第6章 終わる世界 Ep3 眼下の敵(リヴァイアサン) Part5
砲手ミハルは引き鉄を絞る!
目標眼下の敵潜水艦!
主砲発射っ!
2隻の潜水艦が浮上を開始する。
バラストタンクから排水して・・・僅かな気泡を漏れ上がらせて。
「こちら第1小隊大高2尉。
敵艦の所在判明!母艦からの位置、12マイル10時の方向!」
索敵を続行中の魔砲師隊からの無電が入る。
「測的始めっ!
ピンガーを打て!」
矢継ぎ早にレナ3尉が探信儀班に命じる。
ピンガー・・・つまりアクティブソナーの事。
自ら水中に超音波を放ち、敵の位置と深度を掴む音響兵器の事である。
空中に浮いている<薩摩>の艦首下方から測探機が海面に降ろされる。
水面下に降ろされた探信儀からパルス信号が発射された。
((ピイィン))
超音波は水中を駆け抜ける・・・相手にぶつかるまで。
((コオオォンッ))
ぶつかって戻ってきた音波が示すのは。
「敵潜水艦捕捉しました!距離23キロ深度50メートル。
敵は浮上最中の模様です、深度はどんどん浅くなります!」
報告の意味する事は。
「艦長っ、敵はミサイル発射可能深度まで浮上中のようです!
直ちに攻撃命令を下してください、この距離からなら妨害電波も効きません!」
ミツル航海長も事態が切迫している事を憂いた。
「うむ、攻撃開始。
ミハル1尉に目標を正確に伝えろ」
腕を組んだミノリ2佐が砲撃を命じる。
「砲塔とのリンク開始っ。射撃準備よろし!」
レナ3尉が操作パネルを指で弾く。
「主砲、魔鋼弾装填!第1射は水面下15メートルに調停!
目標は2隻、第1砲塔は後方の艦を、第2砲塔は手前の艦を撃て!」
23キロ先の水中艦を主砲で撃つとなると、当然俯角を執る事になる訳だが。
「初弾は普通の魔鋼弾でか・・・まあ、浅い深度に居る敵やからな」
ホマレはミハルが狙う敵に弾が届く事を願うばかりだった。
「俯角が・・・ぎりぎり撃てる範囲で良かったけど。
水中に飛び込んだ弾が、どれだけ敵にダメージを与えられるか。
そこがポイントだよね・・・」
砲塔を操りながらも、その一点に注目される。
ミハルは初めて撃つ巨砲に頼みを籠めた。
「照準よし・・・でも、当たるかは判りません。
砲撃用意よし、射撃準備よしっ!」
最初の一発で射撃特性を掴むのが、名砲手たるミハルの特技でもあったのだが。
「魔砲力を注入する事を忘れるな!
ゲージに注意を払え・・・攻撃始めっ、撃ち方始め!」
闘いの第3ラウンドが始まる。
艦内にブザーが鳴り渡る。
魔砲の力を射撃ステックを持つ手に注いだミハルが、
目の前のモニターに映し出された映像に驚いた。
「こ・・・これは?これが?!
敵の姿なのね・・・見えるんだ・・・敵が!」
信じられなかった。
水中遥か20キロ先に居る、見える筈もない敵艦の姿がモニターには映し出されていたから。
「そうか・・・私の始りからの力が。
戦車兵として闘い抜いた記憶と力が顕れたんだ・・・この照準システムに!」
自信が甦る。
敵の姿を映し出すモニターに。
戦車兵として、砲手として闘ってきた自分の思い描く通りの照準器に。
間違っても外さない自信があった。
「やれる・・・やれるよこれなら!
絶対に外したりはしない、弾道も同じなら・・・外しっこはしないんだからっ!」
射撃ステックを握り直すと、手に馴染んだ感触が。
「ああ、これも。トリガーの角度までもが同じ・・・
私の愛車MMT-7パンテル改2と同じになった・・・」
見開いた蒼き瞳に力が溢れる。
「ホーさん。
私に全てを委ねて。絶対に命中させて見せるから。
敵を打ち負かしてみせるから!」
トリガーに指を宛てた魔砲の娘が言い切った。
「ああ、勿論そのつもりや!任せたで魔砲少女はんっ!」
ヘッドフォンから、激励の言葉が贈られてくる。
照準器に映る2隻の潜水艦目掛けて射撃した。
「砲撃始めっ、撃ちぃー方ぁーはーじーめぇっ!」
大きく復唱したミハルの指がトリガーを引き絞った!
「撃っ!」
始まりの時から、お馴染みのセリフ。
戦車兵だった時からの気合を込めた台詞。
射撃回路に電流が流れ、装填されていた装薬に引火させた。
超電磁砲も放てる魔法の砲から、
今は普通の魔砲として弾が飛び出る。
その後に炎が、そして黒煙が吐き出された。
砲塔内に衝撃波が襲い掛かるのも、全く気にせずに。
ミハルは自分が砲手である事に再び感慨を深める。
<撃てた・・・撃つ事が出来たんだ。
どれほど大きな砲だとしても、やっぱり私は元来の砲手なんだ。
魔砲の力を授かってから、闘い抜いてきた魔砲師なんだ。
いいえ、フェアリアで呼ばれていた魔鋼騎士なんだ!>
跳び征く紅い魔砲の弾を見詰めて、
言い知れぬ喜びを感じている自分に戸惑う。
<私は嫌だった、砲を撃つのが。
相手を傷つけてしまうのが、嫌だった。
だけど今度の敵には人が乗ってはいない。
誰も傷つけなくて済むのなら・・・私は闘う。
私は躊躇せず撃つ事が出来る・・・それが今、何より嬉しい>
目標へ到達する28センチ魔鋼弾。
その威力とは?
