾が扇状に墜ちて行く・・・敵編隊の上に。


((ダダッーンッ))


敵機の上空で炸裂した小型爆弾から放射状に火の粉が舞い落ちる。

白煙が敵編隊を包み込んだ後。


「よしっ、3号爆弾の一撃は成功やな。

 こっからはウチ等魔砲師の腕の見せ所や!」


ホマレの眼には敵編隊が崩れ、塵尻になって逃げ惑う様が映る。

約20機程の敵機が煙を吐いて墜ちて行くのを確認して。


「<翔鷹>隊は前方の編隊を!

 ウチ等は<薩摩>に向かう攻撃隊を叩く!」


ホマレは攻撃を目論む編隊に狙いをつけ、8名を率いて敵機に殺到した。






「空戦が始まりました!

 敵編隊、約30機こちらに来ます!」


砲術長のレナ3尉がミノリに報じて。


「高角砲台目標に対し射撃用意!電探レーダー射撃にシンクロさせます!」


目の前にある魔法パネルに手を翳した。


艦橋最上部にある射撃照準器が敵に向かって指向される。

長さ13メートルもある光学照準器の上に2基備えられた2-3号射撃照準電探と、

艦橋側面左舷側に備えられた2-2号電探が目標を捉え続ける。


「艦長!敵編隊防空範囲に到達しました。

 射撃準備よし、高角砲の射撃を開始します!」


レナが射撃管制ボタンに指を添えて命令を待つ。



「うむ、魔砲師隊に射撃開始を連絡。砲撃始めっ!」


航海長のミツル3尉が即座に連絡をとる。

レナの指がボタンを押し込んだ。

((ブブーウッ))


今迄静かであった艦上に両舷6基の長10センチ砲の射撃音が響き渡る。



挿絵(By みてみん)





「始まったね、リィ君。

 これからは構って上げれないかもしれないけど、我慢するんだよ?」


肩に載って齧りついているリィ君の鬣を撫でながらミハルが教えた。


「うん、それくらい解ってるさ。ミハルの心位知ってるよ」


齧りつくのを辞めた龍の子が頷いた。


「でもねミハル。

 僕も一緒に闘うから、必要があれば・・・僕の力が必要になったら」


今は縫いぐるみ状になってはいるが、元は海獣リヴァイアサンなのだからと。

リィ君はミハルに言いたかったのだが。


「駄目だよリィ君。君はそのままの姿でいてね」


モニターを見詰めたままミハルが答える。


「海獣の姿になったら、いつまた苦しむことになるのか分からないじゃない」


モニターに写り込む戦闘を見詰めて、リヴァイアサンに諭した。

記憶を失い、まるで子供のような思考力しかないリィ君が戦闘で疵を負えば、

どんな悲劇を生むことになるかも分からない・・・と、言う意味で。


「そう?だといいけど。

 じゃあミハルの傍から離れないでおくよ。

 ミハルを護るのが僕に与えられた約束でもあるし・・・

 ホマホマたんに頼まれたからさ、絶対ミハルを助けるんだぞってね」


ミハルの指がピクンと撥ねる。

出撃前にホマレがリィ君に話しかけた言葉を思い出す。


ー  ホーさんが真剣な顔で頼んだ一言を、リィ君は心に刻んでくれたのかな。

   <ミハルを頼んだでリィ君!何が何でも護ってくれや!>

   そう・・・言われた事を約束なのだと誓ってくれたんだね・・・


モニターに映るホマレ達魔砲師隊の健闘する姿を見詰め、そっと画面に手を添える。


「私だって・・・護って見せるんだから。

 ホーさん達だけに闘わせておくもんですか!」


ミハルの眼が蒼き輝きを放つ。

主砲塔の中でミハルは砲撃の力を弾へと込める。

仲間を護る為、友を救わんが為に。





「艦長!敵水上部隊ミユ!

 方位10(ひとまる)、距離およそ20キロ。

 その数20隻・・・主力艦らしき大型艦もいます!」


美夏みか少尉が艦橋に敵状を伝える。


死に絶えた筈の<早蕨>が最期の一戦を始める。

死に飢えた駆逐艦が敵に突きかかる。


そう・・・死に場所を得た喜びに打ち震え。


「水雷長!雷撃戦用意!

 美夏!お前に委ねる、奴らに思い知らせてやれ!

 我等日の本海軍の<艦娘かんむす>此処に在りと!」


門田艦長の命令が発令される。


「砲雷撃戦始めっ!目標っ、敵艦隊!!」


<早蕨>は打ち震える様に敵に突入を図る。

たった一隻で・・・波に揉まれ。


「私は<早蕨>!

 私は日の本の駆逐艦!

 私の長槍ロングランスを喰らいなさい!

 我々の怒りを込めた、死に逝く者達の<希望>への一撃を受けなさい!」


左舷に旋回した魚雷発射管に詰められたのは。


「これが後の世に伝えられる伝説のランス

 酸素魚雷・・・航跡を曳かない長槍。

 私の力で変化した魔砲の魚雷よ!」


美夏少尉の叫びと重なる様に門田艦長が命じる。


「左舷魚雷戦発射始め!」


遠く敵艦隊の巨艦に照準を合わせた美夏が雄叫びを上げる。


「魚雷っぇっ!」


発射管から次々に6本の酸素魚雷が放たれる。


航跡を曳かない観えない殺戮者達が波を蹴立てて進む。


そう・・・<綾波>のように・・・・


 

駆逐艦<早蕨>は突撃する。


敵に向って突入を図るミカ達浮ばれぬ魂達は今、解放の時を迎えようとしていた。


次回 終わる世界 Ep4 神託しんたく御子みこ Part8

君は一体誰なの?あなたは何を知っているの?

 人類消滅まで ・・・アト 83 日

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