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魔鋼騎戦記フェアリア  作者: さば・ノーブ
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第6章 終わる世界 Ep2 生者(いけるもの)と死者(しにゆくもの) Part6

ミハルとホマレは甲板で互いの気持ちを語り合った。


一方、この件の当事者たるジュンも、一人思い出にふけていた・・・

周りの者達は持て囃す。


自分に異能の力があるだけで。


自分には普通の人より僅かばかりの能力ちからがあるというだけで。


それがどれ程辛い事なのかを知りもせずに・・・




「誰が好き好んで軍隊に入るものか。

 どうして自分から戦争の只中へ入っていくものか。

 親兄弟からも煽て挙げられ、みんなから尊敬の眼差しで見られ・・・

 自分を偽らなければならない者の気持ちが誰に解るというんだ」


搭乗員室から抜け出たジュン2尉は、夜空を見上げて泣いていた。


「私は怖かった・・・みんなの眼が。

 周り中から観られる目に怯えていた・・・

 魔法の力が少しばかりあるだけで、英雄のように囃し立てられるのが辛かった。

 なのに、私は軍隊へ駆り出されるのを拒めなかった。

 周りから観られる畏怖の眼と、拒む事を許さない親兄弟の仕打ちに・・・」


自分がどうしてここに居るのかを恨む気持ちが涙を呼ぶ。

ジュンは己が力を恨んで、自らの行為に後悔の念を抱いていた。


「なぜ、私は此処にいる?

 なぜ断れなかった?

 なぜ逃げられないの・・・臆病な自分から?」


自分は好きで戦いの場に足を踏み入れた訳では無い。

本当は軍隊を辞めたかった。

本当の自分は臆病で、弱虫で意気地なしだと解っているつもりだった。


なのに・・・なぜ?

まだ戦場にいるのか。

なぜ故郷へ帰れないのか。


「周りからはどう見えているのだろう?

 逃げ隠れするしか能がない、臆病な魔砲師のことを・・・」


自分に秘められていた異能の力が恨めしく思えてならない。

女学生だった自分に<鋼の魔力>がある事を知った、教員達が命じた事が全ての始まりだった。

<君は率先して軍隊に入らねばならない。それが魔法使いの務めなのだ>・・・と。

それからだった。

周り中から畏怖の顔で見られるようになったのは。

親兄弟でさえも、接し方が変わった・・・まるで腫れ物に触るかのような態度になった。

どれほどそれが嫌だったか。

どんなに悲しく辛いと思ったか。


「誰も判りはしなかった。

 誰も私が苦しんでいる事に気付いてくれなかった。

 友達も親兄弟さえも・・・」


それからは本当に地獄に住んでいるようだった。

周りから勧められ軍に志願させられた。


<ここに英雄が産まれた。我が校から栄えある魔砲師が誕生するのだ!>


教師達は私を偉大なる魔法使いと喧伝した。

戦争に駆り立てる為に、私を祀り上げたのだ・・・プロパガンダの為に。

若者を戦場へと放り込む・・・生贄にされたのだ。


「私が志願した事で、多くの生徒が戦争の只中へ放り込まれてしまった。

 そして・・・沢山の生徒が還らぬ人となってしまった・・・」


ジュンは見上げた空に瞬く星に、赦しを乞う。


「ごめんなさい、皆を殺してしまったのは私かも知れない。

 私が断らなかったばっかりに・・・持て囃されるままに拒めなかったばっかりに。

 魔法の力があったばっかりに・・・」


どれ程悔やんでも取り返しがつかない事がある。

その事に気が付いたのは、生き残ってしまった後の事だった。


「あの紀州沖海戦でも。

 私は敵から部下も同期の友でさえも置き去りにして廻り込もうとした。

 だけど見捨てた訳じゃない・・・本当に逃げ出した訳じゃない。

 一緒に闘うべきだと気が付いた時には遅かった。

 周りに居た人達が一瞬で掻き消え、私だけが残っていた。

 自分達の部隊では・・・私一人だけが生き残ってしまった・・・」


呟く声が、懺悔の心を表す。


「私は臆病者・・・私は卑怯者。

 でも、本当はみんなと一緒に闘うべきだった。

 そう気が付いたのは、自分だけが生き残ってしまったあの戦いが終わった後。

 戦いに勝利を収めた事で、生き残った私は益々英雄扱いされた。

 本当の事を知る人以外は、みんな私を勘違いした。

 闘って、闘い抜いて勝利を手に出来た英雄だと思い込んだ・・・」


締め付けられる心。

良心の呵責に耐えられないとでもいうのか。

ジュン2尉は、ポケットに収められていた布切れを取り出して。


「ああ・・・私の友は野末のずえの下に。

 水漬みづかばねとなったのに・・・なぜ私だけが生きているの?」


握られた布切れは、何があったのかを教える。

ボロボロに破れた布は、誰かが来ていた軍服だろう。

生前せいぜん身に着けていたであろう軍服は、酷く薄汚れて観える。

その黒い染みが、何を表しているのか・・・


「死を恐れるのが悪かったとでも言うの?

