第6章 終わる世界 Ep3 眼下の敵(リヴァイアサン) Part6
深海から大艦隊が迫ってくる。
たった一隻の航宙戦艦<薩摩>の元へと・・・・
ー そう・・・私の中で何かが消えた
瞳から知らずに涙が滲み湧く。
ー 闘う事なく海に沈んだ魂の呪いが・・・一つ消えたんだ
たった一度の砲撃で、呪いの一部分が消滅した。
ー だけど・・・まだ完全に赦してはくれていない。
自分の中にある闇の部分が一つだけ消えたに過ぎないのも判らされる。
ー ある一部の魂が満足してくれた・・・それだけでも良いんだ。
ミハルは流れ落ちる涙が、呪いの一部となって解け墜ちて行くように感じられた。
「どないかしたんかミハル?」
声を詰まらせたミハルに、心配そうな声がヘッドフォンから掛けられる。
「うん、大丈夫。ちょっと嬉しかったから」
答えるミハルが、呟くように教える。
「さっき・・・言ったよな、呪いの一部が解けたってさ。
敵の潜水艦を撃破したからなんか?」
ミハルの気持ちを思って、ホマレも優しく訊いて来る。
「そうだと思う。
魚雷を破壊した時にもそうだったんだ。
私の中で呪いを掛けていた魂が喜びの叫びを・・・喝采を挙げたのが解ったから」
ミハルが生き返る時に掛けられた呪いの一部分が消滅した事に、
ホマレの心も幾分晴れる・・・唯、完全にでは無いのが残念だったが。
「それで?後はどんな呪いが残っているんや?」
確かめたくなったホマレが訊ねてみたが、答えは返ってはこず。
「後は・・・私の問題かも知れない。
私の中にある力が問題なのかもしれないんだ・・・」
返された言葉の意味が解らず、ホマレは返す言葉を失う。
ホマレの心配を嬉しく想う。
生き返らされる時に掛けられてしまった呪い。
美夏達、駆逐艦<早蕨>乗員の無念の想いが、
呪いという形になって自分に宿ってから・・・
初めて少しだけでも心が軽くなったように感じられた。
<これで。
これで闇に堕ちる時が少なくなったのなら・・・嬉しいんだけどな。
女神の力がみんなの為に使えればいいのにな・・・>
右手の魔法石を見詰め、ミハルは願った。
この後、どんな事になろうとも大切な仲間を護り抜きたいと・・・
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巨大な輪形陣が組まれた艦隊が、水中を進む。
観える限りでも数十隻の潜水艦が輪になりながら、一隻の巨大な艦の周りをかためている。
旗艦と思しきその潜水艦の巨大さは、周りを進む潜水艦隊をして圧倒する程の大きさだった。
その旗艦にまるでコバンザメのように潜水艦が従う様は、
巨大なジンベイザメにより従う小さな魚の様にも思えた。
そう。
旗艦の大きさは通常の潜水艦からは想像も出来ない程の大きさがある。
巨大な旗艦から産まれるように下部のハッチから続々発進して来る潜水艦を観ても、
その巨大さが解ろうものだった。
正に、水中母艦。潜水艦の王たる姿だった。
周りを進む潜水艦が公試排水量2000トンの通常型戦闘潜水艦なら、
巨大な潜水母艦の大きさは優に30万トンを超えていそうだった。
巨大過ぎて水中では後部まで見えないくらいに長く、
また、円形を採る船腹の幅は、最大で200メートル近かった。
細い島が水の中を進んで来るようにも感じてしまう位の圧倒感。
何よりも恐ろしいのは、一体どれだけの武装が施されているのか。
どれだけの性能を誇っているのか・・・解らない事だった。
唯、巨大なる艦隊は輪形陣を執りながら進撃して来るのだった。
<余の敵はどこぞ?余の獲物は誰ぞ?>
巨大なる旗艦は、まるで悪魔の魂が宿ったかのように何かを求めていた。
<余は海神獣リヴァイアサン、海の王にして人を滅ぼす者なり>
巨大水中母艦に神の魂が宿ったのか。
いや、邪なる神が座乗しているのか。
巨大艦隊は目標目掛けて押し寄せようとしていた。
神の神殿でモニターを観ていた紅銀髪の少女がほくそ笑む。
「行った行った・・・いーっちゃった!」
悪戯っぽく笑う少女が呟く。
「叔父貴様が行ってくれたから・・・後はここでアイツの最期を観るだけね」
紅銀髪のミハリューが細めた目で海中を進む巨大な艦を観ていた。
女神ミハリューの周りには、下僕たる戦艦達の指揮リンクが集まっていた。
「え?なによ、文句でもあるってぇーの?
