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魔鋼騎戦記フェアリア  作者: さば・ノーブ
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第6章 終わる世界 Ep4 神託の御子 Part5

敵の艦隊が出撃してくる時。


<薩摩>艦上では、作戦に不信感を募らせている者がいた・・・

神々は何故人類を消滅させようと目論むのか・・・


誰もその答えを真剣に考える事はなかった。


唯、抗う事だけを考え続けて。


滅びを避ける事だけに力を注いでいた。


それが神の試練だとは思いもせずに・・・・





上空を舞う魔砲師が、艦尾に廻り込んで来る。


「着艦許可を願います」


身体を振り合図を送ると、指示灯が赤から青に変わる。

3列に並んだ降下指示機に併せて、スピードと角度を落としていく。


「よっ・・・と!」


足が飛行甲板に降り立つと、魔砲師の周りに整備員が駆け寄る。


「お疲れさまでした、1尉」


野村2曹がデバイスから取り出された機関砲を台座に据えてから労う。


「みんな無事だった?怪我したも居たんでしょ?」


白い魔法衣をユニフォームに戻して、心配そうにミハルが訊ねる。


「ああ、皆さん掠り傷ていどでしたから。

 赤チンでも塗っておけばすぐ治るでしょう」


野村2曹の返事に頷いたミハルが報告の為に艦橋へ向かおうとした処で、後ろから呼び止められた。


「ミハル隊長、ミハル魔砲師!少しお話しがあります」


部下でもある魔砲師の一人が呼び止めた。


「うん?何かな?」


ミハルが振り返った先に居たのは。


「第3小隊の中村2曹です。隊長に訊きたい事があるのですが?」


まだ魔砲師になって経験の浅い、年下の娘が立っていた。


「何を訊きたいのかな?」


ミハルの眼に写る中村2曹の顔からは、訴える真剣さが垣間見える。


「1尉の事についてです。

 ミハル隊長は女神だそうですね?

 我々が闘っている相手と同じ神なのですか?」


真剣な言葉端で遠慮なく訊ねてくる2曹を観て、ミハルが逆に訊ね返した。


「誰からそれを?」


訊ね返された中村2曹が即座に答える。


「大高分隊士からです。

 ミハル隊長は女神なのだと・・・だから・・・」


「だから?・・・なに?」


視線からはぐらかすかのようにミハルが横を向いて訊く。


「今度の作戦は、<<おとり部隊>>として行動せねばならない・・・

 神が裏切者を始末する事を優先するのを見越した作戦なんだと。

 そう2尉から伺ったのですが・・・本当なのですか?」


若さからか、直情型なのか。

中村2曹は訊き辛い事を平気で訊ねてきた。


<<(おとり)部隊>>

誰しも自分が望んで行うのならば理解出来よう。

だが、軍隊の命令下ならば好きこのみなく実行に移されてしまう。

それがどれ程危険な任務であろうと。


敵の勢力が掴めない現在、その任務の持つ意味を知りたいと思うのは当然だろう。

訊ねられたミハルにも、この作戦がどれだけ重要な事かは知らされていなかった。


「ごめんなさい。私には答える事が出来ない・・・」


中村2曹に謝ると、その足で艦橋へと向かう。


「待ってください!

 ミハル隊長は本当に女神なのですか?