水中艦隊の2隻が、再び巡航ミサイルを発射する為に発射深度に浮上してきた。
上空から捕捉されている事にも気付かずに。
「来た!あれは魔鋼弾だ!速いっ!」
跳び来る砲弾を見付けたジュンが叫ぶ。
「巧くいけよ、外すなよ?!」
砲撃を行った者を知らないジュンには、命中を願わずには居られなかったのだ。
((ズバッ))
水柱が遥か手前で上がる。
手前に堕ちたのを観たジュンが外したと思い込んで残念がり、
「畜生っ!第2斉射を要請しないと!」
無電のマイクボタンを押そうとした瞬間。
足元の海面から猛烈な水柱が立ち上る。
「?!なっ・・・にぃっ?」
噴き上がる水柱の中で、潜航中だった艦の船首部分が現われ。
((ズッダダダ~ンッ))
誘爆を繰り返し爆発と共に部品を飛び散らせた。
「げっ、撃沈したのか?たったの一撃で?」
1隻目は爆沈した。
狙ったもう一隻は・・・どうなった?
「む?気泡が・・・こんなに。撃破は間違いない・・・すごっ」
眼を丸くしたジュンが口を開けたまま声を呑んだ。
「哨戒第1小隊から無電。敵艦の撃沈をミユ!2隻の撃沈を確認す・・・です」
ミノリ艦長に伝えたレナ3尉が、砲塔内にも転電する。
「さっすがやなミハルは!初めて撃った砲で、お見事さんっ!」
空かさずホマレが称賛して来る。
「ありがとう、ホーさん。
偶々(たまたま)だよ、偶然当たっただけだから・・・」
褒められたミハルが照れて応えると。
「何言うてんのや、偶々やあらへんやろ?
ミハルの力やさかいに当たったんや、ウチ等やったら無理やったやろーな!」
益々持ち上げようとする。
「他の敵の所在が掴めるまで、このまま待機するように」
艦橋からの命令が伝えられた。
「ホーさん、喉・・・乾いたよぉ・・・何か飲むもの無いの?」
勝手に泣き言を言ってしまうミハルに、ホマレはクスリと笑う。
「あんなぁミハル。ここは砲塔内やで?飲みモンなんて・・・あったW」
一応辺りを見回したホマレの眼に留ったのは。
「ミハルの処にもあるやろ、砲主席左手の引き出しが。
その中にサイダーが入っとるで?・・・飲んだら?」
ホマレの勧めた通り、ミハルはサイダーを手に取り飛びつくように飲んだ。
「ぷぅはぁっ、生き返ったぁーっ!」
自分でも少し可笑しいなと思うのだが。
震える手と心を誤魔化すように、ワザとお道化てみるのだった。
「こんな砲撃初めてだから・・・緊張したんだよ、ホーさん」
本当は違う。
緊張して手が震えている訳でも喉が渇いた訳でもなかった。
涙がこぼれ出る。
嬉しさのあまりに。
でも、本当の事をマイクを通して言う訳にはいかなかった。
「私・・・ね。感動してるんだ、<仇>を討てたから。
私達の仇を討てたんだって教えられて・・・」
言葉の端に、自分の中にある呪いの意味を知る者だけが解る言葉を交えた。
「えっ?!ミハル・・・もしかして?」
通じた。
「ホーさん、一つの呪いが解けたみたい・・・なんだ!」
嬉しそうに答えるミハルの声は、涙ぐんでいるようだった。
掛けられた呪いの一部分が解き放たれた・・・潜水艦を撃沈して。
そう・・・<早蕨>を沈めた者の一部を討ち果たせた事に因って。
「下僕たる二隻を沈めたのか・・・
ならば、人たる女神よ・・・余と闘うというのであるな?」
海の深くから声が響く。
海鳴りとなって・・・水中を揺るがせて。
「余と闘う気ならば、よかろう・・・抗うが良い。
この海獣神リヴァイアサンのモノとなれ・・・人諸共に・・・」
うねる魚鱗。
波打つ鬣。
今、海の王たる獣神が這い出る。
敵を認識して。
女神の力を纏いし魔砲の少女が乗る<薩摩>目掛けて!
驚異的砲撃は伝説の砲手が放った!
ミハルはどこまで行っても魔砲の射手だった訳だ。
だが、大いなる敵が近付く。
輪形陣を組みながら・・・圧倒的戦力で向かってくるのだった!
次回 終わる世界 Ep3 眼下の敵 Part6
君は水中の脅威を阻む事が出来るのだろうか?闘う力を宿すその手で・・・
人類消滅まで ・・・アト 98 日