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魔鋼騎戦記フェアリア  作者: さば・ノーブ
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第6章 終わる世界 Ep3 眼下の敵(リヴァイアサン) Part2

海は人を育んできた。


だが、荒くれる海は人を飲み込む。


それが人と海の繋がりなのかも知れない・・・

荒くれる海に数条の煙が上がる。


人の領域では無いというのか。


海は人を飲み込んでいく・・・今もまた。

船を飲み込んだ海に、浮かぶのは載せられていた荷物の破片。

それが意味するのは・・・




「司令長官!欧州戦線では未だ制圧する戦法が確立されてはおらんようですな」


艦橋に立つ士官が、年嵩の上官に話しかける。


「我々もつい先ごろまでは敵に蹂躙されておったではないか。

 味方の悪口は慎みたまえ、参謀長」


参謀肩章を下げた将官に、白髪の長官が嗜める。


「はぁ、申し訳ありません。

 我々が着く頃には先遣部隊が駆逐している事を期待していますが・・・」


参謀が後ろに控えた部下参謀に訊く。


「おい、例の部隊は予定通りなのか?」


参謀長に訊ねられた、同じく参謀肩章を吊った部下が報告欄に目を通して。


「はっ、<E作戦>は決行されております。

 <薩摩>以下の部隊は一昨日出撃、任務を遂行中とのことです」


答えた参謀に頷き、長官に向けて申告した。


「長官、我が日の本艦隊を含む、有志連合艦隊の目的。

 <神軍>殲滅作戦の第1段階は発動されたのです。

 艦隊決戦の前に、水面下だけでも制圧せしめなければ・・・

 我々が敵主力艦隊殲滅を果たすまで敵の眼を陽動部隊に向かせねばなりません。

 勿論、それで勝つ事が出来ると断言はできませんが」


参謀長が司令長官に進言する。


「長官、潜水艦隊撃滅の為には先遣隊と陽動部隊に犠牲を厭わず、

 出来るだけ速やかに駆逐するように命じるべきです!」


参謀長は長官に具申したが、当の長官は黙って海を眺めていた。

遠く、遥かに遠い海を見詰めて。


「<E作戦>・・・その名の通り、騙し討ち(エンガノ)か。味方も含め・・・」


ポツリと長官が呟いた。






_______________





「ホーさんっ、第2警戒ラインまで索敵に行くよ!」


<薩摩>上空で旋回して2番騎の魔砲師ホマレが所定の位置に着くのを待っていたミハルが。


「なんでも、昨日この辺りで2隻沈められたんだって。

 もしかしたら遭遇戦になっちゃうかもしれないから、

 油断しない様にってミノリ艦長に直々に言われたんだよ」


最近調子が大分安定してきた3式飛行靴<蒼天>から金色の円環を羽ばたかせ、

ミハルとホマレの二人が艦の進路警戒に飛び上がっていた。


「そーなんか?

 そういやぁ、整備班の連中が言ってたな。

 空襲だけじゃなくて海上にも注意を配らないといけませんよってさ」


ホマレが生欠伸なまあくびをしながら答えると。


「ホーさんっ!だらけてたら思わぬ事故を引き起こすよ?」


欠伸をしながら飛ぶホマレに、注意を促すと。


「そんな事言って・・・ミハルは良く寝られたろうけど・・・ウチは・・・なぁ」


ホマレが何かを思い出したのか、顔を紅く染めて俯く。


「?

 なに?私の事?」


士官室ではいつも通りだった、ホマレなのだが。


「そうや!ミハルの所為で寝られへんかったんや!ミハルが悪い!」


「え?私の所為なの?」


紅い顔のまま、口を尖らせるホマレに、何を言いたいのか解らず聞き返すと。


「そ・・・そうやっ、ミハルがウチをほったらかしにして寝るからや!」


益々訳が解らない。

ミハルが小首を傾げると。


「ミハルがあんなに寝相が悪いなんて!

 毛布は蹴とばすし、ベットから墜ちそうになるわ・・・

 気になって寝られへんかったわ!」


・・・・。


「ご・・・ごめん、ホーさん・・・・」


眼を点にしたミハルが謝ると。


「いくら艦内だからって・・・風邪ひくで?

 ベットから墜ちたら痛いで?

