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魔鋼騎戦記フェアリア  作者: さば・ノーブ
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第6章 終わる世界 Ep3 眼下の敵(リヴァイアサン) Part3

助けられたミハルは甲板にしゃがみ込む。


生きて還れた事に感謝して・・・

甲板に降り立った二人。


助けられたミハルも、助けたホマレも魔砲の力を解除する。

魔法衣を解除しユニフォーム姿に戻ったミハルは、その場に座り込んでしまう。


挿絵(By みてみん)


「間一髪やったでミハル。

 もう少し遅れてたら・・・やばかったで?」


海水に浸された髪から雫が滴るのも構わず、ホマレが見下ろしてくる。


「うん・・・ありがとう。

 ホーさんにまた助けて貰ったんだよね」


腰が抜けた様にペタリと座ったままのミハルがお礼を言うと。


「お互い様やないかミハル。

 みんなの事を護れたんは、ミハルのおかげなんやし。

 傍に居ったウチが助けんとどうするっちゅーんや?!」


胸を張って、答えるホマレの姿が眩しく観える。

ミハルはそう告げる友を誇らしくも思えるのだが。


「でも・・・アレは。

 その・・・キスするなんて・・・あの・・・」


気が付いた時を思い出して、ミハルは頬を染める。


「はぁ?!何を言ってるんやミハル。

 ああでもせんかったら、窒息してたかも知れへんかったんやで?

 一刻も早く浮上して呼吸せえへんかったら、死ぬ処やったんや。

 それまで保つかも判らへんかったらああするんが常識なんやで?」


ホマレはミハルが勘違いしていると思ったらしい。


「でも・・・キス・・・ううん、唇を奪うなんて・・・女の子同士なのに」


人の話を聞いていないのか、ミハルはまだキスと思い込んでいる。


「だぁっ?!せやから言ってるやろっ。

 あれはミハルを助ける為に空気を渡す為の行為なんや!

 何が嬉しゅーて溺れているミハルにキスせなアカンのや?

 水中でミハルの唇を奪わなアカンのやねん?」


「・・・・は?」


ホマレが言った事を漸く理解したのか。

ボケっとしたミハルの声は、間が抜けて聞こえる。


「そうや!

 大体やな、ウチの身体からだはミノリ姉さんのモンなんやし。

 唇だってそうなんやから・・・うへ・・・うへへへっ!」


なにか・・・とんでもない妄想を描いているのか。

ホマレの顔がだらしなくデレだした。


「ミハルぅ、ミノリ姉さんはなぁ・・・ボンキュボン。

 ええんやでぇ~っ、ものすっごく・・・堪らんにゃわぁ!」


瞳をハートに換えたホマレを見上げたミハルは思った。


<ホーさんとの誓い・・・早まったのかも・・・・(大汗)>


おっきな汗を頭に載っけたミハルは口に出さずにそう思う。


挿絵(By みてみん)




「あっ、中島3尉ミハル1尉、ここに居られたのですか。

 お話は後にして着替えられたらどうです?風邪ひいてしまいますよ?」


甲板まで探しに出て来た野村2曹が、びしょ濡れの二人に勧める。


「そ、そうやったな。気がえんと・・・ホンマに風邪ひいてまうわ」


ぶるっと身体を震わせたホマレが頷き、ミハルの手を取り立ち上がらせる。


「海水に浸ったんや、シャワーでも浴びてから着替えようや」


「うん、そうだね・・・って。ほんとだ、髪がパリパリになってる」


塩気で身体が痒く、髪がべっとりと貼り付いているのに気付いて。


「それに、ユニフォームも乾かさなアカンしな?」


野村2曹に付き添われた二人は、艦内へと歩を進める。


まだ腰砕けのミハルは肩を貸したホマレに感謝しながら、緑の瞳を見上げる。

自分を救ってくれた独りの魔砲師、人間中島なかじま ほまれの優しい顔を見詰めた。


その時にはまだ、知る由もなかったのだ。

新たな敵弾が向かって来ている事に・・・







艦橋上部にある、戦闘艦橋内では。


「魔鋼状態へ移行準備完了です。

 本艦只今補助動力にて航行中につき、速力18ノット!」


航海長のミツル3尉が速力ゲージを睨んで報告する。


「主砲及び、高角砲。射撃用意よし!」


総員が配置に就いた中、敵の所在を確かめるべく索敵を開始していたのだが。


電探レーダーか、探深儀ソナーからの報告は?」


ミノリ艦長に訊かれたレナ3尉が首を振って断りをいれる。


「まだ。

 艦長、アクティブソナーだけでは捉えられるのに限度があります。

 ソノブイを投下する事を進言します」


砲術長が勧めるのは進路上に音波探知機をばら撒き、

早期警戒と敵の捕捉に務める事を意味していた。


「本艦にブイは何個積まれてある?」


搭載されたソノブイの数量を確認するミノリに、


「大丈夫です、ブイの数には不自由しません。

 約200個程も積載されていますから」


横から航海長のミツル3尉が代わりに答える。


「うん、よし。魔砲師隊へ直ちに命じろ!」


待機中の魔砲師隊に命令が下る。

相手の居場所を特定する為、各人がおのおの一発のブイを手に目標地点へと向かう。



「なんやて?

