第6章 終わる世界 Ep4 神託の御子 Part2
龍の子リィ君の扱いにも慣れてきたミハル。
束の間の休息に心も和んでいるようです・・・
白い影を残して飛び征く2人の姿があった。
魔女が箒で飛ぶかのように・・・
「おおーいミハルぅ、親善飛行はこの辺でええんちゃうか?」
オーランドのチューリップ畑を眺めながらのんびりと飛んでいく。
「そーだね。もうこの辺でいいかな?」
2人は寄港した連合国の一つ、オーランドの上空を飛んでいたのだった。
海沿いの国家オーランドも来るべき<神軍>の侵攻を控え、
国家をあげて防備を急いでいる最中であった。
ミハルとホマレは親善飛行を命じられ、
オーランドの海沿いをゆっくりと飛んでいた。
眼下に観えるのは農業国オーランドの花畑。
上空から見るそれは色とりどりの絨毯にも観える、美しくのんびりした光景だった。
「まるで戦争なんてどこでやってんのやって感じやなー」
ホマレは腕を頭に組んで背面飛行をしながら感想を述べる。
「ホント、のんびりしてるねぇここは」
ミハルも美しい景色に魅了されたのか緊張感が薄れているようだ。
((カジ・・・カジ))
龍の子リィ君もいつも通り。
「・・・齧らないでぇ~」
ミハルの頭に憑りついて魔力を補給し続けるリィ君に、
いつも通りに情けない声を上げる損な娘。
「ええやんかミハル。
今日は敵も現れそうにないし・・・なぁリィ君」
ホマレは人ごとの様に笑いかける。
「そーだけどぉ、間が抜けて観えない?」
額を抑えながらミハルが訊く。
「ああ、そうか!間抜けってミハルの事なんか!」
((カチン))
ミハルの額に青筋が建つ。
「言ったわねぇ~っ、こんのぅっ!」
ミハルがホマレに挑みかかる。
「おわっ?!なにすんねん!このお間抜け娘っ!」
頭に縫いぐるみを載せたミハルにつつかれたホマレがつつき返す。
突かれたミハルが笑う。
2人はお互いの顔を見合って笑い合った。
平和な空で・・・二人だけの空の上で。
「えっへっへっ!」
「あはははっ!」
2人はじゃれ合う様に青い空を飛んで行った・・・
挿絵更新しました。
2020年秋
(注・ミハルの魔法衣について。
魔砲師として飛行する時の魔法衣は、以前と同じで女神魔法衣とは違います。
ちょっとだけマイナーチェンジしていますけどね)
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入港した<薩摩>は改造空母<翔鷹>と別れ、ポンツーンに係留していた。
((ピィーィ))
礼笛が鳴らされる。
タラップから乗艦してきたオーランド海軍使節を迎える為に。
「私が艦長の源田2佐です。
ようこそ航宙戦艦<薩摩>へ、少将閣下」
迎え出たミノリが敬礼を贈ると、白いオーランド海軍将官服を着た男性が答礼する。
「それはこちらが申す言葉です、艦長。
どのような方が指揮を執られているのかと思えば・・・
お若いですな、そして麗しい女性だとは思いもしませんでしたが」
幾分年嵩の少将が感想を述べた後。
「申し遅れました、私はオーランド海軍のガンドム少将です。
寄港を祝して贈らせて頂きたい物がございます」
懐を指さし、何かを持参した事を教えた。
「そうですか。
では・・・艦内で受け堪りましょう」
咄嗟に機密文を持参した事を悟ったミノリが気を利かした。
「恐れ入ります・・・では」
ミノリが先に立って艦内へと誘った後を、ガンドム少将が着いて行く。
艦内の司令官室に入ったミノリが、
警護役の下士官にドアの外で待つように命じる。
ガンドムに向き合って座ったミノリが早速要件を訊ねた。
「閣下、懐に仕舞ってある命令には・・・なんと?」
察していた事を告げるミノリに、ガンドム少将の眼が見開く。
「さすが、最新鋭艦を任されておられるだけの事はありますな。
・・・・それでは早速に・・・」
無駄な話を好まないのか、ミノリの前に懐から出した封書を差し出した。
「本日午前にこのような電文が送られて参りました。
<薩摩>が入港予定を報じた後で・・・です」