どうして手を出さないのか・・・ですって?」
ギラリと質問したリンク先のコンピューターを睨む。
「決まってるじゃないの!私は濡れるのが嫌なの。
そんな事も判らないの、だから駄目な下僕は嫌なのよ・・・ね!」
質問したリンク先に指を向けたミハリューが、ピンと指を弾いた。
その瞬間にリンク先のコンピューターが問答無用で自爆して果てる。
「また・・・つまらぬ者を斬ったわ・・・」
殲滅の女神たるミハリューは、面白くなさそうにモニターを切った。
「こんな待つだけの仕事なんてつまらないから。
バリフィスと遊ぼうかな・・・またダイヴしちゃおうかな?」
思いついたように立ち上がったミハリューが、奥の別室に向かおうとすると。
「なによ?!文句あるの?
私の意志は教えてある筈よ、お前達に。
叔父貴様の手助けなんて必要がないわよ、そんな事も判らないの?
あ~あっ、馬鹿な下僕を持つと主人は気苦労が絶えないわ!」
勝手な事を言い残して、指令室から出て行ってしまった。
((コツコツコツ))
ミハリューのヒールが廊下に靴音を響かせる。
立ち止まった部屋の鍵を開け放つと・・・
「あなた・・・また性懲りもなく邪魔する気なのね?」
ミハリューの前に一人の剣士が立っていた。
「ああ、何度来ても。
我が主には一指も触れさせはしない。
この聖獣たるグランがここにいる限り・・・」
立ちはだかるグランが、背中の大刀を抜き放つ。
「あらまぁ・・・まあ、そうこなくっちゃ駄目よねぇ。
あっさりバリフィスを渡されても面白くも何ともないから・・・ねぇ」
ニヤリと笑うミハリューの眼に、離れた所に立つ一人の娘が映った。
「この剣士がどれだけ粘れるか、観ものね。・・・バリフィス!」
ミハリューが笑いかけるその娘は。
「ミハル・・・ミハルがきっと来てくれるから・・・・
あなたになんて目覚めさせないから!」
黄金に輝く髪を靡かせる女神が抗った。
手に錫杖を携え、神の羽衣を身に纏い。
「それまでは・・・このグランが護り抜いてみせよう。
例え女神たるお前がリーン様を呼び覚まそうと試みても。
断じて護り、必ずミハルが来るまで時を稼ぐ・・・
それが彼女との誓い、これが下僕たるグランの使命!」
剣を構えたグランが叫び斬りかかった。
((ギィイイィンッ))
火花が散る。
大刀をミハリューの両刀刃が受け流す。
「あははっ、いいねぇ。
いいじゃないの、その心意気。好きよ私・・・そういうのが。
でもね、遊んでいられるのも後僅かだからね!」
斬り返しつつミハリューが笑う。
「後僅かで、あの娘は喰われてしまうんだから。
それに人間共もみんな死に絶える事になるんだから!」
2人が刃を交えている後ろで、リーンが想いを馳せるのは。
「ミハル。
私の力を受け取ってくれたミハルは、必ず勝てるよね。
あなたに授けた人を救う力は、神と闘う事になっても負けはしないわ。
だから・・・私の元に来て・・・
約束を果たしに来て・・・お願い・・・」
女神は祈る。
誰に祈るというのか、女神たる者リーン。
リーンの願いは叶えられるのか?
ミハルは海神獣リヴァイアサンに勝つ事が出来るのか?
海の闘いは新たな展開を迎えようとしていた・・・
艦隊を撃滅する為にはミハルの力が必要なのだ。
たった一隻で艦隊と闘う?
ミハルの力だけで大丈夫なの?
あ・・・そうかお狐様もいたんだったW
PS・久方ぶりにリーン描いたら・・・別人になったW
次回 終わる世界 Ep3 眼下の敵 Part7
君は囚われの人を救い出せるのか?辿り着けるのだろうか?
人類消滅まで ・・・アト 97日