 ウチ等以外の魔砲師隊が発進した?爆弾を持って・・・

 え?違う?ブイやて?なんやそれは?」


説明を受けながらユニフォームに袖を通しているホマレが小首を捻る。


「敵を捉まえる為らしいんですけど。

 お二人さんには別の話があるそうです」


騎付き整備員でもある野村2曹が士官次室まで迎えに来たようで、


「艦長が直々に頼みがあるそうです。

 第1艦橋までお越し願いたいと・・・命じられました」


2人の士官を艦橋へと案内する為にここへ来たという。


「ミノリ姉が・・・そうか、待ってくれや今行くさかい」


服装を正したホマレが振り返ると、ミハルが何やら手古摺っているようだ。


「何しとるねんなミハル、艦長からのお呼び出しやで?」


呼びかけられたミハルが上着のボタンと格闘しながら、


「うん、今行くから。こんのぉっ、えいっ!」


無理やりボタンを引っ掻けて。


「きっつぅ~っ、縮んじゃったのかなぁ・・・」


無理やり併せた襟下を窮屈そうに押し拡げた。


「・・・なんか・・・エッチイなミハル・・・」


ポカンと観たホマレと野村2曹に、


「気にしないで!急ぎましょう!」


自分の事を棚に上げて、二人を急かした。


「あ、そやな(棒)」


ミハルに攣られた二人が、言われるままに艦橋へと奔り出す。



その頃。






 ((シュウウゥ~ン))


3発の巡航ミサイルは電探識別圏下を潜り抜ける様に這い進んで来た。


探知圏外を進むミサイルが曳く排気煙だけが、それが意味する事を告げていた。


この時代にあってはならない物の存在を教えていたのだ。



水面下9メートルまで浮上した潜水艦が目標に命中するまでの航路を設定し直す為、

短波楼を海面まで上げる。


まるで潜望鏡のように、海面を斬り進む短波楼からの電波がミサイルへと飛んだ。




「電波傍受に成功しました!

 敵はやはり短波にて交信しているようです!

 妨害電波じゃみんぐを出します!」


スピーカーから通信士の叫びが聞こえた。


「やはり・・・か。

 この海のどこかに潜んでいるようだな、敵の潜水艦が」


ミノリの呟きが耳に入ったのか、ミツル3尉が訊いてきた。


「艦長っ、敵が潜航中の艦なら。

 どうやって闘いますか?

 本艦には爆雷くらいしか用意されておりませんが?」


潜水艦と交戦する方法は、この時代では爆雷が最も有効だとされてきたのだが。


短魚雷ホーミングや、多投爆雷ヘッジホッグ・・・何れも積載されてはおりませんので」


ミツル3尉が対潜水艦戦を想定していない事を報告したが。


「砲撃戦の用意を完了しろ。

 敵が電波を簡単に出す訳が無い。

 もう既に敵は第2の矢を放っているのだろう、警報を鳴らせ!」


ミノリの感は鋭かった。

いや、実戦で経験した戦いの記憶がそうさせたのだろう。


艦長の判断は正しかった・・・





「指揮官に報告!

 雲がこちらへ向かってきます!3条の雲の先には弾らしきもの見ゆ!」


ブイを投下した部下からの報告を受けて、中隊長ジュンも確認した。


「こちら大高2尉、了解した!母艦に報告を入れる。

 3発の未確認目標、10時の方向から近づく・・・とな!」


哨戒と索敵を兼ねていた大高中隊の報告は、敵の第2波攻撃と思われた。

指揮を執る艦長の命令が、間違いではなかった事が証明された訳だが。


「ミハル1尉、ホマレ3尉参りました!」


エレベーターから降りた二人が敬礼すると、


「うん、ミハルに頼みがあるのだ。

 君は砲手の経験があるな?」


いきなりミノリが訊ねてくるのを、即座に頷き。


「え?あ・・・まぁ。戦車兵でしたので。それが?」


ミハルはその時、まさか自分がこんな巨大な砲を撃つ事になろうとは思いもしなかったのだが。


「君に頼みがあるのだよ、ミハル1尉。

 魔砲の力であるモノを撃って貰えないか?

 この艦の主砲で・・・28センチ連装砲で・・・だ」


・・・・


固まった。

思考も身体も。


ミノリ艦長が言った言葉の意味を図りかねて。


「あ、あの?仰られた意味が良く解らないのですが?」


辛うじて出た声がこれだったのだが。


「ミハル1尉に命じるのは、主砲を撃つ事だ。

 君の魔鋼力を砲に宿し、魔鋼の弾を敵に放てと言ったのだ!」


押し問答になるのを避けて、ミノリは命令という形で教えたのだ。


「わっ、私が・・・ですか?

