第6章 終わる世界 Ep4 神託の御子 Part3
出航する<薩摩>
前方を走る駆逐艦に、ミノリは想いを馳せていた・・・
錨が巻き上げられる。
ポンツーンとの係留索が解き放たれる。
「両舷前進微ー速っ!」
航海長ミツル3尉の号令で<薩摩>が出航を開始する。
((タカタカターン))
出航ラッパが響く中、外海へ向けて舵を切って行く。
「武運長久を祈りますぞ!」
帽子を掲げて打ち振る周りの者に交じって、
オーランド海軍少将ガンドムが敬礼を贈る。
それは二度とこの地を訪れる事もないであろう艦に対しての訣別でもあった。
「彼女達に女神の加護を・・・どうか生還出来ますように」
<薩摩>が辿る苦難を想い、ガンドムは願わずにはおられなかった。
「艦長、<早蕨>から信号。<<我先行す>>です!」
見張り配備の信号員から報じられる。
前方2キロを同速で進む駆逐艦から、発光信号が送られて来た。
「よし、後続すると伝えろ」
ミノリは前方を進む<早蕨>を想う。
ー 美夏・・・お前は本当に死んだというのだな。
あの輸送船団を護衛中に・・・艦と運命を共にしたというのだな?
ミノリの頭にはある日のシマダ・ミカ少尉の面影が映っていた。
「源田大尉!ミノリさん!お久しぶりですっ!」
元気よく声を掛けられた、当時日の本海軍大尉であったミノリが振り返ると。
「大尉になられたのですね、おめでとうございます!」
にこやかに笑いかける少女が立っていた。
「なんだ、美夏じゃないか!
お前もとうとう招集されたのか?」
びっくりしたミノリが訊ねると。
「いえ!私は志願したのです。
どうせ招集されるのなら、自分から進んで軍に入ろうって。
ミノリ先輩みたいにって・・・」
ミカが微笑んで答える。
「馬鹿っ、お前まで軍隊に入るなんて。
叔母さんやお爺さんの面倒は誰が観るんだ?」
ミノリがミカの家庭を気にして諫めるのだが。
ミカは少し陰りのある笑みのまま首を振って応える。
「先輩も御承知とは思いますけど。
私が軍に入った事で、家計はずっと楽になるんですよ。
学生を養うよりも私が軍に入れば報奨が与えられるのですから」
当時の日の本では女学生を養う事は、生活にゆとりのある家庭と看做されていた。
誰もが好きに学べるだけの国力もなく、その国民も皆が豊かではなかった。
「それは・・・だけどな。
お前が居なければ叔母さんもお爺さんも寂しいだろうに・・・」
ミノリはミカの家庭が裕福ではない事を知っていた。
「それに・・・亡くなられた叔父さんも。
お前が軍に入る事を望んではいなかっただろうしな」
ミカの父親が他界していたのを思い出す。
父は軍人として南方に赴き、その地で戦死されたことを。
「ええ、多分。
でも先輩。私は決めたのです、海軍に入ろうと。
父と同じ海軍士官になって、この身をお国に捧げようと。
そうする事で母やお爺ちゃんを護る事が出来るのなら・・・」
この当時、日の本は南方に進出してきた華帝国との事変を遂行中だった。
事変は長引き、解決の目途さえもつかない泥沼状態となっていた。
そこに新たな脅威が迫っていたのだったが、
その時にはまだ被害もそれほど深刻ではなかったのだが・・・
「ミカよ、お前は何処に配属された?
私達魔法使いは特別扱いされている筈だぞ?
