第6章 終わる世界 Ep3 眼下の敵(リヴァイアサン) Part4
潜む者達は進撃を開始する。
思わぬ相手と解って。
自分達の槍を二度も退けた好敵手だと感じて。
「ミハル、どうや?
大体様子が解ったかいな?」
ヘッドホンから2番砲に居るホマレの声が届いた。
周りを見回すミハルには、同じ砲を扱う者としての感慨を言う気にはなれなかった。
大一、砲尾の大きさ太さに戸惑うばかりだったから。
<こんな大きな砲をどうやって一人で扱えるのよ。
魔鋼の力って言われても・・・無茶なモノは無茶なんだから>
28センチもある開口部に砲弾を載せる装填装置を観るだけで、
何もかもが初めての経験なんだからと呟いてしまう。
自分一人だけの大きな砲塔の中で、2門もの砲尾を見詰めるばかりだったのだが。
「ミハルぅ、どうなんや?戸惑うならそっちへ行こうか?」
誘われたミハルが思わず同意しようとすると。
「一番砲手、砲の扱いはこちらで操作する。
お前は照準を合わせる事だけに集中しろ!」
ヘッドホンに艦長ミノリ2佐の声が届く。
「えっ、でも・・・装填とか、操作規範はないのでしょうか?」
戦車兵だったミハルには、砲の操作規範があると考えたのだ。
しかし、返って来た答えは・・・
「よく考えてもみろミハル1尉。
独りだけでどうやって主砲を動かせると考えているのだ。
そもそも本来は8名もの人員が動かさねばならん砲を一人に任す・・・
魔法だよ・・・魔法!
魔鋼機械の恩恵があればこそなんだ、砲も艦を動かせているのも、な」
ミノリが言うのは、この艦自体が魔法の艦だという事。
フェアリアに着いてから、改造されて生まれ変わった航宙戦艦<薩摩>だという事。
「ええっと。
魔砲の力で狙えって言われておられましたけど。
その・・・照準はどうやってつければ良いのでしょうか?
あまりにも大き過ぎて、目標を捉え続けられるのか・・・心配で」
砲塔指揮官席に座れと命じられていたミハルが、それらしい席に座ると。
((ポォゥッ))
目の前に見慣れない射撃ストックがある事に気付いた。
<あ・・・これが。
このステックが射撃ハンドルなのかな・・・大きいけど>
そっと手に触れてみた。
((ポォゥッ))
気が付いた。
それは間違いなく魔鋼機械にリンクしている砲撃装置なのだと。
「本当に・・・魔鋼機械なんだ。
私の魔力に反応してる・・・砲手の力で動き出したんだ」
驚くより感心したミハルがステックを握り締めると。
「「射撃システムを解放しますか」」
何処からともなく、機械じみた音声が流れ出てくる。
「わあぁっ?!びっくりした!」
急に声を掛けられたかのように錯覚したミハルが飛び跳ねる。
「な・・・なんだ。機械の声か・・・・・なんですってぇっ?!」
衝撃を受けた。
経験した事も無かったから・・・機械が喋るなんて。
「ど・・・どなたか機械の中に居られるんですか?
わ・・・わたし・・・どうなってるのか・・・私・・・きゅう・・・」
眼を廻したミハルが席の中で失神しそうになる。
「ミハルには衝撃的だったのか?
今迄には機械に音声ガイダンスが付いてはなかったのか?
フェアリアにもあると思っていたんだが・・・違ったのか?」
ミノリの声で、辛うじて意識を保ったミハルが断る。
「あっ、ありませんよ!悪魔に呪われでもしない限り。
魂を宿した機械なんて・・・・あっ?!」
あった・・・確かに。
闇の力を宿した戦車が。
魂を同化させれた戦車の事を想い出した。
「ルシちゃんの力で・・・私も機械と同化した事があったな・・・」
今は遠い思い出に、ミハルの心が愛する影を求めたが。
「ありました・・・確かに。
でも、それは邪なる力で動かせられたのです。
まさか、この砲にも?」
闇の力で誰かが同化しているのでは。
そう思ってしまったミハルの眉が潜む。
「お前が言いたい事がどういった事かは知らんが。
ガイダンスは未来の砲手が扱うらしい・・・としか解らん。
それで?
どうなんだ・・・使えるだろうお前になら」
ミノリに言われて、もう一度周りを見回すと。
「「射撃システムへの指示を求めます」」
またガイダンスが流れ出る。
<私が何を思っているのか解るのかな?>
そうは思っても、どうやって指示を出せばいいのかも判らず、つい口に出してしまう。
「どうやったら指示が与えられるのかも解らないのに。
射撃装置の扱いも知らないんだから・・・もう」
少々やけになって声が大きくなってしまった。
「「射撃システム解除。射撃装置の操作方法を画面に表示します」」
ガイダンスが流れ終わると、ミハルの前にモニターが現れる。
座っている目の前に。
透明の硝子盤が足元からせり上がり、画面に砲塔内が表示された。
「きゃぁっ?あわわわっ!・・・きゅぅっ」
未知の世界に突入してしまった感のミハルが目を廻す。
「・・・あのな、いちいち目を廻すな!」
どこかから観てでもいるのか、ミノリが呆れた様に注意する。
「あははっ、私はどこ、ここは誰・・・・
はっ!どうして艦長は私の事が解るのです?」
仕方がないからミハルは天井目掛けて叫ぶのだった。
「観えているぞ?
砲塔内のモニタリングは完璧だから・・・
まあ、これも未来の艦なら当然なのだろうがな」
・・・・
あんぐり口を開けたミハルへ、続けてミノリが命じる。
「お遊びはここまでだ。
敵が迫って来るぞ、急いで射撃準備をなせ!