 主砲を?私一人で撃つのですか?どうやって・・・」


巨大な砲塔を一人で動かし、弾を込めて発射しろと?

そう訊き返そうとしたが、砲術長が口を挟んで来た。


「一人で可能ですよ、1尉。

 この艦は魔法の力で動かせるシステムを搭載しましたので。

 まぁ・・・魔法のおふねって訳ですよ」


レナ3尉の口ぶりに、ミハルは唖然と口を開ける。


「そこでだ、慣れないミハルの補助として、ホマレ。

 お前にも命じる、二番砲塔にはお前が入れ。

 1尉が狙うのと同じように照準を合わせるのだ・・・いいな!」


ホマレに対しても一方的に命じたのだが、ホマレは嫌とは言わずに。


「よっしゃっ、ミハルのサポートをすればええんやな!」


むしろ、喜び勇んで命令を受領した。


「ホっ、ホーさん?そんな簡単に?」


一人ミハルだけが慌てるが、ホマレに促される。


「大丈夫やミハル。

 砲撃の専門家やったんやろ?知ってるんやでウチ等は。

 フェアリアにミハルありっていうぐらいの戦果を納めて来た事ぐらい。

 フェアリアきっての名砲手やったんやろ?」


こんなところまで話が来ていたとは、当の本人には知る由も無かった。


「そこで、ミハルに頼みたいのだよ。

 水中の潜水艦を撃破して貰いたいのだ・・・主砲で・・・な」


ミノリはニヤリと笑いかける。


「はい?

 砲で水中の船を撃てと?」


ミハルにも、砲で水の中を撃った経験なんてなかったから。


「無茶ですよ、撃ったとしても水の抵抗で直ぐに沈んじゃいますから。

 そもそも砲で水の中に居る物を狙う事自体が無茶苦茶なんですから!

 相手が浮上しているのならイザ知らず・・・」


ミハルがそこまで言った時だった。


「艦長!電探射撃用意よし!

 対空射撃の許可を願います!」


方位盤を操作していたレナ砲術長が下令を求めて来た。


「よし、砲撃始めっ!

 主砲3式弾、目標上空に出現せるロケットを墜とせ!」


ミノリの命令で、電探レーダー射撃が開始された。


「砲撃始め、撃ち方始めっ!」


レナの指が射撃ボタンを押した。



((ブブーゥッ))


射撃警報が鳴り、仰角を執っていた主砲が火を噴く。


「ミハル1尉、衝撃に備えろ」


ポツリと告げられたミノリの声に、砲手だったミハルが反応する。


<射撃音に鼓膜が破られない様にしなくっちゃ>


それが戦車兵だったミハルの概念。

だが、海上の王たる戦艦の射撃はそうではなかった。


 (( ズッダダダアァ~ンッ ))


連装2基4門が射撃した。


その猛烈なる衝撃波が艦上を薙ぎ払った。


耳を塞いでいたミハルは、身体の芯から揺さぶられる衝撃に思わずよろけてしまう。


「うわああぁっ?!」


鼓膜を護ろうと、瞬間に大声を出したのだが。


「ミハル、腹に力を籠めるんやで?

 そうしないと吹っ飛ばされるで?」


ホマレは海軍に務めているからその衝撃に対処していられたのだ。

ミハルに教えながら、指先で前方の空を指し示す。


そこにあったのは。


「あ・・・あれは?あの一塊の雲は?」


ミハルには解らなかった。

その黒雲が何を意味しているのかが。


「艦長!迎撃成功です。

 やはりジャミングしていたおかげか、直線的に飛んで来ましたね」


レナが射撃ボタンを解除して笑顔で振り向いた。


「な・・・なにが・・・一体?」


訳が解らずミハルが訊く。


「ミハル、これが海の闘いなんや。

 覚えておいてくれや、一発の弾が・・・たったの一発が。

 生と死を分かつ・・・非情なる戦いの場なんやと・・・」


ホマレの言葉は、空を見上げるミハルの耳に入ったのか。

魔砲の砲手は目の前に拡がる黒い煙の塊に恐怖を感じていた。


挿絵(By みてみん)




海の闘いはいよいよ牙を剝いた。


たった一撃で吹き飛ぶ。

それが意味するのは、一つ間違えば命も一撃で喪われると言う事。


ミハルの闘いはまたも砲撃を任される事となるのだった!

海戦ナウ!


次回 終わる世界 Ep3 眼下のリヴァイアサン Part4

君は荒ぶる海の戦いに飲み込まれる、本当の仕事を任されて!

人類消滅まで ・・・アト 100 日

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