 みんなを蘇らせたいと思うのが悪い事なの?

 生き返る事を成し遂げられるかも知れないと、教えられた私が悪かったとでも言うの?

 フェアリアに居るとされた神の巫女。

 彼女がどうやって生き返ったのかを知れば、

 みんなを蘇らせる事ができるかも知れないと想った事が悪いというの?」


ミハルの話を隠れて聞いていた事を咎めたてられたジュンは、

手にした布を強く握りしめる。

何もかもが自分の所為なのだと悔やみつつ。


「死んで詫びたって赦して貰えないのなら。

 生きて友を蘇らせるまで足掻き続けようと思った。

 どんな危険な場所へも行こうと思った。

 だから有志連合軍への志願に踏み切った・・・願いを叶える為に。

 願いを遂げる為には生きなければいけない。

 どんな卑怯な手を使っても、どれだけ陰口を言われようと。

 私は・・・みんなを取り戻す為だけに生きてやるんだ!

 必ず願いを果たしてやるんだ!

 それまでは死んでたまるもんか!」


星空に叫んだ声は、波の音に消えて行く。

独りの魔砲師は、輝く星に願いを誓う。

たった一人でも成し遂げようと、鋼の誓いを願うのだった・・・・






星明りが二人の影を伸ばす。

聴こえた叫びに、頷き合って。



「ミハルを見捨てた訳が解ったんやが。

 どうするんや、ミハルは?」


ホマレは下甲板の影を見ながら、ミハルに訊いた。


「私達って、似た者同士なんだね。

 あの2尉も・・・始りの私にそっくり。

 魔法使いだって解った経緯も似ているんだ・・・」


傍でジュンを見詰め思い出したように過去を振り返るミハルは、


「でもね、人が死んでしまえば。

 どんなに求めたって死者は還っては来ないんだよ。

 神の力を持つ者だろうとそれは同じ・・・死者は蘇りはしないもの。

 私みたいに呪われでもしない限り・・・」


悲しそうに答えるのだった。


「ミハル・・・

 そやけどこのまんまほっといたら・・・面倒な事にはならへんか?」


ジュンがどういった手をだしてくるのか。

思いつめた人が、どういった行動をするのかを考えてしまう。

ホマレはミハルに良からぬ事を仕出かすような気がしてならなかったが。


「ホーさん、大高2尉の事は私に任せておいて。

 大丈夫、きっと気が付く筈だから。

 私が生き返った訳を知れば・・・諦めざるを得ない事に」


優しい顔が、鋼の魔砲師に向けられる。


蘇らせる事は出来ないが、その魂達に報いる方法がある事を教えたかった。


「私には聞こえるんだ。

 大高2尉に語り掛けている人の声が。

 死んではいけないって。

 自分達の分まで生きて欲しいって。

 ・・・それが大高 隼さんに語り掛けている人達の声。

 生ける者に死に逝く者が願っている・・・声なんだよ」


ミハルの影から、何かが零れ落ちた気がした。

それがミハルの答えだと知って。

ホマレはミハルが教えた言葉を、心の中に仕舞い込んだ。






____________________






還るなり、少女は怒りの声を叫ぶ。

誰に八つ当たりするというのか。


「どういうことなのよ一体!

 バグが本人より力が勝っているって?!

 殲滅の女神ミハリュー様よりバグの方が強いとでも言うの?!」


紅銀髪を掻き毟り、女神たる娘が言い募る。


「ユピテルの叔父貴!

 どういう事なのか教えなさいよ!

 あのバグがどうして生き返ったの?

 人間如きがどうやったら生き返れるのか、

 どうして女神の力を手にしているのかを!」


ミハリューが苛立ち、辺り構わず荒れ狂う。

神殿の中は、ミハリューの力で壁は崩れ床が捲れ上がる。


挿絵(By みてみん)



「私を愚弄したあのバグに与えてやる!

 死より重い苦しみを!

 死んだ方がましだと思えるほどの苦痛を!

 いいえ、それだけでは済まさないわ。

 私に与えた屈辱を数億倍にして返してやるっ。

 憶えておきなさいよぉっ!」


荒れ狂う女神が、狂乱の叫びと怨嗟を振り回す。


「くっくっくっ、そうよ。

 そうだったわ、忘れていたわ!

 バグの傍には人間達が居たんだったわね・・・

 あの人間共を一人残らず駆逐してやる。

 バグの前で・・・一人残らず死を与えてやろう!」


邪な瞳を輝かせたミハリューが、呪いの言葉を吐く。


「あの船諸共・・・消し去ってやるわ!あーっはっはっはっ!」


高笑いが神殿に木魂する。

女神の邪な笑い声が、暗黒の島を揺るがせた。

思い思いに感情が交差する中。


女神ミハリューの悪巧みが始まる。

殲滅の女神が執るミハルへの仕返しとは?


ついに闘いが本格的に始まるのだった!


次回 終わる世界 Ep3 眼下のリヴァイアサン Part1

君はまだ知らない、進み往くふねの運命を・・・

人類消滅まで ・・・アト 103日

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