表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔鋼騎戦記フェアリア  作者: さば・ノーブ
508/632

第6章 終わる世界 Ep2 生者(いけるもの)と死者(しにゆくもの) Part4

星明りの元。


甲板に伸びる影があった。

何かを想うその顔に浮んでいるのは・・・

誰だってそう思う。


愛しき人を奪われたくはない。


喪った人を取り戻せるならば・・・蘇らせたい。



想うのは勝手。

願うのも自分の中だけならば、どれ程身勝手な事でも善としておこう。


死者を蘇らせる事を現実に手掛けなければ・・・






海上に夜の帳が訪れた。


波静かな内海が、艦を緩やかに揺らしている。


上甲板を風が薙いで行く中、少女が星空を見上げていた。

星明りに影を落として。



「こんな所におったんか、ミハル・・・」


独り佇んでいたミハルの後ろから声が掛けられた。


「ホーさん、呪われちゃった私、変だよね。

 いつも突然記憶が途切れちゃうんだ。

 いつも心の底から沸き立つ黒い衝動に抗えなくなっちゃうんだ・・・」


星空を見上げたまま、話しかけるミハルの横に来たホマレが。


「ああ、そうなんやミハル。

 何かをきっかけにしたみたいに、突然女神になっちまうみたいなんやが。

 一体ミハルに何があったんや?

 あの日あの時・・・何がミハルに起きたんや?」


周りには自分達以外、誰も居ない。

秘密にしたい事でも今は話してくれるだろうと、ホマレは訊く気になった。


挿絵(By みてみん)



「あの時・・・か。

 死んだ時の話だよね・・・どこから話せばいいの?」


自分が訊きたいのは。


「全て・・・ミハルが良いというのなら。

 なにもかも聴きたいんや・・・ミハルが経験した事。

 でも、無理にとは言わへん・・・話したくないんやったら」


無理強いはしたくなかった。

星空を見つめ続けるミハルの心を計りかねて。


「そう・・・か。

 ホーさんは誰かの願いを果たしてあげれた事があるかな?

 その人がもう二度と逢えなくなってしまうというのに。

 愛する人から別れてしまうのが解っているというのに・・・

 願いを遂げさせてあげる事が出来る?」


ミハルがどんな答えを望むのか。

どんな気持ちで訊いてきたのか・・・解りかねた。


「その人は・・・どう思っていたんだろうな」


答えにはなってはいないと知りながら、訊ね返してみた。


「たぶん・・・一緒に居たいと想ってくれたんじゃないかな・・・」


ミハルが誰の事を想っているかが、少しだけ解るような気がした。

還って来たミハルには、守護神ルシファーの姿が見受けられていなかった。


「ミハルはどうなんや?

 護ってくれていた人の願いを果たせてどう思ったんや、その時・・・」


返された言葉に、身体をピクンと揺らしたミハルが。


「そう・・・あの時は、良かったと思ったんだ。

 ルシちゃんの呪いを解いてあげれたと想って・・・でも。

 今はそう思えなくなってきたんだ、一緒に消えてしまえば善かったって・・・

 こんなに寂しく悲しいなんて思いもしなかった、愛する人を失う事が」


身体を震わせたミハルの声は、泣き出しそうに想いを籠めていた。


「今、ルシちゃんはどう思っているんやろうな。

 ミハルの事を想って感謝しているんやないのかな?」


ホマレの声にミハルが泣き止む。

振り返ったミハルを見て、ホマレが続ける。


「大切と想い続けるのなら尚の事。

 自分を犠牲にしてまで願いを遂げさせてくれたミハルに、

 感謝こそすれ、嫌いになったり怒ったりしないと思うんや。

 いつまでも一緒に居たいのは同じだったやろーけど。

 ミハルは人間で、ルシちゃんは守護神やろ?