どこかの基地か?それとも今開発中の新型魔砲機械部隊にか?」
少尉の肩章を見ながらミノリが配属先を訊ねる。
「いいえ先輩。
私は駆逐艦<早蕨>の掌砲術長に命じられました。
2等駆逐艦ですが、良い艦ですよ?」
ニコッと笑ったミカの微笑みが目に焼き付いた。
ー アイツと最後に会ったのは、一年前。
呉から出撃する<早蕨>艦橋で手を振っていた姿を最期に・・・
ミカは二度と還っては来なかった・・・私の前には・・・
前方の霞に隠れる駆逐艦を見据えて想い出に浸っていた。
「ミノリ艦長、そろそろX地点です。
進路を東に執ります・・・宜しいでしょうか?」
何度か尋ねたのだろうか。
ミツルが不思議そうに見つめているのに気付いたミノリが、軽く頷いた。
「了解です、ヨーソローとーりかーじ!」
航海長魔法席で、進路を東に執ったミツル3尉と砲術長レナ3尉が目配せする。
「艦長、<早蕨>には何と伝えますか?」
艦長から事前にこの作戦を伝えられている二人が気を利かせてくる。
ミノリは少しだけ考えてからこう命じた。
「<早蕨>艦長に伝えよ。
<<我、貴艦の武運長久なる事を祈る>>・・・以上だ」
艦長の命に、直ちに発光信号が送られる。
艦橋右側面にある信号灯から駆逐艦へと。
「艦長、<早蕨>旗掲信号掲げます。
<<我、期待に背からん>>・・・進路同行、速力上げました!」
あくまでも<早蕨>は護衛任務を全うする気なのだろう。
それが駆逐艦としての本来の任務だと言わんばかりに。
ミノリは観えもしないというのに、艦長へ敬礼を贈るのだった。
ミハルは感じていた。
ー きっと・・・助けに行くから。
必ず人類が滅びる前に辿り着くから・・・待っていて
金色の髪を靡かせる女神へ想いを伝える。
観える女神は頷いてくれた。
そう・・・リーンの姿を感じていたのだった。
ー 夢の中でも善い。
譬え夢でも幻でも・・・あなたと逢えるのなら。
リーンの力を返せる時まで・・・こうして逢えるのなら・・・
女神リーンに託された女神の力を感じつつ、ミハルは願うのだった。
<ミハル・・・また感じているんだね?
その女神さんはミハルの何なの?>
テレパシーが訊ねる。
「うん、私のとっても大切な人なんだよ。
私をずっと待っているんだ・・・捕らわれの身になっても」
((がばっ))
答えてから目が覚めた。
毛布を跳ね除けた所には、龍の子がちょこんと横になっている。
「うわっ!リィ君っ、また私の横に居たのね?!」
魔法石から勝手に出てきていた龍の子にミハルが咎めるのだが、
当の龍の子は素知らぬ顔で丸こまっている。
<んん~っ?いいじゃないミハル。別に齧ろうとは思ってないしさ>
片目を開けたリィ君がミハルを一目見て応え、また眠りの態勢になる。
「そうじゃなくて!何故私の横で寝ているのかを訊いたのよ!」
素知らぬ顔で眠る龍の子に、ミハルが尖るが。
<眠る時は憑代から出てもいいんじゃない?