間も無く交戦開始となるぞ!」
急に真面目に言われたミハルも、<敵>の一言に気を引き締める。
「ホーさんっ、そっちはどう?」
急いで射撃規範を読みながら、隣の砲塔に居るホマレを呼んだ。
「おうっ、ええでミハル。どんとこいや!」
引き締まった声が返って来る。
頷いたミハルが次の準備にかかった。
「射撃用意、魔鋼機械作動!装填準備!」
マイクに向けて、射撃体勢に移行するように命じた。
「「魔鋼システムにアクセス開始、デバイスを接続してください」」
音声ガイダンスが魔砲の力を求めてくる。
「デバイス?・・・ああ、これだね?」
右手のブレスレットから槍を取り出したミハルが、画面が示す操作パネルに示すと。
「「デバイスオン!リンクOK・・・あなたのジョブ名を教えてください」」
初めて聞く事ばかりで戸惑うが、名と言われて。
「えっと・・・魔砲師ミハルって云いますけど?」
自分の名を告げたのだが・・・
「「ジョブ名を教えてください」」
繰り返されてしまった。
<え?違うのか・・・ジョブ名ってなんだろう?>
「「デバイスが表すジョブ名と、名乗られた名称が違います。
あなたの能力名をお教えください・・・あなたの魔法源名を」」
音声ガイドが自分の持つ魔法力の根源を求めてくる。
<私の力・・・今はリーンの力が宿っている・・・女神の力が・・・>
ミハルは槍を握り締めて応えた。
「魔砲使いミハル・・・女神の力を宿した人。
私は女神ミハル、闘う女神ミハル!」
力強く言い切った、自分に秘められた力の骨幹を。
「「認証しました。アクセスOK・・・あなたの全能力をリンクします」」
音声ガイダンスが途切れた瞬間。
ミハルの周りが光と共に変わる。
それは魔鋼の力を放ったミハルの力による変化。
砲塔から突き出た2本の砲身が、まるで竹を割ったかのように上下に二分割される。
「「超魔鋼砲射撃態勢に移行」」
音声が示す通り、それはこの世界で初めて起こった新次元の変化だった。
ミハルの周り、砲塔内も大きく変わる。
今迄あった巨大な砲尾に新たに装填装置が付き、モニター周りにゲージが現れる。
「こ・・・れは?まさか、自動装填装置なの?
それにこのゲージは何を表しているの?」
蒼く光るゲージが最大限まで表示されていた。
「「魔鋼力のチャージ量を示しています。
また、その横に示されている目盛りは射撃力を表示しています
発砲時点での求められる出力表示となっております」」
<なるほど・・・魔砲の力で敵に与えられるダメージも変わるんだ>
そう考えたミハルは、ミノリ艦長が何故自分を砲手にしたのかが解って来た。
<ミノリさんは私の魔砲力を知っていて・・・砲手に選んだんだ>
魔鋼システムを持つ艦。
魔鋼の力を放てる主砲・・・そして。
「私がこの艦に乗り込む事を初めから想定していた?
だからホーさんやミノリさんが接触してきた・・・こうなる事を前提として?
だけど、リーンの力はあの時授かったんだから・・・
女神の力を宿す前から想定していたとなると、使徒状態のパワーでしか設定されていないのでは?」
ミハルは思った。
もしかすると全力全開すれば、オーバーパワーになってしまわないかと。
「だとすれば、このゲージは重要な意味があるんだ。
許容量を越えないように抑えないと・・・壊れかねない。
下手をすると艦自体に損害を与えかねない・・・」
最大量を指し示しているゲージを見詰めて、ミハルは汗が出てくるのを感じていた。
「ミハル!間も無く敵からの第3波が襲って来る。
その時相手の位置が確定する事になる、砲撃準備は整ったのか?」
ミノリ艦長が左舷第1番砲塔の砲手たるミハル1尉に確認してきた。
「あっ、ハイ!射撃態勢に入ります。
でも、どうやって水中を狙うのですか?
例え水中に弾が届くにしても、負仰角が足りませんし。
何か海面下を狙える方法でもあれば別でしょうけど?」
操作盤に必要な入力を行いながらも、どうしても気になっている事を訊ね返した。
砲で海面下を撃つとなれば、当然下方に砲身を向けねばならないのだが。
「その件についてはこちらに考えがある。
1尉は目標に対し射撃すればよい・・・
敵が一隻ではない事も含め、力の配分に注意するように」
ヘッドフォンからの返事に、気を引き締めたミハルは。
<考えって?またとんでもない事をする気じゃ・・・
まあ、任せないとしょうがないけど・・・>
ミノリの中に宿る狐の神様を思い出して、肩を窄めるのだった。
第1砲塔が砲身を擡げ挙げ、旋回を始める。
ミハルが動作確認を始めた事が、それで解った。
「ミハル、こっちはミハルに併せて動作するように設定したからな。
射撃する時には一言声をかけてくれや?!」
「うん、了解したよ。
そっちの砲は?準備OK?」
2人の砲手がデバイスに手を掛けながら話し合っていた。
「こちら戦闘艦橋、只今敵の射撃準備音をキャッチ!
こちらから照準地点を送ります、直ちに砲撃準備を完了してください!」
砲術長のレナ3尉の慌ただしい声が耳を打った・・・
砲手とされたミハル。
やはり砲手が似合うのか。
あっさりと修まったなぁ・・・・
で?
砲撃戦でもするのかい?
次回 終わる世界 Ep3 眼下の敵 Part5
君達の運命は損な娘にかかっているのだ?!大丈夫なのかい??
人類消滅まで アト 99 日