 いずれは死に別れてしまう事になったんやろから・・・あ。

 これは慰めにならんわなぁ」


苦笑いするホマレに、ミハルは目を大きく開けて見詰めるばかりだった。


「ミハルが気に病んでいるホンマの事は、

 自分の事よりルシちゃんがどう想ったのか、どう感じていたのか。

 そー言う事なんやろ・・・愛しているのなら気になるわな、相手の気持ちが?」


言い辛い事をズバリと言いのけたホマレに、尊敬と信頼の眼差しになるミハル。


「ホーさんって、以外と言うか何ていったらいいのか。

 人生経験豊富なんだね、びっくりしたよ・・・その通りだから」


頬を染めているのか、暗がりでは知る由もないが。


「失礼なやっちゃな、こう見えても恋愛相談くらい、

 他ならぬミハルの為なら・・・いつでも聞くで?」


そう言うホマレはどうなんだ?って聞きたいが。


「うん、ありがとう。なんだか少し心が軽くなった。

 きっと人に生まれ変われたよね、ルシファーなら。

 きっと嫌いになんてなってないよね、私の事を」


ミハルの心にわだかまっていたのは、最期に観た愛する人の顔。

人の姿を自分に見せてくれた愛する人の叫び。


<一緒に居たい。別れるのは嫌だ。>


ミハルの心も同じだった。

でも、あの時は。

自分を護る為に消し去られる覚悟を決めていたひとを救うには。


ー ああする他は選択肢が無かったんだよ、ルシちゃん。

  私を護る為に沢山の友達が喪われ、ルシちゃんまでも喪うのなら・・・

  愛するルシファーを助ける事だけを考えてた・・・自分がどうなろうとも。

  それがあの時・・・私が考えられた唯一の選択肢だったんだよ?


ミハルは星空を見上げて思い出していた。

最期の瞬間に観れた、愛しい人の顔を。

生き返った今、自分がなぜ死を得られなかったのかを思い起こす。


「私・・・ける者になった・・・死に逝く者から。

 なぜ・・・そうなったか。

 なぜ、今・・・ここに居るのか。

 話すから、ホーさん。

 聴いてくれる?」


星空から顔を向けて来たミハルの眼に、ホマレは背筋に薄っすらと汗が滲んだ気がした。

まるで、死者の呟きを聞かされているかのように。


生者いけるもの死者しんだものが訴えかける様に・・・

ミハルの声は寒気を呼び起こす。



「あのね・・・私、死んだの・・・一度。

 魂が肉体から抜け出て、あの門まで行っちゃったんだよ?

 入ったらもう帰る事が出来ない・・・冥界の門まで」


ホマレに話すミハルの右目が赤く染まっているような気がした。

女神の状態ではないのに・・・人だというのに。


<ミハルは・・・いったい何を観たんや?

 一体どんな目に遭わされて・・・帰ってこれたんや?>


話し出すミハルの言葉を待つホマレは、息苦しさを覚えて襟元を拡げるのだった。






「ホーさん、今から話す事は誰にも内緒だよ?

 譬えミノリ艦長に訊かれても、話しちゃ駄目だからね」


最初にことわりを入れて来たミハルに頷き、


「分った、誰にも話さへん・・・」


了承すると、ぽつぽつと話し始めた・・・死者しにゆくものの経験を。

どうして生者いけるものに戻れたのかを。


「私が気が付いたのは門の前だったの。

 大きな忌まわしい門・・・その前に彼が居たの。

 死者の魂を量るアヌビス神が・・・私に語り掛けて来たの・・・」


ホマレにもその名だけは理解出来た。

古代エジプータルに伝わるとされる神の中にその名が記載されていた事を。


「アヌビスが私に言ったの。

 死に切ってはいないのに、何故ここへ来たんだって。

 でも、魂が門まで来たのだから死んだ筈だと思ったんだけど。

 彼が言うのよ、入ってはならないと・・・死者の門は潜ってはならないと。

 でも・・・戻る道が解らなかった、帰りたくても帰り道が解らないの・・・」


言葉を区切ったミハルが、自分で自分の身体を抱きしめる。

まるで何かに怯えるかのように。


「帰る方法をアヌビスに訊いたの。

 どうしたら帰る事が出来るのかと・・・彼は教えてくれた。

 帰るには何をすればいいのかを・・・何を受け入れればいいのかを・・・」


身体を震わせたミハルが、思い出すのも辛いのか。

ガクガクと震えて蹲ってしまう。


「ミ、ミハル!もう言わなくていい、話さんでもええんや!」


思わず止めに入るホマレへ首を振ったミハルが。


「ううん、聞いて欲しいの。

 誰にも言えないから、こんな事・・・ホーさんにしか伝えたくないから。

 もう私には護ってくれる人も魂も無くなっちゃったから。

 ホーさん以外に話せないから・・・」


辛そうに、切なそうに・・・悲し気に言葉を絞り出す。


「せやかて・・・大丈夫なんかミハルは?」


心配するホマレの手を、震える手で求めるミハルが傷ましくも観える。

握った手は、温もりを求めているかのよう。

ホマレはミハルが話す声に耳を傾けざるを得なかった。


「大丈夫・・・なんとか。

 ・・・お願い訊いてホーさん。

 私がどうやってアヌビスの居る場所から帰れたのかを。

 私に告げられた、私の真実を・・・」


冥界の番人たる死者の魂を量る神、アヌビスが告げたミハルの真実とは?


聴いて欲しいと願うその顔には、

悲しみと寂しさの翳りが見えるのだった。


ホマレの目に写る瞳の色は、蒼く澄んでいた・・・


次回 終わる世界 Ep2 生者いけるもの死者しにゆくもの Part5

君は心に誓う、大切な人を護る事を。その願いを果す事が、生きる事だと言い聞かせ。

  人類消滅まで ・・・アト 105 日

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