魔鋼騎戦記フェアリア第2章エレニア大戦車戦Ep1街道上の悪魔Act17死線を超えて
死を決したミハルの前に光が呼びかける。
ミハルの前に懐かしいあの笑顔が語り掛ける。
それは・・・光の声・・・
告げられるのは誰の事なのか・・・
ー 諦めないで!諦めちゃ駄目!
誰かの声がする。
ー 諦めたらそこで全てが終る。最期まで諦めるな!
「誰?」
ミハルは呟く。
ー 約束したよね、私達。
どんな事があってもミハルを護るって。
生きて、生き続けるのよ・・・ミハルだけは!
「誰なの?私に呼び掛けるのは?」
ミハルの魂に光が呼びかけて来る。
ー 私?私はあなた。もう一人のあなた。
必ず約束を果たすって決めた時のあなただよ
「もう一人の・・・私?」
ー そう。
そして彼女達も願ってくれている。護ってくれているから
ミハルの瞳にもう一人のミハルが。
そして・・・
「ターム!カールさん!ラバン軍曹!」
懐かしい人達が笑い掛けている。
「ミハル!らしくねーな。弱音を吐くなんてさ」
「おい!約束しただろ、オレ達が護ってやると」
「ミハル・・・護ってあげる。これからもずっと、ずっとだよ」
カールも軍曹も、タームもあの懐かしい笑顔のままでミハルに語り掛けて来る。
ー この3人だけじゃない。
私を護ってくれているのは。
知っているでしょ、みんな私が生きて戻る事を願っているのを・・・
ミハルの瞳にラミル、キャミー、ミリア、リーンの姿が映る。
そして逢うべき人達の姿が・・・
ー ああっ、お父さんっお母さん!
・・・真盛っ!・・・帰りたい・・・帰らなきゃ!
父と母、そして愛する弟の笑顔がミハルに諦めない強い心を求める。
「「ミハル、諦めないで」」
「「ミハルはお姉ちゃんだろ、負けるな。強くなるんだぞ!」」
「「お姉ちゃん。還って来いよ、僕の元へ!必ず!」」
マモルの手がミハルを求めて伸びる。
その手を掴んだミハルは、
「そうだね。そうだったよね。みんなが待っているんだね」
マモルと手を繋ぎ微笑んだ。
「ミハル姉・・・さあ!」
3人が頷き、光となってミハルと一つになる。
「マモル・・・あなたの元へ必ず還る。
それがみんなとの約束。私の決めた約束だったから」
ミハルの瞳に再び生きる事への力が宿る。
生き残る為に耐え続けてきた想いが力になる。
ミハルの右手が下がる。
拳銃を持ったその手が・・・
ー あなたを待っている人が居るわ。
その人の元へ行くのよ、その人が救いを求めているから
もう一人のミハルが光となって自分と重なるのを感じとる。
その瞬間にミハルの魔法衣がユニフォームへと戻った。
魔砲の力が体の中へと戻るかのように。
蒼髪が元の黒髪へと戻り、瞳の色も元通り黒色になった。
それは魔鋼の機械が停止した事の表れなのか?
それともこれからのことは、
普通の人たるミハルが経験しなければならないとでもいうのか。
その時のミハルには気が付いていなかった。
そう・・・気が付けるほどの余裕もなかった。
「そうだ、クーロフ大尉!
あの人を救う為に此処に来たんだ。助けに行かなくっちゃ!」
ミハルは右手の拳銃を持ち直し、側面ハッチに手を掛ける。
((カンッ!カン カン))
ミハルの姿に気付いたのか、マシンガンを撃ってくる敵兵がマチハまで数メートルに迫った。
「くっ!このままじゃあ、出れないっ!」
ミハルがハッチから離れて身を隠した時。
((バッガアアァーン))
近付いて来ていた数人の兵達が爆発と共に宙を舞う。
「何?何処から撃って来たの?」
ミハルはハッチから顔を出して砲撃して援護してくれた相手を探した。
「!クーロフ大尉?」
M4中戦車の砲口から発射煙がたなびいているのを見て、
ミハルはハッチから飛び出しM4に駆け寄る。
「大尉ーっ、クーロフ大尉!」
ミハルは車体をよじ登り、砲塔天井ハッチから内部を覗き込んだ。
「!大尉っ、クーロフさんっ!」
M4の車内は煙が充満し、焼け爛れた塗料と油の臭いがたちこめている。
その煙の中でクーロフは砲尾にもたれ掛かり、半身が焼け爛れた状態でミハルを見上げていた。
「クーロフ大尉。しっかりして下さいっ!」
ミハルは車内に飛び降り、クーロフに喋り掛ける。
傷だらけで左半身を炎で焼かれたクーロフが、
「シマダ君、無事かね。良かった・・・」
消え入りそうな声でミハルの無事を喜んだ。
「大尉、ありがとうございます。
大尉には2度も助けて頂きました。
今度は私の番です。さあ、脱出しましょう!」
ミハルがクーロフの手を引き脱出を迫る。
「いや、いいんだ。
皆と一緒に居させてくれないか。お願いだから・・・」
クーロフは車内で事切れている乗員に眼を移して、ミハルの申し出を断った。
ミハルの目にドライバーも機銃手も装填手も。