 人類の敵なのですか?!本当の事を仰ってください!」


後ろで訊き返す2曹に呼び止められたミハルの足が止まる。


「・・・私は・・・あなたと同じ。人でありたい・・・死を迎えるまでは」


ミハルは2曹に背を向けたまま、か細く答えるのだった。







「艦長、敵の出現率が高くなってきました。

 索敵を兼ねているモノと思われますが・・・」


艦橋でミノリに報告するレナ砲術長が、今迄のデータを解析する。


「うむ、予定より早いな。

 敵の所在はまだ掴めないか?」


艦長席から解析を進めるレナに質し、航海長ミツル3尉にも。


「味方の艦隊は何処まで来ている?」


作戦の進捗状況を訊いた。


「はい、予定通りならば後半日で先遣部隊が到着する予定です」


ミツルの答えに頷いたミノリが、

腕を組んで手元に置かれた作戦指示欄を読み返した。


「後半日すれば・・・少なくても単艦で敵に向かわなくても済む。

 そうなれば・・・<早蕨>に還って貰えるのだが・・・」


航路図をモニターで確認すると、後半日で到達できる場所は。


ー  ジェットランド沖か・・・海深が浅い。

   海中からの攻撃は限定出来るだろう。

   だが、水上と空から襲い掛かられれば・・・・


モニターから眼を放し、ミノリは思った。


「艦隊決戦を行うには・・・最適の場所かも知れない」


来るべき決戦を予期したのか。

ミノリの眼が鋭く空を睨んでいた。




「なんや・・・重い顔してからに。

 ・・・なんかあったんかミハル?」


食堂で寛いでいたホマレに訊かれたが、上の空(うわのそら)状態のミハルから返事は返って来ない。


「ホマホマたん、ミハルはブルーなんだ」


龍の子リィ君がホマレを見上げて教える。


「・・・リィ君。どこでそんな言葉を仕入れたんや?」


ミハルの頭に乗っかっている蒼い龍の縫いぐるみに話すホマレが傍によると。


「あ・・・ごめん。ホーさん何か言った?」


ボケッとしたミハルの声に心配顔になるホマレ。

頭に載ってホマレに対し首を振るリィ君の眼が<訊かないで>と告げている。


座り込んでボヤっとした顔を向けるミハルの事が心配になったホマレが。


「そやそや、リィ君をちょっと借りれへんかミハル?」


訳を知るであろう龍の子から訊く事にした。


挿絵(By みてみん)


「え?!リィ君を?」


頭の上に居る縫いぐるみがミハルから跳んでホマレの肩に載ると。


「ミハル、ちょっと離れるけどいいよね?」


「え?う、うん?」


ボヤっとしたミハルがどうするでもなく手を拱いている隙にホマレに言った。


「ミハルはね、仲間に嫌な想いをさせられてね。

 あんなに考えこんじゃったみたいなんだよ」


ボソボソホマレに告げ口する龍の子。


「なんやて?どいつや、そのいけ好かん事いう奴は!」


聞いた瞬間、ホマレの怒りが爆発する。


「ええっと・・・確か中村とか言う女の子だったかな?」


ベラベラとリィ君が知っている相手を教える。


「中村2曹か!

 よし解った・・・絞めてやるわ!」


頭から湯気を上げるかのように、

ホマレはリィ君を伴ってミハルを置いて搭乗員室に向かう。




「中村2曹は居るか!」


リィ君を肩に載せたホマレがイキなり大声で呼ぶ。


「なんです分隊士。

 ここは搭乗員室ですけど、士官は士官室で呑まれたら良いでしょうに?」


搭乗員分隊の先任が、ホマレが酒を呑んで息巻いていると勘違いした。


「大山1曹っ、ウチは酒なんか飲んでへん!

 怒鳴ったのは中村が隊長に何を言ったのかを聴きに来ただけや!」


怒りが治まらないホマレの剣幕に、さしもの先任も黙るしかなかった。


「ウチのいう事が聴こえへんのか?!

 中村は何処に居るっ、さっさと前へ出るんや!」


ホマレの剣幕にリィ君が指を差す。


「あそこの子だよ、ホマホマたん!」


龍の子が差した娘を睨んだホマレの一喝が落ちる。


「貴様っ、ウチの声が聴こえへんかったと言うのんか?!

 前へ出ろと言った筈や!さっさと出て来んかいっ!」


中村2曹の態度がホマレの怒りに拍車をかける。

渋々命じられた通り中村2曹がホマレの前に来ると。


「貴様に訊きたい事があるんや。

 隊長・・・ミハル1尉に貴様は何を喋った?訊いた?

 ミハル隊長があれ程までに落ち込むような真似をした?」


搭乗員達の前でホマレが睨みつけると、中村2曹が逆に聞き返して来る。


「分隊士。

 あなたはどう思われているのですか?

 ミハルは女神だと思うのですか?実際、並外れて魔力が高いし・・・

 人じゃないのではありませんか?

 同じ人ならば良しとして、もしもか神だというのであれば認められません。

 部隊の隊長が敵たる神だという事を・・・どう考えておられるのですか?」


中村2曹はホマレに訊ねてきた。


上官を呼び捨てにする事だけで、

制裁の対象になることぐらい解っていようモノなのに。

その時の中村2曹はミハルを加護するホマレに対しても不信感を募らせているようだった。


「・・・中村2曹。

 言って良い事と悪い事があるんわ解っとるやんな?

 お前の言葉は聞かんかった事にする・・・言い直せ」


プルプル震える分隊士の姿に、周りの者が後退る。

紀州沖海戦の英雄の一人、ホマレ3尉が眼を据えて睨む姿に。


怒るホマレからリィ君が飛び去る。

自分が余計な事を言ったから、とんでもない事になってしまったと後悔して。


「いいえ、言い直しません!

 私達の部隊は<<囮部隊>>だと聴きました。

 無駄死には、ごめん被りたいだけです。

 敵の本拠に突入して死ぬのなら本望ですが。

 神たる者の下で闘い犬死するのは嫌なだけなのです!」


中村2曹は引き下がらなかった。

その眼に浮かぶのは心からそう思っている証か。

ホマレと真っ向から向き合っている。


「ほざいたな!

 ウチ等が囮になるんはフェアリアに来た時から決まっとった筈や!

 そやのにミハルの所為にするっちゅーんやな貴様は!

 それにミハルは人間ひとなんや、敵の様に邪神なんかやあらへん!

 一度は死にかけた、真っ当な人なんや!

