第6章 終わる世界 Ep3 眼下の敵(リヴァイアサン) Part10
クロスファイアは一瞬で勝負を決めた!
敵の弾は防がれ、此方の弾は敵を砕く!
今、戦いの趨勢は第2ラウンドへ!
聖なる光の弾が突き進む。
邪なる顎に向かって・・・
「「そのような弾など噴き跳ばしてくれるわ!」」
巨大な砲が紅蓮の牙を剥く。
真っ赤な破壊波を敵に繰り出して。
((グワアアァッ))
リヴァイアサンの破壊波動音波兵器が渦を巻いて放たれる。
蒼き弾ごと、水上の<薩摩>を破壊する為に。
「敵巨大潜水艦、強力な音波砲を発射!」
レナ3尉が警告したが、ミノリは動じなかった。
「構うな!船体起こせ、傾斜復元!!」
ミノリ2佐艦長の号令で、ミツル航海長が復唱する。
「船体起こせ!傾斜復元、よーそろーっ!」
左舷に40度傾いていた<薩摩>が水平を取り戻す。
「敵破壊波に艦首を向けろ!防御発射!」
ミノリの命令でミツル航海長が艦を下方に向ける。
「イナリ明神よ、力を放て!
守護神たる力を示し、我等を護れ!」
ミノリが艦長席に突き出しているデバイスロッドを握って宿る神に命じる。
「やれやれ、忙しいことじゃのぅ」
狐の神は、憑代の命じる事に素直に従う。
「コーンっ全力全開じゃ!ワシの憑代に仇名す力は断じて防ぐ!」
イナリの力は魔鋼機械に届く。
4つある船首からオーラが噴き出し、艦体を包み込む。
「並みの力ではワシの防御壁は破れはせぬぞ!」
ミノリに宿った狐の神が、向かって来る破壊波動を防ごうと力を放った。
「ワシは敵を攻撃する事は出来ぬ。
じゃがのぅ、守護する者を護る力は持っとるのじゃ。
それが我が八百万の神から別けられた力なのじゃ!」
魔鋼のデバイスを握るミノリの中で、狐の神様が誇らしげに語った。
二本の尻尾をフリフリさせながら。
破壊波動に向け、艦首を下方にさげて防御を展開させる<薩摩>。
艦体が4本の船体を繋ぎ合わせた形を採っている、特殊形状の本当の意味は。
「艦首にある魔鋼機械から放出される魔力シールドが、
どれ程敵の攻撃を防げるのか・・・それが試される事になったな・・・」
ミツル航海長が隣の席に座る砲術長レナ3尉に話しかけた。
「ああ、一つだけの魔鋼機械では間に合わなかったから。
先ごろ新たに開発された新型なら解らないが、
本艦が造られた時にはこうするしか方法がなかったんだからしょうがない」
艦橋から観える薄い光のベールに包まれた艦首が、この艦が魔法の艦だと告げていた。
「それよりも、こっちの弾が相手を倒せるかだ!」
2人の後ろから艦長ミノリ2佐が締めくくった。
「女神の力が勝るか、邪神の波動が勝つか・・・」
ホマレは息を呑んでその時を待つ。
モニターに映るのは蒼き弾を飲み込もうとする紅き渦。
「ホマホマよ、我の力が信じられぬか?」
撃つ時は確かにミハルだった声が、また女神モードの声になっていた。
「うわっ?!またあんたか?!
しまった、思わずいらん言葉を喋っちまったか!」
キーワードを耳にして女神モードとなったミハルに、自分の失敗を悔やんだが。
「ホマホマよ、この身体は時として便利なモノよ。
人間ミハルの力も強ち使い物になる。
特に今のような射手としては・・・我にも及ばぬ事を仕出かすからな」
紅き右目をホマレに向けた女神モードのミハルが口元を歪ませる。
「あんたの良い様にはさせへんからな!
ミハルを取り戻す方法は確立されているんやし。
イザとなったらこの指で!」
ホマレが女神に向けて指をコキコキしながら迫る。
「ばっ、馬鹿者っ!ふざけている場合か。
奴がぶっ壊れるのと同時に、この身体で奴の本性を叩かねばならんのだぞ?!
そうしなければいくら現実世界で勝っても、
この船に乗っている者達の魂が彼奴に喰われてしまうというのに!
それでも良いというのか、ホマホマは?!」
「はっ?へ?」
近寄るホマレに女神モードのミハルが指を突き付けた・・・時。
破壊波に蒼き弾が突き立った。
いや、音波砲の波動の中心核を蒼き弾が真っ直ぐに突き進む。
「勝ったな・・・」
見詰める者達が勝利を確信した。
「ああ・・・」
答える声は、モニターに映る画像に驚愕する。
音波砲の波動をものともせず、蒼き弾は一直線に潜水艦に命中した。
「こっちにも来るぞ!
総員ショックに備えろ!振り飛ばされるぞ!」
艦長の叫びがスピーカーから流れ出た。
神通力の魔法障壁が音波砲の波動から艦体を護る。
超音波が防御障壁に突き当たり、艦を上空へと押しやる。
「くうっ?!これでも大丈夫といえるんか?
ミノリ姉さんに宿る神様よ?!」
砲塔内でホマレが振り払われないように椅子にしがみ付いて耐えていると。
「この娘が放った弾は、彼奴を食い破ったがな・・・」
平然としている女神モードのミハルがモニターへ指を差して教えた。
「えっ?!な・・・なんやて?!