皆が皆、微笑を浮かべて死んでいる姿が映った。
「皆が喜んで死んでいった。
皆が家族の事を想って喜んで死んで逝ったんだよ。
私はこの場から立ち去る事は出来ない。
・・・ミハル君、一つお願いがあるのだが、訊いて貰えないだろうか」
ミハルに視線を移し、胸ポケットから写真を出して、
「この子達に伝えてくれないか。
先生は君達の事を想っていたと。
約束を守る事が出来なくて済まなかったと。
そう伝えてくれないか、戦争が終わったら・・・」
そう言うと、砲尾からずり落ち倒れた。
手に持った写真が宙を舞いミハルの足元に落ちた。
「大尉!クーロフ大尉っ!」
ミハルが抱き起こそうとすると、
「頼むよ、シマダ・ミハル君。
ヤポンに帰ったら、幸せになっておくれ。
必ず幸せに・・・それが・・・私の願いなのだ・・・」
クーロフ大尉はミハルを見詰めたまま動かなくなってしまった。
「大尉!クーロフさんっ!」
ミハルが声を掛けても、最早クーロフは微動だもせず息絶えた。
クーロフ大尉の瞳から涙が流れ落ちた。
死して尚、故郷を想うというのか。
ー 大尉・・・ごめんなさい。あなたを助ける事が出来なくて。
助けてもらってばかりで・・・
ありがとう。クーロフ・・・さん
ミハルはそっとクーロフ大尉の瞳を閉じてあげた。
そして、さっと立ち上がり挙手の礼を掲げ。
「ロッソア帝国陸軍クーロフ大尉。
あなたに感謝します。ありがとうございました!」
栄誉の敬礼を贈るのだった。
ミハルは足元の写真をそっと胸ポケットに入れ、
「さようなら大尉。安らかに・・・」
そう決別の挨拶を言ってからM4中戦車を後にした。
「リーン小隊長!ご無事でしたか!」
機銃を撃つマクドナード軍曹の元へリーン達は駆け寄る。
「マクドナード!力作車は使える?」
リーンの質問に即座に首を振って。
「キャタピラをやられました。動けませんっ!」
マクドナードの答えにリーンは悔しがる。
「そう言えばミハルは?ミハルはどうしたのです?」
気付いた整備班員が訊いて来ると、
「まだ村の中よ!何としても助けに行かなくては!」
リーンがマクドナードからマシンガンを受け取って救出に向おうとする。
「待ってください、小隊長!危険過ぎます。
まだ敵は40名近い兵員が居ます。
味方部隊が到着するまで待つべきです」
マクドナードが止めるのを聞き流し。
「私は約束したのよ、ミハルと。一緒に闘うと、ミハルと共に闘うと!」
そう言って立ち上がるのを止める者が居た。
「少尉待ってください!
私達が行きます。少尉はここで待っていてください」
ミリアが整備班員の小銃を取り上げて立ち上がる。
「そうです。
あいつはリーン少尉を護る為に残ったんです。少尉を危険に晒す事は出来ません」
痛む右手を庇いつつ、キャミーも左手で拳銃を握り締めてリーンを停める。
「あいつとの約束です。
一緒に闘うって。そう決めたんです!」
ラミルがサブマシンガンを手に立ち上がる。
「オレ達も行きます。搭乗員だけに行かせる訳には行きません」
整備班員達が立ち上がる。
「お前ら・・・はっはっはっ。こんな事も・・・無くはないか!」
マクドナード軍曹は機銃をマシンガンに持ち替えると。
「しょうがない奴等だな、全く」
呆れたように頷いた。
「村人は?避難出来たの?」
リーンが薄く笑いながら訊く。
「全てでは無いと思いますが・・・ね」
マクドナード軍曹もふっと笑い顔になって答えた。
「何て部下・・・なんて友・・・なの。あなた達って!」
リーンが皆に微笑み掛ける。
「ならば!私を護りつつ闘いなさい。
私と共に大切な友を助け出すのよっ!みんなっ!!」
「はいっ!」
リーンの言葉に全員が頷いた。
諦めない強さを知ったミハルは抗う。
約束を守る為・・・
たった一人の戦場の中でも・・・
そして約束を守りたいのはミハルだけではなかった。
第97小隊かく闘えり
次回 街道上の悪魔 最終話
アイキャッチ入りのFAを頂きました。
た~にゃん様 ありがとうございました!
た~にゃん様のページはこちら
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優美で繊細な物語を紡がれておられます。
その中でもサスペンスと悪嬢ザマア系の融合小説
「メモリー~元天才ピアニストのポンコツ悪役令嬢ですが、全力で破滅を回避します~(旧題:メモリー)」が旧作とは言えどもお勧め。
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是非。
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君は生き残る事が出来るか?!