ミノリが開封に、一読している間にガンドム少将が教えた。
「ありがとうございます閣下。
確かに承りました、有志連合軍司令部からの命令書を・・・」
電信欄を封書の中に戻し、ミノリが受令した事を認める。
「しかし、最新鋭艦とはいえ・・・酷な事を」
命令内容を知るガンドムが、労わりの言葉を投げると、
ミノリが手で制しながら感謝を示した。
「閣下、我々は今相手にしているのは人類始まって以来・・・
未曾有うの敵が相手です。
少々の犠牲は覚悟の上で闘って参りました、日の本でもフェアリアでも。
我が<薩摩>も、勝利の為ならば勇んで参りましょう・・・」
贈られた言葉に、オーランド海軍少将が頷く。
「判りました。
貴艦の武運長久を祈っております」
もはや話す事はないと悟ったか。
ガンドムは立ち上がりミノリに握手を求めて来た。
握手に応じたミノリが、感謝の意を示すついでに。
「一つだけお願いがあるのですが、聞いては貰えないでしょうか?」
ミノリは頷いたガンドムに依頼する。
「食料品の補給をお願いしたいのですが・・・」
「宜しいでしょう。承りました」
二つ返事で了承するガンドムに、頭を下げ謝意を表した。
ガンドム少将を舷端まで見送りに出たミノリが敬礼を贈ると、
年嵩の少将は敬礼ではなく大きく手を振り別れの挨拶と換えた。
短艇が離れて行くのを見送った後、
ミノリは封書に記されてあった文面を思い出す。
「<E作戦>か。
出来ればこの艦を日の本まで持って帰りたかったんだが・・・」
握り拳を固めるミノリが呟いた。
<E作戦>が発令されたのは知っていた。
その為の<薩摩>だと聞かされていた。
だが、現実に作戦が遂行されるとなれば乗員達にも知らせなければならない。
「この作戦が無事に終えれる筈もない。
だが、命令は絶対なのだ・・・勝利する為には。
その為の航宙戦艦<薩摩>・・・その為にあの娘が呼ばれた。
紀州沖海戦で生き残った・・・ホマレが。
私と同じく・・・死を求めるあの娘が・・・」
ミノリは<薩摩>乗員となる事を望んで来たという。
ホマレと共に改造空母<翔鷹>に便乗し、
回航された<薩摩>を追う様にフェアリアへ来た事を想い出した。
「そして前の艦長から教わった。
この艦にはある特殊な装備が施される事になると。
フェアリアに居るとされていた、日の本の御子。
神の使徒たる母を持つ・・・ミハルの力で具現化される・・・
超電磁砲・・・魔砲が備えられた。
そしてそれは見事に敵を打ち砕いた」
想い出が頭を過る。
ミノリは艦橋へ登ると、艦長席にある紅いボタンを確認した。
「女神の力を持つミハルが、
完全体になる時が近づいたというのか?
それが我々人類に何を与えてくれるのか?
私はそれが観てみたい。
その女神が人をどう導くのかを観てから死にたい。
・・・だから、我が力と乗員の魂を併せて・・・
あの娘を完全なるモノにしなければならない・・・ミハルを」
そっとボタンに触れ、ミノリは艦橋の窓から空を見上げた。
「へっくちっ!」
くしゃみをしたミハルに、ホマレが飛び退く。
「なんやミハル?風邪か?」
流石に驚いたのか、頭の上に居る龍のリィ君も齧るのを辞めた。
「ううーんん、なーんでもないよ。誰かが噂でもしたな?!」
ミハルはそう言うとリィ君を頭から降ろし、
艦内から観える筈もない空を見上げる。
<来たね・・・ミハル>
リィ君のテレパシーが届く。
「うん!敵が来たみたいだね?!」
ミハルがすっくと立ちあがると同時にホマレも立つ。
「行くか、ミハル!」
「行こう!ホーさん!!」
2人の魔砲師がデバイスを握り締め、魔法の靴に力を込めた・・・・
ミハル達が一時の休息に心を休めていた時。
<神軍>の艦隊が出撃の時を迎えていた。
女神ミハリューは<薩摩>と自分のバグだと信じ込んでいるミハルに敵愾心を燃やしていた。
そして決戦の時を前に、<薩摩>と<早蕨>は出航していくのだった・・・
次回 終わる世界 Ep4 神託の御子 Part3
君は後輩たる娘を想う、なぜ未だに眠ろうとしないのかと・・・
人類消滅まで ・・・アト 88 日