あの巨大な潜水艦をたったの一撃で?」
ホマレの眼に、超電磁砲の弾を喰らった巨艦が誘爆を始める姿が映った。
こちらへ向けて必殺の一撃を放った巨艦の開かれた顎の中に弾がめり込み、
上下二つに割れた部分の奥に猛烈な爆発が起きる。
水中なのに紅い炎が巻き起こり、その破壊が他の部分へと拡がっていく。
爆発は止まる事を知らず、巨大な潜水艦を紅蓮の炎に換えて行く。
誘爆を繰り返し、巨大な水中の王たる者は滅びの時を迎えつつあった。
「やったやんかミハル!
さすが名砲手やな、さすが魔砲の砲手やな!バンザイっ!」
小躍りして喜ぶホマレの前で、紅き瞳の女神が首を振った。
「いいや、本当の闘いはこれからだ。
ここからは人知を超えた戦が始まる。
ホマホマ達はここで待つがいい。
ここからは神々の領域となる。
戦女神と邪なる海神との決戦が始まるのだ!」
槍を片手に提げたミハルが砲手席から立ちあがる。
「待つんやアンタ。
ミハルの身体で闘う気なんか?
ミハルは人間なんやで?
水中では息が出来へんのに・・・どうやって闘うっちゅーんや?」
慌ててホマレが停めようとするのを。
「なんだ、そんな事か?
神々の領域だと言った筈だぞホマホマ。
水中だろうが宇宙だろうが、そんな事は関係ない。
神は何処へでも行く事が出来る・・・現実世界とは訳が違うのだ。
心配するのなら私が彼奴に勝てるかどうかを祈るが良い」
砲塔ハッチへ歩んだ女神モードのミハルが教える。
「そないな事言ったって・・・
誰に祈ればええんや?
誰に縋ればええと言うんや?
ウチ等の相手は神々なんやろ・・・何に祈れっていうんや?」
ホマレがミハルに抱き着こうとしたが。
「ふふふっ、今度ばかりはその手にのらん。
今彼奴と闘わねば、次はいつになるか判らぬからな。
この娘に掛けられた呪いを解くのは今を措いてないのだ。
この娘の事が心配なら尚の事、私が勝たねばならん。
・・・この意味がホマホマには解ろう?」
ホマレの身体を押しやって、紅き瞳が答える。
掛けられた呪いを解くには、海神を倒さねばならないと。
本当のミハルを取り戻すには闘って勝たねばならない事を。
「そ、そやかて・・・ミハルをそないな戦いに行かせる訳には」
ホマレの前でハッチが開かれる。
「ふふふっ、この娘は大層好かれておるようだな。
ホマホマがこの娘を取り戻したいのなら、祈るが良い。
この娘が信じているのと同じ神に。
神々の神殿に囚われ、私に力を授けた女神に縋るが良い」
ハッチから出て行くミハルを停めたいのだが、ホマレの身体は金縛り状態になっていた。
「なんでや、なんでそないな危険を冒すんや?
それにどんな神様やねん、アンタが言う女神って?」
ハッチから出た女神が教えた。
砲塔の中で叫ぶ人の子に。
「リーン・・・私の女神様の事だよ、ホーさん。
この女神さまの言う通り、必ず勝ってみせるから。
だから・・・待ってて。
呪いを消し去って、必ず戻って来るから・・・」
左顔を見せた女神の声が聞こえた。
「ミっ、ミハルっ?!待って!
待つんやミハル、誰なんやそのリーンっていうのは?
それに今はミハルなんやろ?行くな行かんといて!」
叫んだ声に応えたのは、いつもの優しい声。
「ちょっとだけ・・・女神が解放してくれているんだ。
でも、また直ぐに気を失う事になる・・・声を出せなくなるの。
女神が言った通り、私の呪いを解いて帰ってくるから。
だから祈っていて、私が戻れるのを。
私の女神リーンに祈っていて・・・ね」
蒼き瞳が別れを告げた。
「待って!ミハルを2度と失いたくないんや!
ウチも一緒に行きたいんや!行くならウチも!」
そう叫んだ時には・・・
女神となったミハルの姿は消えていた。
「ミハルゥーっ!」
金縛りがそこで解けた。
その事が意味しているのは・・・
「結界に入ったんか?
神の領域とかいう奴に入ってしもうたんか、ミハルぅ!」
ハッチから飛び出て後を追うが、もう、影も形もみえなくなっていた。
「そんな・・・ミハル。
必ず戻るんやで・・・ミハル。
待っているさかいにな・・・ウチは。
そう・・・祈っているで、ウチは・・・そのリーンとかいう女神に」
砲塔から出たホマレは、海を見下ろし女神に祈る。
闘う女神ミハルに・・・無事に戻って来れる様にと・・・
・・・・そして・・・ホマレの前に光が現れる・・・
敵潜水母艦を撃破したミハル。
だが、本当の闘いはこれからだった。
神の領域での戦いに、ミハルは飛び込んで行った!
次回 終わる世界 Ep3 眼下の敵 Part11
君は巨大な敵の姿にも惧れはしない!それが神喰らいの娘だから!!
人類消滅まで ・・・アト 93日