だってお腹が空いたら直ぐ齧れるもん・・・>
((がっくりんこ))・・・Orz
ミハルは脱力したようだ・・・
「あははっ、やっぱり寝てる時も油断ならないのね・・・」
苦笑いを浮かべるミハルは、それでも龍の子が憎めはしなかった。
蒼い龍みたいな縫いぐるみとなっているリヴァイアサンを。
すやすや眠るリィ君の鬣をそっと櫛ながら、微笑んでしまう。
「君の名を探し出して、本当の自分を取り戻させてあげる。
君の苦しみ、辛さを少しでも和らげられるのなら・・・
私はどんな事だってしてあげたい・・・そう誓ったんだもん」
魔法力を分け与えるのも、頭に齧りつかれるのも・・・全て。
ミハルがリヴァイアサンとの誓いを果たさんが為。
「君の友達も探していると思うから。
リィ君の御両親も悲しんでいる筈だから・・・・」
呟きながら毛布をリィ君と一緒に被ったミハルが再び眠りへと堕ちていった。
((ブブーゥッ))
発艦指示機が青色に替わる。
「ミハルっ、発進します!」
白い魔法衣姿の魔砲師ミハル1尉が今日も、いの一番で発進していく。
「第2小隊一番ホマレっ、いくで!」
二番目に飛び上がるのはホマレ3尉。
海上を進む<薩摩>から次々に発進する魔砲師隊。
「こちら母艦。制空隊は直ちに所定の高度まで上がる様に。
敵編隊の規模、並びに目標を確認せよ!」
上空の改造空母<翔鷹>からも順次魔砲師隊が飛び上がっている。
「了解!こちら大高第2中隊、索敵行動に入る!」
隊長騎ミハルと手で合図を交わしたジュンが、
前方に向けて手を振って先行する事を告げる。
「ミハルっ、ウチ等は限界高度まで上がるんか?」
ミハルの直後に着いているホマレが訊ねてくると。
「うん!今日は敵も数が多いと聞いたから。
なるべく第1撃は奇襲にしたいんだ。敵の編隊を崩したいから」
そう答えたミハルに頷く。
ミハルの戦闘方法に異存がない事を告げる為に指を立ててミハルに応えた。
「「敵発見!進撃高度700、敵は戦爆連合。
その数約100機!オーランドへ向かうモノの如し」」
先行していた偵察のジュン2尉から敵状が伝えられた。
「よし、それじゃあ太陽を背にして突入しよう!
ホーさんっ続いて!戦闘開始っ!!」
ミハル隊長に併せて、各員がデバイスを解除する。
力ある魔砲師は強力な火器を、それほどでもない者は機銃を構える。
「敵は100機、こちらは24騎!
でも、遅れは取らせないから。
必ず敵に打ち勝ってみせますから!
だから私に着いて来てくださいっ、誰も喪いたくはないから!」
ミハルは編隊に命じる。
いや、頼んでいるのだった。
仲間を護る・・・その為に。
有志連合軍航宙戦艦<薩摩>は征く。
空を圧して飛び来る<神軍>との決戦の場へと。
それはもう・・・間も無くの事だ・・・
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おまけだよっ!
ミハル「そう言えばさぁ・・・リィ君って何処から出てくるんだろ?」
リィ 「うん?僕はいつもどこでも。
ミハルの中から出られるんだよ、えっへん!」
ミハル「そこ・・・威張れるトコなの?」
ホマレ「そーなんやー(棒)
リィ君ってミハルの何処からでも出られるンや(棒)」
リィ 「そ、だねー」
ホマレがリィ君に耳打ちしておリンス・・・
ミハル「・・・なんだか。ものすっごぉーく、嫌な気が・・・」
リィ 「じゃ、僕はミハルに戻るから・・・何かあったら呼んでね?(棒)」
リィ君はミハルのブレスレットに帰って行った。
ミハル「ホーさん・・・何か企んでるでしょ?」
ホマレ「うんにゃ、何も・・・そや!」
ミハル「((びっくぅっ))ナニ?」
ホマレ「リィ君に言うの忘れとったわ!」
ミハル「 ?? 」
リィ 「呼んだぁーっ?!」
リィ君は・・・ミハルの中から飛び出してきた!
そんな・・・処から??
ミハル「 ?! WXVSUKIxxにゃ~~っ?!」
((ぽんっ))
ボタンが勢いよく飛んで行った・・・
ホマレ「ホントだぁ(棒)!リィ君凄いやんけ!」
ミハル「お二人さん・・・覚悟・・・完了?((プルプル))」
このアト・・・ミハルの魔砲が炸裂したとかしなかったとか?
リィ君、完全にミハルを舐めきってますね・・・
少数の攻撃隊にはもう慣れてしまったか。
ミハルは撃墜数を増やしていくのだった。
航宙戦艦<薩摩>の仲間達と共に・・・
ミハル達に挑みかかろうとするのは強大なる艦隊。
しかし、その指揮官たる女神ミハリューはある男の元へと向かうのであった・・・
次回 終わる世界 Ep4 神託の御子 Part4
君は抗う者の願いを知った時・・・心を開く事が出来るだろうか?
人類消滅まで ・・・アト 87日