 おまけに・・・パジャマなんか着てからに・・・丸見えやし。

 その・・・パンツとか・・・いろいろ見えてるし・・・(頬紅)」


・・・・。


「な・・・無かった事にして!」


冷や汗が、ドッと噴き出すミハル。


「ほならぁ、今晩からミハルはウチが寝るまで寝たらあかん!ええな?!」


キリッとしたホマレがビシリと指差し命令した。


「は・・・はい?」


勢いに呑まれて思わず同意してしまった。


「そーだけどぉ、ホーさんっていっつも寝る前にトランプするから。

 あれで眠くなっちゃうんだよぉ?遅くまでつきあわすからぁ」


苦笑いしたミハルが、困ったように眠くなる訳を話す。


「せやけどな・・・って。

 その話は後や!あれを見てみいなミハル!」


急にホマレの声が変わった。

眼の端に捉えた物を指さして。


指さしたホマレの表情に只事では無い気配を感じた。

海上の一点を指差し、デバイスを武装に替えてミハルへ教えるのは。


「ミハルっ、着いて来てや!」


身体を捻り込んで急降下に移ったホマレの行き先は・・・


「あっ、ホーさん?あの白い波がどうかしたの?」


挿絵(By みてみん)



母艦<薩摩>に迫る、白い一本の航跡目掛けて急降下をかけながら、

ミハルは先行するホマレの後を追いかける。


「魚雷や!あの白い航跡が母艦に命中するまでに破壊せんと!」


振り返ったホマレの切迫した声が返って来る。


「魚雷?ぎょ・・・らい・・・ぎょ・・・ら・・・い?」


耳にした言葉が胸の奥に潜むモノを呼び覚ます。


「私達を・・・<早蕨>を・・・沈めた・・・」


ミハルの眼が曇り出す。

手にしたデバイス槍が機関砲に変わる。


何かに突き動かされる様に、魚雷の航跡に向かって突っ込む。

3式蒼天の羽根が大きく羽ばたく。

ミハルはホマレを追い抜き、航跡の先端に観える影へと迫る。


「ミハル!その黒い影を撃つんや!それが魚雷の本体なんや!」


白い航跡を曳く魚雷は、50ノット近い猛烈なスピードで<薩摩>へ迫る。

艦上でも確認しているのか、回避行動を執っているようだが。


「あかん!ホーミング魚雷や!あれからは逃れられへんのや!

 命中するまでに撃破せんとあかんっ!」


ホマレも機銃の装填を済ませて追い縋る。


海面下を驀進する魚雷弾頭部には、

一撃で艦を航行不能とする位の炸薬が積まれてあるのを知っているホマレが。


「あれで何隻もの船が沈められたんや!

 日の本でも、世界中の国でも多くの船員が殺されたんや!」


ミハルの耳に、それが聴こえてしまった。

ホマレのなんでもない一言が。

ミハルに宿る呪いを呼び覚ましてしまった。


「あれが・・・私達を殺したんだね。

 私達を海の底に沈めたんだね・・・あれを撃った奴が仇なんだね?」


誰に訊ねるというのか。

誰を殺したというのか。


ミハルは自問自答する。

いや、呪いを掛け続ける者達に訊ねているのだろう。

宿された呪いに報わん為に。


ミハルは魚雷を狙う、魔砲の力で。

呪いを掛けられたままの姿になって。


「ミハル?おい、どうしたんや?!」


機銃を撃つ事も忘れて、ミハルの変化に戸惑う。

ホマレはミハルの身に、何かが起きている事を悟った。


「正気に戻るんやミハル!呪いなんかに負けちゃあかん!」


突っ込むミハルに追い縋ろうとするが、スピードでは敵わない。


「アカン!やめるんやミハル!そのスピードで突っ込んだら引き起こせへんぞ!」


海面に向けて突入していくミハルを停めようと、声の限りに叫ぶのだが。


「女神だからって無事に済む訳があらへんで!

 人の身体じゃ無理なモンは無理なんや!」


手を伸ばして何としても停めようと叫んだ先で。


 (( ドォン ))


ミハルの魔砲が火を噴いた、魚雷に向けて。


白い航跡の先に泳ぐ黒い影に魔法の弾が吸い込まれる。


水面下7メートルを馳走する魚雷弾頭部に突き刺さった魔鋼弾が、炸薬に引火させた。


 ((グワッ))


水柱が突き上がる。

数十メートルにまで突き上がった水柱に、ミハルの姿が重なった。


「しもうたっ!ミハルが!」


姿を見失ったホマレが叫ぶ。


水柱が掻き消えた後には、ミハルの姿も見えなくなってしまった。


「水柱に突っ込んだんか?!」


水柱が消えた後の上空を旋回しながら浮き上がって来る事を期待していたのだが。


「もう・・・死なせへんからな、ミハルは!」


叫んだホマレが海面目掛けて自分も突入した。


(( ザボッ ))