 貴様は上官を侮辱するんやなっ赦せへんっ!」


ホマレは息巻き中村2曹の胸倉を掴み上げる。


「これは修正やあらへん。

 ミハルの心の痛みや!

 人の為に死力を尽くして闘ってくれる魔砲師ミハルの痛みなんや!」


こぶしを振り上げたホマレが叫んだ時。


「待って!ホーさん。中村2曹を許してあげて!」


ミハルがリィ君を肩に載せて飛び込んで来た。


「ミハル・・・こいつに酷い事を言われたんやろ?

 なんで庇うんや?どこまでお人好しなんや?」


怒りが治まらないホマレが鉄拳を揮おうとするのに飛びつくミハルが。


「違うっ、ホーさんに拳を揮わせるのは私が悪かったから。

 私が中村2曹にはっきり言わなかったからなの!

 だから部下に制裁するのはやめてっ!」


必死に諫めるミハルに、ホマレの手が下がる。

中村2曹を掴んでいた手が放される。


「優しいんやな・・・やっぱりミハルは。

 お人好しなんて言ったりしてごめんやで・・・」


我に返ったのか、怒りを治めたホマレが謝る。


「ううん、いいの。

 だけどホーさんも嫌でしょう、部下に手を出すのは。

 私達も昔そうであったように・・・理不尽な制裁は辛いでしょう?」


ミハルの言葉にそこに居る皆の眼が見詰める。


「いくら上官だからって殴るのは駄目だよ。

 軍隊だからって見境なしに制裁を加えて良い筈がないもの。

 同じ敵に立ち向かう友なのだから・・・」


ホマレに諭すミハルが自分も同じ目に遭った事を告げる。


「私も何度となく叩かれた。

 でも理由なく叩かれただけでは通じ合えない事を知っている。

 だから解って欲しいの、私達は仲間なんだって。


 仲間なの・・・私達は。

 友なの、助け合うべき・・・だったら制裁なんて必要ないから。

 話し合えば分かり合う事が出来るのだから・・・」


ホマレは過去の自分を思い出し、確かにそうであったと思う。

周りの者は、こんな上官を初めて見たと感じていた。


「中村2曹には申し訳が無かったと後悔しています。

 さっき聞かれた時にはっきりと言っておけば良かったんだって。

 そうすればこんな事にもならなかった・・・私の責任です。

 皆さん方にもご迷惑をおかけして・・・ごめんなさい」


頭を深く垂れて謝るミハルの態度を観て、搭乗員は皆感じ入った。


「私には確かに女神が宿っている。

 それは確かです・・・ですけど私は人間です。

 傷も負うし、痛みも判る・・・人なのです。

 だから・・・信じてください。

 私が人類を救うこの闘いに身を挺している事を。

 私はみんなを護りたいだけなのだと」


心からそう想い、願っているのだと伝えたかった。

ミハルの言葉に嘘偽りがないこと位、

その場に居合わせた者が判らない訳がなかった。


「そや!

 ミハルの言う通りや。

 皆が信じる事こそ大事なんや!

 ウチは信じとるんや、大切な友の事を。

 信じとるんや仲間の事を!」


いの一番にホマレが賛意を表す。


「ミハル隊長・・・私が間違っておりました。

 どのような処分でも構いません、与えてください!」


中村2曹が進み出ると懇願した。

だが、その眼に写ったミハルの顔には・・・


「ううん、いいの。お互い様だから。

 中村さんには解って貰えただけでいいの」


微笑むミハルが眩しく見えた。


「うんにゃ、そういう事では駄目や。

 ミハルも中村2曹も、お互いさまやったら握手せな・・・な」


ホマレが二人の手を取って握らせる。


「そうだね、中村さん!」


「はいっ、分隊長!」


2人の握手にホマレが笑う。

3人の仲を観た搭乗員達も微笑む。


そして、影から観ていたミノリも・・・


ー  ミハルと言う娘は・・・友を造るのが巧いというか何というか。

   ほっては措かれない・・・そんな娘なのだな。

   誰にでも優しく、誰からも好かれる・・・女神なのだな・・・



作戦の詳細を教えに来たミノリは、搭乗員の絆が深まった事に安堵した。








「砲術長!電探レーダーに反応あり。

 これは・・・大艦隊の様です!

 感3っ、こちらに向かって来ます!」



電探室からの緊急報告が飛び込んで来た。



「なんだとっ?!

 その敵を詳しく探れっ、艦長に報告するっ!」


当直士官であるレナ3尉が艦内放送のスイッチを押した・・・

 


仲間の心が一つになる・・・そして。


レーダーに捉えたのは敵の先遣部隊。

敵艦隊との決戦を控えて、ミハルにミノリが命じるのは?


次回 終わる世界 Ep4 神託しんたく御子みこ Part6

君は自分の魔力に適任な場所に据えられる・・・そう、あそこに!

 人類消滅まで ・・・アト 85 日

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