水中に潜る。

魚雷が炸裂した水中は、泡立ち渦が巻かれている。

見通しの効かない中に、白いモノが揺れて観えた。


<ミハル?!>


手を伸ばしもがく様に近寄ると。


<気を失っているんか?>


眼を閉じたミハルが沈んで行こうとしている。

ホマレの手がミハルに届いた、辛うじて・・・


<しっかりするんや、死なせる訳にはいかんのや!>


ミハルの口から気泡が上がっているのに気が付いたホマレは咄嗟に・・・


挿絵(By みてみん)



<空気やミハル!息を取り戻すんやで!>


ミハルの唇に、自分の口を押し付けて。


<さぁ、吸うんやミハル。ウチに構わんでええから!>


肺に残されてある空気を全て吐き出し、ミハルを気付かせようと試みた。


「ボコ・・・ゴボ・・・ゴボ・・・」


自分の肺の中を空にしてまで、ホマレはミハルに与える。


「ブボ・・・ボゴ・・・ボコ・・・」


薄っすらとミハルの眼が開かれた事に気付いたホマレが、<翔飛>に力を籠める。


<魔法の靴よ、水面まで持ち上げろ!>


視界が薄れゆく中、最期の気力で魔法を放った。

円環から緑の羽根が現れ出て、二人を水上へと突き上げる。


 ((ザバァッ))


ホマレの円環に因ってミハルと共に海面に浮上する事が出来た。


「げほっごほっ!何とか生きてるようやなウチも・・・」


肺に入った海水を吐き出して、肩を貸しているミハルを観る。

細く開けられた瞳には、海水なのか涙なのか。

一筋の水が流れ落ちて行く。


「ごほっ、ホーさん・・・ごほっごほっ・・・」


か細い声が耳に心地よい。

それは助ける事が出来た証なのだから。


「喋らんでええんや、ミハル。

 このまま母艦へ帰ろう・・・還って休もう・・・な?」


そう勧めたホマレに、目を閉じたミハルが頷く。


<薩摩>の窮地を救った魔砲師ミハル。


人たるミハルの命を繋ぎ止めたホマレ。


言葉少なげに二人の魔砲師は、母艦へと戻っていく。

突然の襲撃に戦闘配置に就く航宙戦艦<薩摩>へと。






紅いレンズが海上を探っていた。


奇襲だった筈の魚雷が突然自爆した事を不審に思い。

計算が狂った訳を探るのだった。


水中に潜む紅いレンズは・・・一つでは無かった。



水中に潜む青黒い姿。

丸い葉巻型の船体・・・各部に穿かれた発射口・・・

闘うために造られた水中のふね


人が乗らない船体には、艦橋らしきでっぱりが着いていない。

唯、スクリューに替わって円環が3か所に備わっていた。

艦首部分下方の潜横舵せんおうだが、まるで魚類のヒレの様に蠢いていた。



その船は・・・潜水艦。

人類を陸上に押し込める目的で造られた、忌み嫌われる船。


その紅いレンズに命令が下される。


「目標を破壊せよ、独りも逃さず沈めよ。

 その中の女神だけは余に捧げるのだ・・・

 女神の力を持つ娘を余に喰らわせよ!」


海中から超長波の命令が、潜水艦隊に発せられる。

一隻の戦艦に、<神軍>の水中艦隊が忍び寄っていく。


潜水艦の上部開口部から気泡が上がる。

何かのハッチが開いたようなのだが?


 ((ゴボオォッ))


突然、猛烈な気泡が沸き立つ。

水面目掛けて何かが火を噴きながら浮上して行く。

水中から?何が?火を噴きながら?


 ((ドオォンッ))


挿絵(By みてみん)


水上に揚がった何かが、炎を吐きながら飛び去る。

それはこの世界に今迄現れなかった武器。

炎を噴きながら飛翔する・・・ミサイルが初めて打ち上げられた姿だった。


当然狙われるのは<薩摩>。


海面上を這うように飛行する武器のの名は、巡航ミサイル・・・


この世界には有り得べからぬ、未来の兵器だったのだ。


数本のミサイルが航宙戦艦<薩摩>に襲い掛かる!

遂に新たな敵が牙を剝きつつ襲い掛かって来る。


海上に戦場は移り、ミハルの闘い方をも替わるのだろうか?


神々の魔手は人へと伸びる・・・


次回 終わる世界 Ep3 眼下のリヴァイアサン Part3

君は新たな誓い人に助けられた、そして新たな敵を知った!

 人類殲滅まで ・・・ アト 101 日

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